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経常収支動向からみる円相場へのバイアス
  • MRA外国為替レポート

2019年2月11日号

◆先週の市場総括


先週のドル円相場は週初に109円50銭近辺で始まり、強い雇用統計を受けたドル高・円安の流れのままに110円に乗せた。しかしその後は110円手前でもみ合い、横ばい。

週末にかけては欧州景気懸念や米中通商交渉への期待感の後退、リスク選好が緩んだことで上値の重い展開となった。

週末の引けは109円70銭~80銭。ドルは週を通じてしっかり。そのためドル円相場の下値もまた固かった。

ユーロドル相場は1.1460で始まると週を通じてほぼ右肩下がりのユーロ安ドル高。週末には1.1320台まで下落した。欧州通貨は全般に軟調で、ユーロ円相場は125円台後半から週末には124円30銭近辺に下落した。

米国株は週央にかけてはまずまずの企業決算を支えに堅調だったが米中通商交渉への期待感が後退すると週末にかけて軟調。結局は前週末とほぼ同水準で引け。

米長期金利10年債利回りは前週末の強い雇用統計からやや上昇し2.7%台に乗せたが、週末にかけては欧州景気懸念、欧州金利低下、米中通商交渉期待の後退などから反転低下。週末は2.63%。

そうしたなか日経平均は週央には20,900円台に乗せるなど堅調だったが、週末にかけては米国株の反落や欧州景気懸念などで大きく反落し、20,300円台半ばでほぼ安値引けとなった。

月曜日の東京市場のドル円相場は109円50銭で始まり堅調。夕方には109円80銭台に上昇した。前週末の米雇用統計が強い数字だったことによるドル高の流れが続いた。

ユーロドル相場も1.1460から1.1440に小幅ユーロ安ドル高。リスク選好が回復するなか円が全般的に軟調となり、ユーロ円相場は125円50銭から80銭へと上昇した。

日経平均は20,800円台後半に上昇してもみ合い、横ばい。引けは20,900円近辺。海外市場でも前週末の強い雇用統計により米国経済に対する楽観的な見方が支えとなった。

米国株がハイテク主力株を中心に堅調、上昇。米長期金利も小幅上昇し10年債利回りは2.72%。ドル円相場は一時110円10銭~20銭に上昇した。引けは109円90銭近辺。ユーロドル相場は1.1430~1.1440で引けた。

火曜日の東京市場のドル円相場は109円90銭で始まり、一時110円に上昇も、その後は109円80銭~110円ちょうどで上下。日経平均は20,960円台で寄り付いたもののすぐに下落。20,800円台後半でもみ合い20,850円近辺で取引を終えた。

海外市場では米国株が続伸。小売関連の決算が好感されたほか、ハイテク関連株もしっかりだった。ただ公表されたISM非製造業景気指数(1月)は56.7と前月58.0から悪化し予想57.5を下回る弱めの数字。

長期金利はやや低下して10年債利回りは2.70%。ドル円相場は109円90銭~110円ちょうどの小動きとなった。ユーロドル相場は1.1430~40でもみ合いの後やや軟調。1.14ちょうど~1.1410で推移。

総じてドルが堅調だった。トランプ大統領の一般教書演説は移民と外交問題が中心となり相場への影響はなかった。

水曜日の東京市場のドル円相場は110円手前でのもみ合いで始まったが、昼から夕方にかけて109円60銭までドル安円高が進んだ。円が全般に堅調。ユーロ円相場も125円50銭近辺から124円80銭へ。

日経平均は20,900円台で小動きの後、後場にはじり安となり引けは20,900円割れ。海外市場に入るとドルが堅調。

発表された11月の米貿易収支で赤字額が493億ドルと昨年6月以来最少となったことが材料視された。また米国株が2ヶ月ぶりの高値圏にあり上値の重い展開で小幅安。リスク選好が一服したこともドルを支えた。

ドル円相場は反発して109円70銭~80銭で上下したあと110円に上昇。ユーロドル相場も1.1360~1.1370へとユーロ安ドル高が進んだ。

EUのトゥスク大統領は、イギリスはEU離脱を撤回できない、離脱協提案は再交渉できない、と述べた。

木曜日の東京市場のドル円相場は109円90銭~110円ちょうど近辺で始まり早々に70銭台に下落。ユーロ円相場も125円ちょうど近辺から124円70銭近辺へ。

日経平均は寄り付きから下落して20,800円、さらに20,700円へ。ここまで続いたリスク選好が修正される動きとなり、全般的に円が堅調となったが、その後はドル円相場、ユーロ円相場ともに朝方の水準に反発した。

ユーロドル相場は1.1360中心のもみ合い。海外市場に入るとリスク選好の後退で円がもう一段堅調に。欧州委員会が公表した欧州の景気見通しで成長率が大きく下方修正された。

ユーロ圏の成長率見通しは2019年1.3%と昨年11月時点の見通し1.9%から引き下げ。ドイツの成長率は2018年の1.5%から1.8%に加速を見込んでいたが、逆に1.1%へと減速する見通しに大幅に下方修正された。

