FOMC控えまちまち 発電燃料と穀物は急騰
- MRA商品市場レポート
2022年9月21日 第2287号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「FOMC控えまちまち 発電燃料と穀物は急騰」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はまちまち。エネルギーは液体燃料価格が一転下落したが、ガス・石炭などの発電燃料は買い戻しで大幅に上昇、工業金属は総じて小動き、貴金属は利上げ強化見通しと原油価格下落で軟調、穀物は再び供給面が強く意識されて水準を切り上げた。
引き続きロシアと欧州のエネルギーを巡る攻防が市場に影響を与えているが、弊社の資産では「何も障害がなければ」今年の冬を欧州は乗り切れそうな状況になりつつある(詳しくは「天然ガス・LNGエネルギー」のコラムをご参照ください)。
しかし気温が低下したり、生産側の不慮のトラブルのリスクは特に厳冬で増産が必要な場合は高まることになるため、まだ欧州の発電燃料確保は綱渡りの状態であることに変わりはない。
またFOMCは今後2回、75bpの利上げを見込む市場参加者が多く、景気循環系商品のみならず、ドル高進行でドル建て資産価格は下落する可能性が高い。基本的に多くのリスク資産が来年に掛けて水準を切り下げる展開が予想される。
株の場合だと下がることは悪いこと、と捉えられがちだが、この調整は景気の循環に基づくものなのである意味真っ当な価格下落である。ただし、日本は多くの資源の調達を「過去の価格」で決めているため、リスクはこれからだろう(詳しくは「昨日のトピックス」をご参照ください)。
【本日の見通し】
本日はFOMCを控えて様子見気分強く、基本的にはアジア~欧州時間はポジション調整的な取引が主体となり、レンジワークを予想する。
なお、FOMCは今後2会合で75bpの利上げを市場は想定しており、それがさらにタカ派的な内容になればリスク資産価格の下落要因となり、逆に想定通りであれば買い戻し材料になると考えられる。
そのほか、予定されている材料で注目は、米国住宅市場の先行指標である中古住宅販売。
市場予想は前月比▲2.3%の470万戸(前月▲5.9%の481万戸)と、減速は継続の見込み。なお、販売価格中央値と在庫月数にも注目している。
先月の中央価格は403,800ドル(6月413,800ドル)と減速している。米CPIヘの影響が大きい帰属家賃に時間差を以て影響するため、この低下トレンドが継続するかは重要なポイントに。
また、在庫も3.3ヵ月と、この半年で2倍(1月は1.6ヵ月だった)に増加し減速基調が強まっているため、このトレンドが継続するかにも注目したい。
【昨日のトピックス】
昨日発表された日本の消費者物価指数は、生産食品を除く総合指数が前年比+2.8%と消費税上げの影響を除くと1991年以来30年11ヵ月振りの高水準となった。
物価上昇の要因はエネルギー価格の上昇と円安の進行による輸入物価の上昇に因るもの。通常、日本の購買契約は「過去の価格を参照して価格を決定する」方式が多いため、これから値上げは本番となる。
ただし、既に国際商品市況は米国の金融引締め強化や景気の循環の中で調整を始めているため、恐らくドル建て価格には下押し圧力が掛ることになる。
それに伴いエネルギー輸入に関わるドル調達圧力が後退するため、円高にシフトして円建て商品価格は今後下落する可能性が高い。
しかし時間差があること、本当に円高に戻るかどうかは不透明であること(円が成長力鈍化で忌避されている可能性、個人投資家が国内投資に見切りを付けて海外投資にシフトしている可能性があることなど)、冬場にエネルギー価格の下落を期待するのはまだ時期尚早であることから、しばらくは消費者物価指数は高止まりするだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。FRBの利上げ観測と米エネルギー省が戦略備蓄1,000万バレルを追加放出する方針を示したことが材料となった。
このコラムでも主張しているように昨年景気はピークアウト、徐々に生産が時間差を以て回復するなかで下押し圧力が高まっている状況で、典型的な「景況感転換時」に見られる相場展開となっている。
今後はOPECプラスがどれだけ減産してくるか、に焦点が移ることになるが減産による価格下支え効果はそれほど大きく無いと考える。
前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、
1.大規模経済対策で景気が回復基調にあったこと2.想定よりもかなり早くワクチン開発に成功し、経済活動が早期に回復したこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、OPECプラスが大幅減産を成功させたこと
が価格上昇に寄与した。
しかし今回は景気が減速する局面であり、3.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、OPECプラスが増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することが予想される。
価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。
現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は79.85ドル(前日比▲1.05ドル)、Brentの実力ベースとの価格乖離は11.18ドル。
なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。
これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。
具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。
しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。
さらに米国がSPRを放出するなどの「追い打ち」を掛けているため、5.ヘの以降も有り得る状況に。結局、景気が悪化する局面では供給制限が余りに顕著でない限りは価格は下落する、ということである。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-110ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル
5.4.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 75-100ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル
7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-90ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、FOMCを控えて神経質な推移となるが、75bpの利上げを織り込むなかで想定通りであれば買い戻しで上昇、追加引締め強化の方針が示されればさらに水準を切下げる公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇した。この数日の下落で割安感が出ていること、在庫が積み上がったとはいってもこれからが冬本番であり、需要が増えこそすれ減少しないことが材料。
