CONTENTSコンテンツ

景気の先行き懸念で総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年10月12日 第2302号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気の先行き懸念で総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は発電燃料やその他農産品を除き、水準を切下げる商品が目立った。

IMFが経済見通しを発表し、インフレの長期化とそれを抑制するための金融引締めが景気を長期にわたって低迷させる可能性を示唆したことや、FOMCメンバーのタカ派的な発言を受けた長期金利の上昇、それを受けたハイテク株の調整がリスク資産価格を広く押し下げる形となった。

また、ロシアがウクライナ全土に対する攻撃を継続、趣旨は明らかではないがロシアとベラルーシが合同部隊を編成することで合意するなど、ロシアがコントロールできない状態になりつつ有ることも、リスク資産価格押し下げに寄与した。

もはやロシア情勢は窮鼠猫を噛む状態に近づきつつあり、ロシア側が何をしてきてもおかしくない状況。また、ロシアに協力しているイランも国内でヒジャブ問題を巡るデモが過激化しており、ロシアの影響力がある中東・北アフリカ地域で軍事的な緊張が高まる可能性も出てきた。

結局の所「景気が減速するなかで、それをさらに加速させる政策が米国を中心に行われていること」が市場動向を読み難く、不安定にしている。

ではこの引締めを止めて良いのかといえばリビングコストが再び上昇することになるためこれを止める訳にもいかない。世界は長期のスタグフレーションリスクに晒されつつ有るといえる。

【本日の見通し】

本日はFOMCメンバーの講演が複数予定されており、恐らくタカ派な発言を繰返すと予想されるため、総じて軟調な推移になると考える。

本日予定されているイベントで注目はなんと言ってもG20財務相・中央銀行総裁会議。米国がインフレを抑制するため、なりふり構わず金融引締めを行っていることでドル高が進行しており、その他の地域も結果的にインフレ抑制に舵を切らざるを得なくなっている状況をどのように対応していくのか、に注目が集まる。

また、既にイエレン財務長官がロシアのシルアノフ財務長官を、ウクライナに対する大規模ミサイル攻撃で非難しており、本来財務相の管轄ではないが、ロシアの対ウクライナ政策への対応も注目が集まる。

恐らく今回のG20ではロシアが参加しているため共同声明は採択されないと考えるが、中国やサウジアラビアなどの親露諸国がどのような発言をするかは、ウクライナ戦争の停戦の可能性や、今後の東西分裂の行方を占う上で重要になるため、に注目したい。

【昨日のトピックス】

昨日発表されたIMFの経済見通しは想定以上に先行き景気に関して厳しい見方が示された。世界経済は想定を上回るペースでの減速が、この数十年で見たことがないインフレと共にほとんどの国で継続する見込み。ロシアのウクライナ侵攻、コロナの影響が見通しを強く下押しへ。

懸念されるインフレは世界全体で2022年が8.8%、2023年が6.5%、2024年が4.1%に減速する見込みであるり、金融政策はタイトな状態が継続する結果、欧米、中国は失速が続く見込み。

インフレ抑制のための金融政策の引締め的なスタンスが継続すれば、クレジットクランチに繋がるリスクも(特に低所得国が債務危機に陥るか、既にそれに近い状態にある)。

今年から来年に掛けては、景気が急速に失速するリスク、あるいはインフレ沈静化のために長期的な金融引締め状態が続き、経済成長が低水準に止まる(スタグフレーションの長期化)リスクは小さくないと考えられる。

週末発表された日本の街角景気の指標である景気ウォッチャー調査は、現状判断DIが48.4(市場予想47.7、前月45.5)と市場予想、前月とも上回った。コロナ禍からの正常化が進捗し、Gotoキャンペーンや水際対策の緩和など、個人消費に寄与しやすい政策が次々と打ち出されていることが影響した。

しかし、先行きを示す先行き判断DIは49.2(50.2、49.4)と悪化しており、日本の個人の消費は慎重とみられている。

背景には円安進行による輸入品価格の上昇が物価を押し上げており、賃上げが充分ではなく消費に影響が出ると見られていることや、回復したとは言え、先行する海外情勢不安がロシア・ウクライナ、中国を中心に高まっていることが背景。

先行指標と現状指標の差である「景況感変化」は、日本の場合先行指標の方が高く先行きの状況改善を期待しているケースが多く、今回も0.8とプラスとなった。

しかし、過去の水準と比較しても水準は低く、先行きの景気への期待はそれほど高くないことが伺え、やはり海外情勢不安の影響は無視できないといえる。日本の景況感はこれからが厳しい状況になることが懸念される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。かねてからの景気減速に加えてドル高が進行したこともあり、水準を切下げた。このコラムで指摘しているように、景気減速下でのOPECプラスの減産の価格維持効果は限定される。

