CONTENTSコンテンツ

金属下落・エネルギー上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年8月18日 第2263号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「金属下落・エネルギー上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は工業金属や貴金属が下落したが、エネルギー価格の上昇もあってその他の商品はコスト面が意識され、買い戻しで上昇した商品が目立った。

昨日の米石油統計が予想比強気な内容だったことで、エネルギーに買い戻しが入ったが循環的な景気減速や今後もFRBは金融引締めを行う見通しであることが価格を下押ししている。

ここで重要なのは、FOMC議事録で「インフレ圧力が弱まっていることを示す証拠は今のところ殆どない」としていることであり、米国の金融引締め策がインフレ抑制に繋がっていない可能性がある点だ。これはスタグフレーションリスクが高まっていることを意味する。

それと同時に、物価上昇率がFRBが頑なに主張している2%に収れんせず、より高い水準で定着する可能性があることも示唆している。仮に長期金利が3%程度でもコア消費者物価指数が現在の5.9%といった状態が続くのであれば、市場参加者は国債よりもコモディティを選好することになり、再びインフレ・トレードが復活する可能性がある。

【本日の見通し】

本日は、昨日のFOMC議事録が「やや」ハト派であったが、利上げを継続することに変わりはないためドル高基調となり、期待インフレ率にも低下圧力が掛ることから商品価格は軟調な推移となる商品が目立つのではないか。

その意味で再び米国の金融政策動向の重要性が増すことになる。本日はカンザスシティ連銀、ミネアポリス連銀総裁の講演が予定されておりその発言に注目が集まる。最早タカ派・ハト派は余り関係がない。

この他、フォワードルッキングな指標としてフィラデルフィア連銀製造業指数、米金融政策の影響度合いを測る上で重要な中古住宅販売に注目している。特に中古住宅販売は販売件数も去ることながら、住宅価格と在庫水準に注目している。

8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 市場予想 ▲5.0(前月▲12.3)

7月米中古住宅販売件数 前月比▲4.9%の489万戸(前月▲5.4%の512万戸)※6月の中古住宅の中央価格は416,000ドル(5月は408,400ドル)

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の貿易統計は、輸出が前年比+19.0%と17ヵ月連続で増加し、市場予想の+17.6%、前月の+19.3%を上回った。輸入は前年比+47.2%(市場予想+45.5%、前月+46.1%)と上振れした。

輸出の増加は供給制約の解消から自動車が好調だったことに加え、鉱物性燃料や半導体製造装置の増加が寄与した。

半導体製造装置はこれまで中国・アジアが中心だったが米中対立の中で自国内生産を増加させているとみられる米国向けが増加、欧州向けも増加した。しかし中国・アジア向けも同様に堅調だった。

輸入の増加は明確にエネルギー価格の高騰に因るもの。原油価格は下落を始めているため来月の原油輸入増加の寄与度は低下すると見られるが、石炭・LNGは価格上昇が続いており、結局全体の輸入量は高水準を維持すると考えられる。

今後も緩やかな回復が続くと予想される。中国経済の正常化が見込まれるため。しかし同時に渇水に伴う電力供給停止などのトラブルも既に顕在化しており、それほど回復力は強くないとみている。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米石油統計で原油・ガソリン在庫が大幅な減少となったことが材料となり、この2営業日の大幅下落もあって買い戻しが優勢となったため。

昨日発表の米石油統計では、原油生産が▲0.1MBDの減少となり、製油所の稼働率が▲0.8%と低下したものの在庫は▲7.1MBの大幅な減少となり、在庫日数は過去5年平均を割り込んだ状態が続いた。

石油製品はガソリンの生産が減少(▲0.2MBD)、得率の改善で需要の旺盛なディスティレートの生産は増加(+0.1MBD)、出荷は各々過去5年平均を下回っており低迷しているのだが、生産調整の影響でガソリン在庫は減少、ディスティレートは増加した。

しかしいずれの製品も輸出を含む在庫日数は過去5年の最低水準を下回っており、製品需給がタイトであることを示唆している。

米国の国内製品出荷は20.16MBDと、過去5年平均を下回っており、明らかに米国内の需要は減少している。

しかし、輸出は好調で製品輸出は6.3MBDと増加している。基本はカナダやメキシコといった周辺国への輸出増加であるが、欧州向けの輸出も増加している。これは脱ロシアを進める中での構造的な輸出の増加と考えられる。

ただし、国内出荷の減少で国内出荷と輸出を含めた総需要は過去5年の最高水準を下回った。予想比強気な統計だったが、冷静に内容を吟味すると必ずしも強気な内容だったとは言い切れない。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は82.31ドル(前日比▲+1.98ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.75ドルまで縮小している。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-110ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は米石油統計が実はそれほど強気な内容ではなかったこと、米FRBの金融引締め継続観測を背景に下落に転じると考える。

