CONTENTSコンテンツ

JHシンポジウムを控えて様子見 高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年8月22日 第2265号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「JHシンポジウムを控えて様子見 高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は高安まちまちとなった。特段材料があった訳ではないが、FOMCメンバーがタカ派的なスタンスを維持していることから基本的にはファイナンシャルな面で価格が下押しされやすい環境にあるが、本当に利上げペースの加速があるかどうかも分からないことから、週末を控えたポジション調整的な取引が多かった、と考えられる。

米国の経済統計は強弱入り交じっており、インフレ系の指標も同様。確かにインフレ上昇のペースは鈍化しているようだが、FRBが目指すような2%の物価水準まで下落するかどうかは不透明である。

弊社は現在の西側諸国と専制国家の対立は今後も続くとみており、「緩やかな東西分裂」が西側諸国のインフレ率を高止まりさせると考えている。

この場合、いわゆる投機筋が再び商品を投資対象として物色する可能性があることを示唆している。簡単に言えば、例えば米国の長期金利が3%程度であれば、利息の付かない商品は年3%を超えるペースで上昇しなければ、投資家の投資対象としては魅力がない、ということになる。

恐らく工業金属は構造的な需要増加で2023年後半以降、再び上昇基調に入ると考えられるが、長期金利や物価上昇率を超える上昇になるかは、今後の東西の歩み寄り(ないしは分裂)の状況に依拠する。

その意味では、北戴河会議を終えた中国の方針が変更した可能性があるため、この点は注意しておきたい(詳しくは昨日のトピックスを参照ください)。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、週後半のジャクソン・ホールでのパウエル議長発言を控えて、ポジション調整的な取引が主体になり、レンジワークになると考える。

【昨日のトピックス】

昨日ではないが、8月1日から実は中国の北戴河会議が開催されていたらしい。らしい、というのはそもそも何のアナウンスメントもなかった上、主要メンバーが1日から表舞台から消え、しばらく姿を見せていなかった李克強首相が、8月16日に深センに現れたため、「どうも開催されていた」と関係者の間で言われているためだ。

複数のチャイナ・ウォッチャーや報道記事を読むに、どうも今回の北戴河会議は習近平にとっては非常に厳しい内容で、李克強首相の母体である共青団にとって有利に展開したようだ。

例えば中国の海南島では15万人の観光客が足止めを受けたが、北戴河会議がまだ開催されていると考えられる8月13日に、孫春蘭副首相が海南省を往訪、感染撲滅を指示したが、一度も「ゼロコロナ」という言葉を使わなかった、とされる。

また、海南省当局も「ゼロコロナ政策に失敗した。観光客の皆様の期待に応えられなかった」と発言している。当局が自分の否を認めることはまずあり得ないので、北戴河会議中に、習近平が主導したゼロコロナ政策を、長老達がやり玉に上げたことは想像に難くない。

また8月13日の人民日報は、?小平が掲げた改革開放推進を一面トップで掲載している。前政権時代であれば普通のことであるが、完全に否定してはいないものの習近平は改革開放には反対のスタンスを取っているため、これが記事になる時点で、習近平が主導した一帯一路や双循環などの考えが、今回の会議で否定された可能性は高い。
https://focus.scol.com.cn/zgsz/202208/58589259.html

また、台湾に米ペロシ下院議長が訪れたことへの報復を、大規模な軍事演習で行ったことに関しても、関税引下げやその他の経済的なメリットを米国から引き出すべきではなかったか、という批判もあったようだ。

結局、習近平路線を修正することで続投への許可をもらった、という感じなのだろうがこの景気の悪化や習近平の経済政策の失策が明らかであることを考えると、まだ本当に3期目があるかどうかは流動的である。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。特段材料があった、ということよりも200日移動平均線を下回ってからの下げが大きかったことと、心理的な節目である90ドル(Brent)は攻防ラインとなりやすく、週末を控えて買い戻しが入ったと考えるのが妥当。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は86.68ドル(前日比+0.348ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.05ドルまで縮小している。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-110ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は材料も乏しく、買い戻しが優勢になると考える。ただし200日移動平均線のレジスタンスが強く意識されているため、この水準を上抜けするのは材料不足か。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。ロシアがノルドストリームを9月1日から3日間、保守点検のために停止すると発表したことで、冬場に向けた供給不安が高まったことが背景。明らかに「嫌がらせ」であろう。

