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原油上昇・発電燃料下落
  • MRA商品市場レポート

2022年8月30日 第2271号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「原油上昇・発電燃料下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はジャクソン・ホールシンポジウムでのパウエル議長発言を受けて株価が下落したものの、これまで調整してきた原油が上昇、発電燃料価格が下落した。

原油はOPECプラスが減産を検討していると伝えられる中、リビア・イラクの供給途絶懸念が意識されたことが材料。発電燃料価格の下落はドイツのガス在庫が想定よりも1ヵ月前倒しで積増しが完了する、との報道を受けて目先の調達圧力が緩和したことが背景。

少し引いてみた場合、エネルギーの最大消費国である米国の景気は循環的に減速する見通しであるため、足下の上昇は下落局面での一時的な綾戻しと考えられる。

しかし、OECDの石油在庫水準が例年の水準(過去5年レンジ)に回復すると期待される10月頃までは、仮に供給面の材料が出れば価格は一時的に上昇しやすい。

また、供給不安が後退したと期待される欧州のガスも、「本番シーズン前の準備」が整ったに過ぎず、需要期の供給が十分かどうかは今後のロシアの動向や気温に依拠するためまだ価格リスクは上向きといえる。

【本日の見通し】

本日は昨日上昇した商品が多いため、米国の利上げ強化観測を背景に調整売りに押される商品が目立つと考える。

ただし、基本的に供給への懸念が強いエネルギー、発電燃料、穀物などの下げ余地は限定されるだろう。

本日予定されているイベントは、米連銀総裁の講演が予定されているがパウエル議長発言以上のものはないと考えられるため、その他の経済統計に注目が集まる。

金融引締め加速・長期化の意思表明があったJH講演の結果を織り込んでいないが、米国の消費マインドの指標であるコンファレンスボード消費者信頼感に特に注目している。

8月コンファレンスボード消費者信頼感 市場予想 98.0(前月95.7)

【昨日のトピックス】

昨日、タス通信がロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言した。

これは現在欧州で取引されているTTFベースに換算すると474ユーロ/Mwhとなり、JKMに換算すると137ドル/MMBtuだ。予想通りになれば今の価格水準から1.7倍に価格が上昇することになる。

これまで、ロシア政府のエネルギー価格見通しは大きく外れてきたことがないため、現在、タンクが一杯になりつつあって調達圧力が弱まっている(というよりは積み増すスペースがなくなる)ことで下落しているガス価格が、ピークシーズン中に上振れする可能性があることを示している。

というよりは、その価格に上昇することを想定している、ということはロシアが欧州に対してガスを供給するつもりがない、ともいえる。

仮にロシアからのガス供給が途絶した場合、電気・ガスの供給に制限が発生して地域によっては死者も出るだろう。気温が上昇しなければインフレ抑制で政府が取れる手段は資金供給と金融引締めによる景気減速を導くことぐらいだが、それは深刻な景気減速をもたらすことになる。

そしてそれは最大貿易相手国である中国経済の減速ももたらすため決して小さなリスクではない。欧州危機が連鎖的に中国に波及、それは経済的に繋がりが深い東南アジア・日本経済にも影響が出るということだ。

なお、この冬が本番なのだが、この夏場・冬場のエネルギー供給不足問題は、ロシア・ウクライナの戦争があと数年終らないことがメインシナリオとなる中では、恐らく今年だけで終る話ではなく、今後数年続くことになると予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。OPECプラスが減産の可能性を示唆したことや、リビア・イラクで武力衝突が発生したことで、OPECプラスの減産以上に生産が減少する懸念が強まったことが背景。

OPECプラスが減産を実施する可能性を示唆しているが、それ以上にリビアで発生している軍事衝突の影響で供給に懸念が出る、との見方が強まっていることが追加的に材料視されたと考えられる。