ただし、供給面の制限が続いていることは変わりがないため下落余地も限定されるだろう。Brentに関しては90ドルの節目が意識され、この水準を下回るには材料不足か。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小動きで高値維持。ロシアからのガス供給減少は続いており、10月までに95%程度まで在庫が積増しされたとしても、ロシアが供給を停止すれば2ヵ月半で在庫が枯渇する、との独高官発言もあり、ガス調達が薄氷を踏む状態であることが材料。

在庫の水準は増加しているがあくまで足下は、「フローの需要をフローの供給がどれだけカバーできるか」がポイントといえる。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けることは確実といっても言い過ぎではない。

その観点では、ウクライナがクリミア半島を攻撃、クリミアの奪還を目指すことを表明したため、ロシアの嫌がらせ策は継続する可能性が高まった。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働させるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情により、本日更新しました。

欧州全体のガス在庫は8月15日時点で75.2%(前日74.8%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化しているが、10月で解消の見込み。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※諸般の事情により、本日更新しました。

米国天然ガス先物は一旦下落。ガス価格が年初来の高値に近接したため、一旦生産者のヘッジ売りが入ったためと考えられる。

ただし、米西部の渇水で水力発電が減少、発電燃料としてのガス需要が増加していることは変わらず、需給はタイトで高値を維持している。

仮にFreeportの輸出が再開した場合、HH価格はさらに上昇することになろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が下落。一昨日、今冬の価格が60ドルを大きく超えていたため、ヘッジ売りが入ったと考えられる。

JKM先物は全てのゾーンが55ドルを超えており、市場が恒常的な需給タイト化を「受入れ」始めたと考えられる。過去、このような価格上昇があった場合は構造的な変化となり、期先水準上昇が定常化することが多い。

しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

そして仮に価格が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は日本政府としては権益維持方針を強調しているが、今後どうなるかは分からない。ロシア側もLNGプラントのメンテナンスの観点から、欧米(+日本)の技術は不可欠であり、本音はそのまま契約を継続したいのではないか。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からの部品がなければLNGプラントのメンテナンスが困難であり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月14日時点の日本の発電用LNG在庫は239万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と漸く弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月8日-14日のLNGトレードは701万トンと、先週の829万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアも22%(31%)と低下している。

スポット需要の減少は、日中台韓の輸入が▲47万トンの減少となったことが大きい。またインドの減少で南アジアの輸入も▲33万トンの減少となった。

ターム契約は▲33万トンに減少。やはり日中台韓の輸入減少の影響が大きく、特に日本の輸入が▲15万トンの減少となった。

本日も、欧州情勢の改善が見込めないこと、気温上昇が続いていること、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫でガス供給にさらに制限が課される可能性があることから高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは全ゾーン上昇した。欧州のエネルギー不足の影響で、最も現実的なエネルギーとして石炭が選好されていることが背景。

その中でドイツは自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、現状それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も、利用可能な熱源は消去法的に石炭となること、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫もあってさらに脱ロシア炭の圧力が掛る可能性があること、その一方で供給ソースが限られていることから高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。FOMC議事録がタカ派的な内容になる、との見方からドル高が進行したこと、電力不足の影響で中国でトヨタやCATLなどの工場が閉鎖されるなど、最大消費国である中国の経済活動鈍化観測が強まっていること、中国の最大貿易相手経済圏であるユーロ圏がロシアとの対立で厳しい状態にあることが材料となった。

固有の材料としては、Norsk Hydroのスロバキアにある精錬所(16.5万トン/年)が閉鎖されたこと。ロシアとの対立でエネルギー調達がかなり厳しい状況にあることを示唆しており、この動きはその他の金属や、経済活動に広がるリスクがある。

アルミでも亜鉛と同様のことが起こり得る、と昨日のレポートにコメントしたが、実際にそういう動きが出始めている。

また、中国の一部で水不足による工場稼働の停止が起きているが、地区的には工業向けの需要減少を通じて工業金属価格の下落要因と整理すべきか。

8月に入ってからの上昇は、7月以降、売り越してきたファンド買い戻しの影響が大きく、為替や株価動向次第でポジションが再び解消される可能性がある。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.2.が満たされているが、3.はQT継続で基本的には下向きである。結果、高値は維持しようが、上昇余地も限定されると考える。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、中国の経済活動の一時的な停止の可能性が再度意識されていること、米国の金融引締め継続観測を受けて軟調な推移が予想されるが、同時に中国の経済対策期待が価格下支えすると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。

中国の経済活動が、水不足の影響で四川省での電力供給が止まり、トヨタとCATLが四川省の工場を閉鎖するなど、再びエネルギー問題が工業活動に悪影響を及ぼすとの見方が価格を下押しした。

