今週は目先の正念場~ドル円相場最高値を試すリスク
- MRA外国為替レポート
2022年9月19日号
◆先週の市場総括
先週は米国の消費者物価指数(CPI、8月)が最大の注目材料。結果は想定外にインフレの加速を示し、市場のピークアウト期待が瓦解。大幅な利上げ観測が強まり、長期金利が大きく上昇。景気後退懸念が強まり米国株は急落。NYダウは1,200ドルの大幅安となった。
その後も大幅利上げの警戒感は続き、米長期金利は週末にかけて上昇が一服したが高止まり。米10年債は3.4%台、2年債は3.8%台後半へ上昇した。
米国株は軟調に推移した。ドルはCPIを受けて急騰。ドル円相場は145円ちょうどに迫った。ただ政府・日銀が急激な円安に警戒感を強め、口先介入を実施。介入実施へさらに姿勢を強めたことで円買い戻しが強まり142円台に下落した。
ただ日本の貿易収支(8月)が過去最大になると円先安感は強まり円買い戻しも一服。週末の引けは143円20銭近辺。
欧州でも利上げ継続観測からユーロ円相場も一時145円をつけた。その後反落したが底固く143円台で引け。日経平均も米国株安につれて下落し27,000円台半ばで取引を終えた。
月曜日の東京市場では日経平均が堅調。前週末の米国株高で値がさ株に買いが入り一時前週末比+400円超の上昇。インバウンド規制緩和で百貨店や鉄道などリオープン銘柄が買われた。
ただ米国CPI発表を前に慎重姿勢もみられ引けは+327円高の28,542円。
ドル円相場は堅調。142円10銭台に下落して始まったがすぐに142円90銭へ反発。その後30銭に押したが東証引け15時頃には143円50銭まで上昇した。ただ上昇はそこまで。欧州市場にかけては大きく反落して142円20銭台まで下落した。
ユーロが堅調。ユーロ高ドル安に押されたかたち。ユーロドル相場は1.0080に上昇して始まり、1.01ちょうどへ上昇したのちは1.0060~1.01ちょうどで上下。夕刻から欧州市場にかけては1.02ちょうどへ大幅高。
ユーロ円相場は143円70銭で始まり夕刻は145円60銭台まで大幅高。ウクライナが反攻し東部1州を奪還したと伝えられたほか、ECBの追加利上げを織り込んでユーロ高円安が大きく進んだ。
欧州株はそろって上昇。米国市場ではユーロ高一服し反落。ユーロドル相場は1.0110へ、ユーロ円相場は144円10銭台へ反落した。米国市場のドル円相場は142円20銭~80銭で上下。
NY連銀調査(8月)の期待インフレ率が、短期1年が前月6.2%から5.75%へ、3年が3.2%から2.76%へ、5年が2.3%から2.0%へ低下した。
これを受けてインフレピークアウト期待、金利上昇一服感がドルを抑制。しかしその後実施された米10年国債入札が不調で金利が上昇。10年債利回りは3.359%へ、2年債は3.573%。ドルは持ち直した。
ドル円相場の引けは142円80銭近辺。ユーロドル相場は1.0120近辺、ユーロ円相場は144円50銭近辺で引け。
米国株はしっかり。NYダウは前週末比+229ドル高32,381ドル。ナスダックは+154ドル高の12,266ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅高。前日の米国株が堅調だったことから買い先行も伸び悩んだ。インフレピークアウト期待やインバウンド規制緩和が支えとなったが、米CPIの発表を前に動きが鈍かった。
引けは前日比+75円高の28,614円。
ドル円相場は142円80銭で始まりじり安。欧米市場にかけて141円90銭まで下落した。ドルは対ユーロでもじり安。ユーロドル相場は1.0120で始まり1.0180へ上昇。
ユーロ円相場は144円60銭で始まり午後には10銭近辺に下落したあと60銭まで戻し、方向感なく上下した。
注目の米国の消費者物価指数(CPI、8月)はインフレピークアウト期待に反して上昇加速。総合指数は前月比+0.1%と前月±0.0から▲0.1%への低下予想に反して上昇。前年同月比+8.3%と+8.5%から鈍化したものの予想+8.1%を上回った。
コア指数は前月比+0.6%と前月+0.3%から加速して予想+0.3%を大きく上回った。前年同月比は+5.9%から+6.3%へ加速し予想+6.1%を上回った。
市場では大幅利上げの継続をさらに織り込んだ。9月のFOMC会合では0.75%の利上げを確実視。さらに1.00%の大幅利上げとの見方も台頭。米10年債利回りは3.30%から3.45%に上昇し引けは3.411%。
2年債は3.51%から一時3.75%に上昇して引けは3.745%。
