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米国のインフレピークアウト観測強まる
  • MRA外国為替レポート

2022年8月15日号

◆先週の市場総括


先週は米国でインフレ懸念が後退。消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)ともに予想を下回る上昇率となり前月から上昇率が低下。また期待インフレも鎮静化の兆しを示した。

これによりFRBによる過度な引き締めへの懸念が後退。米国株はインフレによる消費圧迫や金利上昇への懸念が緩和して週末にかけて大きく上昇した。

日経平均も週末には28,500円台で引け。ドル円相場は135円ちょうど近辺で始まり、CPIの発表を受けてインフレ懸念後退、大幅な利上げ観測の後退などから132円ちょうどまで急落した。

ただ週末にかけては持ち直し133円台を回復し引けは133円50銭近辺。ユーロドル相場は1.0180で始まり1.03台にユーロ高ドル安が進んだ。ただ週末にはドルが買い戻されて引けは1.0260。

ドルインデックスは前週末の106ポイント台から105ポイント台へ下落。ユーロ円相場は137円40銭で始まり一時138円台に乗せたものの、週末には反落して136円台~137円近辺で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅上昇。好業績銘柄を中心に買われた。ただ米CPIの発表を前に様子見姿勢も強まった。引けは前週末比+73円高の28,249円。

ドル円相場は135円ちょうどで始まり朝方に50銭台に上昇。その後反落して135円台前半で上下した。夕刻、欧州市場から米国市場にかけては135円ちょうどから134円40銭まで下落。

ユーロ円相場は137円40銭で始まり堅調。夕刻は137円80銭~90銭。ただ欧米市場では137円10銭近辺に下落した。

ユーロドル相場は1.0180で始まり夕刻、欧州市場朝方から米国市場にかけては1.0210~20に上昇して推移した。

米国株はまちまち。景気後退懸念が和らいだものの、大手半導体メーカー・エヌビディア社が業績見通しを大幅下方修正したことが嫌気された。

NYダウは前週末比+29ドル高の32,832ドル。ナスダックは▲13ドル安の12,644ドル。

米10年債利回りは2.75%に低下。2年債は3.21%近辺で横ばい。

NY連銀の調査(7月)で期待インフレ率が低下し、大幅な利上げへの懸念が緩和した。1年期待インフレ率は前月6.8%から6.2%へ、中長期は3.62%から3.18%へ低下した。

ただ長期金利低下が一服するとドル円相場は引けにかけて持ち直し135円ちょうど近辺で引け。

ユーロドル相場は1.0190へ小幅安。ユーロ円相場は137円60銭で引け。

火曜日の東京市場では日経平均が5営業日ぶりに下落。米半導体大手の業績見通し悪化を材料に半導体関連株が下落。大幅赤字決算のソフトバンク社が大きく売られて指数を押し下げた。

28,000円台では戻り売り・利益確定売りが出やすく、引けは前日比▲249ドル安の27,999ドル。

為替市場では水曜日の米CPI発表を前に総じて小動き。ドル円相場は135円ちょうどで始まり早々に134円70銭に下落したが下値は限定的。午後には135円10銭に反発した。

ユーロ円相場も同様に137円60銭~70銭で始まり朝方20銭台に下落したが午後には90銭に上昇。ユーロドル相場は1.0190~1.02ちょうど近辺で小動きもみ合い。

欧州市場に入るとユーロ高ドル安に振れて1.0250。ドル円相場は134円70銭台に下落。

ユーロ円相場は138円30銭に上昇。米国市場では動意薄ながらドルが底固く推移。

ドル円相場は135円ちょうど近辺でもみ合い引けは135円10銭~20銭。

ユーロドル相場はやや軟調で1.0210。ユーロ円相場は138円をはさんで上下し引けは138円ちょうど近辺。

米国株は主要3指数とも下落。CPIの発表を翌日に控え様子見姿勢が強まるなか、前日に続きマイクロンテクノロジー社が半導体需要見通しを大幅に下方修正したことからハイテク株が売られた。

