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高安まちまち 米雇用統計は概ね予想通り
  • MRA商品市場レポート

2022年9月5日 第2275号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「高安まちまち 米雇用統計は概ね予想通り」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、発電燃料価格と工業金属の一角、その他農産品が下落したがその他は比較的堅調な推移となった。

注目の米雇用統計は市場予想の範囲ないの内容で、米金融引締めの影響がじわりと影響していることを確認、9月FOMCでの引締め強化観測が後退したことでリスク資産に買い戻しが入る動きとなった。

しかし、米国が早期に金融緩和に舵を切る意思は殆どないことを市場は認識しており、やはり上値は重い。

懸念されるのは中国の深センでロックダウンが始まったこと。結局、北戴河会議を受けても習近平国家首席はゼロコロナ政策を変えるつもりはなかった、ということだ。

これは今後も中国の経済活動が強制停止される可能性があることを意味しており、年内の世界景気の減速リスクはさらに高まったと考えられる

【本日の見通し】

週明け月曜日は米国市場がレイバーデーで休場のため動意薄く、レンジワークとなる商品が目立つと考えられる。

月曜日の予定で注目はOPECプラス会合。インフレ率に影響を及ぼし、その他の商品価格にも影響が及ぶため。

なお、これまでサウジアラビアなどは減産について積極的に発言してきたが、直近の報道では減産は見送られる可能性が高そうだ。

というのも価格下落時の減産は「数量×価格」で決定される原油の売上をさらに減少させることになるため、景気が回復する期待がある中での生産調整(コロナショック時の生産調整)の様にOPECプラス諸国の足並みは揃い難い。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数が+31.5万人と、市場予想の+29.8万人を上回った。一方失業率は3.7%に上昇している。

しかし失業率の上昇は労働参加率の上昇(62.1%→62.4%)に拠るところが大きく、賃金上昇率も月次の伸びが鈍化(+0.5%→+0.3%)したが、前年比は+5.2%(+5.2%)と横這いであり、まだ米国の経済は堅調であり、雇用市場も逼迫しているといえる。

資源価格の下落に繋がる米国の原油増産の指標の1つである石油掘削業就労者数は142千人で横這いであり、まだ増産にバイアスが掛るような状況ではない。

ただし、労働参加率の上昇による労働力供給の改善、労働時間の短縮、週あたり賃金の伸び鈍化、失業率の上昇(ただし上述の通り労働参加率の上昇)で、総じてFRBの政策効果がじわりと現れ始めたといえる。

6月以降の大幅利上げでもその効果が充分出ていないと考えられ、恐らくFRBは利上げのペースを加速させ、QTのペースも速めることはないにせよ、高水準で継続すると予想される。

Fed Watchで確認できる9月に75bpの利上げが行われる可能性は前日が75%だったが、56%の確率に低下しており、市場は今回の統計を受けてややタカ派スタンスが微修正されるとみているようだ。

ただ、利上げペースが仮に鈍化しても利上げ後の政策金利維持は長期化の可能性があるため、リスク資産価格(特に株など)が上昇したとしても一時的な物になる可能性は高いと見ており、それが商品セクター全体の価格上昇の重石となるだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米雇用統計が米国の金融引締めがあっても堅調な内容であり、エネルギー需要も堅調に推移するとの期待や、予想の範囲内の統計だったため、利上げペースの加速懸念が若干後退したことも買い戻しを誘った。

G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針。これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体艇にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

需要が減速を始めた場合、大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、1.景気が回復基調にあったこと、2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと、が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が増産に踏み切る、という展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は82.295ドル(前日比+0.84ドル)と上昇、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.73ドル。

DOEの見通しを元にすると、在庫水準の正常化が期待できるのが今年の9月~10月、そのタイミングでFRBが75bpの利上げを行うこと、QTも継続することから10月以降に水準を切下げる動きになると予想されるが、まだ明確に景気が減速している訳ではないため、10月頃までは供給不安が価格を押し上げやすい。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は米国市場が休場で動意薄いが、OPEC総会が予定されており、神経質な推移になるとみる。

今のところ現状維持の見通しであり、これまで減産を織り込んで来たため現状維持であれば原油価格は下落すると予想される。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は下落。欧州のガスタンクが満たされつつ有ることや、ロシアからのガス供給が停止される見通しが示され、冬場の景気減速に伴う需要減速観測が価格を押し下げたと考えられる。

なお、ICEが発表しているCOTレポートを元にすると市場参加者の大半が実需筋であり、規模的に投機のシェアは10分の1に満たない。

また、投機筋は価格急騰時にむしろ売りポジションを拡大させているため、これまでの高騰・下落はどちらかと言えば実需家の売買動向に因るものと考えられる。

そのように整理すると、この数日の急落は

1.ある程度現物が確保できているサプライヤー側が、EUの何らかの取引規制を意識して売り価格のヘッジを入れた

2.現物供給の途絶、ないしは工場の稼働停止などで現物が不要になり、同時に上昇リスクヘッジも不要になった消費者のヘッジ解除の売りが入った

3.1.2.両要因

のいずれかと考えられる。取引所価格に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、こう言う判断になったと考えられる。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計だろう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

これまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。ロシア軍事侵攻に対する制裁やパイプライン停止で、欧州天然ガス価格は345ユーロまで急騰した。

この水準を上抜けするにはさらなるパニックが必要と見られ、当面は345ユーロが上限として意識されることになるだろう。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。

これまで、ロシア政府のエネルギー価格見通しは大きく外れてきたことがないため、現在、タンクが一杯になりつつあって調達圧力が弱まっている(というよりは積み増すスペースがなくなる)ことで下落しているガス価格が、ピークシーズン中に上振れする可能性があることを示している。

さらに懸念すべきは、戦闘状態が長期化した場合、この欧州の発電燃料の恒久的な不足は数年にわたると予想される点だ。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小幅に下落。渇水・猛暑・原油生産の回復遅れを材料に在庫水準が低く価格を押し上げてきたが、欧州ガス価格の下落を受けて小幅な下落となった。

なお、米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、11月からFreeport社のLNG輸出が再開されるため、増産の影響は限定されよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は下落。欧州のガス在庫積増し進捗を受けた目先のガス調達圧力の弱まりが、スポットカーゴ市場需給を緩和したためと考えられる。

ただし冬はこれからが本番であり、ロシアは早くもノルドストリームの再稼働に否定的な発言をするなど、ピークシーズンの供給は不安定であり価格のリスクは依然、上向きとみている。

現在の価格水準では日本の電力会社は上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は新会社への移行が進むが、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、が懸念される。

8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

週明け月曜日は、ロシアのガス供給がやはり回復しなかったこと、TTF価格がチャートのサポートラインである50日移動平均線を意識した動きとなっていることから、買い戻しで上昇すると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇した。冬場の発電燃料確保の動きが価格を高値に維持している。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、結果的に欧州の燃料価格規制が導入されたとしても影響は限定されているようだ。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

週明け月曜日も発電燃料の供給制限状況に変わりはなく、高値維持の公算。

今のところ海上輸送炭市場から遠ざかっているため影響は限定されるが、中国で再びロックダウンの動きが広がっていることは上昇を抑制しよう。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまち。中国四川省と深センのロックダウンを受けた経済活動の鈍化観測で下落していたが、原油価格が若干回復したことで期待インフレ率が上昇し、引けに掛けて水準を切り上げる商品が目立った。

亜鉛は欧州のガス価格下落とそれに伴う採算性の回復期待が生産を増加させるとの見方から大きな下げとなった。

これまで中国政府の経済対策期待で買いが入ってきたが、ロックダウンは劇的に経済活動を停滞させるため、非鉄金属を始めとする工業金属価格の下落要因となる。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。

週明け月曜日は米国市場が休場のため動意が薄いとみるが、非鉄金属価格に対しても説明力が高い、期待インフレ率に影響を与えやすい原油価格の動向を左右するOPEC総会があるため、神経質な推移になるとみる。

今のところ現状維持の見通しであり、これまで減産を織り込んで来たため現状維持であれば原油価格は下落、非鉄金属価格にも下押し圧力となろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は大幅に下落した。

四川省がロックダウンとなったが、昨日は深センもロックダウンになることが決定、北戴河会議を経てもゼロコロナ政策は堅持の方針であることが確認されたことは工業金属価格を押し下げ、原料価格の下押しした。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

中国の鉄鋼製品の港湾在庫は▲33万トンの1,247万6,000トンと、過去5年平均である1,268万5,000トンを下回っており水準は低い。今年は公的需要の積増しが予定されていたが、足下のゼロコロナ政策堅持であればその影響はかなり相殺されてしまうだろう。

一方、価格低下と需要増加を見越した在庫積増しが進んでいた鉄鉱石に関しては港湾在庫は+260万トンの1億4,300万トンと、過去5年平均の1億3,171万トンを上回り、在庫日数も28.1日と過去5年平均の28.0日を上回った。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

週明け月曜日も、中国の経済活動の強制停止が鉄鋼製品需要を押し下げ、鉄鋼原料価格の下押し要因になると予想される。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇。米雇用統計がほぼ予想通りだったが、引締めは継続する見通しとなり、長期金利の低下と原油価格の上昇を受けた期待インフレ率の上昇が実質金利を押し上げたことが背景。

銀も金価格の上昇を受けて買い戻しが入り、上昇。PGMはほぼ金価格をフォローする動きとなったが、価格に対する説明力が上がっているフィラデルフィア半導体株指数の下落を受けて上げ幅を削った。

金の基準価格は前日比+28ドルの1,095ドル、リスク・プレミアムは▲13ドルの618ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

ただし、クレジットリスクの高まりがリスク・プレミアムを高止まりさせるため、しばらく金価格は実質金利以上に高止まりすると考えられる。

リスク・プレミアムの低下は、クレジットリスクヘの懸念が後退することが恐らく必要条件になるが、それは米利上げが打ち止めとなる来年4月以降でありそれまでは金価格は、実質金利の上昇が価格をじりじりと押し下げながらも高止まりすると予想される。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。その点では現在の価格は売られすぎともいえ、金銀レシオはコロナ・ショック時に急騰した127倍を「エラー値」として処理すれば過去最高水準に迫りつつある状況。