在庫は充分であるが、冬場の域内生産やLNGの輸入、気温が急低下する可能性もあることから全く安全とはいえず、欧州のガス供給は綱渡りの状態が続く。
ただし、「トラブルがおきなければ」欧州はこの冬を乗り切れる可能性が出てきた。
仮に欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、ガス在庫はLNGと合わせて1,300億立方メートル程度となる。
フローの供給と需要を以下の通りと見積もると
・トルコラインなどからの供給が継続 8,000万立方メートル/日・10月~3月期のノルウェーの輸出とその他の国の増産 4億3,500立方メートル/日(BP2021年データの欧州合計から英国とウクライナを控除したもの)・10月~3月期の欧州LNG輸入 2億立方メートル/日
・直近5年間の10月-3月のEU19のガス消費量平均 13億8,100万立方メートル/日
ロシアからの欧州向けの供給が完全に停止しても、在庫は欧州全体で195日分ある計算となり、10月から3月のガス供給は充分、という計算となる。
この計算は概算であるため正確ではないが、これまでの戦略が奏功して冬場を乗り切れる可能性が高い。
もちろん気温が低下したり、域内の生産が減少したり、今回の米Freeportの事故が発生したり、といったことがあれば供給が足りなくなる可能性は高いため、引き続き供給は綱渡りであり、価格は冬期中は高止まりしよう。高騰の可能性もある。
ただし、この冬を乗り切ったとしても2023年は「出だしからロシアのガス供給が絞られる」可能性があることを考えると、来年の夏・冬も安泰とはいえない。
ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言、TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtuとなる。
これはロシアがこの冬、ガス供給を完全に止める意思があることを示唆しているう。
しかし、この冬が乗り切れてしまいそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきたといえる。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。
そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」といえるだろう。恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束するため、一旦ガス価格は水準を切下げると予想される。
欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。
ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。
また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。
フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。
これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想されている。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。
化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。
3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも急上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物はほぼ変わらず。米国の在庫水準が低い状態に変わりはなく、下落局面では買いが入り、底堅い推移となった。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は上昇。欧州ガス価格の上昇を受けて上昇した。期先の価格は40ドルを超える水準を維持しており、依然水準は高い。
市場参加者は構造的な需給タイト化の状況がまだ数年続くとみているようだ。
世界的な構造的ガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。
中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。
中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。
中国の天然ガス生産は7月時点で+8.2%の170億6,000万立方メートル(前月+0.5%の173億立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。
※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。
1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える
2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう
9月11日時点の日本の発電用LNG在庫は240万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と減少。まだ過去5年平均を上回っているため「足下の」在庫は充分。
しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。
9月12日-18日のLNGトレードは682万トン(先週696万トン)と減少、スポット取引のシェアは22%(前週23%)と変わらず。
スポット需要はスペインや東南アジアで増加した。ターム契約は北欧とイタリアで減少、日中台韓の調達は増加。
本日も、欧州の在庫積み上がりはあるものの、冬場は買い続ける必要があるため価格は高値を維持する見込み。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップは上昇。競合燃料である欧州ガス価格が上昇したことから。
欧州の石炭輸入・石炭生産とも顕著に増加はしていない。一方で豪州炭の輸出は回復はしたものの過去5年レンジを下回っており、恐らく足下の価格上昇はガスとある意味同様だが、供給ソースの不足が影響しているとみられる。
この場合、景気が減速する、ないしは冬場が終了、ないしは暖冬の時に価格は下落することが予想されるが、需要のピークである冬はまだ始まってもいない。
8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。
価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。
7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。
中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。
現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。
