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軟着陸期待持ち直しもなお残る循環的ドル安円高リスク
  • MRA外国為替レポート

2022年8月22日号

◆先週の市場総括


先週は米国で個人消費の堅調さが小売大手決算や小売売上高で示され景気後退懸念が和らいだ。そうしたなかFRB当局者からタカ派発言が相次ぎ、将来の利上げ織り込みが後退して米10年債を中心に長期金利が上昇。米10年債利回りは3%に迫った。

堅調に推移してきた米国株には金利面から重石となって株価上昇が週末にかけて一服。為替市場では週末にかけてドル高が進んだ。

日本では大手銀行の日銀当座預金にマイナス金利が適用されたことが明らかになった。これをきっかけに週央から円安が勢いを増した。

ドル円相場は週初133円台前半で始まったが週末には137円台まで上昇した。ユーロドル相場も1.00パリティを試す動き。ドルインデックスは106ポイント台半ばから108ポイントに上昇した。

月曜日の東京市場では日経平均が上昇し1月5日以来の高値。前週末の米国株がインフレ懸念後退で上昇した流れから、日経平均もグロース株中心に上昇した。引けは前週末比+324円高の28,871円。

発表された日本のGDP(4-6月期、速報)は前期比年率+2.2%と予想+2.7%を下回ったものの、個人消費は前期比+0.1%から+1.1%に回復し底固さを示した。

一方、中国の7月の主要経済指標は総じて弱く中国経済への不安が高まった。小売売上高は前年同月比+3.1%から+2.7%へ、鉱工業生産は+3.9%から+3.8%へ、固定資産投資は+6.1%から+5.7%へ減速した。

ドル円相場は133円50銭で始まり上値の重い展開。朝方132円90銭に下落したあと持ち直したが133円台前半で推移し、欧州市場では132円60銭近辺へ大きく下落した。

ユーロ円相場は137円ちょうどで始まり136円60銭近辺でもみ合い、夕刻から欧州市場にかけて135円30銭まで下落。

ユーロドル相場は1.0260で始まり1.02台前半で推移したあと、欧州市場では1.0190へ下落した。中国経済への不安、欧州経済の不透明感、リスク回避からクロス円相場を中心に円高が進んだ。

米国株は主要3指数がそろって上昇。中国景気不安、経済指標の弱さも、インフレピークアウト期待が支え。NYダウは前週末比+151ドル高の33,912ドル、ナスダックは+80ドル高の13,128ドル。

発表されたNY連銀製造業景気指数(8月)は前月+11.1から▲31.3に大幅悪化。NAHB住宅市場指数(8月)は前月55から49に悪化した。原油価格WTI先物は89.41ドルに下落。

米10年債利回りは米国市場朝方にかけて2.86%から2.76%に低下してドル安円高を促した。ただその後は金利低下が一服。ドル円相場は持ち直して133円30銭で引け。

ユーロ円相場は135円台半ばで推移し135円50銭で引け。ユーロドル相場は1.0160にユーロ安ドル高。

火曜日の東京市場では日経平均は上値重い値動き。連日の上昇のあとで利益確定売りや戻り売りが優勢となった。引けは前日比▲2円安の28,868円。

ドル円相場は133円30銭で始まり朝方133円を割ったが持ち直し40銭近辺でもみ合い。夕刻から欧米市場にかけては大きく円安に振れ134円60銭近辺へ上昇した。みずほ銀行の日銀当座預金9,000億円ほどにマイナス金利が適用されたことが明らかになり、内外金融政策格差があらためて意識された。

ユーロ円相場も135円50銭近辺でのもみ合いのあと、欧米市場で136円80銭近辺まで円安が進んだ。

ユーロドル相場は1.0160を中心に上下動。欧米市場では1.0120に下落したあと1.0190へ反発した。

ドイツZEW景況感指数(8月)は期待指数が前月▲53.8から▲55.3に悪化したが悪化幅は予想よりも小さかった。

米国市場では消費関連株が上昇。小売大手の決算が良好で、インフレによる消費への悪影響懸念が後退。一方、利上げ観測が強まり長期金利が上昇。ハイテク関連に重石。NYダウは+239ドル高の34,152ドル、ナスダックは▲25ドル安の13,102ドル。