NYダウは前日比▲58ドル安の32,774ドル。ナスダックは▲150ドル安の12,493ドル。米10年債利回りは2.785%、2年債は3.27%とやや上昇した。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。前日に米半導体株が大きく下落したことで、市場心理が悪化、日本株でも半導体関連に売り。引き続き米CPI発表を前に手控えが続いた。

一時▲270円安となったあと、引けは▲180円安の27,819円。

ドル円相場は135円10銭~20銭で始まり欧米市場にかけては135円ちょうど近辺で小動きもみ合い。ユーロドル相場は1.02ちょうど~1.0220でもみ合い小動き。

欧州市場から米国市場朝方にかけてはやや強含んで1.0250。ユーロ円相場は138円ちょうどで始まり137円90銭近辺で小動き。米国市場朝方にかけて138円30銭に小じっかり。

注目の米国消費者物価指数(CPI、7月)は総合指数が前月比±0.0%と前月+1.3%から大きく伸びが鈍化。前年同月比も前月+9.1%から+8.5%に大きく低下した。

コア指数は前年同月比+5.9%と前月と変わらず、+6.1%への上昇加速予想を下回った。

これを受けてインフレ懸念、過度な金融引き締め観測が後退。米10年債利回りは一時2.81%から2.69%へ、2年債は3.32%から3.10%へ低下した。

米国株は主要3指数が大きく上昇。NYダウは前日比+535ドル高の33,309ドル、ナスダックは+360ドル高の12,854ドル。VIX指数は▲2.09ポイント低下して19.68と20ポイントを割り込んだ。

ドルは大きく下落。円が買い戻された。ドル円相場は135円ちょうど近辺から132円ちょうど近辺へ3円ほど急落。

ユーロドル相場は1.0250から1.0360へ上昇。

ユーロ円相場は円買い戻しが勝り138円30銭から136円60銭へ下落した。ただその後、シカゴ連銀総裁がインフレ率低下を歓迎しつつも依然高すぎる、とし、年末にかけて利上げを続ける方針の支持を表明した。

ミネアポリス連銀総裁は、FF金利は年末には3.9%、来年末には4.4%と発言。こうした発言を受けて長期金利は反発。10年債利回りは2.79%。2年債は3.23%。

ドルは持ち直し。ドル円相場は133円ちょうど近辺で引け。ユーロドル相場は1.03ちょうど近辺。ユーロ円相場は136円60銭~137円10銭で上下して引けは137円ちょうど近辺。ドルインデックスは105.22に下落した。

木曜日の東京市場は祝日で休場。アジア市場のドル円相場は132円90銭で始まり朝方60銭に下落。その後は反発して133円30背近辺でもみ合ったが上値重く、午後から夕刻にかけては132円40銭~70銭で推移した。

ユーロドル相場は1.03ちょうど近辺で始まり1.0270台に下落。ただ午後には反発して1.0340に上昇した。

ユーロ円相場は136円90銭で始まり朝方60銭に下落。その後は137円10銭~136円70銭近辺で上下した。

注目の米国生産者物価指数(PPI、7月)は前月比+1.1%から+0.5%へ、前年同月比は+11.3%から+9.8%へ上昇率が鈍化した。コア指数も前年同月比+8.4%から+7.6%へ上昇率が鈍化した。

これによりインフレがピークアウトしてきたとの見方が強まった。

ドルは発表直後に下落。ドル円相場は131円80銭へ、ユーロ円相場でも円高となり136円30銭へ。ただその後はドルが反発。ドル円相場は133円ちょうど近辺で引け。

ユーロドル相場は1.0360へ上昇したがじり安となり1.0320へ反落して引け。

ユーロ円相場は持ち直し137円30銭~40銭で推移して引けた。

ドルインデックスは105.12。

サンフランシスコ連銀総裁は、インフレとの戦いに勝利したと宣言するのは時期尚早としつつ、9月の利上げは0.75%の可能性を排除しないものの0.50%がベースと述べた。米10年債利回りは2.891%、2年債は3.226%。

金曜日の東京市場では休場明けの日経平均が大きく上昇。米国のCPI、PPIがインフレピークアウトの兆候を示したことで大幅利上げの懸念が後退。休場前の水曜日に米国株が大幅高となったことが支えとなった。