発表されたドイツの鉱工業生産(12月)も前月比▲0.4%と予想+0.7%を大きく下回る弱い数字となった。

米中通商交渉を巡っては、今月下旬にも首脳会談が開催されるとの見方があったが、交渉期限である3月1日までに実施されないと発表されて楽観的な見方が後退。

クドロー国家経済会議委員長は、依然として大きな隔たりがある、大統領はいずれ会談すると話しているがかなり先になる、と述べた。

米国株は久しぶりにまとまった下げ。欧州の長期金利が景気減速懸念から低下し、米長期金利も押し下げられて、米10年債利回りは2.66%。

為替市場では円高の動き。ドル円相場は109円60銭に下落した後、70銭~80銭で上下、引けは109円80銭近辺。ユーロ円相場は124円40銭に下落。その後70銭に戻したが、124円50銭に押し戻されて引け。ユーロドル相場は欧州景気懸念から1.1330割れのユーロ安ドル高。引けは1.1340。

金曜日の東京市場のドル円相場は109円80銭中心に上下し、その後はやや下げて70銭~80銭で小動き。

日経平均は20,500円で始まり400円割れ。後場も軟調で20,300円台半ばで引けた。米中通商交渉への期待が後退し、前日に米国株が大きく下落。ドル円相場も上値の重い展開で下げが大きくなった。

海外市場に入ると、ドル円相場は一時109円90銭に上昇したが続かず。109円70銭~80銭でもみ合いそのまま週末の取引を終えた。

ユーロは軟調。ユーロドル相場は1.1320~30で低迷したまま引け。ユーロ円相場は124円30銭で引け。米国株は前日の流れを受けて続落し、引けにかけて戻したものの前日比小幅安。

米長期金利は低下傾向が続き、10年債利回りは2.63%、2年債利回りは2.47%で引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米中通商交渉、米つなぎ予算期限

先週は2月下旬ともみられていたトランプ大統領と習主席の会談が見送りとなり、米中通商交渉に対する期待感が一気に後退した。

3月1日の交渉期限を前に、今週は、ライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表とムニューシン財務長官が訪中し、閣僚協議を実施する予定。交渉の進展がみられるか。

また米国内では15日金曜日につなぎ予算の期限を迎えるが、再び政府機関の一部閉鎖となることはないのか。

2.米国の経済指標

政府機関の閉鎖でなお指標発表の予定が乱れているなか、今週は物価指標が注目される。

水曜日 消費者物価指数(1月、前年同月比、予想+1.6%、前月+1.9%、コア指数、予想+2.1%、前月+2.2%)

木曜日 生産者物価指数(同、予想+2.3%、前月+2.5%)、小売売上高(12月)

金曜日 NY連銀製造業指数(2月、予想6.0、前月3.9)、鉱工業生産(1月)、ミシガン大学消費者信頼感指数(2月、予想94.5、前月91.2)

3.中国の経済指標

木曜日に貿易収支(1月)が発表となる。黒字と併せ、輸出・輸入の動向はどうか。輸出は世界経済の動向と関税の影響を、輸入は国内景気の動向を示す。

金曜日には消費者物価指数、生産者物価指数(ともに1月)が発表される。消費者物価指数は前年同月比+2.0%と前月+1.9%からやや上昇率の加速が見込まれている。

生産者物価指数は製造業部門の需給を反映することから上昇率が大きく鈍化するようなら、なお懸念が広がりそうだ。

今週も引き続き決算発表が続く。春節(旧暦正月)明けの中国市場の動向も含め、株式市場の動向はどうか。欧州ではGDPの発表などあり景気懸念をさらに強めることにならないか。

◆今週のMRA's Eye


経常収支動向からみる円相場へのバイアス 

足元でリスク選好が後退するなか、円安傾向もやや一服している。ドル円相場はもとより、円とドルがともにリスク選好で売られ、リスク選好で買われる、という同一方向性の相関にあることから、このところ大きく動いていない。

円の安全通貨としての性質は、ひとつはフローとして日本が経常黒字国であること、もうひとつは対外債権国であることに起因している。

しかし経常収支の動向は中期では循環的に、あるいは長期では構造的に変化する。それによって円の「安全通貨度合い」も変化する。

先週末、日本の国際収支統計(12月)が発表となり、暦年ベースでの日本の対外収支動向が明らかになった。総じてみれば日本はなお経常黒字であり、対外債権国であるが、経常収支の中身については変化している。

あるいは経常収支と対をなす資本収支の動向も変化しており、円相場の基調にゆっくりとした変化をもたらしている。

経常収支は大まかに言って貿易収支と所得収支からなる。所得収支は過去に積み上がった対外投資からの収益。

日本がなおも巨額の対外債権を有している限り継続的に黒字を稼ぎ、あるいは対外投資が活発に積み上がれば元本が増加するため、さらにそこから上がる所得額が増加することになる。