リビアの生産量は現在70万バレルと決してOPEC諸国の中では大きくないが、リビア危機以降、リビアの減産が原油価格を押し上げているケースは多い。

また、イラク国内でシーア派と同じシーア派でもイラン支持派との対立が激化していることも供給不安を想起したとみられる。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は95.97ドル(前日比+4.03ドル)、Brentの実力ベースとの価格乖離は9.1ドル。

DOEの見通しを元にすると、在庫水準の正常化が期待できるのが今年の9月~10月、そのタイミングでFRBが75bpの利上げを行うこと、QTも継続することから10月以降に水準を切下げる動きになると予想されるが、まだ明確に景気が減速している訳ではないため、10月頃までは供給不安が価格を押し上げやすい。

昨日の上昇で50日移動平均線のレジスタンスを上抜けしたため、以前のレンジである200日~100日移動平均線(100ドル~108ドル)のレンジで推移すると予想される。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、循環的な景気の減速とFRBの金融引締め期間長期化観測が需要の伸びを鈍化させるため、昨日の大幅上昇の反動で下落すると考える。

しかし、足下、OPECプラスの減産動向が意識され、リビア・イラクの生産情勢不安といった追加の供給懸念が発生しているため高値維持の公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に下落。ドイツの在庫積増しが1ヵ月程度前倒しで完了する可能性が示唆されたことで、目先のスポット調達圧力が緩和したことが価格を押し下げた。

足下、ロシア軍事侵攻に対する制裁やパイプライン停止で価格がパニック的に急騰した3月の水準(345ユーロ)近辺まで上昇しており、この水準を上抜けするにはさらなるパニックが必要と見られ、当面は345ユーロが上限として意識されることになるだろう。

しかし、ロシアからの供給制限はこれから始まる予定であり、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計ではないか。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。

ここまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。さらに懸念すべきは、戦闘状態が長期化した場合、この欧州の発電燃料の恒久的な不足は数年にわたると予想される点だ。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きる。欧州全体でも3ヵ月弱だ。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は上昇。北米の西部地区の気温上昇は続いており、渇水の影響も続いていることからガスへの需要は旺盛であり、価格は高値を維持している。

また、11月からFreeportが再稼働すれば価格の高い欧州向けの輸出が増加し、域内需給をタイト化させる可能性が高い。

なお、米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、そもそも在庫水準の低さもあって影響は限定されよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は高値で小動きだった。期近はついに70ドルを割り込んだが、冬場のピークシーズンは80ドルを超えた状態が続いている。

欧州の在庫積増しが進捗し、一時的に欧州のスポット調達圧力が緩和すると見られるためJKMにも調整圧力が掛る可能性がある。

また、欧州で需要期が始まれば在庫は減少を始めるため、再びスポット調達を増やさなければならなくなる。ロシアの供給状況次第であるが、ロシアからの供給が制限された状態が続けば高値を維持すると予想され、再開されれば水準を切下げる展開が予想される。

また、信頼できる供給者である豪州が、域内供給を優先するため冬場の供給が制限される可能性が出てきた。この場合。冬場に向けた日本の調達をそろそろ始めなければならず、需要期の価格には上昇圧力が掛かりやすい。

ただし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。

少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は246万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

本日は、欧州の在庫積増しの進捗で足下の調達圧力が弱まっていることから、TTF・JKMとも下押し圧力が強まる展開を予想。

ただし、根本的な「フローの供給制限」状態に変わりはないため、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは小幅に下落した。欧州のガス調達圧力が在庫の積み上がりで「目先」緩和したことが材料となった。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、影響がまだ限定されいている状況。IEAの推計では、2020年時点で発電に占めるEUのガス火力の比率が21.9%であるのに対して、石炭火力の比率は12.7%である。

現在、石炭市場で弊社が気にしているのは天然ガスと同様、「期先の価格上昇を市場が容認し始める」場合である。この場合現在300ドル程度の2023年~2024年ゾーンが100ドル程度上昇することにある。