米10年債利回りは2.807%に、2年債は3.265%に上昇した。

ドル円相場はその後反落して引けは134円20銭近辺。ユーロ円相場は136円50銭近辺。

発表された米国の住宅着工(7月)は季節調整済み年率換算で1,446千戸と前月1,559千戸から大幅減少。一方、鉱工業生産(7月)は前月比+0.6%と持ち直した。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅高。良好な米小売決算で米国景気後退懸念が和らぎ、29,000円の大台にしっかり乗せる勢いに売り方の買い戻しが続いた。引けは前日比+353円高の29,222円。

ドル円相場は134円20銭近辺で始まり底固い値動き。一時134円を割り込む場面もあったが134円台前半で推移し東証引け後には134円80銭に上昇。さらに米国市場にかけて135円40銭まで大幅に上昇した。

前日からの円売りの流れのなかFOMC議事要旨の発表を前にドル円相場の上値を追う動きが強まった。

ユーロ円相場も136円50銭で始まり底固く推移。午後から欧米市場にかけては137円80銭まで上昇した。

ユーロドル相場は1.0150~1.0200の間でもみ合い横ばい。

米国株は反落。NYダウは6営業日ぶりに下げた。発表された米国の小売売上高(7月)は足元でなお小売が堅調なことを示した。

全体は前月比+0.1%となったが除く自動車・ガソリンでは+0.7%の高い伸び。ガソリン価格の反落が支えとなった。ただローンが増加していることから強勢は一時的との見方も。

米10年債利回りは2.898%に、2年債は3.283%に上昇。金利上昇はハイテク株の重石となった。

公表されたFOMC議事要旨では今後の利上げペースに関する明確な手掛かりは見出せなかった。インフレ圧力が弱まっている証拠はない、としたうえで、いずれかのタイミングでペースダウンが適切としたが、当然のことで情報としての付加価値はなし。

ドル円相場はその後反落して135円10銭で引け。ユーロ円相場は137円50銭近辺。

木曜日の東京市場では日経平均は反落。29,000円台の大台で短期的な過熱感や利益確定売りに押されて下落。前日の米国株が軟調だったことも重石となった。引けは前日比▲280円安の28,942円。

ドル円相場は135円10銭で始まり朝方134円80銭に下落したが底固くその後は堅調に推移して午後には135円40銭に上昇。欧州市場にかけては135円20銭~30銭で推移した。

ユーロ円相場は137円30銭~50銭でもみ合い、夕刻から欧州市場にかけては50銭近辺。

ユーロドル相場は1.0180で始まり夕刻にかけて1.0150へ下落。その後米国市場朝方にかけては1.0190へ戻すなど方向感なく上下した。

米国市場では発表された経済指標が軒並み強め、FRB当局者からタカ派発言が相次ぎ大きくドル高が進んだ。

米国株は金融引き締め警戒感から上値重く概ね横ばい。NYダウは前日比+18ドル高の33,999ドル、ナスダックは+27ドル高の12,965ドル。

米10年債利回りは2.884%に上昇。2年債利回りは逆はやや低下して3.205%。逆イールド幅が縮小した。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月)は前月▲12.3から予想外のプラス6.2に改善。プラス圏は3ヵ月ぶり。

週次の失業保険新規申請件数は250千件と前週から減少して予想を下回ったほか、前週分が262千件から252千件に下方修正され雇用の堅調さを示した。

一方、中古住宅販売(7月)は季節調整済み年率換算で481万戸と前月512万戸から大きく減少し、価格高騰と金利上昇の悪影響が顕著。

セントルイス連銀総裁は、インフレがピークアウトしたとの観測は楽観的過ぎるとし、9月は0.75%の利上げを支持、年末は3.75%~4.00%まで引き上げるのが適切、と述べた。

サンフランシスコ連銀総裁は、インフレへの勝利宣言は早すぎる、としつつ9月の利上げ幅は0.50%か0.75%とした。

カンザスシティ連銀総裁は、インフレ低下を完全に確信する必要がある、と述べた。

ドル円相場は135円90銭に上昇して引け。ユーロドル相場も1.0080~90にユーロ安ドル高が進んだ。ユーロ円相場は136円60銭に下落したあと反発して137円20銭。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。朝方は米フィラデルフィア半導体指数が大きく上昇したことを手掛かりに半導体関連株が買われ一時前日比+200円高となった。