金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲370ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。

この場合、銀の下値は14ドル程度となる。「何かあった場合」の下値は切り下がった。

週明け月曜日は米国市場が休場のため動意薄いが、期待インフレ率に影響を与えやすい原油価格の動向を左右するOPEC総会があるため、神経質な推移になるとみる。

今のところ現状維持の見通しであり、これまで減産を織り込んで来たため現状維持であれば原油価格は下落、貴金属価格にも下押し圧力となろう。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。レイバーデーの3連休を控え、これまでの下落を受けたポジション調整による買い戻しが入ったためと考えられる。

また、原油に関しても同様に買い戻しが入ったこともトウモロコシ→大豆価格の上昇要因となり、小麦にも波及した形。

トウモロコシは米国では4割がエタノール向けであり、世界的な脱炭素の流れと相まって化石燃料の需要動向に需要と価格が左右されやすくなっており、今は景気循環系商品としての色彩も強まっている。

その中で原油価格が下落しているため、足下の価格下落になっていると考えられる(詳しくは本日のMRA's Eyeをご参照ください)。

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

週明け月曜日はシカゴ市場が休場。

中期的には需給ファンダメンタルズのタイトさと、米金融引締め加速・長期化観測の綱引きとなるが、ここまでの統計は米国の経済が堅調であることを示しており、金融要因の方がより強く作用するため、しばらくは軟調に推移しやすい。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「トウモロコシは高値維持~強弱材料混在」

ウクライナ戦争が発生して以降、主要輸出国であるウクライナからの供給減少懸念で高値推移していたトウモロコシ価格は大きく下落した。ウクライナからの穀物輸出が再開したことや、米国の利上げペースの加速、それに伴うエネルギー安とドル高の進行が影響したためである。

この3年のデータを元にすると、トウモロコシ価格に対する説明力が最も高いのが米国のガソリンであり、次いで大豆価格、期待インフレ率という順番になった。ガソリン価格の説明力が高いのは、エタノールがガソリンのオクタン価を上昇させるための添加材として用いられており、エタノール価格はガソリンの需要動向に左右されやすい。

そしてそのエタノールのほとんどがトウモロコシから製造されているため、ガソリンとトウモロコシの価格の相関は高くなる。

ガソリン価格はウクライナ危機が発生してから原油価格が上昇したため、それに連れる形で上昇した。また、コロナの影響を緩和するための金融緩和や財政出動、ワクチン接種の進捗が経済活動を活性化させたことも価格上昇に拍車を掛けた。

しかしこの価格上昇によって消費者のガソリンの買控えが発生したこと、景気過熱沈静化を目的にFRBが利上げペースを加速させたことを背景とする景気への懸念が原油価格を押し下げたことがガソリン価格も低下させ、ひいてはトウモロコシ価格の下落に繋がっている。

大豆はトウモロコシとは用途が異なるが、同じ生産地で生産されること、家畜の飼料に用いられること、近年ではバイオ燃料向けにも利用されることから値動きが類似することはある意味自然である。

期待インフレ率が高いのはガソリン価格と連動しやすくなっていることも影響しているとみられる。

8月26日のジャクソンホールシンポジウムでFRBパウエル議長は金融引締めの方針を再度強調した。この講演の通りであれば、インフレが沈静化するまで金融引締めが続くことになる。

そしてインフレを沈静化させるためにエネルギー需要を沈静化させる方針であるため恐らく原油・ガソリン価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。また、価格に対する説明力が高い期待インフレ率もFRBの金融引締めによって低下することが期待される。

しかし、大幅に下落したトウモロコシ価格は8月頃から上昇を始め、気がつけば限月交代で発生した「窓」を完全に埋めて上昇した。

上述のガソリン需要や金融政策動向以前に、トウモロコシの需給そのものがタイトなためだ。

8月12日に発表された米農務省の需給報告では、世界の生産見通しが11億7,961万トンと前月の11億8,590万トンから下方修正され、前年比でも▲1,922万トンの減少が見込まれている。

一方需要は前年比+120万トンの11億7,893万トンが見込まれており、需給バランスは68万トンの供給過剰と、前年の4,082万トンから大幅にタイト化の見込みである。

価格に対する説明力が高い需給率も81.6%と前年比横這いであるが、この10年では3番目に高い水準であり、需給環境はタイトといえる。

また、先日行われたプロファーマによる米国のクロップツアーでは、4日目にミネソタの単収見通しが190.4ブッシェル/エーカーだったことを除けば、昨年よりも悪化する州がほとんどであり、とても今年豊作を望むのは難しそうだ。

現在も渇水や気温上昇の影響が懸念されており、さらには冬場までラニーニャ現象が継続する見通しであり、各地の生産に悪影響が及ぶ可能性は高い。

トウモロコシ価格に影響を与える「周辺材料」は弱気であるが、需給ファンダメンタルズ面が価格を支え、結局トウモロコシ価格は高値水準を維持すると予想される。


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