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米中統計悪化とインフレ期待後退で総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年8月16日 第2261号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米中統計悪化とインフレ期待後退で総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は軒並み下落した。米ニューヨーク連銀製造業指数が市場予想・前月を大きく下回る▲31.3となったこと、中国の主要統計が減速したことが需給ファンダメンタルズの緩和観測を強めたこと、それに伴う原油価格の下落が期待インフレ率を押し下げ、インフレ関連資産の売り圧力を強めたことが背景。

昨日の動きはやや特殊で、米統計が悪化したことで金融引締め加速観測が後退、金利が低下、それを受けて株が上昇する形となった。通常であればリスク選好、金利低下でドル安となりそうなものであるが、恐らく米国債・米国株を物色する流れでドル資金が必要になった、ということだろうか。

リスクテイクの指標であるビットコインが売られていることから、リスクオンによる株高でなかったと考えるべきだろう。

中国は想定以上に状況が良くない。やはり、人口動態ピークアウト後の不動産市況の悪化の調整は、いかに強権的な中国でも困難、ということなのだろう。

足下、金融機関に対する支援や資本注入も、地方政府の重要な財源である国有地使用権の売買が停滞しており、その能力が低下している点も気になるところではある。

ただ、日本で見られたような金融市場の混乱は、中国は強権的であるためどこか1社が破綻するまで何もしない(世論の許可を得るまで何もできない)、ということはないため恐らく回避できるとは見ているが、規模によるためまだ予断は許さない。

【本日の見通し】

本日は、米金融引締め観測の減速を受けて再びドル安が進行すると考えられるため、テクニカルに買い戻しが入る商品が目立つのではないか。

しかし、景気は2大大国である米中の減速が鮮明になりつつあるため、景気循環銘柄の戻りは鈍く、上値も重いと考える。

本日の予定されているイベントで注目は以下の通り。

8月独ZEW期待指数 市場予想 ▲52.7(前月▲53.8)

7月米住宅着工件数 前月比▲2.0%の152.8万戸(前月▲2.0%の155.9万戸)

7月米住宅建設許可件数 前月比▲3.3%の164万戸(前月+0.1%の169.6万戸)

【昨日のトピックス】

中国の工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースで+3.8%(前月+3.9%)と伸びが減速、1-7月累計では前年比+3.5%(1-6月期+3.4%)と伸びが小幅であるが加速した。引き続き、ロックダウンの影響と住宅セクターの加熱沈静化策の影響で地方財政も厳しく、景気刺激のための公共投資の効果との綱引きになっていると考えられる。

その傾向が顕著なのが固定資産投資で、1-7月期が前年比+5.7%(1-6月期+6.1%)と減速、内訳を見ると公的セクターが+9.6%(+9.2%)と加速する一方でシェアの大きい民間セクターが+2.7%(+3.5%)と急減速したことが影響した。

住宅販売は1-7月期で前年比▲31.4%の5兆7,683億元(1-6月期▲31.8%の4兆2,317億元)と低迷、不動産開発投資も前年比▲6.4%の7兆9,462億元(1-6月期▲5.4%の6兆8,314億元)と減速している。

現在、中国のGDPに占める個人消費の比率も高まっているが、個人消費の指標である小売売上高は年初来累計で前年比▲0.2%の24兆6,302億元(1-6月期▲0.7%の21兆432億元)と小幅に回復しているが、単月ベースでは前年比+2.7%の3兆5,870億元(+3.1%の3兆3,842億元)と伸びが減速している。

総じてまだ中国が置かれている状況が厳しいことを示唆する内容だったが、今夏に3期目の続投を北戴河会議で長老に確認する習近平国家主席がこのままの景気減速を容認出来るとは考え難く、経済通の李克強首相も「国難」として習近平主席を支える意向であり、景気刺激策がハードランディングを回避するとの期待はある。

しかし、党大会終了まではゼロコロナ政策=ロックダウン継続、が見込まれるため先行きの見通しのリスクは下向きと言わざるを得ない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は大幅に続落した。米ニューヨーク連銀製造業指数が大幅な悪化となったことに伴う需要の減少観測と、統計悪化に伴う金融引締め減速観測が株高・債券高をもたらし、これらの資産物色に伴うドル高進行が価格を押し下げた。