ドルは急騰。ドル円相場は144円60銭に3円近く急騰。その後143円80銭に反落したが引けにかけてじり高となり144円60銭。ユーロドル相場は1.00ちょうど近辺に下落し、その後やや反発したがじり安となり0.9970で引け。
ユーロ円相場は一瞬143円40銭に下落したあと145円ちょうどに上昇し引けは144円10銭近辺とアジア時間とほぼ変わらず。ドルが全面高。ドルインデックスは109.95と110ポイントの大台に再び迫った。
米国株は急反落。NYダウは前日比▲1,276ドルと今年最大の下げ。引けは31,104ドル。前日まで4営業日の上昇幅をすべて失った。ナスダックは▲632ドル安の11,633ドル。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。前日に米国株が急落したことで幅広い銘柄が売られた。利上げ加速懸念からとくに高PER銘柄、グロース株に売りが嵩んだ。引けは前日比▲796円安の27,860円。
ドル円相場は144円60銭で始まり145円目前まで上昇。しかし日銀がレートチェックを実施し。介入準備段階と認識され、円安牽制にさらに一歩踏み込んだことから円買い戻しが広がった。
144円半ばを中心に上下したあと、夕刻には143円ちょうどへ。鈴木財務相と日銀黒田総裁が会談。財務相は介入も選択肢であることを暗にほのめかした。
欧米市場では143円台前半で上下したのち142円60銭まで下落した。米国市場では2年債利回り上昇に支えられ143円20銭で引け。
ユーロ円相場は東京市場では144円10銭で始まり概ね144円台前半で上下。しかし夕刻には143円ちょうどに下落。一旦143円50銭に反発したが142円30銭まで下落した。引けは戻して142円90銭。
ユーロドル相場は0.9970で始まり欧米市場まで通じて1.00を挟んで上下動。引けは0.9980。
米国株は小幅反発。大幅安の後で短期的な戻り狙いの買いが入ったが利上げ警戒感で上値重く伸び悩み。NYダウは前日比+30ドル高の31,135ドル、ナスダックは+86ドル高の11,719ドル。
米10年債利回りはやや低下して3.404%。2年債はさらに徐由章して一時3.8%をつけ3.79%で引け。
発表された生産者物価指数(PPI、8月)は、総合指数が資源価格上昇一服で前月比▲0.1%、前年同月比は前月+9.8%から+8.7%に低下。しかしコア指数は上昇加速し、前月比は+0.4%、前年同月比は+7.3%といずれも強めの数字だった。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。前日の大幅安のあとで押し目買いが入った。入国規制緩和でリオープン銘柄に買い。ただ上げ幅は限定的。引けは前日比+57円高の27,875円。
ドル円相場は143円20銭で始まり142円80銭に下落したが、日本の通関統計(8月)が過去最大の貿易赤字となったことから円安が進んだ。
夕刻には143円80銭。日本の貿易収支は2兆8千億円を超えた。ユーロ円相場も142円90銭から60銭へ下落したあと143円40銭に上昇。
欧米市場では円安は一服し上下動。ドル円相場は143円30銭~70銭で上下し次第に振れ幅を縮めて143円50銭で引け。ユーロ円相場は143円ちょうどに下落したあと、やや堅調に推移して引けは143円50銭。
ユーロドル相場は0.9980で始まり欧米市場を通じて1.00を挟んで方向感なく上下した。
ECBデギンドス副総裁が、インフレ期待の抑制に断固として行動する、と述べるなど、タカ派発言が相次いだ。米国の経済指標はまちまちながら雇用、消費が強め。
週次の失業保険新規申請件数は213千件と前週222千件から減少。小売売上高(8月)は前月比+0.3%。NY連銀製造業景気指数(9月)は▲1.5と前月▲31.3から大きく改善。
一方、フィラデルフィア連銀景気指数(9月)は▲9.9と前月+6.2から大きく悪化した。輸入物価指数(8月)は前月比▲1.0%と2か月連続で下落。
米国株は主要3指数がそろって下落。NYダウは前日比▲173ドル安の30,961ドル。ナスダックは▲167ドル安の11,552ドル。強めの経済指標で利上げ見通しが強まったことが重石。
来年のFF金利上限は4.5%を織り込みつつあり、2年債利回りが3.867%。10年債利回りは3.453%。
金曜日の東京市場では日経平均は下落。引き続き米国での金融引き締め懸念、米国株安が重石となり、値がさ株、グロース株を中心に下落した。引けは前日比▲308円安の27,567円。
発表された中国の主要経済指標は概ね強めだったがポジティブな反応はなかった。
