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景気悪化を厭わぬFRB、スタグフレーションリスクに直面するECB
  • MRA外国為替レポート

2022年8月29日号

◆先週の市場総括


先週は週末のパウエル議長講演でのタカ派的な発言への警戒感が強い状態が週初から続いた。

そうしたなか、火曜日に発表されたPMI景況感指数が欧州で悪化幅が小さく、米国で予想以上に悪化したことからドル売りが活発化。ドル円相場は週初に137円台に乗せて堅調に推移していたが135円台に下落。

ただFRBのタカ派スタンスや利上げ継続観測から米長期金利が上昇傾向。10年債利回りは3%に乗せて上昇したことでドル円相場は137円を回復するなど底固かった。

週末にはインフレピークアウトの兆しを示す指標もみられたが、パウエル議長は、インフレ抑制をやり遂げるまで利上げを継続するとし、当面は景気抑制的なスタンスを維持することが必要と述べた。

想定よりもタカ派的な発言を受けて米国株は急落。一方ドルは堅調でドル円相場は137円台半ばで引け。ユーロドル相場は1.00を回復する場面もあったが引けは0.99台半ば。日経平均は28,000円台後半では上値が重い展開となった。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。前週末に米長期金利が上昇、グロース株が売られた流れから軟調となった。ただドル高円安が進んだことは下支え。引けは前週末比▲135円安の28,794円。

ドル円相場は136円90銭で始まりFRBのタカ派スタンス、米長期金利上昇を手掛かりに137円40銭に上昇。20銭~30銭で推移した。

ユーロは朝方から軟調。週末にロシアがノルドストリームの一時停止を発表したことで欧州の天然ガス供給不安が広がった。

欧米景況格差・金融政策格差が意識され、ユーロドル相場は1.0040で始まったあと上値重く推移。欧州市場にはいると一時1.00パリティ割れとなった。

ユーロ円相場は137円40銭で始まり朝方は90銭台に上昇したが、午後から欧州市場にかけて136円70銭へ下落した。つれてドル円相場も136円80銭へ下落。

ユーロドル相場は1.00近辺でひとまず踏みとどまったが、米国市場に入ると一段安となり1.09930へ。20年ぶりの安値をつけた。

ユーロ円相場は137円30銭に戻していたが再び大きく反落して136円40銭近辺へ。

ドル円相場は逆に137円60銭台に上昇した。円を挟んでユーロ安ドル高。欧州株はエネルギー供給懸念・景気先行き不安で大幅安。

米国株もFRBのタカ派スタンスを警戒、長期金利上昇を受けて幅広く下落した。NYダウは前週末比▲643ドル安の33,063ドル。ナスダックは▲323ドル安の12,381ドル。VIX指数は+3.20ポイント上昇し23.80。

米10年債利回りは3.024%に上昇。3%台を回復した。2年債は3.316%に上昇。ユーロドル相場の引けは0.9940近辺。ドル円相場は137円50銭。ユーロ円相場は136円70銭。

火曜日の東京市場では日経平均は下落。前日の欧米株が大きく下落したことから売りが優勢となった。米長期金利上昇を嫌気してグロース株に売り。引けは前日比▲341円安の28,452円。

ドル円相場は137円50銭で始まり朝方70銭に上昇したが反落して20銭~40銭でもみ合い横ばいとなった。

ユーロドル相場は0.9940中心にもみ合い。夕刻にかけては欧州株安につられて0.9900へユーロ安ドル高。

ユーロ円相場も136円70銭~90銭で始まり夕刻にかけて軟調。欧州市場に入ると135円80銭を割り込んだ。

注目の欧州PMI景況感指数(8月速報)はユーロ圏製造業が前月49.8から49.7へ悪化したものの小幅。一方、サービス業は51.2から50.2へ予想50.5を下回って悪化した。

総合指数は49.9から49.2へ。悪化傾向は止まらないながらも、予想よりやや悪化ペースは緩かった。

ユーロ圏消費者信頼感(8月)も前月▲27.0から▲24.9へ予想外に改善した。ユーロは下げ止まり。

ユーロドル相場は0.9950へ反発。ユーロ円相場は136円20銭~50銭で上下した。

米国市場では発表された経済指標が軒並み予想より悪くFRBのタカ派スタンスとあいまって景気悪化懸念が強まった。

発表されたPMI景況感指数(8月速報)は製造業が前月52.2から予想51.9を下回って51.3に悪化。サービス業が47.3から49.1への改善予想に対し44.1へ大幅悪化し2020年5月以来の低水準に。総合指数は47.7から45.0へ悪化した。

