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エネルギーセクター堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年8月25日 第2268号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「エネルギーセクター堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギー価格が特にガスを中心に上昇した。先進国では発電燃料にガスを用いているケースが多く、ロシアが供給を回復させない中で冬場の厳冬リスクが強く意識されている形。

原油はOPECプラスの減産観測で上昇(詳しくはエネルギーセクターの見通しを参照)した。工業金属は非鉄金属が下落。その他農産品も下落した。

市場は目先の最大の材料として、本日から始まるジャクソンホール・シンポジウムでのFRB議長の発言に注目しており、基本は様子見姿勢なのだが、これとは別に個別に供給面のリスクが意識されているものの価格が上昇する、という展開が続いている状況。

【本日の見通し】

本日も本日から始まるジャクソン・ホール、明日のパウエル議長講演を控えて積極的な売買は控えられるとみてはいるが、特に発電用のエネルギーの季節的な調達圧力の高まりを受けて、高値で推移すると予想される。

本日の統計で注目は独IFO景況感指数と米失業関連統計。市場予想は以下の通り。

8月独IFO企業景況感指数 市場予想 86.8(前月 88.6)現況指数 96.0(97.7)期待指数 79.0(80.3)米週間新規失業保険申請件数 252千件(前週250千件)失業保険継続受給者数 1,441千件(1,437千件)

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の工作機械受注は、速報比変わらずだった。工作機械受注は日本景気の先行指標であり、特に景気減速局面では先行して落ち込む傾向がある。

過去のデータに基づくと、伸びが前年比で10%を下回るとリセッション入りする可能性が高まるが、今月はこれで6月の17.1%から大きく減速したことが確定した形となる。

中国のロックダウンなどの不可的要素が加わるためこれをもって直ちに景気後退局面入りか、といえばそうとは言えないが、年後半にかけて日本の景気が減速する可能性は高いと考えるべきだろう。既に海外市場は燃料価格の上昇や金融引き締め、中国に関しては不動産バブルの緩やかな崩壊が継続している状況であり、景況感は決して良くない。

更に日本は10月以降、主だった商品が値上げの予定であり、時間差をもって電力代・ガス代も値上げの見通しであり、消費に影響が及ぶ可能性は高い。

一応、原油価格の調整でガソリン価格などは下押し圧力が強まるためそれが一部、物価上昇を抑制することが期待されるが、この状況においてOPECが減産を口にし始めており、原油価格の先行きも不透明である。

金融引き締めやロシア問題がなかったとしても、世界経済が循環的な減速局面にあり、日本は最終価格への転嫁が半年~10ヵ月程度遅れることを考えると、やはり下期の景況感の改善はさほど期待できないのではないだろうか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。OPECプラスが減産の可能性を示唆したことや、米石油統計が市場予想を上回る原油在庫の減少となったことが材料となった。

なお、OPECプラスの減産だが、イランの核合意後の需給の大幅緩和を意識したものと考えられるが、先日発表された7月のOPECプラスの生産動向を見ると、生産目標を▲289万2,000バレルも下回っており、それでもこの間原油価格が下落していることを考えると市場参加者のプライオリティは

「供給<景況感(需要)」

になっていると考えられる。ただOPECプラスの減産は「需要がまだ明確に減速を始めている訳ではない」中では、アナウンスメント効果で価格を押し上げやすいことは事実だ。

ただ、上述の通り▲300万バレルもの減産があっても価格が上昇しなかったことを考えると、「どの程度の規模の減産を行うか」にもよるが、スケジュール的に「需要が減少を始める可能性が高い10月頃」の減産になるため、価格押し上げ効果は限定されると考える。

昨日の米石油統計では原油在庫が▲3.3MB(市場予想▲1.2MB、前週▲7.1MB)と生産減少(▲0.1MBD)、稼働率上昇(+0.3%)で市場予想を上回る減少となり、ガソリンは予想ほど減少しなかったが、世界的に供給がタイトなディスティレートが▲0.7MB(+0.7MB、+0.7MB)と減少した。

より注目している出荷は過去5年平均を下回る水準での推移が続き、一方で輸出は堅調で過去5年レンジを大きく上振れ、「米国内需要は減少も、ロシア問題で供給に懸念がある対ロシア非友好国向け之輸出増加」が米国産石油の需要を支えている状況。

