米短期金利上昇・ドル高進行でほぼ全面安
- MRA商品市場レポート
2022年9月26日 第2290号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米短期金利上昇・ドル高進行でほぼ全面安」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は総じて軟調な推移となった。FOMCを受けて金融引締めが加速する見通しとなり米短期金利が急上昇、さらに各国中央銀行も利上げを断行していることから、景気の減速懸念が強まったことがリスク回避のドル需要を高めたことが背景。
弊社がウォッチしている主要商品69品目の中で最も上昇したのがドルで、前日比+1.65%の上昇となっている。
その他の商品は軒並み下落しており、前日比で最も下落したセクターがベースメタルで▲3.6%、次いでエネルギー(▲2.8%)、貴金属(▲2.2%)、農産品(▲1.7%)、ソフトコモディティ(▲0.9%)、畜産関連(▲0.5%)となり、景気循環系商品の下落が目立っていることがわかる。
これにより物価には下押し圧力が掛る展開が予想されるが、米国が指標としているコアPCEは住宅セクターの影響が強く、かつ、影響が顕在化するまで時間差があるため、FRBが「金融引締め過ぎ」に陥る可能性が出てくる。
しかし、昨日パウエル議長は「我々はニューノーマルに以降しつつある可能性がある」としており、場合によると物価上昇率の目標を2%ではなく、3%といった水準に設定し直す可能性が出てくる。
なお、日本は日銀黒田総裁が「あと2~3年はこのまま」と発言したことを受けて投機的な買いが円を押し下げる構造が続くため、日本の輸入物価の高止まりは続くことが予想される。価格反映までの時間差を考えると、値上げはこれからが本番となる可能性があろう。
【本日の見通し】
本日はFOMCの結果が予想通りではあったものの、利上げや金融引締めが継続することを確認する内容であり、多くの商品が軟調な推移になると予想する。
また、本日は複数の中央銀行が政策金利を発表する予定で、概ね利上げが見込まれている。このことも商品需要のドライバーである新興国景気の減速観測を強めるため、価格の下押し要因となろう。
本日政策金利の発表を予定している中央銀行は以下の通り。日銀だけ恐らく何もしないと見られ、世界が利上げに傾く中、円安進行の可能性が高まる。
日銀 当座預金残高金利 市場予想 ▲0.1%(前回▲0.1%) 10年国債誘導目標 ±0.0%(±0.0%)英中銀 2.25%(1.75%)スイス中銀 0.50%(▲0.25%)ノルウェー中銀 2.25%(1.75%)トルコ中銀 13.0%(13.0%)南アフリカ中銀 6.25%(5.50%)フィリピン中銀 4.25%(3.75%)台湾中銀 1.625%(1.50%)
【昨日のトピックス】
この数日、中央銀行の金融政策が発表されている。主なところを列挙すると以下の通りであり、トルコと日本、中国以外のほとんどの国が金融引締めに完全に舵を切っている。
米国がさらに金融引締めを強化する方針を締めているため、1.決済通貨確保、2.自国通貨安の回避(インフレ回避)、3.対外債務の名目額増加抑制、といった視点から利上げを断行せざるを得なくなっている状況。
この状況が続けば、商品需要のドライバーである新興国経済が痛む可能性は高く、いわゆる「オーバーキル」となるリスクが高まる。
ただ、特に日米欧は過剰に金融緩和をしてきたため、これをどこかで断ち切らなければならず、たまたまそれがパウエル議長のタイミングに当たっただけ、ともいえ、過去の金融政策の「パス」が彼の置かれている状況をより難しくしている。
ただ、コロナ後の大規模緩和は不要だった可能性は高く、その意味ではパウエル議長は自身の政策ミスを取り返さざるを得なくなっているといえる。
日銀 当座預金残高金利 ▲0.1%(市場予想 ▲0.1%、前回▲0.1%) 10年国債誘導目標 ±0.0%(±0.0%、±0.0%)
英中銀 2.25%(2.25%、1.75%)
スイス中銀 0.50%(0.50%、▲0.25%)
ノルウェー中銀 2.25%(2.25%、1.75%)
トルコ中銀 12.00%(13.0%、13.0%)
南アフリカ中銀 6.25%(6.25%、5.50%)
フィリピン中銀 4.25%(4.25%、3.75%)
台湾中銀 1.625%(1.625%、1.50%)
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。各国中央銀行の利上げやそれにともなう株価の下落がリスク資産価格を押し下げる流れの中、ドル高が進行したことが価格を下押しした。
これまで、ドル高・原油高の組み合わせだったが今はドル高・原油安といわゆる通常の状態に戻っており、需給ファンダメンタルズ<金融要因、という構図になっている。
早晩、ドル安・原油安に転じると予想され、米経済が転換点に差し掛かった(ないしは転換した)ことを意味し、今後は米金融政策動向の影響が需給ファンダメンタルズ要件を上回るため、軟調推移が予想される。
そのため、OPECプラスがどれだけ減産してくるか、に焦点が移ることになるが減産による価格下支え効果はそれほど大きく無いと考える。
前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、
1.大規模経済対策で景気が回復基調にあったこと2.想定よりもかなり早くワクチン開発に成功し、経済活動が早期に回復したこと3.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、OPECプラスが大幅減産を成功させたこと
が価格上昇に寄与した。
