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中国統計問題と原油下落で総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年10月19日 第2307号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


中国統計問題と原油下落で総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品や貴金属、株価などがしっかりだったが、総じて軟調な推移となった。

コロナショック以降、特にインフレ率と商品価格の相関性は高いが、昨日は米国の戦略備蓄追加放出観測と、景気減速観測で原油価格が急落したため、10年期待インフレ率も急落しており、インフレ沈静化をテーマとした市場参加者の売りが価格を押し下げる形となった。

この下期(7月以降)は、市場参加者は「ディスインフレ」をテーマに取引を行っていたが、米国のインフレが沈静化していないため一時的に戻りを試す商品が多かった。

しかしFRBの金融引締め加速の可能性が強まり、経済のオーバーキルの可能性もあるためやはり中期的(来年の春~夏頃)にはインフレ抑制がテーマとなりやすく価格には下押し圧力が掛かりやすい。

また、中国が重要統計の発表を恐らく意図的に遅らせて居ることも、特にシェアの大きな工業金属価格の押し下げ要因となっている。

こうした「政治・イデオロギーを最優先として、経済を二の次にする」戦略は、海外投資家の中国への投資を細らせるため、経済活動にとってはマイナスとなる(どことは言わないが、他の国で既に確認されている)。

【本日の見通し】

本日は複数のFOMCメンバーの講演と、ベージュブックの公表が予定される。金融政策動向が非常に重要であり、これらはこれまで重要な手がかり材料だったが、この数週間のFOMCメンバーのコメントを見るに、これらの講演やベージュブックの内容が、よりタカ派、ないしはハト派になるとは考え難く、影響は限定されるのではないか。

予定されている材料では、「米金融政策の通信簿」的な指標である、米住宅着工や、企業決算(P&G、IBM、テスラ、Alcoaなど)に注目している。

9月米住宅着工 前月比▲7.2%の146.1万戸(前月 +12.2%の157.5万戸) 着工許可件数 ▲0.8%の153万戸(▲85%の154.2万戸)

【昨日のトピックス】

昨日発表された独ZEW景況感指数は、期待指数は▲59.2(市場予想▲66.5、前月▲61.9)と市場予想、前月を上回ったが、、現状指数は▲72.2(▲68.5、▲60.5)と予想以上に悪化した。

独ZEW景況感指数はドイツの日銀短観に相当するIFO景況感指数の先行指標として注目されるが、期待指数が想定外に改善していたことは意外だった。

しかし、それ以上に現状指数が悪化しているともいえ、足下の水準はコロナショックの水準に迫っており、決して統計の内容が「良い」とはいえない。足下のエネルギー価格上昇による生産活動の停滞や中央銀行による利上げの影響が強く意識され始めているといえ、さらに改善するという感じではない。

既にユーロ圏では景況感の悪化で「南北問題」が再燃しており、このまま仮に寒い冬が始まった場合、我慢ができない(ことが本当に多い)南欧州はロシアに対する制裁解除を、北欧州はさらに厳しい制裁を、と足並みが揃わない可能性はある。

この場合、高い確率で域内が政治的に混乱するため、今後のエネルギー価格に影響する「気温」に注目である。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。米政権が最大1,500万バレルの戦略備蓄放出する、との報道を受けて下落した。しかしそれ以上に景気の先行き懸念の影響の方が大きいと考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし11月頃から米国の増産が始まると予想されるため、早晩、2.に移行すると考えられる。また11月の米中間選挙で共和党が勝利した場合、化石燃料の増産には弾みが付くだろう。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

中期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

より長期となる2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、脱炭素も、ということになれば供給面の制限は続くため、原油価格は高止まりする可能性が高いと考える。

足下の脱炭素のための化石燃料採掘制限は、「今を生きる人々」の生活にマイナスに作用していると言わざるを得ない。100年後よりも今である。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、ベージュブックと再びFOMCメンバーの講演が多数予定されているが、タカ派な内容は変わらずと考えられ、影響は限定されるのではないか。