在庫の水準は増加しているがあくまで足下は、「フローの需要をフローの供給がどれだけカバーできるか」がポイントといえる。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。

その観点では、ウクライナがクリミア半島を攻撃、クリミアの奪還を目指すことを表明したため、ロシアの嫌がらせ策は継続する可能性が高まった。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働させるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は8月15日時点で76.2%(前日75.9%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化しているが、10月で解消の見込み。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は期近が上昇。在庫水準の低さや渇水、米東部・北部・西部の気温上昇を受けたガス需要の増加が価格を支えている。

仮にFreeportの輸出が再開した場合、HH価格はさらに上昇することになろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が下落、期先が大幅に上昇した60ドルを大幅に上回った。全体ではカーブがコンタンゴになった、ともいえ、市場参加者が期先の価格上昇を容認し始めたと考えられる。

過去、同様のことは原油市場でも見られ、こうなると当面ガス価格が高止まりする可能性は高まる。

しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月14日時点の日本の発電用LNG在庫は239万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と漸く弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月8日-14日のLNGトレードは701万トンと、先週の829万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアも22%(31%)と低下している。

スポット需要の減少は、日中台韓の輸入が▲47万トンの減少となったことが大きい。またインドの減少で南アジアの輸入も▲33万トンの減少となった。

ターム契約は▲33万トンに減少。やはり日中台韓の輸入減少の影響が大きく、特に日本の輸入が▲15万トンの減少となった。

週明け月曜日も、欧州向けのガス供給が止められることから、スポット調達、ターム契約ベースでの調達が増加し、スポット市場価格も上昇が予想される。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは全ゾーン上昇した。ロシアの欧州向けのガス供給停止報道を受けて消去法的に石炭需要が増加していることが背景。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、現状それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

週明け月曜日も需給環境の改善を示唆する材料に乏しいことから、高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまち。アルミや鉛は前日比マイナスとなったが、その他の金属は総じて堅調な推移となった。

調整していた原油価格が売られすぎとして買い戻しが入って上昇したことを受けて期待インフレ率が上昇したことが、投機筋の買い戻しを誘った形。

欧州ではエネルギー価格の上昇や供給問題からアルミ、亜鉛の精錬所の稼働が停止、中国も渇水の影響で電力供給が止まり供給面での障害が発生している。

しかし、中国では電力不足を背景とする製品工場の停止や、コロナ発生によるロックダウンへの懸念が根強く、不動産セクターの減速に歯止めが掛っていないことなど、需要面への懸念は小さくない。

今のところ、ターゲットを絞った経済対策の実施を中国政府は主張しているため、経済対策効果が需要を下支えするためしばらく価格は高そうだが、基本は来年に掛けて調整の可能性が高まっている。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国の電力不足やロックダウンの影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、3.が満たされているが、1.2.が満たされなくなった。結果、高値は維持しようが、一時的な調整があると考える。ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

週明け月曜日は中国の1年・5年のローンプライムレートが発表されるが、市場予想は各々▲10bp程度の引下げが予想されており、ファイナンシャルな面で価格は下支えされよう。

ただし、中国はバランスシート不況に突入している可能性があり、金融緩和が素直に価格上昇に繋がるかどうかは不透明だ。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落宇、上海鉄筋先物は下落した。

中国の渇水の影響で経済活動が鈍化、中国海南島や新疆ウイグル自治区で新型コロナが発生、感染者数が急増していることでロックダウンへの懸念が強まったことが背景。

海南島では一時、観光客15万人が足止めされるなど、夏休み後の労働力の復帰の遅れも懸念されている。

今後、秋の党大会に向けて政治のシーズンとなり、中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を打ったとしても余地は限られる。

また、ロックダウン懸念が強まっていることも、対策効果を減じることになろう。

ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では88ドル、原料炭は230ドル程度となる。

週明け月曜日は、中国の経済活動鈍化懸念と対策期待が相殺される形になり、現状水準での推移を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は続落した。FOMCメンバーがリセッション入りしても金融引締めを継続するとの見方を示したことで価格に対する説明力が高い10年長期金利が上昇、株も下落でドル高が進行したことが材料となった。