今回の下落でオプションが「比較的」溜まっていた95ドルを割り込んだところで下げが加速している。しかし90ドルの大きなサポートラインを割り込んでいないことから、当面は90ドル~99ドルがレンジとして意識される。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は80.9ドル(前日比▲3.8ドル)となっており、Brentの実力ベースとの価格乖離は12.7ドルまで縮小している。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-110ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日の下落が大きかったことから一旦買い戻しで上昇すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。ライン川の水位低下に伴うエネルギーの供給懸念で、結局パイプラインが整備されているガスをロシア側から購入するしかなくなる、との見方が価格を押し上げている(あるいはガスを確保できなくなった生産者の売りヘッジの買い戻し)。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けることは確実といっても言い過ぎではない。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働指せるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。なお、域内最大の原子力発電国であるフランスの原発稼働率は、渇水の影響で大幅に低下しており、過去5年平均から▲30%も低い水準での稼働となっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

※これまでNELパイプラインデータしか取得できませんでしたが、ノルドストリーム全量(NELパイプライン+OPALパイプライン)のデータを取得できるようになったため、データを更新しました。

欧州全体のガス在庫は8月13日時点で74.4%(前日73.9%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化しているが、10月で解消の見込み。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が低下したが、以西が急騰している。

このことは欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいることを示唆している。実際、欧州のLNGネット輸入量は季節性を無視して増加している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小動き。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。欧州向けのロシア産ガス供給制限や渇水によるスポットカーゴ需要の高まりが価格を押し上げた。

JKM先物はほぼ全てのゾーンが50ドルを超えており、市場が恒常的な需給タイト化を「受入れ」始めたと考えられる。過去、このような価格上昇があった場合は構造的な変化となり、期先水準上昇が定常化することが多い。

ただ、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。少なくとも日本では、電力料金の価格体系を変更しなければ電力供給を持続可能な状況にあるとはいえない。

恐らく構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

先日発表された中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は日本政府としては権益維持方針を強調しているが、今後どうなるかは分からない。ロシア側もLNGプラントのメンテナンスの観点から、欧米(+日本)の技術は不可欠であり、本音はそのまま契約を継続したいのではないか。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からの部品がなければLNGプラントのメンテナンスが困難であり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月7日時点の日本の発電用LNG在庫は230万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と昨年の水準を上回った。

弊社の集計では過去5年平均に漸く到達しつつある状況で、在庫状況はやや緩和している。

今年の夏は猛暑で電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

本日も、欧州情勢の改善が見込めないこと、気温上昇が続いていることから高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇した。欧州のエネルギー不足の影響で、最も現実的なエネルギーとして石炭が選好されていることが背景。

その中でドイツは自国の石炭を増産する意思は今のところないこと(特に褐炭)、それにより代替となる高カロリー炭の需要が高まること、豪州炭の輸出が減少していることなどが材料となっている。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、現状それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も、利用可能な熱源は消去法的に石炭となるため、高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。昨日発表された中国の工業生産や固定資産投資が市場予想を下回り、中国の経済活動の回復が遅れていることが確認されたこと、といった需給ファンダメンタルズ面に加え、ドル高が進行したことがファイナンシャルな面で価格を下押しした。

ここまでの価格上昇はファンド買い戻しの影響が大きく、ドル高急進時には下落する可能性がある、と指摘していたがそれが顕在化した形。

中国の電力供給は回復した、と言われていたが渇水の影響などで四川省などの電力供給は制限されており、まだ完全に解消したという訳ではない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測は根強いこと、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.2.が満たされているが、3.はQT継続で基本的には下向きである。結果、高値は維持しようが、上昇余地も限定されると考える。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323(当初見通しよりもやや後ろ倒しした)あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は昨日の下落が大きかったこと、米金融引締めペースの減速観測を背景に金融政策格差の解消を意識したドル安進行が予想されるため、買い戻しで上昇すると考える。

しかし、最大消費国である中国の経済活動の回復の遅れから上値も重いと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

昨日発表された中国の重要統計が、同国の工業活動の減速を示唆するものであり、在庫水準が増加していた鉄鉱石・原料炭には調整圧力が強まった。

一方、中国政府による公共投資の影響で需要が下支えされている鉄鋼製品は在庫の減少が続いており、昨日も先物は比較的堅調な推移となった。

現状、鉄鋼製品価格を元にした回帰分析では、鉄鉱石は113.3ドル、原料炭は183.5ドル程度が適正価格。原料炭価格はこの水準から50ドル程度高いが、流動性プレミアムと考えられる。

今後、秋の党大会に向けて政治のシーズンとなり、中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅胃減少していることから、対策を打ったとしても余地は限られる。

恐らく、政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。

本日は、中国経済統計の悪化とそれを受けた中国当局の対策期待もあり、高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米経済統計の悪化を受けた金融引締め減速観測が株高・債券高・ドル高を促した。昨日はドル高進行によるドル価の上昇がリスク・プレミアムを押し下げ、金価格を押し下げた。銀価格も金に連れ安。

