CONTENTSコンテンツ

景気減速観測で総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年8月17日 第2262号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気減速観測で総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は天然ガスや石炭などの発電燃料価格が上昇したが、その他は下落した。米金融引締めは今後も継続する見込みであり、長期金利が上昇、同時にイランとの核合意期待などを材料に原油価格が下落していることで期待インフレ率が低下、インフレ・トレードの巻き戻しが継続していることが全体の地合を弱気にさせている。

景気循環銘柄には下押し圧力が掛かりやすい地合であるが、非鉄金属はしっかり。中国の経済対策実施観測を背景に、ファンドが買い戻しが進めていることが材料。

昨日はウォルマート決算が市場予想よりも上振れし、「米個人消費は堅調」とみられたことが、株の買い戻し材料となった。

しかし、商品市場は需要の減速を織り込み始めており、それほど強い買い材料にはならなかった。

【本日の見通し】

本日は、夜間の米個人消費とFOMC議事要旨の発表を控えてアジア~欧州時間は様子見でもみ合うが、小売売上高は減速が見込まれているため、恐らく景気循環銘柄は、需要減少観測が強まり下落すると考える。

ただし同時に金融引締めペースの減速観測が強まるため、ファイナンシャルな面で価格が支えられるため、やや軟調ながらも現状水準を維持すると考える。

FOMCは利上げやQTのペースに関しての議論に注目。さらなる金融引締めの加速や、利上げの打ち止めが議論されたか。恐らく後者の議論は行われていないだろう。

本日発表の米小売売上高の予想は以下の通り。

7月日本小売売上高 前月比+0.1%(前月+1.0%)除く自動車 ▲0.1%(+1.0%)除く自動車・ガソリン +0.4%(+0.7%)除く自動車・建材 +0.6%(+0.8%)

【昨日のトピックス】

7月の米住宅着工は前月比▲9.6%の144.6万戸と大幅減少となり、今年2月以来の水準となった。米国のインフレ沈静化を目的とした金融引締めとQTの影響で長期金利が上昇したことが影響したと考えられる。

また、住宅着工許可件数も▲1.3%の167.4万戸と、やはり金利上昇の影響が出たようだ。今後、米国の金融引締めは継続し、長期金利の高止まりは続くことになるだろう。

米住宅市場の先行指標である中古住宅販売は、6月は前月比▲5.4%の512万戸と減少している。7月の予想は▲4.9%の487万戸と減速基調を維持の見込み。

これまで「供給不足のために販売が低調」という説明を目にしてきたが、販売可能個数は昨年12月の88万戸から、6月時点では126万戸に増加しており、在庫月数も1.7ヵ月から3.0ヵ月に上昇しており、米国の住宅市場には急速に余剰感が出ている。

価格上昇の背景には資材不足や賃金上昇を背景とした価格上昇があり、これと金利上昇が合わせ技となって住宅販売や着工を鈍化させている。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。イランが核合意に復帰の可能性、と報じられていることが100万バレルオーダーでの供給増加観測を強めていることが売り材料となっている。

しかし、核合意間近と伝えられてからもう1年以上、合意もしていないし、コロナショックから回復後の50万バレル程度の増産以外、増産も起きていない。

どちらかと言えば昨日は、米金融引締め継続による景気への懸念が材料になったとみるべきだろう。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は80.53ドル(前日比▲0.92ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は12.2ドルまで縮小している。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-110ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日もトレンドがベア転しているため、下値余地を探る展開。ただしBrentは90ドルの節目が近づいているため、底堅い推移に。

なお、本日発表予定の米石油統計は▲0.1MBの原油在庫減少が予想されているが、朝方発表のAPI統計は▲0.4MBの在庫減少が確認されており、価格上昇要因に。

しかしそれよりは価格下落の中で米石油製品出荷が増加したかどうかの方が、足下の市場の関心が景気に移っているため、より重要。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。ライン川の水位低下に伴うエネルギーの供給懸念と、ロシアからのガスフローの減少継続で、域内需給が逼迫しているため。

在庫の水準は増加しているがあくまで足下は、「フローの需要をフローの供給がどれだけカバーできるか」がポイントになっている。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けることは確実といっても言い過ぎではない。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働指せるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は8月14日時点で74.7%(前日74.4%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化しているが、10月で解消の見込み。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が低下したが、以西が急騰している。

このことは欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいることを示唆している。実際、欧州のLNGネット輸入量は季節性を無視して増加している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は上昇。米西部の渇水で水力発電が減少、発電燃料としてのガス需要が増加していることが背景。米中西部の気温は低下見通しだが、米西部と東部は例年よりも気温が上昇する見通しとなっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。欧州向けのロシア産ガス供給制限や渇水によるスポットカーゴ需要の高まりが価格を押し上げている。