しかし29,000円台での戻り売り需要や週末の手仕舞いから反落し、引けは前日比▲11円安の28,933円。

為替市場では円売りの流れが継続。ドル円相場は135円90銭で始まり午前中に136円30銭に上昇して10銭~30銭でもみ合い。東証引け後にさらに円安が勢いを増し136円80銭近辺まで続伸した。

ユーロ円相場も137円10銭で始まり20銭~40銭で上下したあと138円ちょうど目前まで上昇。

ユーロドル相場は動意なく1.0080~90でもみ合いに終始した。

欧米市場では米10年債利回りの上昇を受けてドルが続伸。強めの経済指標や相次ぐFRB当局者のタカ派発言で9月のFOMCで0.75%の利上げが有力視され、10年債は3%目前まで上昇した。引けは2.976%。2年債は概ね横ばいの3.238%。逆イールド幅が縮小。

ドル円相場は137円10銭に上昇したあとは136円80銭~137円20銭で上下して引けは136円90銭。

ユーロドル相場は1.0050に下落したあと70に反発したが引けは1.0040と1.00パリティを試す動き。

ドルインデックスは108ポイント台に上昇した。ユーロ円相場はユーロ安ドル高の勢いに押されて137円30銭~40銭に反落した。

米国株は短期的な過熱感のなか週末の利益確定売りに押された。長期金利上昇、ドル高が重石。高PER銘柄、ハイテク株が幅広く売られた。NYダウは前日比▲292ドル安の33,706ドル、ナスダックは▲260ドル安の12,705ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1,米国の経済指標

過度な景気後退懸念が後退した状態が維持されるか。

月曜日 シカゴ連銀全米活動指数(7月)

火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(8月)、新築住宅販売(7月) PMI景況感指数(8月速報、製造業、予想51.9、前月52.2、サービス業、予想49.1、前月47.3)

水曜日 耐久財受注(7月、前月比、予想+0.7%、前月+1.9%)

木曜日 カンザスシティ連銀製造業活動指数(8月) 米週間新規失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(7月、前月比、予想+0.6%・+0.5%、前月+0.6%・+1.1%、個人消費支出価格指数・前年同月比、予想+4.7%、前月+4.8%)ミシガン大学消費者信頼感指数・期待インフレ率(8月確報)

2.欧州の経済指標、ECB理事会議事要旨

エネルギー供給懸念から欧州経済には先行き不安が強まっている。経済指標でリスクが再認識されるか。そのなかでECBがインフレ警戒と景気懸念をどのようにバランスするか。

火曜日 PMI景況感指数(8月速報、ユーロ圏、製造業、予想49.0、前月49.8、サービス業、予想50.5、前月51.2、ドイツ、製造業、予想48.0、前月49.3、サービス業、予想48.9、前月49.7) ユーロ圏消費者信頼感(8月)

木曜日 ドイツIFO企業景況感指数(8月、予想86.3、前月88.6)

木曜日には7月のECB理事会議事要旨が公表される。9月会合での0.50%利上げ実施をどの程度明確に示唆するか、あるいは不透明なままか。

3.ジャクソンホールシンポジウム

25日木曜日から27日土曜日まで3日間、ジャクソンホール年次経済シンポジウムが開催される。

主要国の中銀トップらが参加するが、景気やインフレ、政策についていかなる議論・発言がみられるか。

とくに金曜日にはパウエル議長が発言する予定。このところの高官らのタカ派発言と同様に、利上げに積極的なニュアンスとなり、差し当たり9月の0.75%利上げが確信されるか。米国景気への自信が垣間見えるか。

◆今週のMRA's Eye


軟着陸期待持ち直しもなお残る循環的ドル安円高リスク

市場は米国経済の先行き悲観論から楽観論へ傾き、それにともなってドル円相場は133円台から137円まで反発した。円安というよりもドル高。ユーロドル相場も再び1.00パリティ割れを伺うユーロ安ドル高が進んだ。

ドルインデックスは105ポイントから108ポイントへ反発しドル全面高となっている。

市場はこれまで、インフレ抑制が想定よりも遅延し始めたことで、急激な金融引き締め・利上げが続き、米国経済が失速し景気後退に陥るハードランディングのリスクを織り込んでいた。

