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株上昇で総じて堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年9月9日 第2279号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「株上昇で総じて堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、その他農産品や貴金属などの一角が続落したが、総じて堅調な推移となった。

ECBは想定通り75bpの利上げを実施、欧州の景気減速懸念が強まり、パウエル議長は繰り返しタカ派な発言をしたが、これらは既に株式市場では織り込み済みであり、買い戻しが優勢となる中、投資余力が改善した市場参加者がコモディティ全般に買い戻しを入れたため、と考えられる。

株価の前年比上昇率と米ISM製造業指数の間には高い相関があるが、過去3年、5年、10年のデータとの比較感では現在の株価は「売られすぎ」といえ過去データを元にすると株価は前年比+10%程度上昇していておかしくない。

しかし、場合によるとこれは逆で、ISM製造業指数が50を早晩割ってくる可能性の方が高いのではないか。その場合、原油価格にも調整圧力が強まり、広くインフレ資産価格に下押し圧力が掛る可能性が出てくる。

【本日の見通し】

本日は目立った手がかり材料に乏しく、週末を控えたポジション調整で株が調整し、その他のリスク資産価格にも下押し圧力が掛る展開を予想する。

本日予定されている材料では、中国のPPIとCPIに注目している。市場予想ではPPIが国際価格の下落で低下、CPIは需要回復で上昇するとされているが、もしこの通りであれば企業業績の改善期待が高まり、特に工業金属には上昇圧力が掛ることになろう。

8月中国PPI 市場予想 前年比+3.2%(前月+4.2%)CPI +2.8%(+2.7%)

【昨日のトピックス】

昨日、70年在任した英エリザベス女王が死去した。長きに渡り英国民・世界と寄り添った偉大な女王であり、英国民の3人に2人が彼女を「好き」と答えるほど慕われた女王であった。

振り返ればダイアナ妃の死去などのスキャンダルで王室の地位が低下する局面はあったが、女王の差配でこれを乗り切り、完全に国民の支持を得るまでに至ったことは大変なことである。

また、英女王は英国のみの女王ではなく、15ヵ国からなる英連邦王国の君主でもある。

英連邦王国とはかつて英国が植民地支配した国で、その後英国と台頭は独立・主権国家になった国々のことを指し、カナダや豪州、ニュージーランドなども英連邦王国に属する。

ただ、英連邦王国に属しているといって英王室の支配下にあるというわけではなく今日では形式的なものとなっている。

今回、エリザベス女王の後任としてチャールズ皇太子が国王に就任した。恐らく今回の王位継承によってこれらの国々が英国に反旗を翻して、これらの国々が混乱...ということは恐らくない。

女王の死去はもちろん国際社会に取ってマイナスの影響を及ぼすものだが、英王室は政治的な権力を有さないため、これによって何らかのリスクが顕在化して世界が混乱するリスクも低いだろう。

心よりご冥福をお祈りします。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。株式市場が米利上げを織り込んで堅調に推移する中、前日までの大幅下落で割安感が出ていたため、買い戻しが入ったためと見られる。

昨日発表された米石油統計は、原油・ガソリン・ディスティレートとも市場予想比で弱気な内容。石油製品の国内出荷も減速しており、輸出を合わせた出荷も昨年の水準を下回り始めている。

株式市場動向を見ていると混乱するが、景気は循環的に減速を始めていると考えられ、恐らく今後、原油市場は供給過剰に転じて行くことになる。そのため、OPECプラスは定期的に減産を考える必要がある。

DOE月報でも年末からの原油増産が見込まれている。しかし需要が減速を始めた場合、よほど大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。

前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、

1.景気が回復基調にあったこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は78.61ドル(前日比+1.05ドル)と上昇、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.55ドル。

なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。

これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており(ギリシャ沖での「瀬取り」も然り)、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル

5.4.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル

7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、週末を控えたポジション調整的な取引が主体になると考えられるが、昨日の米統計が弱気な内容だったこと、恐らく株価が週末を控えて調整売りに押されるとみられることから、本日は軟調な推移を予想。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。EUの価格抑制策を受けても根本的な供給制限状態の解消には繋がらないため、ここまでの下落による割安感からの買いが入って上昇した。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、このような判断になったと考えられる。

8月のピーク時からの下落は、EUによる価格抑制策の導入が検討される中で、買いポジションを保有していた消費者が負けポジションになる前に手仕舞い売りを入れた、あるいは現物の確保が困難、ないしは景気悪化で現物需要が減少したために現物の予定数量が減少、ヘッジ外しの売りを入れた可能性が高いと見る。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計。冬期の上限価格は、ウクライナ危機時に付けた345ドルが意識される。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。

TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。これはロシアが今後もガスを供給するつもりがないことを示唆しているう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇する可能性があると予想されている。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は上昇。週間ガス統計で在庫への注入量が前週・市場予想共に下回ったことが材料となった。

