FOMCメンバーのタカ派発言を受けて下落
- MRA商品市場レポート
2022年9月1日 第2273号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「FOMCメンバーのタカ派発言を受けて下落」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はその他農産品などを除けば軒並み下落した。クリーブランド連銀メスター総裁が「来年早々に政策金利を4%に引き上げる」といった見通しを示したことで、さらに金融引締め・高政策金利長期化、ヘの懸念が強まったことがリスク資産価格の下落要因となった。
足下、需給ファンダメンタルズというよりは金融政策面が強く意識されている状況。これをもって投機的な動きが価格を押し下げている、と整理できなくもないが金融引締めは時間差を以て需要に影響が出るため、このタイミングで生産者が下落リスクヘッジを入れてきてもおかしくはない。
【本日の見通し】
本日は、米国のタカ派な金融政策がさらに加速する可能性が出てきたため、ファイナンシャルな要因が価格を押し下げるため軟調な推移を予想。ただし大きく水準を切下げた商品も多く、実需の安値拾いの買いも予想されるため、下落余地を限定か。
本日発表予定の統計では、米ISM製造業指数に注目している。市場予想は前月から悪化、新規受注も低調になると予想されている。足下、「弱い統計は(金融緩和期待が後退したため)弱い統計と判断され」「強い統計は金融引締め強化観測が強まる」ため、重要統計の場合、どちらに転んでも下落しやすい。
大幅な減速が確認されれば利上げの早期打ち止め感を強めるため価格の上昇要因となるが、それはまだ先になろう。
8月米ISM製造業景況指数 市場予想 51.9(前月52.8)支払い価格指数 55.3(60.0)新規受注 48.0(48.0)雇用 49.5(49.9)
【昨日のトピックス】
8月の中国製造業PMIは49.4(前月49.0)と市場予想の49.2と前月の水準を上回り、やや回復感が意識された。しかし閾値の50を下回っており製造業の活動鈍化は継続していると見られる。
ゼロコロナからの回復やそれに伴うペントアップ需要が期待されたが、電力不足やコロナからの回復の遅れが影響したと考えられる。
調査対象業種の21業種のうち、12業種のPMIが改善しており製造業の活動は概ね回復基調にあるといえる。
内訳を見ると、需要の指標である新規受注が48.5→49.2と回復、輸出向け新規受注も47.4→48.1と回復した。新規受注の数値が輸出向け新規受注よりも高いことから、国内向けの需要が回復していると考えられる。ただしいずれも閾値の50を割り込んでおり、需要が旺盛というわけではない。
国際価格の下落を受けて投入価格は下落、国内需要の回復の遅れから販売価格も各々44.3(前月40.4)、40.1(40.1)と低迷が続いていることはその証左といえるだろう。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは新規受注の回復と、在庫減少を受けて完成品が1.088(1.010)、原材料が1.025(1.013)と完成品・原材料とも上昇している。特に完成品の需給はタイトだ。恐らく電力供給制限がある中で生産が停滞したため、製品の在庫が取り崩されたためと考えられる。
規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が50.5(49.8)、中堅企業が(48.5→48.9)と回復、中小企業(47.9→47.6)は悪化した。やはり中小企業の置かれている状況は厳しい状態が続く。
9月は公共投資の実施や金融緩和の影響で回復が見込まれるが、これは景気を無視した政策による回復であり長期にわたるものにはならないと見られる。しかし需給はタイトなため、特に工業金属の価格には上昇圧力が掛るだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。クリーブランド連銀メスター総裁が非常にタカ派な発言をしたことで金融引締め加速・長期化観測が台頭、景気循環系商品に売り圧力が高まる中で原油も下落した。
昨日発表の米石油統計は、ディスティレート以外は市場予想を上回る在庫の減少となったがファイナンシャルな面がより強く意識された形。
ファイナンシャルな要因が需給ファンダメンタルズを上回る状態は、通常、景気の転換点に訪れることが多いため、やはり最大消費国である米国の景気は減速局面入りを意識し始めたといえるだろう。
現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は87.26ドル(前日比▲3.42ドル)と低下、Brentの実力ベースとの価格乖離は9.23ドル。
DOEの見通しを元にすると、在庫水準の正常化が期待できるのが今年の9月~10月、そのタイミングでFRBが75bpの利上げを行うこと、QTも継続することから10月以降に水準を切下げる動きになると予想されるが、まだ明確に景気が減速している訳ではないため、10月頃までは供給不安が価格を押し上げやすい。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。
この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、米景気の先行き懸念でこの数日大きく下落しているため、実需筋などの安値拾いのヘッジ買いなどで上昇すると考える。
ただし、ファイナンシャルな要因の影響が大きいため、上昇余地も限られるだろう。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は続落。欧州諸国のガス在庫の水準がキャパシティの8割に達しつつある中、ピークシーズン前の在庫の追加積増し需要の減速が価格を押し下げている。
なお、EUのフォンデアライエン委員長は、ガス価格と電力価格の分離と価格上昇を抑制するための取引制限に言及しており、これを意識した売りが入った可能性もある。
なお、ICEが発表しているCOTレポートでは市場参加者の大半が実需筋であり、規模的に投機のシェアは10分の1に満たない。そのことを考えると、1.ある程度現物が確保できているサプライヤー側が、EUの何らかの取引規制を意識して売り価格のヘッジを入れた、2.現物供給の途絶、ないしは工場の稼働停止などで現物が不要になり、同時に上昇リスクヘッジも不要になった消費者のヘッジ解除の売りが入った、3.1.2.両要因、のいずれかになる。
なお、取引所価格に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。
また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇で減少するはずの需要の減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。
EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取りにくい。
しかし、ロシアからの供給制限はこれから始まる予定であり、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計。
欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。
そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。
ここまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。ロシア軍事侵攻に対する制裁やパイプライン停止で、欧州天然ガス価格は345ユーロまで急騰した。
この水準を上抜けするにはさらなるパニックが必要と見られ、当面は345ユーロが上限として意識されることになるだろう。
なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。
これまで、ロシア政府のエネルギー価格見通しは大きく外れてきたことがないため、現在、タンクが一杯になりつつあって調達圧力が弱まっている(というよりは積み増すスペースがなくなる)ことで下落しているガス価格が、ピークシーズン中に上振れする可能性があることを示している。
さらに懸念すべきは、戦闘状態が長期化した場合、この欧州の発電燃料の恒久的な不足は数年にわたると予想される点。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。
また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。
最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。
3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。
現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。
欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に上昇。米国の気温上昇による冷房需要増加観測が価格を押し上げている。
なお、米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、そもそも在庫水準の低さもあって影響は限定されよう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は続落。欧州のタンクが一杯になりつつある中、スポット調達の需要が一時的に減少したことが背景。
しかし、欧州で需要期が始まれば在庫は減少を始めるため、再びスポット調達を増やさなければならなくなる。ロシアの供給状況次第であるが、ロシアからの供給が制限された状態が続けば高値を維持すると予想され、再開されれば水準を大きく切下げる展開が予想される。
また、信頼できる供給者である豪州が、域内供給を優先するため冬場の供給が制限される可能性が出てきた。この場合。冬場に向けた日本の調達をそろそろ始めなければならず、需要期の価格には上昇圧力が掛かりやすい。
ただし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した
ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。
構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。
中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。
中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。
サハリン2は新会社への移行が進むが、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、が懸念される。
8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。
しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。
8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。
スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。
ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。
本日は、欧州の在庫積増しの進捗で足下の調達圧力が弱まっていることから、TTF・JKMとも下押し圧力が強まる展開を予想。
ただし、根本的な「フローの供給制限」状態に変わりはないため、高値維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップは上昇した。冬場の発電燃料確保の動きが価格を高値に維持している。
ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、結果的に欧州の燃料価格規制が導入されたとしても影響は限定されているようだ。
石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。
ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。
7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。
7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。
中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。
現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。
期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはないが、ガス在庫積増しの進捗でガス価格が調整しているため、石炭価格も若干調整圧力が強まる展開を予想。
ただし、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあるため冬場のリスクはまだ上向き。
その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。中国の製造業PMI(詳しくは昨日のトピックスを参照)は景気対策期待で市場予想を上回ったが、米国の金融引締め加速と長期化の可能性が高まる中でドル高が進行したことが、非鉄金属価格の下落要因となった。