しかし今回は景気が減速する局面であり、3.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、OPECプラスが増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することが予想される。
価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。
現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は74.96ドル(前日比▲4.00ドル)、Brentの実力ベースとの価格乖離は11.19ドル。
欧州各国はロシア産原油価格に上限を設定しようとしているが、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。
価格に上限を付けたとしてもそれが機能するのは供給過剰の時のみである。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。
さらに米国がSPRを放出するなどの「追い打ち」を掛けているため、5.ヘの以降も有り得る状況に。結局、景気が悪化する局面では供給制限が余りに顕著でない限りは価格は下落する、ということである。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-110ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル
5.4.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 75-100ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル
7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-90ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。ただし徐々に供給面の障害が緩和しつつある状況。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は、土曜日の大幅下落の反動でマズ買い戻しが入るとみるが、基本的には金融政策の効果が需給ファンダメンタルズ要因を上回っているため、最終的には下落に転じるとみる。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小動き。欧州景気の減速と気温低下観測、在庫の積増し進捗とピーク時期のロシアからの供給途絶やその他の供給停止リスク、といった強弱材料が混在する中、現在は不需要期であるため方向感が出難くなっている。
仮に欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、ガス在庫はLNGと合わせて凡そ1,300億立方メートル程度となる。
フローの供給と需要を以下の通りと見積もると
・トルコラインなどからの供給が継続 8,000万立方メートル/日・10月~3月期のノルウェーの輸出とその他の国の増産 4億3,500立方メートル/日(BP2021年データの欧州合計から英国とウクライナを控除したもの)・10月~3月期の欧州LNG輸入 2億立方メートル/日
・直近5年間の10月-3月のEU19のガス消費量平均 13億8,100万立方メートル/日
ロシアからの欧州向けの供給が完全に停止しても、在庫は欧州全体で195日分ある計算となり、10月から3月のガス供給は充分、という計算となる。
この計算は概算であるため正確ではないが、これまでの戦略が奏功して冬場を乗り切れる可能性が高い。
もちろん気温が低下したり、域内の生産が減少したり、今回の米Freeportの事故が発生したり、といったことがあれば供給が足りなくなる可能性は高いため、引き続き供給は綱渡りであり、価格は冬期中は高止まりしよう。高騰の可能性もある。
ただし、この冬を乗り切ったとしても2023年の春先のガス在庫の水準が非常に低くなる可能性はあり、さらに在庫積増し開始時期の始めからロシアのガス供給が絞られる可能性があることを考えると、来年の夏・冬も安泰とはいえない。
結局、脱ロシアが達成されるまでは供給は不安定ということだろう。
ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言、TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtuとなる。
これはロシアがこの冬、ガス供給を完全に止める意思があることを示唆しているう。
しかし、この冬が乗り切れてしまいそうな状況にあるため、長期にわたってロシアが無理をすることがなかなか厳しくなってきたといえる。ロシアの月次財政収支は、今年の6月から赤字に転じている。
そのためロシアもこの冬が「勝負」と考えている可能性は高く、この冬が取りあえず目先の「ガス戦争のピーク」といえるだろう。恐らく4月以降はラニーニャ現象が収束するため、一旦ガス価格は水準を切下げると予想される。
欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。
ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。
また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。
フォンデアライエン委員長は、欧州が購入しているLNGの指標をTTFからJKM(など)に変更することも主張している。パイプライン経由ベースのTTFとLNGでは市場が異なる、という主張のようだ。
これにより、TTFの価格は下落し、JKMが上昇する可能性が出てくる。しかし、指標を変更したとしても、この冬の供給リスクは変わらない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想されている。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