期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが300ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は300ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
本日は、ガス価格が高値を維持していることから、やはり石炭価格は高値維持の公算。
この冬が終了した場合(来年3月)、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、ラニーニャ現象は54%の確率で、1-3月も継続の見込みであり、下落があるとすれば調達に目処が立つ3月に入ってからだろう。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はまちまち。中国の経済活動の再開期待と、米国の金融引締め加速観測のせめぎ合いとなった。昨日は中国のローンレートが据え置かれたが、非鉄金属市場では価格の下押し要因にはならなかった。
ただ、日々の値動きはかなり小幅であり、上記の強弱材料が混在するなかでのレンジワーク継続、という印象が否めない。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。
ただし同時に、中国政府の経済対策と、電力不足による金属供給減少が価格を下支えすると予想する。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.は中国の重要統計をみるに回復基調にあり、2.3.が満たされていない。
この状況を勘案すると、やはり上値は重く、公共投資の実施期待が価格をある程度下支えする程度に止まるのではないか。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。
この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。
ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。
本日は、米国のFOMCを控えて様子見気分が強く、現状水準でのレンジワークになると予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。
中国人民銀高がローンレートを引き下げるのでは、との期待があったが8月利下げの影響を見極めたいとして利下げが見送られたため、鉄鋼製品価格が下落、結果、鉄鋼原料価格の下押し要因となった。
しかし、成都のロックダウンが解除され、経済活動が再開するとの見通しから在庫積増しの動きが強まっているため結果、原料炭などは前日比プラス。
中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。
直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。
不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。
この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。
なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。
基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。
本日は、中国のロックダウン解除の動きや金融政策面での支援見送りといった強弱材料が混在するため、結局前日の水準程度になると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。実質金利が上昇したことが基準価格を押し下げ、ドル高の進行がリスク・プレミアムも押し下げた。
銀は金価格の下落を受けて大幅に下落、PGMはプラチナが小幅高、パラジウムが株下落を受けて大幅下落となった。
金の基準価格は▲8ドルの956ドル、リスク・プレミアムは▲3ドルの715ドル。
仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲450~▲500ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,300ドルを割り込む可能性が出てくる。
ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ3分の1に当たる金が流出する必要が出てくる。
荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2016年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,100ドル台だったことを考えるとない話ではない。
大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。
なお、足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。
Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。
しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下していたが、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻ったようだ。
1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)
2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に90倍とすれば、銀価格は18.2ドル程度となる。
仮に金のリスク・プレミアムが剥落して1,300ドルまで下落すれば、銀価格は14.50ドル程度までの下落余地があることになる。
本日は、FOMCを控えて神経質な推移となるが、75bpの利上げを織り込むなかで想定通りであれば買い戻しで上昇、追加引締め強化の方針が示されればさらに水準を切下げる公算。
◆穀物
シカゴ穀物市場は買い戻しで上昇。トウモロコシと大豆は作柄が過去5年の最低水準を遙かに下回り、凶作となる可能性が高まっていることが価格を押し上げている。
小麦はロシアがウクライナの支配地域で住民投票を行う方針を示したことで、欧米との対立が強まり、輸出が停止する可能性が意識された。ただし200日移動平均線のレジスタンスは重く、ここを上抜ける二は至らず。
トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。
そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。
しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。
本日は、原油価格がFOMC待ちではあるが軟調な推移になっていること、ドル高の進行から総じて下押し圧力が掛かりやすいが、需給ファンダメンタルズ面では供給(生産・輸出)に懸念があるため、現在の水準を維持すると予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について