今晩発表予定の米石油統計は、原油在庫が+1,3MB(前週+9.9MB)の増加見込みだが、朝方発表のAPI統計は▲1.27MBの減少となっており、本日はテクニカルに50日のレジスタンスラインを試す展開を予想。

ただし、価格に対しては循環的な景況感の悪化の影響が大きいため、50日のレジスタンスラインを超えるには材料不足か。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は期近が大きく下落し、期先も下落した。欧州全体のガス在庫が16日時点で92.4%まで上昇し、目先これ以上の在庫積増しが困難なことで調達需要が後退したことが背景。

LNG受入能力のある国の輸入も、フランス、オランダ、イタリア、ベルギーなどで受入能力を超える調達となっており、足下更なる調達需要は後退している。また、気温上昇の予報が出たことも期近の価格を下押しした。

欧州のガス在庫は、仮に欧州が需要を▲15%削減することができれば、この冬は仮にロシアからの供給が停止したとしても充分な状況。

とはいえ、ナイジェリアでLNGプラントの輸出がフォースマジュールを宣言するなど、ロシア以外の国からの供給も不慮の途絶のリスクがある上、さらに想定を上回る厳冬となった場合、供給は必ずしも充分とはいえない。

4月以降はラニーニャ現象収束が期待され、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想され、足下のガス調達への懸念は後退しているといえる。

しかし2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなった場合、ノルドストリーム1・2が不稼働のままの可能性が高いことを考えると、2023年のガス調達は2022年よりも厳しい状態になると予想される。

欧州がこの冬を乗り切れそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきた。

ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。そのためロシアもこの冬が勝負と考えている可能性は高い。

プーチン大統領は、ノルドストリームのパイプライン攻撃を「(ロシア以外の国の)テロ」と断定し、「全てのインフラにテロ行為の危機がある」、と発言した。

このことは、「(それをロシア以外の国のテロ行為として)ロシアが全てのインフラを攻撃する意図がある」といっているに等しい。

今後、ロシアが自国のインフラを破壊して供給懸念を煽るより、より直接的にロシア以外の国のインフラへを攻撃し、恒久的に供給ができない状態にして、強制的にロシアの資源への依存度を高めさせる戦略が採用されるリスクは高まっていると考えるべきだろう。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がる。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスク、ナイジェリアの洪水によるLNG輸出停止が顕在化している。

Freeportの再開予定は11月上旬から中旬、ナイジェリアは未定。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。

・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化している。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西ともさらに急騰しており、過去5年レンジを遙かに上抜けした。ロシアの供給が細る中、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。

10月3-9日のLNGトレードは、745万トン(前週709万トン)と増加、スポットLNGカーゴのシェアは23%(21%)と上昇した。主に欧州向けのターム契約が増加したことによる。

スポットカーゴはスペイン向けの増加を、日中台韓向けの減少を相殺した。日本と韓国の欧州向けカーゴが減少したことが影響している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。米東部の気温上昇見通しでガス需要が減少するとの観測が強まったことが背景。

これまで米全土の「Gas Heating Degree Days」は過去5年平均を上回ってきたが、見通しでは10月19日頃まで上昇した後、10月末には例年を下回ると予想されている

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物はほぼパラレルに下落。欧州の調達一巡と価格抑制策で。ただし、期先は調達環境が厳しい状態が続く見通しであることから高値を維持している。

しかし、欧州のガス価格は供給制限の問題からまだ高値を維持しており、ロシア・ウクライナの軍事的な緊張も緩和していないことからLNGスポットカーゴの需要は冬場を通じて旺盛と考えられ、さらに2023年の調達が2022年よりも厳しくなる見通しであり、期先の価格はまだ高止まりが予想される。

