高安まちまち~欧州エネルギー危機は深刻な状況に
- MRA商品市場レポート
2022年8月23日 第2266号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「高安まちまち~欧州エネルギー危機は深刻な状況に」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は発電燃料を主体にエネルギーなどが上昇、割安感が出ていた穀物を初めとする農産品も物色され、非鉄金属も一部が上昇した。
エネルギーはロシアからのガス供給停止予定で需給が逼迫したこと、エネルギーに関してはOPECプラスメンバーが増産ではなく、減産に言及し始めたことが材料となった。
非鉄金属は中国のローンレート引下げによる需要喚起期待が買い材料となったが、ドル高進行が価格上昇を抑制した形。
市場の最大関心事は、FRBの金融引締めが加速するかどうかである。しかし、実態経済や我々の生活にとっては、冬場のロシアのガス供給が本当に継続するのか、それに伴う欧州景気は悪化するのではないか、場合によっては欧州製品の供給不足でサプライチェーンが混乱、生産活動の停止に繋がらないか、といった「現物の供給リスク」ではないだろうか。
また、欧州の景気減速は中国の景気減速に繋がり、ただでさえ苦しい状態の国内情勢がさらに悪化することになる。
冬場が暖冬になってエネルギー問題が一服する可能性も有り得るためなんともいえないところだが、このような状況でソフトランディングができるとは考え難く、短期間であってもリセッションがあると考える方がむしろ自然ではないだろうか。
【本日の見通し】
本日も週末のジャクソン・ホールでのパウエル議長講演を控えて積極的な売買は控えられるとみてはいるが、再び市場は景気の先行きに悲観的になり始めているため、地合は軟調だろう。
本日の統計で注目は欧米のPMIで、市場予想は以下の通り。なお、日本のPMIは既に発表されているが、製造業・サービス業PMIとも減速しており、サービス業PMIは閾値の50を下回っている。
8月独製造業PMI 市場予想 48.0(前月49.3)独サービス業PMI 49.0(49.7)ユーロ圏製造業PMI 49.0(49.8)ユーロ圏サービス業PMI 50.5(51.2)米製造業PMI 51.8(52.2)米サービス業PMI 49.8(47.3)
【昨日のトピックス】
先ほど発表された日本のPMIは、製造業PMIが51.0(52.1)と減速、サービス業PMIも49.2(50.3)と閾値の50を下回った。明らかに世界景気の減速を受けて景況感が悪化している。
特に気になるのがサービス業PMIの減速。結局、日本は金融緩和を続けてきたが「世界景気が好調な時に実施していた、ある意味不要な金融緩和」だったともいえ、現在海外景気も悪化、日本もその影響を受ける中で追加で景気刺激を行えない状況に陥っている。
10月以降、最終商品価格は値上げが見込まれ、恐らく1月以降も値上げが続くことになるだろう。この中ではエネルギー価格が下落して可処分所得のウチ自由に使える部分が増えなければ、やはり消費は悪化する可能性が高い。報道をみるに、欧州情勢はほとんど改善しておらず、日本も冬場の気温次第ではこの影響を受けることになる。
一方製造業は工作機械受注などもまだ好調を維持しているため年後半までは堅調な推移になりそうだが、年後半以降は減速のリスクは充分ありえる状況。
日本は海外から資源を輸入して加工販売する国であるが、GDPの6割は個人消費であり今後、減速のリスクは小さくないと予想される。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は小幅に下落。米金融引締め加速観測や、本当に合意するか全く分からないイランの核合意への期待を織り込み下落していたが、サウジアラビア・アブドルアジズ石油相が「次の総会で減産を検討する」と受け取れる発言を受けて切り返した。
通常、需要が堅調な状況での減産は価格上昇要因となるが、景気減速で需要が減少するなかではOPECの足並みは揃わず生産が維持され、大きく下落することが有るため、OPECプラスが「需要減少局面に入った」と判断したことは、短期的には価格上昇要因だが、中期的には下落要因となるため、要注意である。
現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は87.32ドル(前日比+0.64ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は9.35ドルまで縮小している。
昨日はウラルが上昇し、Brent・WTIが下落している。このことは景気減速やインフレへの懸念が強まり、エネルギー調達も厳しくなる中で割安なウラル原油が西側地域で物色された可能性を示唆する(ただし詳細は分からず)。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。
この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、OPECプラスの減産報道、イランの核合意への期待、米金融引締め加速観測を背景に現状水準でもみ合うと考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇。ロシアがノルドストリームを8月31日から3日間、保守点検のために停止すると発表したことで、冬場に向けた供給不安が高まっていることが背景。
在庫の水準は増加しているがあくまで足下は、「フローの需要をフローの供給がどれだけカバーできるか」がポイントといえる。
欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。
EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。
そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。
その観点では、ウクライナがクリミア半島を攻撃、クリミアの奪還を目指すことを表明したため、ロシアの嫌がらせ策は継続する可能性が高まった。
ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働させるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きる。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。
また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。
最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化しているが、10月で解消の見込み。
3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。