JKM先物はほぼ全てのゾーンが55ドルを超えており、市場が恒常的な需給タイト化を「受入れ」始めたと考えられる。過去、このような価格上昇があった場合は構造的な変化となり、期先水準上昇が定常化することが多い。

しかし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給が持続出来なくなるリスクが高まることになる。

恐らく構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は日本政府としては権益維持方針を強調しているが、今後どうなるかは分からない。ロシア側もLNGプラントのメンテナンスの観点から、欧米(+日本)の技術は不可欠であり、本音はそのまま契約を継続したいのではないか。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からの部品がなければLNGプラントのメンテナンスが困難であり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月7日時点の日本の発電用LNG在庫は230万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と昨年の水準を上回った。

弊社の集計では過去5年平均に漸く到達しつつある状況で、在庫状況はやや緩和している。

今年の夏は猛暑で電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

8月8日-14日のLNGトレードは701万トンと、先週の829万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアも22%(31%)と低下している。

スポット需要の減少は、日中台韓の輸入が▲47万トンの減少となったことが大きい。またインドの減少で南アジアの輸入も▲33万トンの減少となった。

ターム契約は▲33万トンに減少。やはり日中台韓の輸入減少の影響が大きく、特に日本の輸入が▲15万トンの減少となった。

本日も、欧州情勢の改善が見込めないこと、気温上昇が続いていることから高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは期近が下落も第2限月以降が上昇した。欧州のエネルギー不足の影響で、最も現実的なエネルギーとして石炭が選好されていることが背景。

その中でドイツは自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、現状それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も、利用可能な熱源は消去法的に石炭となること、その一方で供給ソースが限られていることから高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は高安まちまちだった。原油価格が続落する中で期待インフレ率が低下したことや、米住宅着工件数が市場予想を大幅に下回ったことが売り材料となったが、住宅着工許可件数は市場予想ほどの減少ではなかったことや、企業決算を受けた株価の上昇、といった買い材料も存在したため。

昨日最も上昇したのが亜鉛。Nyrstarの精錬所の稼働が9月1日から停止。修繕目的ではあるが、「追って発表があるまで」稼働は停止するとされたことが材料となった。

ロシアとの対立によるガス供給不足、それに伴う電力供給不足、価格上昇が採算性を悪化させているため。同様の事態はアルミでも起こり得る。

また、中国の一部で水不足による工場稼働の停止が起きているが、地区的には工業向けの需要減少を通じて工業金属価格の下落要因と整理すべきか。

8月に入ってからの上昇は、7月以降、売り越してきたファンド買い戻しの影響が大きく、為替や株価動向次第でポジションが解消される可能性がある。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.2.が満たされているが、3.はQT継続で基本的には下向きである。結果、高値は維持しようが、上昇余地も限定されると考える。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、基本的に中国の経済対策期待が価格を押し上げると考えるが、米国の金融引締め継続や米景況感を背景とするドル高が上値を抑えると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は中心限月が下落した。

中国の経済活動が、水不足の影響で四川省での電力供給が止まるなど、再びエネルギー問題が意識されていることが全体的な地合を弱気にさせた。

現状、鉄鋼製品価格を元にした回帰分析では、鉄鉱石は112.5ドル、原料炭は183.5ドル程度が適正価格。原料炭価格はこの水準から50ドル程度高いが、流動性プレミアムと考えられる。

今後、秋の党大会に向けて政治のシーズンとなり、中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅胃減少していることから、対策を打ったとしても余地は限られる。

恐らく、政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。

本日は、中国の製造業活動が天候要因で再び制限されていることと、中国当局の経済対策の期待、といった強弱材料が混在するため現状維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は続落した。昨日は企業決算を受けた金利上昇で実質金利が上昇したことが影響した。銀価格は金価格の下落を受けて水準を切り下げた

PGMはほぼ金と同じ値動きとなったが、株の上昇もあり金銀と異なり、前日比プラスで引けた。

金の基準価格は前日比▲5ドルの1,218ドル、リスク・プレミアムは変わらずの562ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲330ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,430ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲330ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲4.0ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.3ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

本日は、金融政策動向もさることながら、企業決算が株価や金利を左右しているため、引き続き神経質な推移が続くと考えられる。ただし基本的にはレンジワーク継続だろう。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落。米エネルギー価格が景気の先行き懸念を材料に続落したことでトウモロコシが続落、大豆・小麦もそれに連れる流れとなった。

インフレ・トレードで商品が物色されたが、この数年で非景気循環銘柄であるはずの穀物も燃料との互換性からエネルギー価格との連動性が高まっており、原油価格の下落が価格の下押し要因となった。

ただし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きである。

本日は原油価格動向次第ではあるが、需給ファンダメンタルズがタイトな状況に変わりはないため、買い戻しで上昇すると見る。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について