グロース株中心に買われ、また好決算・業績見通しも手掛かり。水曜日の引値比+727円高の大幅高となり28,546円で引け。

ドル円相場は133円ちょうど近辺で始まり50銭に上昇したあと133円台前半で上下して夕刻から欧州市場では133円30銭近辺でもみ合い。

ユーロ円相場は137円30銭で始まり60銭に上昇した後はじり安。夕刻は137円10銭近辺に反落した。

ユーロドル相場は1.0320で始まり10~20でもみ合い。その後欧米市場にかけては1.0240へ下落した。

欧州では引き続きエネルギー供給不安による景気懸念が強い状況が続いた。ライン川の水位が低下してドイツの石炭輸送に支障が生じるとの懸念、フランスでも川の水位低下や温度上昇で原発稼働に支障が生じているとの懸念が広がった。

米国ではインフレ懸念がさらに後退した。

輸入物価指数(7月)は前月比▲1.4%。ミシガン大学消費者信頼感指数(8月)は前月51.5から予想以上に改善して55.1。期待インフレ率は1年が5.2%から5.0%へ低下、5年-10年で2.9%から3.0%やや上昇したが小幅にとどまった。

米国株は上昇。インフレピークアウト期待が強まるなか、消費への悪影響懸念も後退。過度な利上げ観測も後退。消費関連銘柄やハイテク株が堅調。

NYダウは前日比+424ドル高の33,761ドル。ナスダックは+267ドル高の13,047ドル。VIX指数は▲0.67ポイント低下して19.53。

米長期金利は2.842%に小幅低下、2年債は3.251%に上昇。

ドル円相場は強いミシガン大学消費者信頼感指数を受けて133円90銭近くに上昇。ただその後は反落して50銭~70銭で上下して引けは133円50銭。

週末のポジション調整のドル買い戻し、円売戻しで底固い動きとなった。

ユーロドル相場は1.0240に下落したあと1.0260~70で上下して引けは1.0260。

ユーロ円相場は137円70銭に上昇した後は137円ちょうど近辺に反落してもみ合い引けた。

リッチモンド連銀総裁は、インフレを2%の目標に引き下げるため引き続き利上げ継続が必要、とし、実質金利をプラスにしたい、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

先週は物価指標でインフレ懸念が後退。今週は景気動向に注目。

月曜日 NY連銀製造業景気指数(8月、予想5.0、前月11.1) NAHB住宅市場指数(8月、予想55、前月55)

火曜日 住宅着工(7月、季節調整済み年率換算、予想1,535千件、1,559千件) 鉱工業生産(7月、前月比、予想+0.2%、前月▲0.2%) 小売売上高(7月、前月比、予想+0.2%、前月+1.0%) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月、予想▲6.0、前月▲12.3) 米週間新規失業保険申請件数 中古住宅販売(7月、季節調整済み年率換算、予想485万戸、前月512万戸) 景気先行指数(7月、前月比、予想▲0.5%、前月▲0.8%)

2.FOMC議事要旨

水曜日にFOMC議事要旨(7月26日・27日開催分)が公表される。

この会合では0.75%の利上げが決定され、FF金利誘導水準は2.25%~2.50%となり、いわゆる中立金利とみられる水準に到達した。

声明文では景気減速が認められ、パウエル議長は会見で、いずれ利上げ幅の縮小が妥当になると述べた。

一方、その後は各連銀総裁らからタカ派的な発言が相次ぎ、インフレとの戦いは終わっておらず、なお利上げを継続すべきとの声が続いた。

この会合での景気認識、インフレ見通し、利上げの方針を巡るタカ派とハト派の議論、バランスがどうだったか。

3.日本のGDP、通関統計

月曜日に日本のGDP(4-6月期、速報、前期比年率、予想+2.7%、前期▲0.5%)が発表される。

2期連続のマイナス成長となった米国に対し、超金融緩和を維持している日本では景気に対するマイナス要因は感染拡大や資源価格上昇、供給制約などに限られる。

日米景況格差が為替の材料となるか。

水曜日には通関統計(7月)が発表となる。予想では前月とほぼ同水準の1兆4,000億円の赤字。輸出入動向から収支面での円先安感が維持されるか。

このほか、月曜日には中国の7月の重要指標(小売売上高、鉱工業生産、都市部固定資産投資)が発表される。

総じて前月よりも強めの数字が予想されているが、その通りの結果となって景気持ち直し期待が強まるか。火曜日には欧州でZEW景況感指数(8月)が発表される。こちらはさらに悪化が予想されており、欧州景気不安が強まるか。