中国四川省の豪雨で洪水が発生、この降雨は10日間は続くとされており、工業活動・生産活動停滞への懸念が強まったことは非鉄金属価格の下押し要因に。
なお、洪水被害が懸念される四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水の影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.が洪水の影響長期化で再び黄色信号が点り、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。
ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。
この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。
ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。
中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。
しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。
本日は、米国の金融引締めが加速する見通しとなっていること、中国の経済活動が異常気象の影響で停止しているところがあることから、調整売りが続くと予想される。
しかし、下落局面では実需の安値拾いの買いも入るため、下値余地も限定されよう。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は続落した。
中国の鉄鋼業PMIが発表され大幅な改善となったが、中国四川省が豪雨の影響で物流に支障が出ており、再び工業活動・生産活動停滞への懸念が強まっていることが鉄鋼製品価格を押し下げ、鉄鋼原料価格の下押し要因となった。
なお、洪水被害が懸念される四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。
8月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は46.1(前月33.0)と2ヵ月振りに急回復、中国政府の経済対策強化や、ロックダウンからの回復とペントアップ需要が顕在化したとみられる。
しかし統計としては輸出向け新規受注が人民元安で回復(39.4→51.6)したことを除けば閾値の50を下回る厳しい状態に変わりはない。
新規受注は43.1(25.9)と急回復、輸出受注も51.6(39.41)と急回復した。在庫は完成品(33.0→31.9)、原材料(28.2→40.4)と強弱まちまち。今後、完成品在庫の積増しによって完成品在庫は増加、原材料在庫には減少圧力が掛るだろう。
価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは完成品が1.35(0.78)、原材料が1.07(0.92)といずれも閾値の1を回復している。恐らく年内までの政策であるが、公共投資の影響でしばらくは需要が旺盛であり、鉄鋼製品・鉄鋼原料在庫の需給が数字上タイト化しているため、しばらくは製品・原料とも価格に上昇圧力が掛る展開が想定される。
住宅セクターの指標である建設業PMIは56.5(59.2)と先月から減速。中国政府は住宅バブルを中国政府は望んでいないため、価格の戻りも限定されるのではないか。
今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。
中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(影響が全くないことはない)。
基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。
本日も、中国の経済活動の回復が天災の影響で緩慢であることから鉄鋼製品価格に下押し圧力が掛かりやすくなり、総じて水準を切下げる展開。ただし公共投資は年後半に向けて顕在化するため、在庫積増し需要も旺盛とみられ、水準はそこまで大きく低下しないとみる。
◆貴金属
昨日の金価格は続落した。クリーブランド連銀メスター総裁が、かなりタカ派な発言を行い、2023年の早いタイミングで政策金利を4%以上にする、と発言したことを受けて長期金利が上昇、実質金利が上昇したことが背景。
銀価格は金価格の下落を受けて大きく水準を切下げた。プラチナ・パラジウムも金価格の下落を受けて下落。
金の基準価格は前日比▲53ドルの1,097ドル、リスク・プレミアムは+40ドルの613ドル。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。
ただし、クレジットリスクの高まりがリスク・プレミアムを高止まりさせるため、しばらく金価格は実質金利以上に高止まりすると考えられる。
リスク・プレミアムの低下は、クレジットリスクヘの懸念が後退する必要があるが、それは恐らく利上げが打ち止めとなる来年4月以降でありそれまでは金価格は高止まりしよう。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、
1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)
2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。その点では現在の価格は売られすぎともいえる。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲370ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。
この場合、銀の下値は14ドル程度となる。「何かあった場合」の下値は切り下がった。
本日も、FOMCメンバーのタカ派発言を受けて軟調な推移になると考える。しかし、リスク・プレミアムは高止まりが予想されるため、貴金属価格も軟調ながらも結局現状水準でもみ合いになると見る。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格が続落したこと、チャートのレジスタンスラインに差し掛かったこと、ドル高などの材料を受けて水準を切下げた。大豆はトウモロコシに連れ安。
小麦は材料に乏しい中、50日移動平均線を挟む展開となっている。
秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。
本日も、需給ファンダメンタルズのタイトさと、米金融引締め加速・長期化観測が相殺されるため現状水準でのもみ合いと考えられるが、現状、金融政策の影響が強く出ているためやや軟調な推移か。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「一物二価の時代到来か-その2」
◆物価上昇率の落とし所は?
