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修正されたFF金利想定シナリオ
  • MRA外国為替レポート

2022年9月5日号

◆先週の市場総括


先週はドル円相場が137円台から早々に139円台へ、週後半には140円台に上昇した。先週末のFRBパウエル議長のタカ派発言からドル高の流れが継続。良好な経済指標の発表が続くなか、NY連銀総裁やクリーブランド連銀総裁らからさらにタカ派発言が相次ぎ、米長期金利が一段と上昇。ドルを押し上げた。

欧州でも強いインフレ指標を受け9月のECB会合での大幅利上げを織り込み。ユーロ円相場も137円台から140円台へ。

週末の雇用統計は予想通りの数字。賃金上昇に一服感もみられ過度な金利先高感が後退。ドル高円安は一服し引けは140円20銭。

欧州では週末に天然ガス供給不安が強まりユーロが反落。ユーロドル相場は結局週を通じて1.00を挟んで上下し引けは0.9950。

ユーロ円相場は139円台半ば。米国株は軟調継続。金利上昇や景気悪化懸念が重石。日経平均も上値重く27,600円台で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅安。前週末に米国株が急落したことを受けて朝方から大きく下げた。

FRBによる強力な金融引き締めが続き景気後退に陥るとの懸念があらためて強まり全面安。引けは前週末比▲762円安の27,878円。

為替市場では前週末の流れのままにドルが堅調。かつ円安が進んだ。ドル円相場は137円60銭で始まり午後には139円ちょうどへ。

ユーロドル相場は0.9980で始まり0.9910台へ下落。その後、夕刻から欧州市場にかけてはドルが反落。

ドル円相場は138円30銭台に下落し30銭~70銭で上下。

ユーロドル相場は1.0020まで上昇した。EUが電力市場への緊急介入を準備していると報じられたことがユーロ買いを促した。ユーロ円相場は137円40銭で始まり一本調子で上昇した。

米国市場では139円ちょうど目前まで上昇。米国市場ではドルが底固く、ユーロ高は一服。ドル円相場は138円70銭~80銭で上下。ユーロドル相場は1.00ちょうどを挟んでもみ合い。

ユーロ円相場は138円70銭台。米国株は続落。なおもFRBによる引き締め、景気後退懸念が下押し要因。

米長期金利は続伸して10年債は3.111%、2年債は3.431%へ上昇した。

NYダウは前週末比▲184ドル安の32,098ドル、ナスダックは▲124ドル安の12,017ドル。VIX指数は25ポイント台に上昇したが、この日はさらに上昇して26.21。

火曜日の東京市場では日経平均が反発。前日の大幅安のあと、自律反発狙いの買いが幅広い銘柄に入った。改良ワクチン接種開始が9月に前倒しとなったこと、国内経済のリオープン期待も支えとなった。引けは前日比+316円高の28,195円。

ドル円相場は138円70銭で始まり上値重く、40銭~60銭で上下。夕刻から欧州市場にかけては、さらに138円20銭~10銭割れに下落した。

ユーロドル相場は底固い値動き。1.00ちょうど近辺で始まり0.9980~1.00ちょうどで推移したあと夕刻は1.0050に上昇。

ユーロ円相場は138円70銭で始まり30銭~60銭で上下。その後夕刻から欧州市場では139円ちょうど近辺に反発した。

米国市場ではドルが堅調。消費者信頼感指数(8月)が前月95.7から103.2へ大きく改善。JOLT求人件数(7月)が前月10,698千件から11,239千件へ大きく増加。

NY連銀総裁が、来年末まで引き締め的な金融政策が続く、実質金利がプラスになる必要がある、利下げに転じるまで時間がかかる、と述べ、あらためてタカ派スタンスが意識された。

米10年債利回りは一時3.15%へ、2年債は3.49%へ上昇。引けはそれぞれ、3.109%、3.453%。ドル円相場は一時139円ちょうどまで上昇し引けは138円70銭。ユーロドル相場は0.9980台に下落して引けは1.0020。ユーロ円相場は139円ちょうど近辺で引けた。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。引き続き米金融引き締め・景気後退懸念に押された。中国の製造業PMIが前月からやや改善したものの前月に続き50割れとなったことで中国景気への警戒感も重石。下げ幅は一時▲280円に。