そう考えれば、貿易収支が仮に赤字になったとしても、経常収支が赤字になることはそう簡単ではない。したがって、長期的に円の安全性がそう簡単には崩れないのではないか、ということになる。

ただ、そのことと中期・循環的な円の基調の強弱はまた別の話となる。

12月の国際収支に話を戻せば、2018年暦年の経常収支は19兆円の黒字。前年の22兆円から減少した。国際収支統計上の貿易収支がほぼ収支トントンになったことが大きい。

ちなみに通関ベースでは貿易収支は暦年で赤字に転落している。主因はエネルギー価格の上昇による輸入金額の増加で、この点は、その後エネルギー価格が下落したために改善する可能性はある。

ただエネルギー価格の下落が海外景気の減速を反映するなら、輸出が不振となる可能性があり、必ずしも貿易収支が改善するとは限らない。

現時点で確実に言えることは、足元で日本は貿易赤字となっており、中期的・循環的にみた場合、円高圧力がかからない局面にあるということだ。

さらに構造的な変化も生じている。総じてみれば、日本の企業部門全体では貿易で稼いだ黒字を国内に投資せず海外に投資する傾向が強まっている。

月平均でみた直接投資額は1兆5千億円規模となっている。貿易収支がトントンないし赤字、所得収支が多くて2兆、少ないと1兆円に満たない状況では、資金は完全に流出超過となっている。

貿易で稼いだ以上に海外市場に投資している姿だが、これは企業の戦略、国内市場より海外市場にビジネスをシフトする流れを端的に反映している。

背景には日本の人口動態・日本市場の将来が影響しており構造的な要因が、足元で経常黒字を上回る対外直接投資をもたらしている。

そして、この直接投資は海外市場開拓のために行われることから為替動向にかかわらず実行される点で継続性、根深い動きといえるだろう。

さらに経常収支の黒字のほとんどを占める所得収支の黒字が、必ずしも円高圧力をもたしていない点にも留意する必要がある。

直接投資により生じる所得の過半は再投資されている。さらに、再投資されないとしても外貨のまま所有されているケースもあろう。

結局のところ、ほぼ外貨交換が行われる貿易収支が赤字になることが、端的に円買い圧力を減じているということになる。

東日本大震災の直後には原発の全停止、火力発電へのシフトによって燃料輸入が急増して貿易収支は赤字に転落した。2012年以降の円安は、日銀の大胆な金融緩和や米国経済の立ち直りもあるが、日本の貿易赤字化は需給面で大きく円安に影響したと考えられる。

これまでの動きをみると、一旦収支動向にトレンドが生じるとしばらく続くことがみてとれる。経常黒字の減少はしばらく続く可能性がある。

また低成長や先進国の金利が低水準にとどまることで投資収益が低下する可能性もある。循環的に円高になりにくい、ないしは円安になりやすい収支構造にあることは念頭におく必要がある。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :109.73(▲0.09)
ユーロ :124.26(▲0.29)
英ポンド :142.038(▲0.20)
豪ドル :77.788(▲0.20)
カナダドル :82.639(+0.11)
スイスフラン :109.666(+0.07)
ブラジルレアル :29.4217(▲0.12)
中国人民元 :16.276(▲0.00)
韓国ウォン(日本円=100) :9.765(▲0.00)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1323(▲0.002)
英ポンド :1.2944(▲0.001)
豪ドル :0.7088(▲0.001)
カナダドル :1.3278(▲0.003)
スイスフラン :1.0005(▲0.002)
ブラジルレアル :3.7319(+0.014)
中国人民元 :休場( - )
韓国ウォン :1123.75(▲0.39)

【主要国政策金利】
米国 :2.50
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :2.63(▲0.02)
米2年債 :2.47(▲0.01)
日本10年債利回り :▲0.03(▲0.02)
日本2年債利回り :▲0.03(+0.01)
独10年債利回り :0.09(▲0.03)
独2年債利回り :▲0.58(±0.0)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,106.33(▲63.20)
NASDAQ  :7,298.20(+9.85)
S&P500 :2,707.88(+1.83)
日経平均株価 :20,333.17(▲418.11)
ドイツ DAX :10,906.78(▲115.24)
インド センセックス :36,546.48(▲424.61)
中国上海総合 :休場( - )
ブラジル ボベスパ :95,343.10(+937.51)
英国FT250 :18,652.88(▲146.38)
ビットコイン :3594.91(+236.00)

【主要商品価格】
WTI :52.72(+0.08)
Brent :62.10(+0.47)
米ガソリン :144.64(+2.06)
米灯油 :190.85(+0.80)

金 :1316.61(+6.50)
銀 :15.82(+0.09)
プラチナ :800.95(+2.73)
パラジウム :1404.26(+18.25)
銅 :6228.00(▲19:21C)
アルミニウム :1889.50(▲2:24.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :914.50(+1.25)
シカゴ とうもろこし :374.25(▲2.25)
シカゴ小麦 :517.25(+4.00)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。

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