この状況で欧米の中央銀行はインフレを抑制するために金融引締めを行っている。ジャクソン・ホールシンポジウムでのパウエル議長発言でも、歴代FRB議長の名前まで挙げてインフレを沈静化するまで金融引締めを継続、高い水準に政策金利を維持する方針を示した。同時にQTも積極的に行う見通しである。
インフレ沈静化は中央銀行のみならず、政府が対応すべき重要な問題になっていることは明らかだ。エネルギーや食品価格の上昇によるリビング・コストの上昇は低所得者層の家計に影響し、場合によると暴動に繋がって国内の治安が不安定化する可能性があるからだ。
しかし、各国中央銀行が積極的に利上げを行ったとしても、本当に2%の物価上昇率に戻るかどうかは不透明である。
◆ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの
1989年にベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終結、東側諸国は西側の最新技術を導入し、安価な労働力で生産した製品が西側諸国に逆流入、1990年以降の物価上昇抑制に一役買っていた。
また、中国も方針を変更して改革開放に舵を切り、世界の工場として国際社会に組み込まれたため中国製の安価な製品がさらに西側諸国に流入し低インフレ、場合によってはデフレ定常化の一因となった。
しかし、世界は「米中対立」の構図から分裂の気配を強め、今回のロシアのウクライナ侵攻によって再び専制主義国陣営と自由主義国陣営に緩やかに分裂する可能性が高いと見ている。
両陣営が何の障害もなく商品を手に入れることが困難になると、多くの商品の調達コストが上昇することが予想され、この問題は既に顕在化している。
例えば原油だが、自由主義国家陣営はロシアに対して制裁を行っているため、ロシア産原油以外の原油市場の需給が逼迫、指標となるブレント原油やWTI原油はロシアの代表油種であるウラル原油よりも20ドルも高い水準になっている(本稿執筆時点)。
原油の細かい性状はもちろん同じではないが、原油という商品が自由主義国家陣営と専制主義国家陣営で異なる価格で取引されているのだ。
かつての東西冷戦の時代ほど厳密に禁輸が守られている訳ではないため、この価格差は徐々に縮小すると予想されるが、既に「一物二価」の流れができはじめているともいえる。
このような状況を勘案すると、物価上昇率は2%というよりは、むしろ1989年以前の消費者物価ベースで2%~5%の時代に戻る可能性のほうが高いかもしれない。この場合、モノの価格が毎年4%ずつ上昇していく可能性があることを示唆している。
恐らく中央銀行は再びインフレファイターにならざるを得ないだろう。商品価格が年4%のペースで上昇するかどうかは需給環境に拠るためなんともいえないが、高止まりする可能性は高いのではないか。
◆日本への影響
日本ヘの影響はどうだろうか。日本は資源がないため、海外からの輸入品を加工して販売している。仮に東西陣営に分裂が起きた場合、製造に必要な資源や部品の調達に苦慮するだろうことは想像に難くない。
絶対に調達に問題がない場所を選択しようとした場合、米国や豪州、カナダといった米国陣営の国からの調達比率を引き上げる必要があるが、恐らく新興国から購入するよりも高い価格になってしまうだろう。
中南米や東南アジア、アフリカなどの中立的なポジションを確保している資源国との資源確保を目的とした関係強化も重要な課題となる。
日本が現在のポジションを維持するためには技術開発のみならず外交面も重要な鍵を握ることになるだろう。
また、資源価格の上昇が続く場合、企業にとっては調達コストの上昇が続くことを意味する。その価格上昇分を最終価格に転嫁できれば良いが、欧米も直面しているように販売価格への転嫁は容易ではない。
これまでは使用数量の削減や共同購買で値下げを要求するケースが多かったが、それも限界があるため価格の変動リスクの制御体制の構築も今後、重要な課題になると予想される。
その場合、価格リスク制御の対応をしている企業としていない起業では業績に差が出てくることになるだろう。
恐らく2023年はこれまで見てきたように商品価格が下落して消費者にとって「一息付ける」年になると予想される。しかしその後の価格上昇リスクが無視できない状況であることを考えると、2023年は将来のリスクに備える重要な時期であり、価格乱高下への対応ができている企業とそうでない企業の優劣がはっきりする可能性があると考えられる。
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