また、不動産市場の状況に全く改善が見られないことも価格を下押ししている。

現状、鉄鋼製品価格を元にした回帰分析では、鉄鉱石は111.7ドル、原料炭は183.5ドル程度が適正価格。原料炭価格はこの水準から50ドル程度高いが、流動性プレミアムと考えられる。

今後、秋の党大会に向けて政治のシーズンとなり、中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅胃減少していることから、対策を打ったとしても余地は限られる。

恐らく、政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。

本日は、中国の製造業活動停滞と根強い不動産セクターの停滞懸念が価格を下押しするが、中国当局の経済対策の期待が価格を支えよう。

◆貴金属

昨日の金価格は続落した。FRBは金融引締めを継続する、との見方が根強く、昨日は米短期金利・長期金利とも上昇したことが実質金利を押し上げたため。

銀は金価格の下落を受けて下落、PGMは株価が調整したことで下落。

金の基準価格は前日比▲24ドルの1,189ドル、リスク・プレミアムは+10ドルの573ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲330ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,430ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲330ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲4.0ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.3ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

本日は、FOMC議事録は想定よりもハト派ではあったが、それでもインフレ抑制のための利上げは継続される見込みであり、総じて軟調推移を予想。

PGMに関しても株価の調整が下押し圧力となるため、軟調推移か。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の反発を受けて水準を切り上げ、大豆も同様野天会となった。

一方、ロシア・ウクライナからの輸出増加で供給懸念が後退している小麦は、ドル高進行局面で水準を切り下げる展開となった。

インフレ・トレードで広く商品が物色されたが、この数年で非景気循環銘柄であるはずの穀物も燃料との互換性からエネルギー価格との連動性が高まっており、原油価格の動向を受けやすくなっている(特にトウモロコシと大豆)。

ただし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

本日は米FOMC議事録がややタカ派に転じており、利上げ継続の可能性が再度意識される中でドル高が進行しやすいため、下落を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「2023年の原油価格は下落を想定」

原油需給バランスの前年比変化と、原油価格の前年比上昇率の関係は概ね過去と同様の流れとなっており、足下の前年比価格上昇率の低下は、需給バランスの前年比変化がプラス(緩和)方向に働いたことが影響している。

足下の実力ベースの需給バランスは緩和していると考えられ、原油価格の前年比上昇率には下押し圧力が強まる見込み。

ここで実力ベースの価格とはBrent原油とUral原油の平均価格のこと、と弊社では定義している。両者はスイート・サワー、軽質・重質の違いからウクライナ危機が勃発するまでは1~2ドルの価格で取引されていた。

ロシアに対する制裁でウラル原油はBrent原油対比で大幅なディスカウントとなっており、逆にBrent原油はプレミアムの状態。

やや乱暴ではあるが、弊社はこの2つの原油価格の平均を「実力ベースの価格」と定義している。脱ロシアを行うために、より高い価格を提示する必要がある、ということである。

OECD在庫と原油価格の間には高い相関性が見られるが、DOEの予想だと2022年9月には過去5年の最低水準を回復し、「通常の水準」への回帰が期待されている。

これと、米利上げのタイミングも考えると10月以降に原油価格はさらに水準を切下げる可能性が高いと考えられる。これは景気の循環的な減速に従って価格が下落する、としている弊社の見通しに沿うものだ。

しかし、OECD在庫は供給面の制限が続くため、DOEの見通しでは2023年中も過去5年平均を回復するには至らないと予想している。

つまり需給はUral原油を含めたとしてもタイトな状態が続き、下落したとしても下落余地は限定されると考えるのが妥当だろう。

また、2019年9月以降の期間3年のデータを元にした回帰分析の結果は、2023年のWTI原油の平均価格が67.3ドルになることを示唆している。

しかし、このOECD在庫のバランスは「ロシア産原油を含んだ」需給バランスであるため、我々西側諸国が購入できる原油価格はこれよりも高くなる可能性が高い。

Ural原油とほぼ同じ価格で取引されていたBrent原油との現在の平均値が上述の通り原油の実力ベースの価格であるとした場合、Brent原油・WTI原油のスプレッドを考慮すると、2023年の想定平均価格はWTI原油が80ドル、Brent原油が86ドルとなる。

ただし、ロシア産原油の禁輸がさらに厳しくなればこのスプレッドが拡大するため上振れ、解除されればスプレッドが縮小するため、価格は切り下がることになる。

ロシアとウクライナの停戦が合意する見込みは今のところなく、制裁が強化される可能性はベースシナリオになる。しかし、欧州のエネルギー供給が充分ではなく、域内のエネルギー需要を満たすためにはロシアに対する制裁解除は不可避なようにも見える。

いずれにしてもここは政治マターとなるため、まだどちらともいえないが、やはり2023年の価格は景気減速の影響で水準を切下げると予想される。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について