CONTENTSコンテンツ

堅調 ドル安進行で買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2022年8月24日 第2267号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「堅調 ドル安進行で買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は非鉄金属の一角やその他農産品などが売られたが、その他は総じて堅調だった。

米PMIが減速、米新築住宅販売も市場予想を下回り、米国の金融引締め策の効果が住宅セクターに顕在化し始めていることが景気の減速懸念を強めたが、ドル安が進行したことがファイナンシャルな面で商品価格を支えた。

また、原油価格の下落を受けてOPECプラスは増産ではなく減産を口にし始めたことで供給懸念が広がり原油価格が上昇したことで期待インフレ率が上昇、インフレ系資産が広く物色される流れとなった。

これまで下落していた穀物も、クロップツアーの結果を受けて「不作」の可能性が意識され再び買い戻される流れになっている。この数年、ラニーニャ現象が発生した年で価格が下落したケースは余りない。

【本日の見通し】

本日も週末のジャクソン・ホールでのパウエル議長講演を控えて積極的な売買は控えられるとみてはいるが、基本的にはタカ派な発言になると予想され、総じてドル建て資産価格には下押し圧力が掛かりやすい。

一方、原油価格の上昇による期待インフレ率の上昇がインフレ資産価格を押し上げるため、結局現状水準でのレンジワークになると考える。

本日の統計で注目は米耐久財受注とコア資本財受注。いずれも設備投資の先行指標だが、市場予想はやや減速を見込んでおり工業金属価格の下押し要因に。

7月米耐久財受注 市場予想 前月比+0.8%(前月+2.0%)除く輸送機器 +0.2%(+0.4%)コア資本財受注 +0.3%(+0.7%)

【昨日のトピックス】

昨日発表された欧州・独製造業PMIは予想通り悪化したが、いずれも市場予想ほどの悪化にはなっておらず、想定よりも緩やかなペースでの景気減速が確認された。

独製造業PMIは市場予想が48.0のところが49.8(前月49.3)、ユーロ圏が市場予想が49.0のところが49.7(49.8)となった。ただしユーロ圏の製造業PMIは2021年2月以来の低水準となり、決して良い内容だったというわけではない。

エネルギーコストの上昇、食品価格の上昇が家計を圧迫する中で支出が削減される一方、製造業はエネルギーを筆頭に供給が制限されていることが状況を悪化させた。

今後、欧州は厳冬が見込まれており、電力料金やガス料金などの値上げの可能性も高い。この状況では可処分所得に占めるエネルギーの比率が上がり、必然的に消費は影響を受けざるを得なくなる。

問題は「この冬をどう乗り切るか」であるが、今年の冬を乗り切ったとしても構造的なロシアからのエネルギー供給制限の状況が続けば、毎冬、同じことを繰返すことになる。

結局欧州は脱ロシアを進捗させ、安定的な熱源であり、かつ、脱炭素に寄与する原発、さらには省エネを進めていく必要があるだろう。繰り返しになるが本番は11月以降である。

米国の製造業PMIも51.3(市場予想51.8、前月52.2)と減速したが閾値の50は上回り、欧州ほどの悪化にはならなかった。

しかし、サービス業PMIは44.1(49.8、47.3)と大幅に減速しており、米国の消費活動に支障が出ていることを示唆している。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。OPECプラスで減産が議論される見通しであることや、OPECプラスの生産が、生産目標を▲289万2,000バレルも下回っていることが明らかになり、供給懸念が意識されたことが背景。

過去の例だと価格下落時にOPECの減産見通しが「価格を下支え」するが、それに失敗すると増産合戦が始まり、価格がさらに下落することが多かった。

通常、需要が堅調な状況での減産は価格上昇要因となるが、景気減速で需要が減少するなかではOPECの足並みは揃わず生産が維持され、大きく下落することが有るため、OPECプラスが「需要減少局面に入った」と判断したことは、短期的には価格上昇要因だが、中期的には下落要因となるため、要注意である。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は90.96ドル(前日比+3.73ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は9.27ドル。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米国時間に発表予定の石油統計で原油在庫が▲1.2MBの減少見通しであるが、API統計では▲5.6MBの減少が確認されており、想定以上の減少となって価格は上昇すると見る。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落。のルドストリームの稼働停止報道を受けて急騰した前日からの反動で、生産者の売りヘッジが入ったと考えられる。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。