現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。
欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は上昇。在庫水準の低さや渇水、米東部・北部・西部の気温上昇を受けたガス需要の増加、欧州価格の上昇でさすがに輸出が増加する、との見方が強まったことが背景。
仮にFreeportの輸出が再開した場合、HH価格はさらに上昇することになろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は全ゾーン大幅に上昇し、ピークシーズン以降、全て60ドルを上回った。全体ではカーブがコンタンゴになっており、市場参加者が期先の価格上昇を容認し始めたと考えられる。
過去、同様のことは原油市場でも見られ、こうなると当面ガス価格が高止まりする可能性は高まる。
しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。
そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。
構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。
中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。
中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。
サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。
懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。
8月14日時点の日本の発電用LNG在庫は239万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と漸く弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。
しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。
8月8日-14日のLNGトレードは701万トンと、先週の829万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアも22%(31%)と低下している。
スポット需要の減少は、日中台韓の輸入が▲47万トンの減少となったことが大きい。またインドの減少で南アジアの輸入も▲33万トンの減少となった。
ターム契約は▲33万トンに減少。やはり日中台韓の輸入減少の影響が大きく、特に日本の輸入が▲15万トンの減少となった。
本日も、世界的な気温上昇と冬場の厳冬観測が根強い中で、ガス価格は高値を維持すると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは小幅に上昇。欧州のガス価格上昇を受けて連れ高となった。ロシアの欧州向けのガス供給停止報道を受けて消去法的に石炭需要が増加していることが背景。
ただしガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、影響がまだ限定されいている状況。2020年時点で発電に占めるEUのガス火力の比率が21.9%であるのに対して、石炭火力の比率は12.7%である。
石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。
ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。
7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。
7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。
中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。
現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。
期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
本日もガス価格の高騰を受けて石炭価格は高止まりの公算。北戴河会議以降、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあり、冬場のリスクはまだ上向きだ。
その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はまちまちだったが総じて軟調な推移。中国の1961年以来の水不足による電力供給不足が工業活動を低下させていること、欧州の最大貿易相手経済圏であるユーロ圏の経済活動も同様にエネルギー問題で停滞していること、一方で電力不足がメタル生産を減少させるとの見方、ローンプライムレートの引下げといった強弱材料が混在したため。
北戴河会議を終了した中国政府は、これまでの習路線を修正し、徐々にゼロコロナ脱却に向かうと予想され、ターゲットを絞った経済対策の実施を主張しているため、経済対策効果が需要を下支えするためしばらく価格は高そうだが、基本は来年に掛けて調整の可能性が高まっている。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国の電力不足やロックダウンの影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、3.が満たされているが、1.2.が満たされていないが、3.が満たされている。結果、高値は維持しようが、一時的な調整があると考える。
ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。
この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。
ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。
中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。
しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる(詳しくは近日中にMRA's Eyeで解説の予定)。
本日も、電力不足による工場稼働停止、それに伴う供給不足、中国の景気刺激策といった強弱材料が混在する中、現状水準でのもみ合いを予想する。
ただし、中国はバランスシート不況に突入している可能性があり、金融緩和が素直に価格上昇に繋がるかどうかは不透明だ。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は小動きだった。