新築住宅販売(7月)は季節調整済み年率換算で前月590千戸から511千戸へ大幅に減少して6年振りの低水準。リッチモンド連銀製造業指数(8月)は前月の0から▲8へ大きく悪化した。

これらを受けてドルは大きく下落。ドル円相場は137円60銭から135円80銭台へ急落。

ユーロドル相場は1.0010へユーロ高ドル安。ユーロ円相場は137円10銭に上昇していたが大きく下落して135円90銭~136円10銭でのもみ合いへ。その後はドル安・円高は一服し引けにかけて戻してドル円相場は136円80銭近辺でもみ合い引け。

ユーロドル相場は0.9970へ反落し再びパリティ1.00割れ。ドルインデックスは108.50ポイント近辺へ反落した。ユーロ円相場は136円30銭~40銭で引けた。

米10年債利回りは3.07%台に上昇していたが低下して3.053%。2年債は3.302%と前日からさほど変わらず。米国株は上値重くNYダウは前日比▲154ドル安の32,909ドル。ナスダックはほぼ変わらずの12,381ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が5営業日続落。米FRBのタカ派姿勢、大幅利上げへの警戒感が重石となり値がさ株中心に売りが優勢。引けは前日比▲139円安の28,313円。

ドル円相場は136円80銭で始まり上値重く、一時60銭に下落するなどして80銭~90銭で推移。夕刻から欧州市場では136円台半ばを中心に上下した。

ユーロは軟調。ユーロドル相場は0.9970で始まり夕刻は0.9940~60で上下。その後0.9910に下落した。

ユーロ円相場は136円30銭~40銭で始まり夕刻には136円割れ、その後135円60銭~80銭で推移した。

米国市場では長期金利がさらに上昇。2年債入札に続き5年債入札も不調に終わり債券価格下落=長期金利が上昇した。10年債は3.107%、2年債は3.396%。

耐久財受注(7月)が予想より強めの数字で設備投資がなお底固さを示したことで景気後退懸念が和らいだ。

米国株は小幅ながら上昇。NYダウは前日比+59ドル高の32,969ドル、ナスダックは+50ドル高の12,431ドル。

ドルは堅調。ドル円相場は137円20銭に上昇し136円70銭に押し戻されたが引けは137円10銭近辺。

ユーロドル相場は一時1.00を回復したがユーロ安ドル高に振れて0.9970。ユーロ円相場は136円半ばを挟んで上下し引けは136円70銭近辺。

木曜日の東京市場では日経平均がようやく反発。前日まで5営業日続落で▲900円超下落していたため、米国株の下げ止まりから買い優勢となった。上げ幅は一時200円超。

ただパウエル議長の発言を前に警戒感は緩まず伸び悩み。引けは前日比+165円高の28,479円。

ドル円相場は137円10銭で始まり軟調。東証引け頃には136円50銭へ、さらに欧州市場では136円30銭台~50銭台でのもみ合いとなった。総じてドルが軟調。

米国市場では136円90銭台に反発する場面もあったが米10年債利回りが低下したことで、136円50銭近辺でもみ合い引けた。

ユーロドル相場は0.9970で始まり1.0030へ上昇。欧州市場では反落して0.9960近辺へ。その後米国市場では0.99台後半~1.00で推移し引けは0.9970台。

ユーロ円相場は136円60銭近辺で横ばいの後、137円に上昇した後欧州市場で136円ちょうどへ急反落した。米国市場にかけても上値重く、136円ちょうど~20銭で引け。

発表されたドイツIFO景況感指数(8月)は前月88.6から88.5へわずかに悪化し予想ほどの低下はみられなかった。公表されたECB理事会議事要旨では多くのメンバーが0.50%の利上げを支持したが一部0.25%との主張もみられた。

米国では週次の新規失業保険申請件数はやや減少。米長期金利の低下により米国株はハイテク株、高PER銘柄が買われた。パウエル議長の発言への警戒感をやや解く動きで買い戻しも入った。

米10年債利回りは3.031%に低下。2年債は3.374%。

金曜日の東京市場では日経平均が続伸。前日の米国株がハイテク株中心に堅調。値がさ株、半導体関連株が買われ、上げ幅は一時+300円を超えた。個人の利益確定売りも一巡し底固く推移。上げ幅をやや縮めて+162円高の28,641円で引け。