ただ岸田首相が会見で外国人観光客の受け入れ緩和を表明したことでリオープン関連銘柄が買われた。引けは下げ幅を縮めて▲104円安の28,091円。

発表された中国のPMI製造業指数(8月)は前月49.0から49.4に小幅改善したが景況感の分かれ目である50を下回った。為替市場ではアジア時間には円安がやや一服。ドル円相場は138円80銭で始まり夕刻には30銭に下落。

ユーロ円相場は139円ちょうどから138円40銭に下落した。ユーロドル相場は1.0020で始まり1.0040台にやや堅調。

欧州市場に入るとドルが堅調。ドル円相場は138円90銭へ反発。ユーロドル相場は0.9970~90でのもみ合いに。ユーロ円相場は138円90銭に序章したあと、は反落して30銭~60銭。

欧州株は下落。発表されたユーロ圏CPI(8月)が前年同月比+9.1%と前月+8.9%から上昇が加速。9月8日のECB理事会で0.75%の大幅利上げが実施されるとの見方が強まった。

米国市場でユーロドル相場は1.0080へ上昇し引けは1.0050。ユーロ円相場は139円60銭に上昇し引けは139円30銭。ドル円相場は138円50銭~80銭で上下し引けは138円70銭。

米国株は欧米の金融引き締め懸念で続落。クリーブランド連銀総裁は、来年の早い時期までに政策金利を4%超に引き上げる必要がある、来年の利下げ転換はない、と述べた。

米10年債利回りは3.194%へ、2年債は3.497%へ上昇。

NYダウは前日比▲280ドル安の31,510ドル、ナスダックは▲66ドル安の11,816ドル。

原油価格WTI先物は89.55ドルに下落。ADP雇用報告(8月)は雇用者数前月比が+132千人に鈍化。シカゴ購買部協会景気指数(8月)は前月とほぼ変わらずの52.2。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。欧米の高インフレ、利上げ、景気悪化懸念でリスク回避が強まった。一時▲500円安まで下落。午後にはアジア株が軟調となり下げ幅が拡大した。引けは前日比▲430円安の27,661円。

為替市場では朝方から大きくドル高・円安が進んだ。ドル円相場は138円70銭から139円60銭へ上昇し40銭~60銭で上下。

ユーロ円相場も139円30銭から80銭へ上昇し140円手前でもみ合い。その後夕刻には一旦円が買い戻され、ドル円相場は139円20銭、ユーロ円相場は139円50銭に押した。

欧州から米国市場にかけてはユーロ安・ドル高が顕著に。ユーロドル相場はアジア時間に1.0050で始まり1.0010~20に押したあと1.0050に戻していたが、米国市場朝方には0.9910まで下落。その後は戻したが引けは0.9950。

ドルは堅調でドル円相場は140円台に乗せ、引けは140円20銭近辺。ユーロ円相場は139円90銭から139円ちょうどに下落。ユーロ安の勢いが勝った。引けは139円40銭近辺に戻した。

ドルインデックスは一時110ポイントの大台寸前まで上昇。引けは109.55で直近高値を更新。

米国では発表された経済指標が強めとなったことで大幅利上げや利下げ先送りを織り込み米長期金利が上昇。10年債は3.259%へ、2年債は3.517%へ。

ISM製造業景気指数(8月)は前月52.8と変わらず52.8で予想52.0を上回った。内訳も雇用が49.1から54.2へ、新規受注が48.0から51.3へ改善し良好と受け止められた。

週次の失業保険新規申請件数も前週243千件から232千件へ減少。

NYダウは+145ドル高の31,656ドル。ナスダックはハイテク株が金利上昇に押されて▲31ドル安の11,785ドル。米国政府が中国・ロシアへの先端半導体輸出販売の規制に乗り出したことが嫌気された。

