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米国の良好な統計が価格を下押し 全面安
  • MRA商品市場レポート

2022年9月2日 第2274号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米国の良好な統計が価格を下押し 全面安」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、発電燃料価格が上昇したがその他のほとんどの商品が下落した。

米ISM製造業指数が良好な内容となり、米国の景気が利上げや金融引締めにもかかわらず堅調差を維持していることが確認されたため、これからFRBは利上げや金融引締めをさらに強める、との見方が強まったことが背景。

また中国四川省で再びロックダウンが始まり、中国の経済活動が強制停止する可能性が高まったことも工業金属価格を下押しした。

弊社は2023年に景気が後退局面入りし、来年の後半から持ち直す展開をメインシナリオとしているものの、「米金融引締めにもかかわらず景気の過熱が沈静化せず、さらなる強力な金融引締めを行い、新興国不安を通じてグローバル・リセッション入りする」展開を比較的可能性の高くないシナリオとしている。

しかし、このシナリオが顕在化する可能性が高まってきており、今後も特にフォワードルッキングな指標には注目する必要がある。

【本日の見通し】

本日は、米国の良好な統計を背景とした金融引締め強化観測受けて多くのリスク資産価格に下押し圧力が掛る展開が予想される。

ただ、ここまでの調整がかなり大きいため、取りあえずは安値拾いの買い(主に実需家)が入り、朝方は上昇するものが多いとみている。

本日は米国で雇用統計が発表される。

昨日のISM製造業指数がフォワードルッキングな指標であるのに対して、雇用関連統計は、過去に行った金融政策の「通信簿」的な統計となる。

市場予想はそれほど米景気が減速していないことを示す内容であり、これまでの政策が不充分であったことを確認することになりそうだ。結果、金融引締めペースの加速観測は強まり、「良い統計が商品価格を押し下げる」展開が予想される。

8月雇用統計 非農業部門雇用者数 市場予想 前月比+29.8万人(前月+52.8万人)失業率 3.5%(3.5%)労働参加率 62.2%(62.1%)平均時給 前月比+0.4%(+0.5%)、前年比+5.3%(+5.2%)

【昨日のトピックス】

昨日発表されたQ222の法人企業統計は経常利益が前年比+17.6%の28兆3,181億円となり、利益金額は過去最高となった。原材料価格の上昇は経済活動の重石となっているが、経済活動の再開の恩恵を受けた形。

しかし、本業のもうけを示す営業利益も前年比+13.1%の17兆6,716億円と回復しているものの、個別業種で見て見ると、製造業では輸送機械(前年比▲57.1%)、生産用機械(▲36.7)、金属製品(▲20.6%)と減益のところも目立つ。

資源価格の高騰が影響していると見られる。通常製造業の場合、「過去の価格」を参照して購買価格が決ることが多い。さらに日本の場合最終消費が堅調ではないため(というよりも価格転嫁が難しい市場)、その分営業利益が圧迫されたようだ。

この状況を改善するため、多くの製造業がサーチャージ制を導入し、購買価格の上昇分を最終価格に転嫁するルール作りを急いでいるようだが、1.価格指標が不明確な場合が多い、2.市場性のない商品(例えば新聞紙面に掲載されている建値を使用する、など)を指標として用いている、3.価格変更にオプション制が内包されている、といったケースが多く、この状態だとリスクマネジメントが難しくなる。

このあたりのルールは明瞭である方が、売り手・買い手共にメリットがある。恐らく足下の価格下落でサーチャージ制導入の流れは一服していると考えられるが、逆に市場が落着いている時こそ、売り手・買い手共にバイアスを掛けずにルールやフォーミュラを決定することができるため、相場が比較的「凪」の状態になる時期に対応を急ぐべきだろう。

恐らく今後、中国のロックダウン解除後の経済活動再開や景気刺激策の影響で日本の景気はやや回復すると見られるが、同時に時間差で調達コストが上昇するためプラスの影響は相殺されるだろう。

なお、世界景気は年明け以降に減速が予想されるため、年明け以降の業績下振れリスクは小さく無いとみている。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。米ISM製造業指数は米国経済が堅調であることを確認する内容であり、米金融引締め強化観測が強まったことが下げを助長した。