8月の小売売上高は前年同月比+5.4%、鉱工業生産は同+4.2%、固定資産投資は同+5.8%といずれも前月から伸びが強まった。
ドル円相場は143円50銭で始まり朝方142円90銭に下落したあと午後には143円70銭に急反発する値動きの荒い展開。ただ欧米市場では終始上値が重く、143円ちょうどに下落。米国市場では143円を挟んで狭いレンジでもみ合い引けた。
ユーロ円相場は東京市場では143円50銭で始まり143円に下落したが50銭に持ち直し。ただ欧米市場では142円台半ばに下落するなど上値も重く、大きくみれば143円を中心に大きく上下する展開でNY引けは143円20銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場で1.00ちょうど近辺で始まり横ばいもみ合い。欧米市場で0.9950に下落し50~80で上下したがその後米国市場では持ち直し1.0010で引けた。
米国株は主要3指数とも続落。物流大手FEDEXの決算が不芳で景気下振れ懸念が強まった。
朝方はNYダウが一時▲400ドル安。景気敏感株を中心に売られ、また大幅利上げへの警戒感は根強く高PER銘柄、グロース株も軟調。ただその後は短期反発狙いの買いも入り、NYダウの引けは▲139ドル安の30,822ドル。ナスダックは▲103ドル安の11,448ドル。
米長期金利は概ね横ばい。10年債は3.465%、2年債は3.871%。発表されたミシガン大学消費者信頼感(9月速報)は59.5と前月58.2から改善し概ね予想通り。期待インフレ率は短期が前月4.8%から4.6%へ、長期が2.9%から2.8%へそれぞれ低下した。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(連邦公開市場委員会)
20日火曜日・21日水曜日の2日間、FOMCが開催される。市場では大幅な利上げ継続が織り込まれるなか、今回の利上げ幅は0.75%か1.00%か。
今会合ではメンバーの予測が公表され、利上げのピーク水準やその後の金利パスをどうみているかに注目が集まろう。市場の織り込む大幅利上げをそのまま認めるかたちとなるか。
あるいはさらなるタカ派、あるいはハト派へのブレがあるか。あわせてパウエル議長の会見が注目される。
結果的に長期金利を一段上昇させるか、あるいは停滞、ないし上昇一服となるか。それによりドルの帰趨も定まる。
2.日銀金融政策決定会合、黒田総裁会見
先週は145円目前までドル円相場が上昇したタイミングで政府・日銀は円安警戒姿勢を一段とギアアップした。介入実施へのステップとされるレートチェックを行ったことで介入警戒感は強まっているが、口先だけでなく具体的な行動が伴うか。
日銀が金融政策の変更、現状の超金融緩和策の修正を行うことが介入実施には必須とみられているが、政策調整はあるか。
黒田総裁が引き続き金融緩和に固執する姿勢を示せば、投機筋の円売りを再燃させる可能性があり留意を要する。
3.スイス中銀ほか各国金融政策決定会合
欧米では景気悪化を厭わず利上げを継続する姿勢を示した。さらに他の中銀も利上げに動いており、日銀の超金融緩和が際立った結果、円売りがブームとなり、円全面安となっている。
今週は各国で金融政策決定会合が開催され、利上げが実施されれば、あらためて円全面安の動きにつながる可能性があり留意を要する。
20日火曜日にスウェーデン中銀(0.75%から予想1.50%へ)、21日木曜日にイギリス中銀が2日目の会合を終え結果発表(1.75%から予想2.25%へ)、とくに注目されるのが同日のスイス中銀(▲0.25%から0.50%へ)。
マイナス金利から脱却するとみられ、日銀の特異性が際立つ可能性がある。ほか木曜日には南アフリカ(5.50%から予想6.25%へ)、トルコ(13.0%から予想12.0%へ利下げ)、など。
ほか、PMI景況感指数(9月速報)が週末に発表され、さらなる景況感悪化が示されるか注目される。
ユーロ圏では製造業・サービス業ともに景況感の分かれ目である50を下回ったままさらに小幅悪化予想。米国では原油価格の調整を受けてサービス業は改善が見込まれている。
◆今週のMRA's Eye
今週は目先の正念場~ドル円相場最高値を試すリスク
今週はドル円相場が1998年の最高値、147円台を試し、あるいは越えるか、正念場の週となりそうだ。
ドルサイドの要因としては、先般の予想以上に強いCPIを受けて、大幅な利上げが継続するとの見方が強まった。そうしたなかで今週火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。
