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良好な米統計を受けて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年9月7日 第2277号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「良好な米統計を受けて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、その他農産品や非鉄金属の一角が上昇したが、その他は総じて軟調な推移となった。

注目の米ISM非製造業指数が市場予想に反して良好な内容であり、前月から改善したことを受けて「現在の米国の金融引締めでは、米国の景気過熱を沈静化できない」との見方が広がり、景況感と、今後の金融引締め加速観測が台頭してリスク資産価格を押し下げた。

足下、ドル円が143円まで上昇し、24年振りの円安水準となった。米国の金融引締めが継続すると見られる一方で、日本の景況感はこれからさらに悪化すると見られていることが金融政策の方向性の格差を生み、足下説明力が高い米長期金利の上昇が円安を助長した。

今のところ日本の政府当局が円安対策を行う意思はなく、日銀は金融緩和を継続するものの変更することはない見通しであることを考えると、円安バイアスはしばらく続きそうだ。

なお、日本のCDSの水準が上昇しているわけではないため、円の信認が低下して「日本売り」の状態になっている訳ではない。

日本のCDSは算出に用いられる社債の中で電力債の比率が高く、6月~7月の夏場の電力危機発生時に高騰したが、足下は落着いている。

なお、今後の景気急減速へのリスクが高まっている欧州のCDSはじりじりと水準を切上げている(ただし水準はまだ低い)。

【本日の見通し】

本日は昨日のISM非製造業指数が好調だったことを受けて、今晩公表のベージュブックで米景気に対してどのような判断になっているかに注目している。

少なくとも金融緩和的な発言が出るとは考え難く、どちらかと言えば景気の減速が見られるものの、労働力不足と賃金上昇に目立った低下は見られていない、といったトーンになり、引締め観測の強まりがインフレ・景気循環系商品価格を下押ししよう。

予定されている統計で注目は、中国の貿易統計。市場予想は輸入・輸出とも減速を見込んでおり、工業金属価格の下落要因に。

8月中国貿易収支 市場予想 927億ドルの黒字(前月1,012億6,000億ドルの黒字)輸出 前年比+13.0%(前月+18.0%)輸入 +1.1%(+2.3%)

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の実質賃金は4ヵ月連続で前年を下回った。1人あたりの現金給与総額は+1.8%増加の37万809円となったが、物価上昇率がこれを上回ったためとみられる。

実際、日本の消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)は2022年4月頃から3%近辺で推移している。基本的に日本の消費者物価指数は輸入原油価格に連動しやすく、かつ、その価格変動が影響を及ぼすまでに時間差がある。

ガソリンなどの燃料価格は概ね前月の数字が価格に反映されるが、電気やガスなどは市場価格と実際の価格の間には半年程度の時間差がある。

そしてそれらの燃料を用いて生産した工業品などの価格に反映されるにはさらに時間差があることになる。多くの場合、日本の製品値上げはこのような仕組みで「海外から遅効して」行われる。

例えば現在の電気・ガスの価格は3月頃の価格であり、(上限価格の設定がなければ)恐らく来年の2月頃まで価格が上昇し、3月頃から下落する、という動きになるだろう。

つまり日本の値上げはこれからが本番であり、消費支出にも影響が及ぶことになる。さらに言えば、円安の加速が国内消費を冷え込ませるのではないか。インバウンドの回復がなければ日本の内需系企業はかなり厳しい状況に置かれることになる。

直近の家計支出は前年比+3.4%(市場予想+4.6%、前月+3.5%)と市場予想・前月とも下回ったが、前年比プラスは維持。

これはコロナの移動制限がなかったため、7月の夏休みシーズンに旅行に出かけた人が多かったことによるものと考えられる。しかし今後、この消費にも影響が出ることが予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格はまちまち。WTIはISM非製造業指数が良好だったことによる需要増加期待と金融引締め加速観測が価格を押し下げ前日比小幅プラス、Brentは金融引締めによるドル高進行が重石となり、水準を切下げた。

これまで米国やその他の国々からの要請を受けてOPECプラスは増産を続けてきたが、大きな方針転換、節目のOPEC総会となり今後は米国の増産や景気減速による需要の減少が見込まれるため、OPECプラス総会では減産が議論されることになる。

しかし、これまで増産計画も計画通り行われておらず、実質的には既に減産が行われていること、▲10万バレルの減産は、バイデンが中東を歴訪したことに対する形式上の増産だった10万バレル分を止めただけであり、恐らくこの程度の減産では価格を押し上げるには至らないと考えられる。

需要が減速を始めた場合、大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、

1.景気が回復基調にあったこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は82.69ドル(前日比▲2.57ドル)と低下、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.20ドル。

なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。

これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国(主に非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 80-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル

5.4.の状態で産油国(主に非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル

7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 65-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米ベージュブックと複数のFOMCメンバーの発言が予定されており、昨日のISM指数を受けてタカ派な発言が出てくると予想され、ファイナンシャルな面で価格は下落すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は下落。ガスタンクが満杯になるとの見方やEUによる発電燃料価格上昇に対する規制観測を受けて、価格が下落するとの見方が価格を押し下げている。

しかし、チャートを見るとローソク足の下ひげは長く、やはり潜在的な調達需要が旺盛であることが確認されており、価格は高止まりしている。

日経新聞でも指摘されていたが、欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

証拠金に耐えかねて手仕舞いを行わざるを得なくなるケースは、現状、価格が高騰していることに伴い「ガスの買い手側」の方が可能性が高く、足下の下落は生産者の売りヘッジというよりは消費者の上昇リスクヘッジ外しの影響に因るものと考えるのが妥当かもしれない。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、こう言う判断になったと考えられる。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計だろう。当面はウクライナ危機時に付けた345ドルが上値として意識されるだろう。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。

TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。これはロシアが今後もガスを供給するつもりがないことを示唆しているう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は大幅に下落。増産観測や欧州のガス価格下落による輸出減少などが材料になった。また価格高騰を受けて、欧州と同様、マージンコールなどの問題から買い手がヘッジ外しを行った可能性もある。

とはいえ、米天然ガスの在庫水準は低く、一方で価格が高い欧州向けの輸出は継続して域内需給がタイト化すると予想されるため、今冬のガス価格は高値で推移することになるのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が上昇、期先が下落。欧州の取引規制観測や、エネルギー価格の高騰が欧州経済を悪化させるとの見方が強まり、2023年以降の需要の減少観測が強まったことが期先の価格を押し下げたと考えられる。

現在の価格水準では日本の電力会社は上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した。

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は新会社への移行が進むが、中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

8月28日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月22日-28日のLNGトレードは677万トンと減少、スポット取引のシェアは20%(前週27%)と低下した。

スポット需要の減少は、主に台湾の輸入減少によるもの。日本と中国のスポット調達も減少、一方で韓国の輸入は増加。

本日は、欧州の規制強化観測と景気先行き懸念の強まりが価格を下押しするものの、ガス在庫積増しは継続する見通しであり、TTF・JKMとも底堅い推移となるか。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは下落した。欧州による発電燃料取引の規制報道を受けたガス価格の下落が価格を押し下げた。

ガスタンクのキャパシティが一杯になりつつある中、ガスに比べれば保管が容易な石炭に関しても、今後、在庫積増しの動きが強まると予想され、ガス価格の下落はあってもやはり高値で推移することになろう。

ただしガスに比べれば石炭火力のシェアは低いため、影響は限定されるはずだ。取引が薄い中で上限価格に意味はないが、この上昇で期近は節目の450ドルを越えてしまったため、切りの良い水準である475ドル、500ドルといった水準がこの冬場は上値として意識されるのではないか。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も冬場に向けた在庫積増しの動きは継続すると見られ、高値を維持すると考える。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまち。昨日下落したニッケルや錫には買い戻しが入り、欧州のガス価格下落を受けてアルミや亜鉛などは水準を切下げた。いずれの金属も50日移動平均線がチャート上のレジスタンスラインとなっている。

四川省・貴州省・深センがロックダウンとなり、四川省でM6.8の地震も発生し、中国の経済活動が停滞する可能性が意識されているため、基本的には下落しやすい地合。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日も、中国のロックダウンと経済対策期待の狭間でもみ合うものと考える。ただし、FOMCメンバーの講演が複数予定されており、ベージュブックも足下のインフレが沈静化していない、といった旨の内容になると予想され、引締め強化観測が価格を下押しするため、頭重い推移となろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は小幅に上昇した。

四川省・貴州省・深センがロックダウンとなり、四川省でM6.8の地震も発生し、中国の経済活動が停滞する可能性が意識されているため、基本的には下落しやすい地合。

鉄鋼製品価格はロックダウンの影響で鋼材の供給が減少する、と見られたことが材料になったと考えられる。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。

中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

また、北戴河会議を経ても結局ゼロコロナ政策を変更する意思はないことが今回の一連の対応で明らかになり、習近平が3期目続投となる可能性が高い以上、当面(場合によると来年以降も)ゼロコロナ政策が維持され、経済の強制停止リスクが残存することは世界経済の大きなリスクになる。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくないと見ている(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、経済対策実施期待と各地の天災の影響による経済活動の強制停止の綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は下落。米ISM非製造業指数が市場予想に反して改善したことを受けて、景況感の改善に伴う金利上昇に、金融引締め加速観測が加わったことが材料。PGMも同様に水準を切下げた。

金の基準価格は▲50ドルの1,045ドル、リスク・プレミアムは+41ドルの657ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

しかし、この1年だけを切り出して金価格と実質金利の関係性を俯瞰すると、相関係数は▲0.18まで水準が低下しており、長期の相関性▲0.84と比較すると「ほぼ無相関」の状態になっている。

長期的に担保されている関係性であるが、金融政策の大幅な変更を伴うタイミングであるため短期的にはインフレ率を基準にした分析を行った方が適切な可能性がある。

現在、金価格に対して説明力が高いのは「期待インフレ率」であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることがわかる。

実質金利の説明力が低下する一方で、原油価格の期待インフレ率に対する説明力は担保されており、仮にこの5年のデータを元に分析を行うと、2023年のWTIの価格を78ドル(弊社分析による予想)とした場合、金の推計値は1,626ドルとなる(この分析は近々MRA's Eyeで解説の予定)。

この分析だと、金融引締めが行われたとしても、さほど金価格が低下しないことを示唆する。恐らく長期的には実質金利で説明可能な水準に回帰していくと考えられるが、当面は期待インフレ率を基準に分析を行った方が適切と考えられる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,630ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に現状水準と同じとすれば、銀価格は17.2ドル程度となる。

本日は、低下していた期待インフレ率に上昇圧力が掛るため、金銀価格は上昇、株価下落でPGMは下落すると考える。

ただしい、本日はベージュブックに加えて複数のFOMCメンバーが発言予定であり、いずれもタカ派な発言になると予想されることは、貴金属価格の上昇を抑制すると考えられ、最終的には下落に。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは米西部の生産が低迷する、との見方が強まったことが材料となった。大豆はアルゼンチン政府が大豆輸出に優遇為替レートを適用する、と決定したことで輸出増加観測が広がったことが背景。

小麦はトウモロコシが買い戻される中で連れ高となった。

トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。

そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。

しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、朝方発表の作況で、トウモロコシ・大豆の作況が極めて良くないことが再確認されていることから上昇余地を探る展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。


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