改めて試算してみると、この需要が低下しないという前提に立つと、▲200万バレルの減産が遵守率50%で行われた場合この下期(10月~3月)の原油価格は、Brentは90.3ドル、WTIは82.7ドル、遵守率100%のベースでBrentは96.8ドル、WTIは89.1ドルとなる。

しかし、価格上昇は需要を減じるため実際にはここまでの上昇にはならないと予想される。また、景気減速局面でOPECが減産を維持し続けることができるかどうかは不透明だ。

弊社の予想は基本的に米エネルギー省の需給見通しを元に算出しているため、今週発表のDOE統計次第では、11月の年度見通しで水準を変更する見込み。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在はOPECの減産により、1.の状態に戻った。しかし11月頃から米国の増産が始まると予想されるため、早晩、2.に移行すると考えられる。また11月の米中間選挙で共和党が勝利した場合、化石燃料の増産には弾みが付くだろう。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-105ドル

2.1.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-100ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-95ドル

4.3.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 70-90ドル

5.ロシアがウクライナから撤退上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

6. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

7. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。ただし想定よりも景況感の悪化速度が速い様に感じる。

Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q123~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (→)      グローバル・リセッションの場合 (↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は複数のFOMCメンバーの講演が予定されており、恐らくタカ派は発言が続くと予想されることから下落を予想。現在、50日移動平均線のサポートラインでBrentはサポートされているため、ここを下抜けするかどうかが焦点に。

なお、OPEC月報が発表されるが、多くの場合「足りてますよね」というスタンスで作られることが多いため、解釈としてはベアな内容になる可能性が高いと考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に上昇した。ロシアがウクライナ全土への攻撃を継続していることで、欧州とロシアの対立は続き、ガス供給はウクライナ経由でもゼロになるのでは、との懸念が強まったことが背景。

ただし、同時に欧州の景気減速の懸念も強まっているため、上げ幅は限定された。

欧州のガス在庫は、仮に欧州が需要を▲15%削減することができれば、この冬は仮にロシアからの供給が停止したとしても充分である。しかし、▲15%の在庫が削減できなければ3月頃には在庫は枯渇することが予想され、2023年のガス調達環境は、恐らく2023年よりも厳しくなる。

欧州がこの冬を乗り切れそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきた。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。

そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」になるのではないか。今回のウクライナ全土への無差別攻撃は、その焦りの表れともいえる。

恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束すること、景気の減速から一旦ガス価格は水準を切下げると予想されるが、2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなった場合、ノルドストリーム1・2が不稼働のままの可能性が高いことを考えると、2023年のガス調達は厳しい状況が続くことが予想される。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がる。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。

これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。

化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。あとは既述であるが、ノルドストリームの稼働が当面見込めなくなったことが挙げられる(これは3.に当たるか)。

3.は欧州で顕在化している状況で、ノルドストリームを巡るロシアの対応をみるにサハリン2も冬場に稼働を停止する可能性もある。

今回のノルドストリーム1・2の破壊は、ロシアの攻撃とした場合、以下がその背景となる。

・9月27日に開通した「バルティック・パイプライン(ノルウェー→デンマーク→ポーランド→欧州域内)」も「破壊可能である」との脅し。・米国の圧力で開通していなかったノルドストリーム2は、パイプラインが1本残っているためこれを開通させる。

4.はもはやリスクではなく、顕在化し始めている。

5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西ともさらに上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は上昇。冬場を控え、割安感からの買いが入ったためと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は直近限月が小幅に上昇したが、その他の限月はパラレルに下落した。域内最大の消費国である中国の経済統計の悪化を受けて冬場でも消費が低迷するのでは、との見方が価格を押し下げた。

しかし、欧州のガス価格は高値を維持しており、ロシア・ウクライナの軍事的な緊張もエスカレートしていることからLNGスポットカーゴの需要は冬場を通じて旺盛と考えられ、さらに2023年の調達が2022年よりも厳しくなる見通しであり、期先の価格は下がりにくくなっている。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。ただ、ノルドストリームの破壊工作報道をみるに、「欧州と米国に協力するならば、日本にもLNGを供給しない」という可能性も残るため、短期的なサハリン2リスクは上昇している。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は最大で1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月25日時点の日本の発電用LNG在庫は269万トン(前年同月末300万トン、2017~2021年平均233万5,000トン)と増加、過去5年水準を上回っているため「足下の」在庫は充分。

しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

また、今年の冬を乗り切れたとしても来年の夏以降の調達への懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持しよう。

本日は、ロシアとウクライナの衝突が激しさを増し、さらにはドイツに対して恐らくロシアが破壊工作を仕掛けるなど、ガス供給を巡る環境は悪化しているため、ガス価格は高値維持の公算。

また、弊社のシミュレーション結果も▲15%~▲20%の需要削減ができなければ冬場の欧州の天然ガス調達は不充分であり、本当に在庫がゼロ近傍になれば来年の調達圧力が高い状態は続くことから、期先は下げ難いと考える。

なお、冬場の調達がある程度目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、上述の理由から下値も堅かろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇。欧州とロシアの対立激化に伴うガス・石炭供給の制限観測の強まりが価格を押し上げた。260ドル程度まで下落していた期先の価格も再び270ドルに上昇している。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。

ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、現在は270ドルであり、これが低下するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

10月に入ってからの水準切下げは期近のみではなく期先が下落得しているため、景気が減速するなかでの石炭需要減速を織り込み始めたと考えられる。

しかし、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は現在の期先の価格ではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日は、欧州情勢がさらに緊迫していることが、ガス・石炭調達を困難にし、欧州域外からの石炭調達需要を高めるため、高値維持の公算。恐らく冬場の石炭価格は高値を維持しよう。

しかし、ロシアとの対立やそれに伴うインフレ発生、その抑制のための金融引締めで欧州はスタグフレーションに陥っており、冬場が終了した場合にはラニーニャ現象の収束と合わせて水準を切下げる公算。

ただし、恐らく来年も発電燃料調達を巡り、厳しい状況は続くと予想されるため下落しても余地は限定されるとみる。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちとなった。中国のファイナンス関連統計が、企業の借り入れ意欲が回復していることを示唆する内容だったものの、価格に影響の大きい株価が、米国の金利上昇を背景に調整したことが価格を下押しした。

今後も世界的な金融引締めが先進・新興国を問わず継続すると見られること、循環的な景気の減速から、この利上げが落着くまでは価格のリスクは下向きとなる。

米国の利上げ打ち止めが来年の春頃とみられているため、非鉄金属価格は来年春~夏頃に底入れするのではないか。

なお、LMEのCOTレポートとCFTCレポートでは、CME銅銅、LME鉛・アルミ・ニッケルが売り越しに転じており、やや様相が米中対立が始まった頃の状況に戻りつつある。

このときもスズや亜鉛などはネット売り越しにならなかったが、その他の金属は売り越し幅を拡大して価格が下落している。中国政府の2023年の経済対策がどの程度のものになるのかが注目される。

ロシア産の金属受入禁止は、LMEブランドであるアルミやニッケルに関しては影響が大きいがその他の金属への影響は限定されるだろう。

仮に制裁が強化されてロシア産の金属が禁止となれば、LMEが「ラストリゾート」としてロシア産金属の搬入が駆け込み的に加速し、LME価格が急落する可能性がある。

また、受入を拒否すれば今度はショートの買い戻しが加速して上昇する可能性もある。結局、ロシアに対する制裁有無で、アルミ、ニッケルなどのロシアの生産シェアが高い金属価格は乱高下を余儀なくされるだろう。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.は中国のファイナンス関連統計をみるに、中国の需要はやや持ち直している。

しかし、2.3.に付いては再びFOMCメンバーがタカ派的な発言を繰返しているため、1.の効果を相殺している状況。当面、現状水準でのもみ合いが予想される。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、そのあたりまでは調整圧力が掛かり頭重い推移に。

世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性もあり、この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される。

ただし、IMFが経済見通しで指摘しているようにインフレ沈静化に時間が掛れば、長期的に引締め的な金融政策が世界で継続、特に財務体力がなく、同時にインフラ向け投資の潜在需要が大きな新興国の需要を減じると見られるため、この場合は価格の回復はさらにずれ込むことがリスクとして意識される。

また新興国の景気のクラッシュがなくとも、2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

速ければ来年後半から、再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

本日はFOMCメンバーの講演が多数予定されており、タカ派は発言が繰返される見通しであること、一方で最大消費国である中国の経済対策が価格を下支えするため、現状水準でもみ合うものと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

休み明けの中国勢の買いで大連鉄鉱石は上昇したが、鉄鋼製品価格が下落したため上昇は限定された。

中国人民日報は、「ゼロコロナ政策を経済の安定、命を守るために堅持しなければならない。この政策は科学的であり効率的である」という論調を展開した。

政府系の新聞であるため、政府の方針と解釈され、建築シーズンである9月・10月の建設向け需要の回復に黄色信号が点ったことが価格を押し下げたと考えられる。

先週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲320万トンの1億3,190万トン(過去5年平均1億3,220万トン)、在庫日数は29.0日(+0.3日、過去5年平均30.3日)。