◆今週のMRA's Eye


米国のインフレピークアウト観測強まる

先週は消費者物価指数、生産者物価指数、期待インフレ率調査、いずれもインフレピークアウトの兆しをみせた。

これにより個人消費への悪影響や過度な金融引き締め懸念が緩和。市場のリスク回避が和らぎ米国株は大きく上昇した。

その前の週末に発表された直近の雇用統計は強い数字だった。失業率は史上最低水準にあり、賃金上昇率はなお高い。

ISM景気指数で企業の景況感が予想よりは強く、未だ景況感の分かれ目である50を上回っており、足元の雇用もなお相応に堅調が維持されそうだ。

これらの数字だけからみれば、過度な金融引き締めにより景気後退を招きようやくインフレが鎮静化するハードランディングの可能性が緩和。

利上げが相応の水準で止まり過度な景気悪化を招くことなくインフレが鎮静化するソフトランディングの可能性が高まったようにみえる。

ただ、FRB当局者からはなおもインフレ警戒発言が相次ぐ。

市場の金融引き締めに対する警戒感が緩み、市場金利が先行して低下することで景気刺激的になることは時期尚早とみているようだ。

FRB内ではさらに需要を抑制し、インフレリスクを排除しようとの考え方が主流だ。実質金利をプラスにしたいとの意見もある。需要が抑制され、後追いで雇用の伸びにブレーキ、賃金上昇圧力を緩和する方針に変化はない。

タカ派のなかにはFF金利の水準は年末に4%近く、来年には4%台との主張もみられる。

一方、9月の利上げに関して、ここ最近の0.75%から利上げ幅を縮小し0.50%を基本線とする意見もある。インフレ指標の緩和はハト派の主張を後押ししそうだ。

資産価格にとって朗報として、ドル円相場にはどう作用するか。

これまで利上げ、金利上昇を材料にドル高が進んできたが、インフレ鎮静化の兆し、過度な利上げ観測の後退、利上げ幅縮小、利上げ打ち止め視野、でドル高円安に一段と歯止めがかかるか。

あるいはソフトランディングの可能性が高まったことを好感してドルが底固い値動きとなるか。

金利動向重視ならドル頭打ちないしこれまでのドル高がある程度修正される。一方、景気動向重視なら、景気堅調が維持される可能性が高まったことを好感して、ドルが底固い値動きを続けるとの見方となる。

これまでは金利重視だったことから前者、ドル頭打ちないし調整の可能性が高い。

また市場が楽観するほどソフトランディングは容易ではなさそうだ。

一方、欧州経済がエネルギー供給不安でさらに失速するようなら後者のシナリオも台頭しやすい。ユーロ安の反面でドルが堅調となるリスクは残されている。

ドル円相場は、総じてみれば135円~140円のレンジで天井を打ち、一段ドル安円高にレンジをシフトし130円~135円に移行した可能性が高いとみられる。130円台に下落してからは135円台が重く戻しきれなかった。

景気堅調のもとで長期金利上昇・政策金利上昇という組み合わせは、政策金利上昇のもとで景気悪化・長期金利低下の組み合わせにシフト。

今後も景気悪化の流れは続き、景気減速にとどまるか、本格的な景気後退に陥るか、のいずれかとなる。

そのなかで政策金利の上昇も利上げ幅の縮小で勢いを失い、さらに金利のピークアウトが視野に入る。

リスクバイアスは、現状でややドル安・円高サイドに傾いた状態だが、10-12月期にはさらにドル安・円高サイドが強まろう。

政治的には自民党・安倍派の金融緩和圧力が後退するなか、年が明ければ日銀総裁の交代、日銀の金融政策修正の可能性が視野に入り、円安の修正が意識されるだろう。ドル円相場はもう一段ドル安円高にレンジを以降して130円割れが視野に入るとのメインシナリオに変更はない。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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