中国の8月の天然ガス輸入(パイプライン+LNG)は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

パイプラインベースの輸入は+9.0%の413万トンと過去5年レンジを上回り、LNGは▲29.0%の472万トンと過去5年平均を下回っている。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

中国は国内生産増加とパイプラインからの供給増加、景気減速に伴う需要の減少でLNG需要が減少しているとみられる。当面、JKM価格は抑制された状態が続くことになろう。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

10月9日時点の日本の発電用LNG在庫は249万トン(前年同月末207万トン、2017~2021年平均239万6,800トン)と減少、過去5年水準を上回っているが減少傾向が強まっている。

日本も欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため調達に問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は、欧州のガス調達余力が、足下、限界に達していること、アジアの需要も中国の輸入が低迷していることから期近は軟調な推移が予想される。

ただし、弊社のシミュレーション結果も▲15%~▲20%の需要削減ができなければ冬場の欧州の天然ガス調達は不充分であり、本当に在庫がゼロ近傍になれば来年の調達圧力が高い状態は続くことから、期先は下げ難いと考える。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは小幅に続落。天然ガス調達の一巡と、代替品としての石炭調達も一巡したと考えられること、南アフリカの港湾ストライキが収束に向かっていることが材料となった。

ただ、思惑で動くというよりは石炭先物は実需の影響が大きいため、足下の欧州の調達一巡の影響が小さくないと考える。

Glencoreと東北電力の「石炭チャンピオン交渉価格」が締結された。期間は2022年10月~2023年9月で395ドル(FOB)。前回契約は2021年6月から2022年5月で109.97ドルだったため、200ドル以上の上昇に。

脱ロシア問題は来年も続き、ロシア産以外の高カロリー炭を求める動きが「シーズン入り前から」続くため、価格の絶対水準が切り上がっている状況。

ロシアの体制変更があり、より穏健で、西側諸国が付き合うに足る国にならない限り、ロシア炭が市場の需給を緩和する方向には働き難い。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270~300ドルであり、これが低下するには需要の減少か鉱山生産の増加が必要条件となる。

10月に入ってからの水準切下げは期近のみではなく期先が下落得しているため、景気が減速するなかでの石炭需要減速を織り込み始めたと考えられる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は、冬場に向けた欧州の調達が一巡した可能性が高いことから軟調推移を予想。ただし、消費者の安値拾いの買いやヘッジ買いが予想されるため、下値も堅いか。

なお、ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了した場合にはラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。

ただし、恐らく来年も発電燃料調達を巡り、厳しい状況は続くと予想されるため下落しても余地は限定されるとみる。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は続落した。中国の経済統計発表延期で「相当国内情勢が悪いのでは」との懸念が広がっていることが背景。しかし全体として非常に狭いレンジでの推移であり、ポジション調整程度の取引、といっても言い過ぎではないかもしれない。

LME非鉄金属全体のボラティリティは低下しているのだが、それでもヒストリカルに見ると高く、先々の価格変動リスクは大きい。

またアルミやニッケルといったロシアが重要なポジションを占める非鉄金属に関しては、LMEの規制前の「駆け込み」が起きていると考えられ、在庫が増加して価格の下落要因となっている。

今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られること、循環的な景気の減速から、この利上げが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。

しかし、「今のところ」米国の利上げ打ち止めが来年の春頃とみられているため、非鉄金属価格は来年春~夏頃に底入れするのではないか。

ロシア産の金属受入禁止は、LMEブランドであるアルミやニッケルに関しては影響が大きいがその他の金属への影響は限定されるだろう。

仮に制裁が強化されてロシア産の金属が禁止となれば、LMEが「ラストリゾート」としてロシア産金属の搬入が駆け込み的に加速し、LME価格が急落する可能性がある。

また、受入が停止となれば今度はLMEヘの金属供給が減少するため、ショートの買い戻しが加速して上昇する展開が予想される。結局、ロシアに対する制裁有無で、アルミ、ニッケルなどのロシアの生産シェアが高い金属価格は乱高下を余儀なくされるだろう。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国が統計発表を渋っていることから、余り良い状態ではなさそうだ。