ただ、上述の通り欧州にとって石炭はガスほど規模が大きくないため、このシナリオはリスク要因、と整理するべきものだろう。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはないが、ガス在庫積増しの進捗でガス価格が調整しているため、石炭価格も若干調整圧力が強まるか。

ただし、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあるため冬場のリスクはまだ上向き。

その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は休場。

オープンしていた上海や米国市場は水準を切下げた。米国の金融引締め長期化観測に加えて、中国の工場稼働再開に伴う生産再開観測が価格を押し下げることとなった。

特に人民元安が進んでいるため輸入価格が上昇してしまうことから、中国勢の買い圧力が緩和していることも価格を下押しした。

年内は中国の経済対策期待があるため価格は上昇しやすいが、インフレ期待を材料とした買いは投機などの実需以外の買いも喚起するため、テクニカル要因も無視できない。

現状、銅・亜鉛・鉛は一目均衡表の雲を上抜け、ないしは雲に突入しているが、アルミ・ニッケル・スズは一目気候表の雲が厚く、これを上抜けするには一材料必要、という感じである。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウンの影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が満たされているが、2.3.が満たされなくなった。結果、高値は維持しようが上値は重い。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。

本日は、LME市場がオープンとなり、昨日のその他市場の下落をフォローする形でまずは下落すると考える。

しかし、中国の電力供給再開による工場稼働再開期待、経済対策効果の顕在化、工場稼働に伴う供給の再開、といった強弱材料が混在するため結局はレンジワークになろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。

米金融引締め期間長期化と、欧州のエネルギー問題で欧州向け輸出向け需要の減少観測が意識されたことが背景。ただし中国政府の景気刺激策や金融緩和の効果が鉄鋼製品価格の下落を下支えしている状況。

今後、秋の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では90ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、鉄鋼製品在庫の減少が鉄鋼製品価格を下支えしており、鉄鋼原料価格は底堅い推移に。

◆貴金属

昨日の金価格はほぼ変わらず。ジャクソン・ホールシンポジウムでパウエル議長がインフレ抑制に強い意志を表明、金融引締め期間が長期化するとの見方が強まったことで実質金利が上昇したが、同時にクレジットリスクも高まるとの懸念がリスク・プレミアムを押し上げた。

銀価格は金に連れ安、PGMは前日の売られすぎの買い戻しと、テクニカルな買い戻しで上昇している。

金の基準価格は前日比▲22ドルの1,157ドル、リスク・プレミアムは+21ドルの580ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲340ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,450ドル程度までの下落余地が有ることになる。

クレジットリスクヘの懸念が後退するのは利上げが打ち止めとなる来年4月以降であり、さらに政策金利の高値維持は続くと予想されるため、クレジットリスクが意識され、リスク・プレミアムを高値に維持する可能性も否定できない。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲340ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.6ドル程度押し下げると考えられる。

この場合、銀の下値は15ドル程度であり、「何かあった場合」の下値は若干切り下がった。

本日は、金銀価格は金融引締め長期化観測と、それに伴うクレジットリスクの顕在化懸念が相殺し合い、高値維持の公算。

PGMは株価の調整が続いているため、調整売りに押される展開か。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシはエネルギー価格の上昇で上昇、小麦は不作への懸念から売られすぎによる買い戻しが入った。

大豆は正直目立った材料がなかったが、週間輸出の大幅減少やドル高進行などが材料になったとみられる。

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

また、北米のクロップツアーではトウモロコシ・大豆の単収悪化が見込まれており、世界各地で渇水が見られていることから供給環境は決して良いとはいえない。

本日も、ラニーニャ現象の影響を受けた収穫下振れ懸念とエネルギー価格の上昇で上昇余地を試す展開。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「一物二価の時代到来か-その1」

◆価格高騰と調整~景気の循環の中で

ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて140ドルに迫った原油価格は大きく水準を切下げ、ブレント原油は90ドルを伺う展開となった。しかし、水準が切り下がったといっても高い水準を維持している。