ここまで増産観測や気温が穏やかになること、欧州ガス価格の調整を受けて下落していたが、米国のガス需給がタイトな状況に変わりはなく、この調整局面での割安感からの買いが入ったと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇した。欧州ガス価格が上昇したことや、EUの価格抑制策があったとしてもやはり冬場の調達は不可欠であることが価格を押し上げた。

世界的な構造的ガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は7月時点で+8.2%の170億6,000万立方メートル(前月+0.5%の173億立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は新会社への移行が進むが、中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月4日時点の日本の発電用LNG在庫は265万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月22日-28日のLNGトレードは677万トンと減少、スポット取引のシェアは20%(前週27%)と低下した。

スポット需要の減少は、主に台湾の輸入減少によるもの。日本と中国のスポット調達も減少、一方で韓国の輸入は増加。

本日は、欧州の規制強化観測と景気先行き懸念の強まりが価格を下押しするものの、ガス在庫積増しは継続する見通しであり、TTF・JKMとも底堅い推移を予想する。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップはほぼ変わらず、高値を維持した。欧州ガス価格の上昇と、電力・エネルギー危機回避を背景とする豪州からの石炭輸出減少が影響していると見られる。

また、ガスタンクのキャパシティが一杯になりつつある中、ガスに比べれば保管が容易な石炭が、発電燃料として選好される可能性が高く、ガス価格の下落はあってもやはり高値で推移することになろう。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も冬場に向けた在庫積増しの動きは継続すると見られ、高値を維持すると考える。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。ドル指数が欧州の利上げやパウエル議長発言を受けて乱高下したが、ベンチマークである銅価格との連動性が高い米国株が、米国の利上げ要因を価格に織り込んで上昇するなかで買い戻しが優勢となった。

供給はそもそも逼迫しているため、ここに来て供給懸念が材料になった、というよりは、株の上昇によるファイナンシャルな面が強く出たためと考える方が昨日の相場上昇を説明するのに適切ではないか。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.は満たされているが、3.は満たされていない。

足下、買い戻し圧力が強まったが、戻りは弱いのではないか。さらに買い戻しが入るとすれば欧州のエネルギー供給問題を背景に、アルミ、亜鉛、銅などの供給が今以上に逼迫する場合。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、週末を控えて株に調整圧力が強まる可能性が高い中、本日は水準を切下げる展開を予想する。

注目材料は中国の物価関連統計だが、PPIの低下とCPIの小幅な上昇(仕入価格の下落と需要回復による販売価格の上昇)が見込まれており、この通りであれば非鉄金属価格にはプラスに作用することが予想される。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇。

鉄鋼製品在庫の減少と中国の経済対策期待で鉄鋼製品価格が上昇したことを受けて、鉄鋼原料価格にも上昇圧力が掛った。

鉄鋼製品在庫の低さ、経済対策の実施期待が価格を押し上げる一方、8月の中国貿易統計で確認されるように同国の景気が減速しており、さらにゼロコロナ政策によるロックダウンの動き拡大が、鉄鋼原料・鉄鋼製品価格の重石となっている。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。しかし習近平国家主席はゼロコロナ政策を改めておらず、外遊に出かけるなど恐らく共産党内の人事を思い通りにすることに成功したとみられる。

このことは、これまで失敗してきた同氏の経済政策を共産党政権が続けることを意味しており、不動産市場の混乱が続く可能性が高まった。

より不確実性が高まるが、中国政府による景気刺激策は鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられる。しかしその効果、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」大きくないと見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、経済対策実施期待と各地の天災の影響による経済活動の強制停止の綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米長期金利の上昇による実質金利の上昇、10年期待インフレ率の低下が影響した。

銀価格は恐らく割安感と株高から物色され、PGMは連動性の高い株価の高騰を受けて水準を切り上げている。

金の基準価格は▲29ドルの1,035ドル、リスク・プレミアムは+19ドルの675ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ3分の1に当たる▲1,000トン程度の金が流出する必要が出てくる。

荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2017年初のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,200ドル台だった。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要になる。

なお、足下、金価格に対して説明力が高いのは「期待インフレ率」であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることがわかる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

恐らく長期的には実質金利で説明可能な水準に回帰していくと考えられるが、当面は期待インフレ率を基準に分析と併用する必要がある。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に現状水準と同じとすれば、銀価格は17.8ドル程度となる。

本日は、欧米景気の減速に伴う原油価格の下落が金価格を押し下げると予想される。銀も連れ安。PGMは連動性の高い株式市場が米金融引締めの現在のペースを織り込み、ポジティブに反応していることから上昇余地を探る展開に。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。主に需給報告の発表を控えて調整的な売買が中心だったと考えられる。

トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。

そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。

しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、特段目立った手がかり材料に乏しい中、現状水準でのもみ合いを継続すると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。


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