なお、OPEC10の8月原油生産は、前月比+69万バレルの2,958万バレルとなったが、64万8,000バレルの増産目標に対してOPEC10の増産は41万3,000バレルに止まり、生産目標を▲140万バレル下回っており、「実質減産」の状態ながらも価格が下落している状況。

OPECメンバーは「投機の動きによるもの」と口先介入しているが、中東が増産をしてくれない中で米国が金融政策を用いて需要を減少させようとしていることを先取りする動きであり、何ら誹議されるものではない。

ファイナンシャルな要因が需給ファンダメンタルズを上回る状態は、通常、景気の転換点に訪れることが多いため、やはり最大消費国である米国の景気は減速局面入りを意識し始めたといえる。

需要が減速を始めた場合、大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、1.景気が回復基調にあったこと、2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと、が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が増産に踏み切る、という展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は81.45ドル(前日比▲5.82ドル)と低下、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.92ドル。

DOEの見通しを元にすると、在庫水準の正常化が期待できるのが今年の9月~10月、そのタイミングでFRBが75bpの利上げを行うこと、QTも継続することから10月以降に水準を切下げる動きになると予想されるが、まだ明確に景気が減速している訳ではないため、10月頃までは供給不安が価格を押し上げやすい。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、この数日の下落幅が大きいため一旦買い戻しが入るが、恐らく今晩の雇用統計がどちらに転んでも金融引締めの強化方針に変わりはないため、最終的には下落に転じると考える。

Brentベースでオプションが溜まっている90ドルが攻防ラインとなるだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。欧州のガスタンクが満たされつつ有ることや、EUのガス・電力価格規制報道で下落していたが、ロシアからのガスフロー減少による需給のタイト化と、割安感からの買いが入った形。

なお、ICEが発表しているCOTレポートでは市場参加者の大半が実需筋であり、規模的に投機のシェアは10分の1に満たない。

また、投機筋は価格急騰時にむしろ売りポジションを拡大させているため、これまでの高騰・下落はどちらかと言えば実需家の売買動向に因るものと考えられる。

そのように整理すると、この数日の急落は

1.ある程度現物が確保できているサプライヤー側が、EUの何らかの取引規制を意識して売り価格のヘッジを入れた

2.現物供給の途絶、ないしは工場の稼働停止などで現物が不要になり、同時に上昇リスクヘッジも不要になった消費者のヘッジ解除の売りが入った

3.1.2.両要因

のいずれかになる。取引所価格に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、こう言う判断になったと考えられる。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計だろう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

これまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。ロシア軍事侵攻に対する制裁やパイプライン停止で、欧州天然ガス価格は345ユーロまで急騰した。

この水準を上抜けするにはさらなるパニックが必要と見られ、当面は345ユーロが上限として意識されることになるだろう。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。

これまで、ロシア政府のエネルギー価格見通しは大きく外れてきたことがないため、現在、タンクが一杯になりつつあって調達圧力が弱まっている(というよりは積み増すスペースがなくなる)ことで下落しているガス価格が、ピークシーズン中に上振れする可能性があることを示している。

さらに懸念すべきは、戦闘状態が長期化した場合、この欧州の発電燃料の恒久的な不足は数年にわたると予想される点だ。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小幅に上昇。米天然ガス在庫は市場予想を上回る在庫の増加となったが、それも在庫水準が低い状態が続いており高値を維持している。

なお、米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、11月からFreeport社のLNG輸出が再開されるため、増産の影響は限定されよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。ロシアのガスフロー減少を受けた欧州ガス価格の上昇と、冬場に向けた調達が始まったためと考えられる。

今後は、欧州で需要期が始まれば在庫は減少を始めるため、スポット調達を増やさなければならなくなる。

ロシアの供給は減少しており、この状態が続けば高値を維持すると予想され、再開されれば水準を大きく切下げる展開が予想される。

また、信頼できる供給者である豪州が、域内供給を優先するため冬場の供給が制限される可能性が出てきた。この場合。冬場に向けた日本の調達をそろそろ始めなければならず、需要期の価格には上昇圧力が掛かりやすい。

ただし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は新会社への移行が進むが、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、が懸念される。

8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

本日は、ロシアのガス供給停止に伴うスポット市場の需給逼迫から、引き続き高値を維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇した。冬場の発電燃料確保の動きが価格を高値に維持している。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、結果的に欧州の燃料価格規制が導入されたとしても影響は限定されているようだ。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはないが、ガス価格が再び上昇しているため、上昇余地を探る動きになると予想される。