その観点では、ウクライナがクリミア半島を攻撃、クリミアの奪還を目指すことを表明したため、ロシアの嫌がらせ策は継続する可能性が高まった。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働させるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

ここまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きる。欧州全体でも3ヵ月弱だ。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。10月で再開予定だったが11月上旬から中旬に開始時期がずれ込んだ。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。Freeportの稼働再開が11月にずれ込むとの発表を受けて、域内需給の緩和期待が高まったことが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は全ゾーン大幅に下落、欧州ガス価格が若干下落したことを受けて水準を切り下げた。全体ではカーブがコンタンゴになっており、市場参加者が期先の価格上昇を容認し始めたと考えられる。

過去、同様のことは原油市場でも見られ、こうなると当面ガス価格が高止まりする可能性は高まる。

しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月14日時点の日本の発電用LNG在庫は239万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と漸く弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

本日も、世界的な気温上昇と冬場の厳冬観測が根強い中で供給環境の改善がなく、ガス価格は高値を維持すると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは下落した。価格が高すぎるということもあるが、昨日は欧州のガス価格が小幅ながら下落したことが影響した。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、影響がまだ限定されいている状況。2020年時点で発電に占めるEUのガス火力の比率が21.9%であるのに対して、石炭火力の比率は12.7%である。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはなく、ドイツも石炭火力の再稼働を決定したことなどから高値維持の公算。

北戴河会議以降、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあり、冬場のリスクはまだ上向き。

その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちだった。原油価格がOPEC減産の可能性を受けて上昇、米期待インフレ率が再び上昇したことで総じて非鉄金属には上昇圧力が掛かりやすい地合。

しかし、米新築住宅販売が市場予想を下回ったことや、金属によっては投機的な色彩が強くないものもあり、ニッケルなどは50日移動平均線のレジスタンスが意識されて水準を切下げる動きとなった。

足下、電力不足による供給懸念と製造業の稼働減速がせめぎ合う中でもみ合いが続いている状況。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国の電力不足やロックダウンの影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、3.が満たされているが、1.2.が満たされていないが、3.が満たされている。結果、高値は維持しようが、一時的な調整があると考える。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる(詳しくは近日中にMRA's Eyeで解説の予定)。

本日も、電力不足による工場稼働停止、それに伴う供給不足、中国の景気刺激策といった強弱材料が混在する中、現状水準でのもみ合いを予想する。

ただし、中国はバランスシート不況に突入している可能性があり、金融緩和が素直に価格上昇に繋がるかどうかは不透明。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は上昇した。

中国のローンレート引下げによる企業活動再開期待に加え、各種対策実施への期待が価格を押し上げた。しかし、渇水の影響で経済活動が鈍化、再びロックダウンの懸念が強まっていることから結局強弱材料が混在するなかでのもみ合いとなっている。

今後、秋の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではないが)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では85ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、中国の経済活動鈍化懸念と対策期待が相殺される形になり、現状水準での推移を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。米経済統計の減速を受けてドルが下落したことが価格を押し上げた。銀、プラチナも金に連れ高となった。

パラジウムは値動きの方向性は同じだったものの、株安の影響で前日比マイナスで引けた。

金の基準価格は前日比▲3ドルの1,180ドル、リスク・プレミアムは+15ドルの568ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲220ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落余地が有ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲220ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲2.4ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

本日も、ジャクソン・ホールでのパウエル議長の講演を週後半に控えて様子見気分が強いが、基本的にはタカ派的な発言があるだろう、との見方が強まっているため貴金属セクターは軟調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。米国のクロップツアーが始まり、悪天候の影響で各地の作況が悪化していることが確認されたことがトウモロコシ・大豆価格を押し上げた。

また、原油価格の上昇も価格を押し上げた。この数年で非景気循環銘柄であるはずの穀物も燃料との互換性からエネルギー価格との連動性が高まっており、原油価格の動向を受けやすくなっている(特にトウモロコシと大豆)。

オハイオ州のトウモロコシの単収は、8つの地区の平均で166Bu/エーカーと、昨年の187Bu/エーカー、過去3年平均の174Bu/エーカーを下回っている。その他の地区も概ね同様の結果であり、今年の収穫は下振れする可能性が高まっている。そもそも、ラニーニャ現象発生の年は穀物生産が下振れしやすい。

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

本日は、ラニーニャ現象の影響を受けた収穫下振れ懸念とエネルギー価格の上昇で上昇余地を試す展開。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について