来年には利下げに転ずるほど景気が急速に悪化するのではないか、との悲観論が強まった。

しかしこのところインフレ指標にピークアウトの兆しがみえたことで安心感がもたらされた。

過度な金融引き締めへの懸念が緩和。傍らで依然として強い雇用情勢が確認され、原油価格等の資源価格の調整により個人消費への悪影響が緩和するとの期待が台頭。実際に小売大手の決算が良好で、小売売上高も強めだったことから、景気先行き懸念が緩和した。

これにより、インフレピークアウトと底固い景気、というベストシナリオ、ソフトランディングへの期待が回復した。

FRB当局者はタカ派姿勢をあらためて強調し、市場の金利先安感を牽制。利上げ幅は縮小するものの、利下げに転ずるとみるのは時期尚早という見方を市場に織り込ませた。

その結果、景気楽観論への揺り戻しのなか、株価堅調・底固い値動きの傍らで長期金利が上昇するという、ドルが堅調となりやすい組み合わせとなった。

ただこうした見方が維持されるかどうかはなお微妙だ。

依然として景気を刺激する要因はなく、利上げ継続によって景気が悪化する傾向をたどる流れに変化はない。悪化度合いが激しいか、マイルドか、の違いがあるのみだ。

資源価格・原油価格の調整は一時的に消費者に安心感を与えるものの、もう一段下落しなければ消費刺激効果は続かない。雇用と物価は景気の遅行指標であり、インフレピークアウトを確信できる状況となった頃には、景気が大きく悪化、景気後退に陥っている可能性はなお大きい。

現状では、ソフトランディングが可能か、ハードランディングに陥るか、回避できるのか、予測することは難しくなお不透明。

足元の経済指標の組み合わせから、織り込み過ぎたハードランディングシナリオがやや修正されたに過ぎない。

米国の景気と金融政策、株価のサイクルをみれば、景気悪化のもとで積極的な金融緩和が行われ株価が上昇する「金融相場」から、景気好転・業績改善にもとづく株高・長期金利上昇という「業績相場」の局面を経て、今は「逆金融相場」の局面にある。

すなわち、景気過熱・インフレ高進に対し積極的な金融引き締めが行われ長期金利が上昇し株価ほか資産価格を圧迫する局面だ。

ここからさらに景気が悪化し業績に悪影響がみられれば株価が低迷する「逆業績相場」となる。株安・リスク回避・長期金利低下の局面だ。

ここに至ると景気下支えのため金融政策は緩和へ向かい、金利先安感が強まる。ここまで至るかやや手前でドル高は終了し、反転下落に転ずると考えられる。

逆金融相場では利上げ実施と長期金利上昇一服、ないし逆イールドが発生して次の「逆業績相場」、本格的な景気悪化・景気後退を示唆する。

循環的には、ドルが高値波乱からリスクバイアスがドル安ないし円高サイドに強まる入口にいると考えられる。

こうした循環論的な見方にもとづくドル安円高見通しに対するリスクはいくつかある。ひとつ欧州景気の動向。エネルギー供給不安による景気悪化リスクは強まっており、欧州発のリスク回避が強まる可能性がある。

この場合は円安というよりもユーロ安主導でドル高が続き、ドル円相場が支えられる。

ドル円相場とユーロ円相場の動きが乖離し、場合によっては逆方向、ドル高円安とユーロ安円高、に動く可能性がある。

もうひとつは景気動向と乖離した資源価格高止まり。景気循環にともなう需要サイドの動きで資源価格が調整すれば円安の要因となってきた日本の対外収支の大幅赤字が改善し、円安に歯止めをかける。

しかし供給サイドから高止まりとなれば対外収支赤字が継続し円安圧力が続く可能性がある。この点、日本の政権が原発再稼働に踏み切れるかどうかがポイントだ。再稼働となれば円先安感が緩和する可能性がある。

3つ目は日銀の超金融緩和継続ないし強化姿勢。日銀当座預金へのマイナス金利適用は市場参加者とくに海外勢に緩和強化、ないし頑なな緩和姿勢継続とのメッセージとなり、円先安感を新たにした可能性がある。

政権の新体制のもと、日銀に対する超金融緩和継続圧力が弱まったかどうか。与党内での政治バランスが日銀次期総裁人事、ひいては現状の政策継続か修正かに影響する可能性があり留意が必要だ。

従来から総裁交代が円先安感の緩和ないし円買い戻しにつながるとの見方が根強く、政治状況の変化がそれを後押しするかどうかはやはり10-12月の注目材料だ。


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