金曜日の東京市場では日経平均は小動き。前日までの大幅安のあと寄付きは自律反発狙いの買いに支えられたが+100高程度と伸び悩み。雇用統計への警戒感、米金利上昇でハイテク株、グロース株は上値重く、引けは▲10円安の27,650円。

為替市場ではドル高が一服しユーロが堅調。ユーロドル相場は0.9950から夕刻には1.00ちょうど目前まで上昇。さらに米国市場朝方には1.0030へ上昇した。

ユーロ円相場は139円40銭で始まり夕刻には140円台へ。さらに米国市場にかけては140円80銭までユーロ高円安が進んだ。

ドル円相場は140円20銭で始まり午前中に140円を一時割ったが、その後は140円40銭に上昇するなど堅調で20銭~40銭で推移。さらに米国市場で米雇用統計発表直後には140円80銭まで上昇した。

注目の米雇用統計(8月)は非農業部門雇用者数・前月比が+315千人と前月+528千人から増加が減速しほぼ予想通り。失業率は3.5%から3.7%に上昇。労働参加率が62.1%から62.4%に上昇したことが影響したとみられる。

平均時給の上昇率は前年同月比+5.2%と前月+5.2%と変わらず、前月比は+0.5%から+0.3%に減速した。

この数字を受けて大幅な利上げ継続観測がやや後退。米10年債利回りは3.195%に、2年債は3.396%に低下。ドル円相場は一時139円90銭台に下落した。ただその後は底固く引けは140円20銭近辺。

ユーロは反落。ロシアが天然ガスパイプライン・ノルドストリームの稼働停止を延長するとしたことで欧州のエネルギー供給不安が高まった。

ユーロドル相場は0.9950へ下落して引け。ユーロ円相場も139円50銭に下落し引けは60銭。ドルインデックスは109.60ポイント近辺で高止まり。米国株は朝方こそ上昇したが、その後は反落してNYダウは前日比▲337ドル安の31,318ドル。ナスダックは▲154ドル安の11,630ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.ECB理事会、ラガルド総裁会見

8日木曜日にECB理事会が開催され、ラガルド総裁が会見を行う。欧州ではインフレがなお高止まり、むしろなお上昇率が高まっており、ECBメンバーからはタカ派発言が相次いでいる。

市場は今回の会合で0.75%の大幅利上げを織り込んでいる。

一方、エネルギー供給不安から景気悪化懸念がさらに強まっており、高インフレと景気後退が併存するスタグフレーションのリスクが大。この状況を踏まえ今後の利上げスタンスは見方が分かれる。

会合やラガルド総裁の会見から何らかのヒントが得られるか。ユーロとドルの力関係、あるいは欧州発リスク回避でユーロ安円高が進むか。

2.地区連銀経済報告(ベージュブック)、米国の経済指標

水曜日にベージュブックが公表される。20日・21日に開催されるFOMCの議論におけるファンダメンタルズの見方のベースとなる。

金利上昇の悪影響はさらに景気に影を落としているか。資源価格調整がプラスとなっているか。インフレ鎮静化の兆しはみえるか。

今会合で0.75%か0.50%かいずれの利上げ幅となるか、ヒントとなるか。

ほか、火曜日にはISM非製造業景気指数(8月、予想55.2、前月56.7)、サービス業PMI(8月改定値)が発表され景気悪化があらためて意識されるか。

3.パウエル議長発言

木曜日にパウエル議長の発言機会がある。8月26日のジャクソンホールシンポジウムでは想定よりもタカ派寄りの発言で市場の利下げ期待を挫き、金利先高感を強めた。

その後も他のFRBメンバーからタカ派発言が相次ぎ、市場では利上げのピーク水準の想定が引き上げられ、あるいは来年早々には利下げが見込めないとのイメージを醸成した。

今回の発言でハト派寄りへの微調整はあるか。あるいは現状肯定、ないしタカ派的な発言で市場の金利先高感を煽るかたちとなるか。

このほか、水曜日に中国で貿易統計(8月)、木曜日には日本で国際収支(7月)、などが発表される。

◆今週のMRA's Eye


修正されたFF金利想定シナリオ

先週末にかけて1~2週間ほどの間に市場の米政策金利見通しは大きく修正された。

足元で雇用情勢がなお堅調に推移。企業の景況感の悪化がそれほど急激とはならず。これらが市場の景気後退見通しを抑止。傍らで、景気悪化・需要減退見通しから資源価格が調整、インフレ指数には実勢および期待値双方で上昇率が鈍化する兆しがみえた。