原油価格は基本的に需要を左右する景気との連動性が高く、景気も概ね4年~5年の周期で好不況を循環しており、製造業PMIを元にすると前回の景気のピークが2021年の第4四半期頃であるため次の景気の底は2023年の後半頃になると予想される。

不況入りのタイミングを計る上で参考になる米国の2年債・10年債のスプレッドも今年の4月にマイナスとなっており、7月以降はネガティブ・スプレッドが恒常化している。

定常的にマイナス圏に沈んだのは7月以降であるが、過去の例と比較するとこのネガティブ・スプレッドが発生してから1年程度でリセッション入りしているため、恐らく2023年4月~7月にリセッション入りする可能性があると予想される。

8月26日のジャクソン・ホールシンポジウムでは、パウエル議長は景気が後退したとしてもインフレ抑制のための金融引締めを続ける方針を示しており、その点も考慮するとやはりリセッション入りの可能性は高いと考えられる。そのため原油価格も恐らく2023年に掛けて水準を切下げる展開になるだろう。

原油価格予想をする上では原油在庫の水準と原油価格の関係が参考になるが、米エネルギー省の石油需給見通しを元にすると、2023年の原油需給バランスは緩和し減少を続けてきた先進国在庫は回復が見込まれており、恐らく来年のブレント原油価格は平均で90ドルを割り込むのではないだろうか。

ブレント原油やWTI原油価格は期待インフレ率に対する説明力が高く、原油価格が下落するならば期待インフレ率も低下することになるだろう。このとき、多くの資源価格は期待インフレ率との連動性が高いため、2023年は価格水準を切下げる商品が多いと予想される。

◆脱炭素・有炭素の同時投資の必要

しかしここまでの見通しは中期的な見通しであり、より長期の視点では脱炭素や脱ロシアの影響で構造的な需要増加が見込まれることから商品価格には昇圧力が掛る展開が予想される。これは、脱炭素や脱ロシアを実現するためには新しいインフラが必要であり、そのための資源需要が増加すると予想されることによる。

しかし、脱炭素一辺倒では無理があり、化石燃料は当面使い続ける必要があることを世界中が認識した点がこの半年での最も大きな変化だろう。

例えば気象状況の悪化で太陽光発電や風力発電が充分に発電できない場合、これまでの議論では大容量のバッテリーを用いて不足分を補う戦略が主軸に据えられていた。

しかしバッテリーは電気の在庫であり、使ってしまえば再び何らかの方法で充電しなければならない。その間、再生可能エネルギーの供給が停止したままであれば、これまでの主力の熱源だった化石燃料や水力、原子力などで発電して充電する必要がある。

では、従来通りの化石燃料に頼れば良いのか、といえばロシアや中東などが必ずしも信頼できる供給者でないことも明らかであり、天候に左右される水力や、安全性の問題点が残る原子力に頼り切るわけにもいかない。

そうなるとやはり同時並行で再生可能エネルギーのキャパシティも拡大していく必要がある、ということになる。

しかし、再生可能エネルギーインフラ整備に必要な資源や部材のシェアの多くを中国やロシアなどの専制君主国家陣営が占めていることを考えると、化石燃料や原子力などの従来型の熱源のサポートなくして再生可能エネルギーの拡充を行うことは難しい。

つまり、安定してエネルギーを確保できる状態になるまでは化石燃料と再生可能エネルギーを併用し、削減しても影響が出ないことを確認しつつ慎重に化石燃料と再生可能エネルギーのバランスを探っていく必要がある、ということである。

これを見誤ると今回のウクライナのような安全保障上の問題が発生することになる。よってインフラ整備に必要な金属資源に加え、従来通りの化石燃料の需要の増加も予想され、資源価格も高止まりする可能性が高い。

通常は景気に連動しない穀物やパーム油などの食品も、再生可能エネルギーに用いられればやはり高値で推移することになるのではないか。


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