為替市場では円が一貫して軟調、円安が進んだ。ドル円相場は136円50銭近辺で始まり夕刻には137円10銭へ。

ユーロ円相場は136円20銭から60銭へ、さらに欧州市場から米国市場朝方にかけてはユーロ高ドル安の流れで137円90銭に上昇した。

ユーロドル相場はアジア時間には小動きもみ合い。0.9960~70で推移し0.9950に下落。その後欧州から米国市場にかけて1.0090まで大きく上昇した。

9月のECB理事会で0.75%の利上げが決定されるとの見方が強まりユーロを押し上げた。

米国市場朝方に発表された個人所得・消費支出(7月)は前月比+0.2%・+0.1%と予想を大きく下回った。

価格指数はコア指数が前年同月比+4.6%と前月+4.8%から上昇率が鈍化、前月比も+0.6%から+0.1%へ鈍化して予想+0.3%を下回った。

これを受けてドルが下落。ドル円相場は136円30銭~50銭。

注目のFRBパウエル議長講演で、議長は、インフレ抑制をやり遂げるまで利上げを継続する、景気抑制的なスタンスを当面は維持することが必要になりそうだ、と述べた。

これにより高い政策金利が市場の想定よりも長く続くとの見方が台頭。早期の利下げ期待が後退した。

ドルは急反発してドル円相場は137円50銭へ、ユーロドル相場は急反落して0.9970へ。ユーロ円相場はユーロ反落の勢いが勝り136円80銭~137円ちょうどで引けた。

米国株は大幅安。幅広い銘柄が売られ、とくにハイテク株、高PER銘柄の下げがきつかった。NYダウは前日比▲1,008ドル安の32,283ドル。ナスダックは▲497ドル安の12,141ドル。

米10年債利回りは3.03%で変わらず、2年債は3.382%に小幅上昇。ミシガン大学消費者信頼感(8月確報)は速報55.1から58.2に上方修正。期待インフレ率は短期1年が5.0%から4.8%へ、長期5年-10年が3.0%から2.9%へ、それぞれ低下した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

インフレピークアウトの兆しを示す指標がさらに散見されたが、FRBパウエル議長は景気悪化を厭わず利上げを継続する姿勢を再確認。景気後退リスクがあらためて意識され株価には大きな逆風となった。

今週の指標が景気悪化をさらに意識させるか。

月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(8月)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(6月、前年同月比、予想+19.4%、前月+20.5%) 消費者信頼感指数(8月、予想97.5、前月95.7)

水曜日 シカゴ購買部協会景気指数(8月、予想53.1、前月52.1)

木曜日 ISM製造業景気指数(8月、予想52.1、前月52.8)

金曜日 雇用統計(8月、非農業部門雇用者数・前月比、予想+300千人、前月+528千人、失業率、予想3.5%で前月と不変、平均時給、前年同月比、予想+5.2%で前月と変わらず)

2.FRB当局者発言

先週末はパウエル議長の想定以上のタカ派発言に景気後退リスクがあらためて強まり株価は急落した。今週も当局者の発言が相次ぐが総じてタカ派スタンスを確認する内容となるか。

景気を犠牲にしてでもインフレ抑制、利上げ継続とのスタンスが再確認されるか。火曜日にNY連銀総裁、水曜日にクリーブランド連銀、アトランタ連銀の各総裁、が発言する。

3.欧州の経済指標

先週末には次回9月のECB理事会で0.75%の利上げが実施されるとの見方が急速に強まった。一方、欧州ではエネルギー供給不安、エネルギー価格高騰から、景気失速リスクが高まっている。

ユーロドル相場は1.00割れで一旦下げ止まってはいるが、弱い数字で下押す可能性はないか。

火曜日にユーロ圏経済信頼感(8月)、水曜日にドイツ失業率(同)、ユーロ圏CPI(8月速報、前年同月比、予想+8.8%、前月+8.9%)、が発表される。

インフレ高騰・景気悪化のスタグフレーション懸念が強まりユーロを下押すか。

このほか、水曜日に中国でPMI景況感指数(8月、製造業、予想49.8、前月49.0、サービス業、前月53.8)、木曜日に財新・PMI景況感指数(同、製造業、予想50.2、前月50.4)が発表される。