今のところ海上輸送炭市場から遠ざかっているため影響は限定されるが、中国で再びロックダウンが始まったことが上昇を抑制しよう。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。中国四川省で再びロックダウンが始まる見通しとなったことで、経済活動鈍化観測が強まったことが材料となった。

これまで中国政府の経済対策期待で買いが入ってきたが、ロックダウンは劇的に経済活動を停滞させるため、非鉄金属を始めとする工業金属価格の下落要因となる。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。

本日は、昨日の下落の大きさから一旦買い戻しが入るが、米金融引締めと中国のロックダウンという実需・ファイナンシャル両面の売り材料があるため、やはり下落すると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は限月交代の影響で上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

中国の経済対策期待と在庫水準の低さから鉄鋼製品価格が上昇したが、中国四川省が豪雨の影響で物流に支障が出ていること、再びロックダウンが決定され、経済活動が停止することが確定したことが鉄鋼原料価格の下押し要因となった。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

8月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は46.1(前月33.0)と2ヵ月振りに急回復、中国政府の経済対策強化や、ロックダウンからの回復とペントアップ需要が顕在化したとみられる。

しかし統計としては輸出向け新規受注が人民元安で回復(39.4→51.6)したことを除けば閾値の50を下回る厳しい状態に変わりはない。

新規受注は43.1(25.9)と急回復、輸出受注も51.6(39.41)と急回復した。在庫は完成品(33.0→31.9)、原材料(28.2→40.4)と強弱まちまち。今後、完成品在庫の積増しによって完成品在庫は増加、原材料在庫には減少圧力が掛るだろう。

価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは完成品が1.35(0.78)、原材料が1.07(0.92)といずれも閾値の1を回復している。恐らく年内までの政策であるが、公共投資の影響でしばらくは需要が旺盛であり、鉄鋼製品・鉄鋼原料在庫の需給が数字上タイト化しているため、しばらくは製品・原料とも価格に上昇圧力が掛る展開が想定される。

住宅セクターの指標である建設業PMIは56.5(59.2)と先月から減速。中国政府は住宅バブルを中国政府は望んでいないため、価格の戻りも限定されるのではないか。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、中国の経済活動の回復が天災の影響で緩慢であることから鉄鋼製品価格に下押し圧力が掛かりやすくなり、総じて水準を切下げる展開。ただし公共投資は年後半に向けて顕在化するため、在庫積増し需要も旺盛とみられ、水準はそこまで大きく低下しないとみる。

◆貴金属

昨日の金価格は続落。米ISM製造業指数が米国経済が堅調であることを示唆する内容となり、米金融引締め強化観測が強まったことが実質金利を押し上げたため。

銀価格も金価格の下落を受けて下落、PGMは株価の上昇はあったが、価格に対する説明力が高いSOX指数(半導体株指数)が金利上昇を背景に下落したことで水準を大きく切下げた。

金の基準価格は前日比▲30ドルの1,067ドル、リスク・プレミアムは+17ドルの629ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

ただし、クレジットリスクの高まりがリスク・プレミアムを高止まりさせるため、しばらく金価格は実質金利以上に高止まりすると考えられる。

リスク・プレミアムの低下は、クレジットリスクヘの懸念が後退する必要があるが、それは恐らく利上げが打ち止めとなる来年4月以降でありそれまでは金価格は高止まりしよう。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。その点では現在の価格は売られすぎともいえ、金銀レシオはコロナ・ショック時に急騰した127倍を「エラー値」として処理すれば過去最高水準に迫りつつある状況。

金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲370ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。

この場合、銀の下値は14ドル程度となる。「何かあった場合」の下値は切り下がった。

本日は雇用統計の発表が予定されているが、どのような内容になってもタカ派スタンスに変化はないことから、軟調地合を継続すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。米ISM製造業指数の改善を受けた米金融引締め観測を背景とする景気減速懸念がエネルギー価格を押し下げ、トウモロコシが下落、大豆、小麦もそれに連れる形となった。

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日はこの数日の下落が大きいことから一旦買い戻しが入る展開を予想。

ただし、需給ファンダメンタルズのタイトさと、米金融引締め加速・長期化観測の綱引きとなるが、ここまでの統計は米国の経済が堅調であることを示しており、金融要因の方がより強く作用するため、最終的には下落に転じるか。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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