鉄鋼製品在庫は+67万トンの1,210万9,000トン(過去5年平均1,260万9,000トン)、原料炭在庫は+20万トンの194万トン(127万2,000トン)、在庫日数は+1.1日の8.0日(過去5年平均5.3日)と増加している。

鉄鉱石・鉄鋼製品の在庫水準は低く、原料炭の在庫はやや積み上がり気味の状態。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。

直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。

不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では75ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も中国のゼロコロナ政策と景気刺激といった相反する政策の実行で、現状維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格はもみ合った結果、小幅に下落した。米10年実質金利が乱高下したため、それに連れる動き。銀は株価の下落もあって下落、PGMも株価の下落もあって大幅な下落となった。

金の基準価格は▲6ドルの797ドル、リスク・プレミアムは+4ドルの870ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば250ドル程度が過去5年平均でありこの水準までの回帰があれば、金価格は1,000ドル程度までの下落余地があることになる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ半分に当たる金が流出する必要が出てくる。

現在の金基準価格の下落とリスク・プレミアムの上昇は、異常なペースで進む政策金利の上昇によるものであり、恐らく来年のはる頃には利上げペースが減速、実質金利も低下して基準価格は切り上がり、リスク・プレミアムは低下すると見られるため、1,000ドルまでの下落は恐らく起きないと考えられるが、1,200ドル程度までの下落リスクは有り得ると考えている。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向が重要になる。

足下、再び金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。

銀価格は、10月3日の上げで上回ったレジスタンスラインを再び全て割り込んだ。銀は供給過剰にあるため、投機的な動きに価格が左右されやすく、テクニカル分析が比較的有効に機能する。

景況感を材料に金銀レシオが決まり、金融引締めをして景気を減速させようとしている状況だと、基本的には供給過剰で工業向けの金属である銀は、対金で割安に推移しやすい。

やや緩和的なスタンスにシフトしたかと思われた金融政策は、再び引締め気味にシフトしていることが実需減速懸念を高めており、銀価格を下押ししている。

再び50日移動平均線を割り込んだため、当面はこの水準が上値として意識されることになろう。

本日は、FOMCメンバーの講演が多数予定されており、恐らくタカ派な発言を繰返すと予想されるため、株価が調整することから銀・PGMは軟調、金は金融引締めによる信用リスクの高まりがリスク・プレミアムを押し上げるため、現状維持を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の下落に連れ、大豆も類似した動きだったが結局前日比小幅プラスとなった

小麦はロシアのアブラムチェンコ副首相が、ロシアの小麦が豊作であるため輸出制限を設ける必要がない可能性、と発言したことで需給緩和期待が高まったことが背景。

12日発表の米需給報告の市場予想は以下の通り。

・10月米単収見通し市場予想(前月)トウモロコシ 172.1Bu/エーカー(172.5)大豆 50.6Bu/エーカー(50.5)小麦 NA(47.5)

・10月米生産見通しトウモロコシ 139億379万Bu(139億4,400万Bu)大豆 43億8,031万Bu(43億7,800万Bu)小麦 NA(17億8,300万Bu)

・10月米輸出見通しトウモロコシ NA(22億7,500万Bu)大豆 NA(20億8,500万Bu)小麦 NA(8億2,500万Bu)

・10月米在庫見通しトウモロコシ 11億2,628万Bu(12億1,900万Bu)大豆 1億4,993Bu(1億4,900万Bu)小麦 5億6,252万Bu(6億1,000万Bu)

今後は秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、冬場のラニーニャ現象がアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシアの穀物輸出停止リスクヘの懸念は拭い切れて居ないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は米農務省の統計を控えて様子見気分は強いが、基本的に不作見通しであるため価格には上昇圧力が掛る公算。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は極めて低いリスク)。

・資源価格(電力価格を含む)の上昇による市場取引のマージンコール上昇で、マージンコールを差し入れられない市場参加者がポジションを外し、市場が機能しなくなる場合(LMEニッケルで見られたような事態が発生して市場が混乱する場合)。

追い証の負担増加に耐えられず、連鎖的にエネルギー企業の倒産が発生する可能性。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性(既に顕在化か)。

インフレ抑制が上手くいかず、スタグフレーション状態が長期化する場合。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(徐々に顕在化している可能性があるリスク要因)。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について