市場には金融引き締めが早々に緩み、急激な景気悪化に陥らない、との楽観的な見方が強まっていた。

しかし金融引き締め緩和期待はFRB当局者によって否定された。足元でインフレが鎮静化しても、目標値である2%に近づく確証がない限り利上げを継続。景気悪化を厭わずに、景気を犠牲にしても、金融引き締めを継続するという。

利上げの着地点は4%との発言や、実質金利をプラスにする必要がある、すなわちインフレ率を上回る水準まで利上げが必要との意見もみられた。

また来年の利下げを期待するのは間違いだ、と一部の当局者は述べている。これによって、市場が思い描いていた政策金利の道筋、来年早々の利上げ打ち止め、年央からの利下げ、との見方は見直しを余儀なくされた。

今月下旬のFOMCにおける利上げ幅は、0.50%との期待があったものの、現時点では0.75%が優勢となった。現時点でFF金利誘導水準は2.25%~2.50%。ほぼかつて中立水準といわれたレベルとなった。

ここからの利上げは本格的な引き締めとなる。0.75%の利上げとなるとFF金利は3%に乗せる。インフレ率はなお高く、個人消費支出のデフレーターでもコア指数は4%台後半。金利からインフレ率を差し引いた実質金利はマイナスのまま。

ミシガン大学消費者信頼感調査における長期の期待インフレ率が3%をやや切っており、これとの比較でようやく実質金利はプラスとなる。

この先は、インフレ鎮静化のペースと景気悪化のペース、いずれが勝るかが注目点。

足元では資源価格・原油価格の調整が企業や消費者のマインドにプラスとなっている。

しかし住宅関連など金利敏感セクターには利上げの悪影響がさらに強まりそうだ。資源価格の調整一巡後は再び景況感が悪化する可能性がある。賃金上昇が鈍化する気配もあるが、家賃の上昇による消費者物価押し上げはなお続きそうだ。

利上げが続くなか、現時点では景気悪化ペースがインフレ鎮静化のペースに勝るリスクが高い。リスクシナリオとしてみていた、インフレ鎮静化がなかなかみられず利上げがさらに強まり、結果として後々景気が急激に悪化するリスクが以前より強まった可能性がある。

金融政策見通しの変化に応じて、米長期金利は2年債、10年債、ともに上昇。2年債金利が10年債金利を上回る逆イールドのまま、すなわち景気後退リスクを示したまま、水準が切り上がった。

金利見通しの修正はとりあえずドルを押し上げた。

ドルインデックスは110ポイントの大台に迫った。ドル円相場は140円台に乗せている。足元で利上げ見通しの修正を織り込んでドルが上昇した。

ただ、逆に言えば、さらなる利上げ見通しの上振れによる一段のドル高のリスクは小さくなった。10年債利回りが3.5%に向けて一段と上昇するのは難しいとみられる。

一方、上昇する2年債利回りの着地点はFF金利利上げの着地点とその後利下げに転ずる時期に応じて変化。すでに3.5%に到達しているが、こちらも一段の上昇余地は小さくなってきた。

一方、利下げに転ずるタイミングが後ずれするとなれば、ドル安に転じた場合の下値は、従来の見通しよりも固くなるとみるのが妥当。130円を割るドル安円高は後ずれし、ドル安円高に転じても緩慢という見方となる。

メインシナリオは、高値波乱の後、来年初にかけて130円~135円に軟化。ただし125円割れは見通せず、との見方。

リスクシナリオは急激な景気悪化、インフレ鎮静化、による急速な利下げ見通し。今のところその可能性は小さいが、その場合は120円台前半が視野に入る。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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