中国の渇水の影響で経済活動が鈍化、再びロックダウンの懸念が強まっているが、ローンレートが引き下げられるなどの対策が行われたことで、経済活動への回復期待がこれを相殺した。
今後、秋の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を打ったとしても余地は限られるだろう。
ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではないが)。
基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では85ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。
本日も、中国の経済活動鈍化懸念と対策期待が相殺される形になり、現状水準での推移を予想。
◆貴金属
昨日の金価格は続落した。週末のパウエル議長のジャクソン・ホールシンポジウムでの発言がタカ派なものになる、との見方から長期金利が上昇、実質金利が上昇したことが背景。
銀は金価格の下落を受けて水準を切下げ、PGMは金と株価の下落で大幅な下落となった。
金の基準価格は前日比▲10ドルの1,184ドル、リスク・プレミアムは▲1ドルの553ドル。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲220ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落余地が有ることになる。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、
1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲220ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲2.4ドル程度押し下げると考えられる。
逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。
本日も、ジャクソン・ホールでのパウエル議長の講演を週後半に控えて様子見気分が強いが、基本的にはタカ派的な発言があるだろう、との見方が強いため貴金属セクターは軟調推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。米利上げ加速観測でドル高が進行したが、エネルギーの買い戻しによる上昇と、そもそもラニーニャ現象発生時の生産は不作となる可能性が高いこと(実際に渇水は北半球の主要生産地で発生している)から、供給面での懸念も引き続き意識されていることが背景。
この数年で非景気循環銘柄であるはずの穀物も燃料との互換性からエネルギー価格との連動性が高まっており、原油価格の動向を受けやすくなっている(特にトウモロコシと大豆)。
秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。
本日は、週末のジャクソン・ホールでのパウエル議長発言を控えて方向感が出難いが、足下、異常気象を背景とする供給不安を再び材料にした買いが入っているため、上昇用地を探る展開。
ただし、米利上げ加速観測がドルを押し上げているため、上値も重いと考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「中国が直面する流動性の罠」
2001年12月に中国はWTOに加盟してから世界の工場としての地位を確保、膨大な農村部の人口を工業セクターで受け入れ、爆発的な成長を遂げてきた。
しかし2010年頃に農村部の人口を都市部の人口が上回る「ルイスの転換点」に達し、賃金上昇と共に投資が中国外に流出するようになった。
この間、賃金上昇や米国が仕掛けた「意図的な中所得国の罠入り」の戦略によって工場の海外流出が加速、さらにこの間、GDPの構成がサービス業中心にシフトし、充分な成長がないままに構造的な経済成長が最終局面入りした可能性は低くない。
中国のGDP成長とその後発生したイベントを振り返ると、同じ工業国である日本の経てきた過程と類似する点が多く、いずれも「人口動態の転換点」で不動産や株式市場に変調を来している。
これは日本だけではなく、サブプライム・ショックがあった米国も人口動態のピークアウトにそのリスク顕在化のタイミングが重なっている。
中国政府は2032年頃に人口オーナス期入りするまでに覇権国となることを目指し、対米政策を強硬なものにし、国内の統制を強化する政策を推進している。台湾侵攻(中国にとっては内戦)を急ぐのもそこに背景がある。
8月1日~15日にかけて中国の北戴河で長老を交えた会議が行われ、ここで習近平国家主席の3期目が確約されたようだ。しかし、国力が低下する中国で習近平国家主席がこれまで行ってきた一連の対策が「失敗だった」としてかなりやり玉に上げられたようだ。
台湾での軍事演習も「脅しではなく、米国から何らかの譲歩を引き出すことができたのではないか」との指摘もあったようだ。
結果、ゼロコロナ政策、一帯一路、双循環といった主要政策は見直され、「改革開放政策」が復権しそうな流れである。これに伴い、習近平国家主席がこだわってきた「対外に対して閉鎖的な政策」が見直され、欧米との対立路線も見直される可能性が出てきた。
ここで欧米との関係見直しを急ぐ可能性があるのは、それだけ中国の国内情勢が厳しいからである。習近平が国家主席になってから、3回の危機が発生した。上海株ショック、米中対立、コロナショック、である。各々のショックに対して、前者2つは不動産セクターバブルを誘発することで乗り切り、コロナショックはゼロコロナ政策や財政出動で乗り切ったが、今これらの政策が完全に中国の国内経済にマイナスに作用している。
昨日、貸出のプライムレートを引き下げ、景気刺激を強めたが足下、緩和マネーが実体経済に行き渡っていないことが、月々のファイナンス関連統計で確認されており、中国は「流動性のわな」に陥っている可能性がある。
この状態だと債務者が借り入れの返済に注力する、いわゆるバランスシート不況に入る可能性があるため、政府は公共投資で有効需要を創出しなければならない。しかしこれまでの放漫財政と、「不動産にレバレッジが掛った政策」によって中国中央政府・地方政府の体力も低下している。
今回の北戴河会議で経済通の李克強首相の発言権が増し、有効な政策(例えばゼロコロナ政策の見直しなど)実施の期待が高まることから、2023年の中国景気が懸念しているほど悪化しない、との期待はある。
ただし中国の政治のシーズンはこれからが本番であり、どのような結末になるかは不透明である。いずれにしても2023年の中国景気は一旦調整せざるを得ない、と予想される。
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