金の基準価格は前日比+5ドルの1,218ドル、リスク・プレミアムは▲27ドルの562ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲330ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,430ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲330ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲4.0ドル程度押し下げると考えられる。

逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.3ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

PGMは金銀価格に連れる動きとなり、大幅な下落。株価の上昇はあったが、昨日は為替要因の方が強く意識された。

本日は、昨日はドル高が進行したが、米国金利の低下やリスクテイク再開でドル安が進行すると考えられ、堅調な推移を予想。

PGMは金融引締め観測減速で株高となっていることからやはり上昇すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落。米経済統計の悪化を受けて原油が下落したことや、それに伴う10年期待インフレ率の低下を受けて投資需要が後退、利益確定の売りに押された形。

ただし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、中期的なリスクは引き続き上向きである。

本日は、米金融引締め観測の後退を受けた金利低下と、株が堅調に推移していることによるリスクテイクの動きでドル安が予想されるため、買い戻しで上昇すると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「小麦価格は再度上昇余地を試す展開か」

ロシアのウクライナ侵攻で一時13.4ドルまで上昇したシカゴ小麦価格は8ドル台での推移となっている。

価格上昇の要因は、一大穀倉地帯である黒海周辺地区が戦場となり、ウクライナの作付けや同国の主要穀物輸出港であるオデーサからの輸出停止観測が強まったため、反射的に投機の買い戻しが入ったことによる。

しかし米国の金融引締めペースが加速した5月以降、投機の買いポジションの解消が進んでネット売り越しに転じるまでポジション調整が進んだことや、オデーサからウクライナ産小麦の輸出が再開したことが価格を押し下げたと考えられる。

8月12日に発表された米農務省の需給報告で、小麦の生産見通しは世界全体で昨年から+35万トン増加の7億7,960万トンと過去最高を記録する見通しだが、ロシア・ウクライナからの輸出が再開するなどの貿易取引の回復もあり、需給バランスは▲425万トンと引き続き供給不足となる見込みである。

ただし、昨年の▲908万トンの供給不足からは+483万トン需給が緩和するため、小麦価格の調整要因となる。

しかし、小麦価格に対して説明力が高い需給率は78.8%と昨年の78.2%から+0.6%上昇、在庫率も34.1%と35.1%から▲1.0%低下の見込みであり、需給面で小麦価格は下支えされる可能性が高い。

ではさらに下落することになるのかといえば、そうでもなさそうだ。まず需給面では供給不足幅が2021-2022穀物年度から緩和する見通しではあるものの、今回の生産増加の大半がカナダ(+1,335万トン)、ロシア(+1,284万トン)、米国(+373万トン)によるものであり、幅広い地域での増産というわけではなく、局地的な異常気象の発生が生産を下振れさせやすい。

一方で、ウクライナ(▲1,351万トン)、インド(▲659万トン)、EU(▲619万トン)、豪州(▲330万トン)と、特にロシアを除く黒海周辺~欧州にかけて生産が下振れする見通しである。

ラニーニャ現象発生による渇水や気温上昇、山火事の影響が既に顕在化しており、今年の冬場までラニーニャ現象が継続して異常気象が長びく可能性があることを考えると、その他の地区でも生産面のリスクが顕在化して生産見通しは下振れのリスクが大きいといえる。

また、現在ではウクライナ産の小麦輸出が再開していると報じられているが、これもウクライナの制圧を狙っているとされるロシアの軍事侵攻の程度によっては、再び輸出が制限されることは充分にありえる話だ。

穀物は為替や株といったファイナンシャルな要因よりも、需給バランスの価格に対する説明力が高いが、それでも期待インフレ率の影響を少なからず受けている。

インフレに期待して原油は非鉄金属、貴金属に投資をしていた市場参加者も多く、米国がインフレを抑制する方向に舵を切っている以上、これらの商品には下押し圧力が掛かりやすい。

このことは穀物価格もインフレ系景気循環系商品が売られる中では、同様に手仕舞い売りで下押し圧力が掛かりやすいことを意味し、小麦価格上昇の一翼を担っていたファンド筋のネット買越しポジションも、直近では売り越しに転じている。

しかし、直近のインフレ関連統計では米国のインフレがピークアウトした可能性が示唆され、景気循環系商品に見直し買いが入っている。特に株価の上昇はファンド筋の投資余力の改善をもたらすことから、潜在的に供給リスクが顕在化する可能性がある小麦に見直し買いが入る可能性は充分にあり得る。

そもそも今年の秋~冬にかけてラニーニャ現象が継続する見込みなのだ。足下調整が進んでいた小麦価格であるが、再び上振れリスクを意識しておく必要があるだろう。


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