また、ドイツ政府はガス国内大手の国有化を検討、企業破綻を回避して夏冬のシーズンに供給懸念が顕在化しないよう手を打ち始めた。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は以下の対応が必要になる。
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
また、ガス供給の不足が原料としてのガス供給不足につながり、化学製品の供給途絶を通じて世界のサプライチェーンに影響を及ぼすリスクは小さくない。
化学世界最大手のBASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。
3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
5.に関しては、今年の冬一杯、ラニーニャ現象が継続する見通しであり(米NOAAは9-11月が91%、2023年1-3月に54%を予想)しばらく気象状況はガス価格にプラスに作用することが予想される。
LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも急上昇しており、冬場に向けた調達が本格化していることを示唆している。なお、タンカーレートの上昇タイミングは例年よりも早い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に下落。米景気の減速観測や気温が落着く見通しであることが価格を下押しした。
しかし米国の在庫水準が低い状態にあることに変わりはなく、結果、下落余地は限定されている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は下落。欧州ガス価格が落ち着きを取り戻していること、石炭価格の調整が価格を下押しした形。
足下、気温というよりは金融引締めの効果やエネルギー高で倒産する企業が欧州などで増加していることによる需要面のリスクが意識され始めていると感じる。
ただ、需要は気温次第であることに変わりはないため、少なくともこの冬は景気による需要減少観測の影響は軽減されるのではないか。
中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。
中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。
中国の天然ガス生産は8月時点で+7.0%の169億8,000万立方メートル(前月+8.2%の170億6,000万立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。
※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
サハリン2中長期的な観点では以下の2点が意識すべきリスクとなる。
1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える
2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう
9月18日時点の日本の発電用LNG在庫は262万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と増加。過去5年平均を上回っているため「足下の」在庫は充分。
しかし欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。
9月12日-18日のLNGトレードは682万トン(先週696万トン)と減少、スポット取引のシェアは22%(前週23%)と変わらず。
スポット需要はスペインや東南アジアで増加した。ターム契約は北欧とイタリアで減少、日中台韓の調達は増加。
週明け月曜日は、足下、より景気の先行きリスクが意識されているため直近限月やスポットの価格は下落するとみるが、期先に関しては供給面の安心感がなんら担保されていないことから高値維持の公算。
冬場の調達があるていど目処が立つ3月頃から、景気や気温、ラニーニャ現象終了を織り込んで水準を切下げるとみているが、下値も堅かろう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップは下落。競合燃料である欧州ガス価格が景気の先行き懸念などを材料にやや調整したことや、週間の石炭輸出がインドネシア炭の輸出増加によって回復したこと、などが海上輸送炭市場需給を緩和させたことが背景。
欧州の石炭輸入・石炭生産とも顕著に増加していなかったが、ここにきて急増している。冬場に向けた在庫積増しの動きが強まっていることを示唆すると同時に、輸入の増加がそれほどでもなかったのは、供給面の影響が大きいことを逆に示唆している。
8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。
価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。
8月の中国の石炭生産は、前年比+10.5%の3億7,000万トン、1,195万トン/日(前月+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った状態が続く。
ロシアに対する「応分の協力」で輸入を増加させたため、生産が調整された可能性がある。
現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。