2.3.に付いては企業業績を受けて株価が戻っているため、2.は顕在化、3.は原油価格下落で満たされていない。結局、現在の価格が軟調地合の中でもみ合っているという状況を適切に表現しているといえる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ来年後半から、再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトができなくなる場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

本日は、続落となっていることから一旦、安値拾いの買いが実需筋を中心に入り、上昇すると考える。しかし、中国の情勢不安を背景に上値も重く、結局レンジワークになるだろう。

なお、ベージュブックの公表が予定されているが、時間的にLME非鉄金属はこれを織り込めず、明日以降の材料に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

中国の重要統計の発表が先送りされていることが市場参加者の疑念を強めているが、同時に今年度予算でインフラ投資が行われる見込みであることから、一定の在庫積増し需要があったため、と考えられる。

ただし、価格は現状維持、という感じであり上にも下にも動きにくくなっている。

先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲170万トンの1億3,020万トン(過去5年平均 1億3,429万トン)、在庫日数は28.6日(▲0.4日、過去5年平均30.8日)。

鉄鋼製品在庫は▲17万トンの1,193万2,000トン(過去5年平均1,217万トン)、原料炭在庫は▲26万トンの142万トン(126万4,000トン)、在庫日数は▲1.1日の5.8日(過去5年平均5.3日)。

鉄鉱石・鉄鋼製品の在庫水準は低く、原料炭の在庫はやや積み上がり気味の状態。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では75ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、統計発表先送り報道を受けた鉄鋼製品価格の調整と、それでも今年度中のインフラ投資期待から、現状維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格はもみ合った結果、前日比プラスとなった。銀やパラジウムも同様だったが、プラチナは小幅安。

金の基準価格は▲18ドルの806ドル、リスク・プレミアムは+21ドルの846ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば260ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向が重要になる。

足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率そのものであり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,650ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

銀価格は、10月3日の上げで上回ったレジスタンスラインを再び全て割り込んだ。銀は供給過剰にあるため、投機的な動きに価格が左右されやすく、テクニカル分析が比較的有効に機能する。

景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

やや緩和的なスタンスにシフトしたかと思われた金融政策は、再び引締め気味にシフトしていることが実需減速懸念を高めており、銀価格を下押ししている。

再び50日移動平均線を割り込んだため、当面はこの水準が上値として意識されることになろう。

本日は、ベージュブックと再びFOMCメンバーの講演が多数予定されているが、タカ派な内容は変わらずと考えられ、影響は限定されるのではないか。

結局、新味ある材料に乏しい中、現状水準でのもみ合いが継続すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落。このところ穀物価格に対する説明力が高い原油価格が、昨日も大きく調整したためそれに連れる形となった。

また、シカゴ穀物輸送の重要なインフラであるミシシッピ川の水位が低下しており、バージ価格が高騰、輸出価格を押し上げる一方、シカゴ需給の緩和でシカゴ定期価格の下押し要因となっていることも、価格を押し下げている。

ミシシッピ川の水位回復には時間が掛ると考えられ、当面、シカゴ定期価格の抑制要因となろう。

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性がある。

また、ロシアのウクライナ侵攻は終了の気配が見えず、なりふり構わないプーチン大統領が穀物輸出停止に踏み切るリスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

なお、今のところ中東・北アフリカ地区でのサバクトビバッタの大量発生は確認されていないが、ナイジェリアでは大規模な洪水が発生しており、農業国である同国の生産下振れリスクは、穀物、特に小麦価格を押し上げよう。

本日は、ベージュブックと再びFOMCメンバーの講演が多数予定されているが、タカ派な内容は変わらずと考えられ、影響は限定されると見る。

恐らく原油価格の下落もあって軟調地合の中、もみ合い推移を予想する。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。


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