市場ではすでに0.75%の利上げを確実視。さらに1.00%の利上げの可能性も取り沙汰されている。政策金利を反映しやすい2年債利回りは3.9%目前まで上昇した。利上げのピークを4.5%まで織り込んだ数字に。
まずは今回の利上げ幅がどうなるかだが、0.75%であれば過度な利上げへの懸念は一服するだろう。
一方で、公表されるメンバーの見通し、今後のFF金利予測がどのような数字となるか重要だ。前回6月の予測に対し上方修正されるのは確実とみられる。
その水準が市場予想の通り、ピーク4.5%まで見込んでいるか。さらにその後のFF金利動向、来年終盤の利下げを予測するメンバーがどれほどいるか。
高金利継続の予測となれば、あらためてドルを支える要因となる。もっとも、大幅な利上げが織り込まれた現状からは、よほどタカ派寄りのサプライズがなければ、追加的なドル高とはなりにくいとみられる。短期的にドル高が加速するリスクはさほど大きくないだろう。
より注目されるのは米国以外の各国の金融政策動向。先進国、新興国を問わず、各国の中央銀行はインフレ抑制のため利上げ姿勢を強化している。ECBはすでに0.75%への利上げを実施し、最大2%を目指した利上げのパスを示唆している。
今週は多くの中央銀行が金融政策決定会合を開催する。
火曜日にスウェーデン中銀が政策金利を現状の0.75%から1.50%へ、0.75%の大幅利上げを実施すると予想されている。
イギリス中銀は水曜日・木曜日の2日間にわたり会合を開催。1.75%から2.25%へ0.50%の利上げを実施する見込み。
とくに注目されるのがスイス中銀。木曜日の会合で▲0.25%から0.50%へ、0.75%の大幅利上げを実施しマイナス金利を脱却すると予想されている。
スイスは日本と並んで低金利国の代表であり、スイスフランと円はともに安全通貨とみられてきた。ここで日本とスイスの金融政策格差が拡大することで円全面安、円独歩安との見方が強まる可能性がある。
そうしたなか重要なのが水曜日・木曜日の2日間開催される日銀金融政策決定会合。円安にブレーキをかける何らかの政策修正があるか。先週は日本当局が急激な円安への警戒姿勢を強化。日銀がレートチェックを行うなど、為替介入実施に向けたギアアップともとれる動きをみせた。
これを受けて投機筋はとりあえず円を買い戻し。日本の8月の貿易収支が過去最大の赤字、単月で2兆8千億円にまで拡大したことは円安材料となったが、週末にかけても円買い戻しが続き143円近辺で引けた。
ただこうした介入警戒による円買い戻しの動きによる反動が懸念される。口先介入の強化に加え、日銀の金融政策に変化があるかもしれない、との警戒感が円買い戻しを促した。
しかし逆に政策変更がなければ円売りが加速する可能性がある。
超金融緩和政策の修正がなければ、口先介入は「口だけ介入」となる。日本の当局の無策、ないし円安阻止のための対応能力の欠如を見越して円売りを再開する可能性がある。
今週は日本で3連休が相次ぐ。東京市場は月曜日と金曜日が休場。東京市場が休場の間に円相場が大きく動くケースがあり留意を要する。
19日月曜日はまだFOMCやその他中銀の金融政策決定会合前、日銀の金融政策決定会合もまだで、足元と状況は変わらない。円安に動く可能性はやや少ないとみられる。
しかし、会合をひととおりこなした23日金曜日にリスクが大。東京市場が休場でアジア時間の介入リスクが低い。
さらに海外市場で介入を実施するには他国の中銀に協力を要請する委託介入しかないが、協力をとりつけるのが困難だろう。
日本人不在のなか投機円売りが加速。ドル円相場が147円台の1998年の最高値を試す可能性もある。その場合にどうするのか。
日本の当局が高等戦術を用いるなら、23日に円売りをさせて放置。週末明けの26日月曜日、アジア時間早々に取引の薄い時間帯に介入を実施して締め上げるということも考えられるが、実際に介入が実施できるか。
口先介入を強化すれば、次第に市場の要求水準も上がり、実際に介入できるのかをあらためて問うことになる。
投機的に円売りを抑制するためには、円先安感をほかの方法で減退させる必要がある。原発再稼働を早めることでエネルギー輸入金額を減少させるか、さらに入国規制を緩和して外国人旅行者増強をペースアップするか。
そうしたことを併せて早期に実施する必要がある。ただそれにはまだ時間を要しそうだ。
短期的には今週は円安サイドのリスクバイアスが強い。中期的には、米国を中心とする世界景気悪化により年末から来年にかけてはドル高円安がピークアウトする可能性が強い。
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