期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが300ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は300ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
週明け月曜日は、景気の先行き懸念の高まりからガス価格がやや軟調に推移していること、インドネシア炭の輸出増加などから下押し圧力が掛る展開を想定するが、それでも冬場はこれからが本番であり、調整余地は限定されると考える。
なお、この冬が終了した場合(来年3月頃)、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、ラニーニャ現象は54%の確率で1-3月も継続の見込みであり、下落があるとすれば調達に目処が立つ3月に入ってからだろう。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は大幅に下落した。米国のみならず、日本とトルコを除くほとんどの先進・新興各国中央銀行が金融引締めを加速させており、それに伴う需要減少観測と、利上げをしている国の中でも特に米国がタカ派であり、ドル高が進行していることが価格を下押しした。
中国の経済対策期待で非鉄金属は上昇していたが、それを上回る利上げによる金融要因が株価を押し下げ、ベンチマークである銅価格を押し下げ、非鉄金属市場自体に下押し圧力を掛けている。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。
ただし同時に、中国政府の経済対策と、電力不足による金属供給減少が価格を下支えすると予想する。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.は中国の重要統計をみるに回復基調にあり、2.3.が満たされていない。
この状況を勘案すると、やはり上値は重く、公共投資の実施期待が価格をある程度下支えする程度に止まるのではないか。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。
この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。
ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。
週明け月曜日は、週末の下落が大きかったことからまずは買い戻しからスタートすると考える。しかし、中国の景気刺激策への期待は高いものの、それ以上に中央銀行の金融引締めペースの加速観測が強まっていることが材料視されており、結局下落に転じるのではないか。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。
米金融引締めの影響が予想通りだった、というよりは建設シーズン中の中国の緩和姿勢強化や、ロックダウン解除の動きが鉄鋼製品価格を投機的な観点かr押し上げた形。
週末発表の在庫統計は、鉄鉱石在庫が前週比▲250万トンの1億3,780万トン(過去5年平均1億3,095万トン)、在庫日数は29.3日(▲0.5日、過去5年平均27.8日)。
鉄鋼製品在庫は▲15万1,000トンの1,188万2,000トン(過去5年平均1,232万4,000トン)、原料炭在庫は+16万トンの167万トン(145万2,000トン)、在庫日数は+0.6日の6.6日(過去5年平均5.8日)と増加しており、各々需給は緩和しつつある状況。
中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に中長期的に成長ペースが鈍化する可能性は高い。
直近発表された不動産販売・開発などの統計は同国の不動産市場が回復していないことを示唆している。
不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。
この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。
なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。
基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。
週明け月曜日は、各国中央銀行の金融引締めの流れと、中国政府による景気刺激が相殺しあう形で高値維持の公算。
◆貴金属
昨日の金価格は下落。実質金利が上昇後下落したことが基準価格を引けに掛けて押し上げたが、ドル高進行がリスク・プレミアムを押し下げる形となった。
銀は金価格の下落で大幅下落、PGMは株価の下落で水準を大きく切下げている。
金の基準価格は▲2ドルの899ドル、リスク・プレミアムは▲25ドルの745ドル。
仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲500ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,200ドルを割り込む可能性が出てきた。
ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ3分の1に当たる金が流出する必要が出てくる。
荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2016年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,100ドル台だったことを考えるとない話ではない。
大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。
なお、足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることが分かる。
Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。
しかしこの水準は既に目前に迫っており、これまで説明力が高かった期待インフレ率単体での分析は、再び機能しなくなる可能性が出てきた。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下していたが、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻ったようだ。
1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)
2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に90倍とすれば、銀価格は18.2ドル程度となる。
仮に金のリスク・プレミアムが剥落して1,300ドルまで下落すれば、銀価格は14.50ドル程度までの下落余地があることになる。
週明け月曜日は、金は実質金利の上昇が金の基準価格を押し下げるものの、それは同時に安全資産需要を高めるため、結果、高値維持の公算。銀は金に連れ安。
PGMは株価動向に左右されやすいためなんともいえないが、今のところ金融引締めが株価を押し下げるため軟調推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。「準景気循環系商品」に位置づけられるトウモロコシが原油価格の下落を受けて大幅に下落したこと、ドル高の進行が材料。
トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。
そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。
しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。
週明け月曜日は、各国中央銀行の金融引締めの流れを受けてリスク回避的にドル高が進行しやすいことから軟調推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。
◆本日のMRA's Eye
「金銀レシオは高止まりか」
新型コロナウィルスの影響によるロックダウンの拡大を受け、世界的に景気刺激とショック緩和目的の金融緩和策が行われた2020年に銀は大幅に上昇し一時29.13ドルをつけた。
その後、ウィズコロナの時代を迎え、現在は18ドル程度まで水準を切下げている。銀は金と同様、安全資産としての側面を持つと同時に、太陽光パネルや電子部品に用いられるなど工業用金属としての側面も持っている。
しかし、写真フィルム向けの需要が減少したことや、亜鉛や銅などその他の金属の副産物として生産されることから供給過剰になりやすく、現状でも投機の取引を除けば圧倒的に供給過剰な状態が続いている。
その結果、投資資金の売買動向に価格が左右されやすい。このとき、金価格を銀価格で割った「金銀レシオ」が銀価格の水準を判断する上での参考になる。投機の動きが影響するため、比較的割高・割安といったことが価格を左右することが多いからだ。
今回の分析ではボリンジャーバンドを用いた。ボリンジャーバンドは移動平均線と標準偏差(バラツキ)を元に統計的な手法を用いて価格のレンジを推定する手法であり、2σのレンジを取った場合、統計的には95.4%のケースがこのレンジ内に収まることになる。
リンク先のグラフは月末時点のデータを元にした月次ベースのボリンジャーバンドだが、値動きが激しくなるとバンド幅が拡大し、値動きが小さくなるとバンド幅は縮小する。
過去、このレンジを超えたケースはリーマン・ショックのあった2008年9月の122%、コロナ・ショックのあった2020年3月の124%と有事発生時に金銀比率のバランスが崩れたことはあったが、総じてこのバンドの上限(100%)に達すると調整的に金銀レシオは低下している。
仮に金銀レシオが平均水準である66倍程度に回帰した場合、金価格が1,750ドル程度で推移したとすると、銀価格は26.5ドルまで上昇するする余地があることになる。
金銀レシオが低下するケースとしては、このグラフでは米ISM製造業指数が55を超えるような好況時で、かつ、金融緩和が行われている局面。
この時期(緑の点線で囲んだところ)は金銀レシオがボリンジャーバンドの下限に張り付いている。
しかし、リーマン・ショック後の大金融緩和時代と、プレ・金融緩和時代といった金融政策の大きな変化があったタイミング前後を比較すると、プレ・大金融緩和時代には景気減速時に金需要>銀需要となり、金銀レシオはボリンジャーバンドの上限に張り付いていたが、リーマン・ショック後の大緩和時代には、チャイナ・ショックやコロナ・ショックなどの市場混乱時に金が換金売りに押される特殊なケースを除くと、金銀レシオは概ねボリンジャーバンドの上限に張り付いているケースが多いことが分かる。
先行き金融引き締めによる景気減速が想定される中では、金の方がリスク回避的に銀よりも選好される可能性が高いため、金銀レシオはしばらく高止まりし、銀は金に対して割安に推移すると予想される。
しばらくの間、テクニカル分析を元にすれば金銀レシオはボリンジャーバンドの上限に張り付くのではないか。
長期的に銀が金に対して割高になり、ボリンジャーバンドの下限に張り付くのは、太陽光発電の導入が世界的に拡大し、2002年以降に中国で見られた経済規模の拡大が次の世界景気のけん引役として期待されるインドでも発生し、銀の工業向け需要が増加するタイミングになるのではないか。
それは早ければ2023年の後半以降に顕在化する可能性があると見ている。
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