いずれもやや改善すると予想されているが、景気悪化に歯止めがかかる兆しがみえるか。

◆今週のMRA's Eye


景気悪化を厭わぬFRB、スタグフレーションリスクに直面するECB

先週、パウエル議長はあらためて景気悪化を厭わずインフレ抑制に邁進する姿勢を強調した。すでに数人の地区連銀総裁から、市場の早期の利下げ織り込み、長期金利低下に釘をさすような発言が続き、強い金融引き締めを続ける意向が示されていた。

インフレピークアウトの確証が得られていない、と、市場のインフレ一服感を否定。そのうえで利上げを継続する姿勢が示されていた。パウエル議長の発言で株価は大きく下落したが、市場が反応したのは、景気抑制的な政策を当面は維持する必要がある、という部分だろう。

雇用と物価は景気の遅行指標。インフレピークアウトの確証が得られたときには、物価動向に先行する景気は悪化が鮮明になっているはずだ。

雇用はさほど悪化していないかもしれないが、住宅や企業景況感、企業業績がさらに大きく悪化していると想定される。それが時間差をもって雇用にも悪影響を及ぼすとみられる。

景気抑制的な金融政策を続け、景気悪化を厭わず、また景気後退の可能性も否定しない、とのスタンスを再確認。インフレ高騰と景気後退が併存するスタグフレーションは、少なくともインフレを必ず鎮静化するという点において回避されることとなる。

しかしこうした状況は今後も株価に強い逆風となる。景気・金利・株価の基本的なサイクルにおいて、金融引き締めが株価・資産価格を抑制する逆金融相場。

さらに次のフェーズである景気悪化が株価・資産価格を抑制する逆業績相場へ向かう局面にある。

景気後退を厭わずインフレ抑制のため利上げを継続するとなれば、逆金融相場と逆業績相場が重なる。株価や資産価格にとってはかつてない脅威となる。

ただ、景気後退とインフレ鎮静化、という通常の景気・物価サイクルに収まれば、その後は金融引き締めの手綱は緩む。

どれほど金融引き締めが解除、利下げが実施されるかなお不透明だが、サイクルとしては景気上向き局面となり、いずれ株価も底打ちとなる。ただそこまではかなり時間がかかりそうだ。

より難しい状況にあるのは欧州経済だ。

ロシアが様々な口実で天然ガス供給を一時停止するなど、経済制裁的な動きが強まっている。そのうえ猛暑による渇水で船舶による石炭等の輸送や、冷却水不足から原発稼働に支障が生じている。

原料となるガス供給不足は化学製品の生産にも悪影響が生じている。エネルギーとくに天然ガス供給懸念は今後冬場に向けてさらに深刻化しそうだ。

家計の負担する光熱費も高騰し消費に悪影響を生じている。欧州における物価上昇は、米国のように景気や需要の強さというよりも、供給サイド、外生要因の影響が大きい。

ECBはここにきてインフレ抑制スタンスを強めている。ただインフレの要因が好調な景気や需要の強さでなく、エネルギー供給不足が主要因だとすれば、景気抑制的な金融引き締めが、インフレ抑制に効果をもたらさない可能性がある。

米国と異なり、スタグフレーションのリスクが大きい。

さらにECBが強力な金融引き締めに出れば、インフレ高止まりのなか景気後退が深刻化してスタグフレーションの背中を押すリスクすらある。

市場では9月会合で0.75%の利上げを織り込みつつある。0.50%でマイナス金利解除、0.75%の利上げでも金利水準はなお低い。ただその先の利上げについてはかなり不透明だろう。

市場全体をみれば、景気悪化リスクが一段と強まり、景気後退が現実のものとなるにつれ、リスク選好の後退、さらにはリスク回避が強まると想定される。

米国の景気悪化がどの程度となるか。欧州のスタグフレーションがさらに意識されるか。日本はインフレがなお低水準にとどまり、金融政策も緩和的なままであることから、景気悪化リスクという点では欧米よりも安全だ。

欧州発リスク回避が強まることになるかが当面の注目点。

為替市場では、ユーロ独歩安が進行するか。その裏側でドル堅調が維持されるか。あるいは米国景気後退も現実味を帯びた場合、円独歩高となるか。少なくともインフレ格差や金融政策格差のみで円が独歩安となる局面は終了したとみられる。

リスクバイアスは、ユーロ安、ないしは円高、に留意する局面か。ドル円相場はドル高円安トレンドというより高値波乱、ないし、次第にドル安円高リスクを意識する局面とみられる。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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