ただ、国内・輸出両方を合わせた出荷は過去5年レンジ内まで低下しており、需要はやはり減速していると見るべきである。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は92.50ドル(前日比+1.55ドル)、Brentの実力ベースとの価格乖離は8.7ドル。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、OPECプラスの減産動向が意識されているため、再び上昇余地を探る展開を予想。特にWTIは200日移動平均線のレジスタンスを上抜けするかに焦点。上抜けした場合、99ドル程度までの上昇余地が、テクニカルに発生することになる。

Brentはこの上昇で200日移動平均線を上回ったため、104ドル程度までの上昇余地が発生している。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。基本的にガス供給の状況に変化がない中で調達を急ぐ動きが価格を押し上げている状況。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。

その観点では、ウクライナがクリミア半島を攻撃、クリミアの奪還を目指すことを表明したため、ロシアの嫌がらせ策は継続する可能性が高まった。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働させるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

ここまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情で昨日時点で更新しております。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きる。欧州全体でも3ヵ月弱だ。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情で昨日時点で更新しております。

米国天然ガス先物は上昇。低下していた米国の気温が再び上昇する見通しであること、米西部での渇水により水力発電能力が低下してガス需要が増加していることが背景。

そもそも米国のガス在庫の水準は低く、11月からFreeportが再稼働すれば価格の高い欧州向けの輸出が増加し、域内需給をタイト化させる可能性が高い。

米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、そもそも在庫水準の低さもあって影響は限定されよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は全ゾーン大幅に上昇し、期近はついに70ドルを超えた。ロシアから欧州へのガス供給に全く改善の兆しが見えない中で、調達を急ぐ動きが続いている。

全体で先物カーブはコンタンゴになっており、市場参加者が期先の価格上昇を容認し始めたと考えられる。このことは他の市場でも見られたことだが「絶対水準の訂正」が起きているとみられる。

しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。

少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は246万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

本日も、世界的な気温上昇と冬場の厳冬観測が根強い中で供給環境の改善がなく、ガス価格は高値を維持すると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは期近が小幅に下落し、期先が上昇した。価格が高すぎるということもあり水準訂正が起きた可能性が高い。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、影響がまだ限定されいている状況。2020年時点で発電に占めるEUのガス火力の比率が21.9%であるのに対して、石炭火力の比率は12.7%である。

現在、石炭市場で弊社が気にしているのは天然ガスと同様、「期先の価格上昇を市場が容認し始める」場合である。この場合現在300ドル程度の2023年~2024年ゾーンが100ドル程度上昇することにある。

ただ、上述の通り欧州にとって石炭はガスほど規模が大きくないため、このシナリオはリスク要因、と整理するべきものだろう。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情で昨日時点で更新しております。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはなく、ドイツも石炭火力の再稼働を決定したことなどから高値維持の公算。

北戴河会議以降、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあり、冬場のリスクはまだ上向き。

その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちだった。欧州・中国の電力供給問題が生産減少をもたらすと懸念されているアルミと亜鉛は上昇したが、その他の金属は下落した。

為替も動かず、価格に影響を与えやすい期待インフレも上昇したが、昨日はLME指定倉庫在庫が軒並み増加していたことや、中国の経済活動再開の遅れが意識された形。

年内は中国の経済対策期待があるため価格は上昇しやすいが、インフレ期待を材料とした買いは投機などの実需以外の買いも喚起するため、テクニカル要因も無視できない。

現状、銅・亜鉛・鉛は一目均衡表の雲を上抜けないしは雲に突入しているが、アルミ・ニッケル・スズは一目気候表の雲が厚く、これを上抜けするには一材料必要、という感じである。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国の電力不足やロックダウンの影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、3.が満たされているが、1.2.が満たされていないが、3.が満たされている。結果、高値は維持しようが、一時的な調整があると考える。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる(詳しくは近日中にMRA's Eyeで解説の予定)。

本日も、電力不足による中国や欧州の工場稼働停止、それに伴う供給不足、中国の景気刺激策といった強弱材料が混在する中、現状水準でのもみ合いを予想する。

ただし、中国はバランスシート不況に突入している可能性があり、金融緩和が素直に価格上昇に繋がるかどうかは不透明。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

中国のローンレート引下げによる企業活動再開期待に加え、中国の鉄鋼製品在庫も過去5年平均まで水準を切下げており、製品需給の逼迫に伴う鉄鋼製品価格の上昇が鉄鋼原料価格を下支えしている状況。

しかし、渇水の影響で経済活動が鈍化、再びロックダウンの懸念が強まっていることから結局強弱材料が混在する中で上値も重い。

今後、秋の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではないが)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では90ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、鉄鋼製品在庫の減少が鉄鋼製品価格を下支えしており、鉄鋼原料価格は底堅い推移に。