銀は金価格の下落を受けて水準を切下げ、PGMは株価の下落もあり大幅な下落となった。

金の基準価格は前日比▲16ドルの1,193ドル、リスク・プレミアムは+4ドルの554ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲220ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落余地が有ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲220ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲2.4ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、ジャクソン・ホールでのパウエル議長の講演を週後半に控えて、まずは買い戻しが入りレンジワークになると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の続伸を受けて上昇、大豆は降雨予報などを材料に下落、小麦はウクライナの輸出再開を材料に下落していたが、週末を控えて安値拾いの買いが入った形。

インフレ・トレードで広く商品が物色されたが、この数年で非景気循環銘柄であるはずの穀物も燃料との互換性からエネルギー価格との連動性が高まっており、原油価格の動向を受けやすくなっている(特にトウモロコシと大豆)。

ただし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

週明け月曜日は目立った材料に乏しく、レンジワーク継続とみる。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「アルミ価格は上昇も2023年は調整か」

過去3年のデータを元にするとアルミ価格に対する説明力が最も高い要素は、米10年期待インフレ率であるが、長期の推移を見てみると2015年以降にアルミと10年期待インフレ率の間に高い相関が見られるようになっていることが確認されている。

直近発表されている米国の物価関連の指標は、米国のインフレが沈静化の方向に向かっている可能性を示唆している。

しかし、まだインフレの水準が高いことから、米FRBはインフレ沈静化のための利上げとQTを今後も継続する見通しであり、期待インフレには低下圧力が掛かりやすい。

期待インフレ率は米WTI原油価格との連動性が高いが、WTI原油価格は米国が急速な利上げを実施以降、徐々に水準を切下げており、米エネルギー省の需給見通しを元にすると、2023年はWTI原油価格も80ドル台前半まで下落する見通しであり、期待インフレ率を押し下げ、アルミ価格は下押しされる可能性が高い。

しかし、2022年7月以降、「ディスインフレ・トレード」に投機筋が舵を切ったことから、新規の投機売りポジションが積み上がっており、「何かの切っ掛け」があれば買い戻しが入り、価格が上昇する可能性はある。

例を挙げると、米国の金融引締めペースが鈍化する、ロシアのガス供給が停止して欧州の生産が停止する、あるいはRusalなどのロシアの大手生産者に対する制裁が行われる、といったことがこれに該当する。

アルミ固有の需給面に関しては、最大消費国である最大生産国である中国は国内の石炭生産を増加させており、アルミの生産コストの大半を占める電力価格には下押し圧力が掛っている状況で、アルミ価格をさらに下押ししている。

ただし、中国政府は不動産市場の過熱沈静化策を推進する中で深刻な景気減速に見舞われており、習近平国家主席が3期目を目指す中で「経済対策でGDPを押し上げて体裁を保つ」対策を実施すると考えられる。

結果、これまでのゼロコロナからの復帰によるペントアップ需要の顕在化や、経済対策によるインフラ投資需要の回復などでアルミ需要そのものが増加したり、経済活動再開に伴う電力需要増加が石炭価格を押し上げ、アルミの製造コストを押し上げる可能性は充分に有り得る。

また、ロシアと欧州のウクライナ問題を巡る鍔迫り合いは継続しており、ロシアは戦略的に欧州向けのガス供給を絞っている状況で、欧州のガス需要のピークになる冬場に電力供給が途絶、アルミ生産が減少して需給が逼迫するリスクも低くない。

需要面の指標である現物プレミアムは、日米欧で低下しており足下の需給環境が緩和していることを示唆している。

しかし今後、上述の通り経済対策の実施が見込まれる中国の需要が経済対策効果で増加する可能性は高く、むしろ先行きの需要面のリスクは年内は上向きと考えるべきだろう。

ただし原油を含むエネルギー価格が調整する可能性が高い2023年のアルミ価格は再び調整し、構造的な需要の増加に伴う価格上昇は2023年後半(7月以降)になってからになるのではないか。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について