◆貴金属

昨日の金価格はほぼ変わらず。JHでの金融引締め加速観測の高まりと同時に、原油価格の上昇で期待インフレ率が上昇したため、強弱材料が混在したため。銀・プラチナも同様。

パラジウムもやはりJHを控えて様子見気分が強く、昨日は株価の上昇もあり、どちらかと言えば週初の大幅下落を受けたポジション調整の買い戻しが短期的に入った、と考えるのが妥当だろう。

金の基準価格は前日比▲4ドルの1,176ドル、リスク・プレミアムは+7ドルの577ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲220ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落余地が有ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲220ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲2.4ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

本日も、ジャクソン・ホールでのパウエル議長の講演を明日に控えて様子見気分強く、方向感に欠ける展開でもみ合いを予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。原油価格がOPECプラスの減産見通しを受けて上昇する中でトウモロコシ価格が上昇、基本的にラニーニャ現象の影響で買い戻し圧力が強いが、トウモロコシや大豆は200日、50日といった移動平均線がレジスタンスとして意識され、昨日はここが価格上昇を阻んだ。

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

また、北米のクロップツアーではトウモロコシ・大豆の単収悪化が見込まれており、世界各地で渇水が見られていることから供給環境は決して良いとはいえない。

本日も、ラニーニャ現象の影響を受けた収穫下振れ懸念とエネルギー価格の上昇で上昇余地を試す展開。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「金価格は高値維持~下落は来年春先か」

インフレ抑制方針を受けて米国は政策金利を引き上げ、QTを実施することで期待インフレ率にも低下圧力がかかっていたが、インフレ関連指標の若干の鈍化を受けた金融引き締め減速観測を背景に、逆に長期金利が上昇した。

しかし、原油価格の下落を受けてOPECプラスの減産観測で原油価格が反発しており、期待インフレ率も上昇して実質金利の上昇は抑制されている状況。

市場の関心は26日のジャクソンホール・シンポジウムでのパウエル議長の発言だが、これまでのFOMCメンバーの発言をみるに、ここでタカ派ではない発言が出てくる可能性はむしろ低いだろう。

この場合逆説的ではあるが、短期金利が上昇して、将来の経済成長鈍化懸念を背景に長期金利が低下すると予想され、結果的に金価格の下支え要因となると予想される。

また、実質金利以外の要素として整理される「リスク・プレミアム」も金融引き締め加速に伴う信用市場の混乱懸念を高めるため、逆に上昇しておりこの点も金価格を下支えしている状況。

今後の金価格動向はやはり米国の金融政策動向に左右されることは間違いがない。今後のFOMCはコロナ・ショックの時の様な臨時会合が開催されない限り、9月から来年の3月まで合計5回、FOMCが開催される予定。

FEDウォッチなどを見ると市場は、現在2.25~2.50%のFFレートは2023年3月の段階で、3割程度の確率で3.5~3.75%、3.75~4.00%になると予想している。

仮に0.5%刻みで利上げをした場合、あと2回、ないしは3回程度の利上げがあることを市場は想定していることになる。しかしこれによってFF金利が、FRBが注目している残存期間18ヵ月の国債利回りを上回る可能性があり、短期ゾーンの逆イールドが鮮明になる。

さすがにここまで政策金利が上昇すれば、FRBは利下げを検討することになるのではないか。あるいは実際に利下げを行わなかったとしてもこのタイミングで利上げは打ち止めが予想される。

政策金利と米10年実質金利動向を比較すると、利上げ局面で同時にQTも行われているため、実質金利は上昇しており、恐らく現在の金利引き上げペースが続けば金価格の下押し要因となる。

同時に米利上げに伴う新興国経済の混乱も予想されるため、リスク・プレミアムが上昇して結果的に金価格は高止まりしている。

4月以降、想定通り利下げや金融引き締め停止となる可能性があることは、実質金利の上昇打ち止め(ないしは低下)をもたらし、金の基準価格を押し上げることになるだろう。

しかし同時に金融引締めに伴う新興国などの経済不安が後退することで、現在非常に高い水準にあるリスク・プレミアムが調整する可能性も低くないと見る。

この場合、どこが落着きどころになるかは議論が分かれるところだが、貴金属セクターのコラムでも指摘しているように、過去5年平均程度までの回帰があるなら、▲200~▲300ドル程度の下落はありえるだろう。

恐らく金価格は来年春先に1,600ドル程度を目指して下落し、その後、米金融引締め終了(ないしは緩和)を受けて切り返し、上昇余地を探る動きになると予想される。


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