CONTENTSコンテンツ

米CPIショックで総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年9月14日 第2282号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米CPIショックで総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品と、自国通貨建ての商品価格が上昇したが、その他の景気循環系商品、特にインフレに連動しやすい商品(金など)が下落した。

注目の米消費者物価指数が市場予想を上回る物価上昇となり、今後のFOMCで75bpの利上げがほぼ確実になったことがファイナンシャルな面で商品価格を下押しした。

なお、米国のエネルギー価格はCPIに対してマイナス寄与となっているが食料品や居住費はまだプラスであり、FRBの金融政策がインフレ抑制に期待したほどの効果をもたらしていないことが確認されている。

昨日のCPIを受けてFed Watchでは75bpの利上げの可能性が67%と前日の91%から低下、代わりに「100bp乗り上げ」の可能性が33%(前日±0.0%)に上昇している。

さらに、11月のFOMCでも9月に続いて75bpの利上げの確率が43.4%(前日14.1%)と上昇している。さらに11月も100bpの利上げを予想する市場参加者も増えてきた。

ここで懸念すべきは、弊社がリスクシナリオとして想定していた「米国の金融引締め加速にも関わらず、物価が下がらず、さらに引締め過ぎて景気がクラッシュする」ケースが顕在化するリスクが高まっている点である。

これらの消費者物価や雇用、賃金といった項目は景気の遅行指標であるため、まだそこまでの過度な金融引締めにはならないとみているが、頑張っても3%程度が限界(かもしれない)ところを2%を目指して金融引締めを行えば、景気がクラッシュする可能性は高まることになる。

インフレ率は何パーセントが適切か?の議論は今後、重要になるのではないか。

【本日の見通し】

本日は目立った手がかり材料に乏しいが、昨日の米CPIショックを受けた金融引締めペースの加速観測を背景に、ファイナンシャルな面で多くの商品が下落する展開になると予想する。

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の企業物価指数は前年比+9.0%と高い水準を維持、輸入物価の上昇が円安の影響で続いていること、資源価格の反映に時間差があり、足下の価格下落がそれほど影響していないことが背景にあると考えられる。

一方、発表は来週になるが消費者物価指数は前年比+2.9%(前月+2.6%)、除く生鮮エネルギーで+2.6%(+2.4%)と伸びは加速するものの生産者物価指数の上昇にはほど遠い状況。価格転嫁が容易ではないことは、今後、企業業績の重石になることはほぼ間違いがない。

この状況で仕入価格のリスクマネジメントを行っている企業とそうでない企業では、かなり業績への影響が違ってくると予想される。

また、昨日発表された独ZEW景況感指数は市場予想を大きく下回る内容となった。現況指数が▲60.5(市場予想 ▲52.1、前月▲47.6)、期待指数が▲61.9(▲59.5、▲55.3)といずれも市場予想・前月とも大きく下回っている。

このとき、期待指数から現況指数を差し引いた「先行き景況感の変化」を見ると、マイナス圏に沈むのは直近では米中対立が激化していた2016年~2019年。メルケル政権時代に特にドイツは中国との距離を縮めたため、中国経済の動向に強く影響を受けることになる。

2000年以降の中国経済勃興期には高成長を維持し、リーマン・ショック以降は欧州危機もあって実は先行きへの懸念と不透明感が強い時期をドイツ経済は過ごしている。

現況指数・期待指数、先行き見通しが悪化の「三重苦」状態のなったのは、サブプライム・ショック直後程度であることを考えると、現在ドイツの置かれている状況はかなり厳しいと言わざるを得ない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。米CPIが市場予想を上回る上昇となり、金融引締めペースの加速観測が強まったことが価格を下押しした。

ただし、米政府関係者が「80ドルで原油戦略備蓄の購入を検討」との報道が流れる中では下げ幅を削った。この80ドルという水準は、SPR放出が決定した時から一部の関係者コメントとして流れていた水準であり、実際にこの価格で購入する可能性は比較的高いと考える。

しかし、金融引締めペースの加速の可能性が極めて高まった中、価格防衛のためのOPECプラスによる減産が今後、綱引きの形になる。

前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、

1.大規模経済対策で景気が回復基調にあったこと2.想定よりもかなり早くワクチン開発に成功し、経済活動が早期に回復したこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり、3.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することが予想される。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は82.46ドル(前日比▲1.03ドル)と上昇、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.72ドルと10ドル台で安定してきた。

なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。

これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており(ギリシャ沖での「瀬取り」も然り)、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル

5.4.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル

7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日の米CPIショックの余波で金融引締めペースの加速が予想される中、ファイナンシャルな面で価格は下押しされると考える。

なお、今晩発表予定の米石油統計でも原油在庫は増加(+1.8MB)の見通し(API統計では+6.0MBの原油在庫増加が確認されている)であり、そのことも価格をさらに下押しか。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。欧州当局のガス・電力価格規制や在庫積増しの進捗が価格を下押ししたものの、やはり下落局面では在庫積増し需要は見られ割安感からの買いが入ったため。

欧州諸国のガス在庫の水準も想定よりも速いタイミングで満杯になりつつあり、足下の調達意欲が低下していることが影響しているとみられる。

なお、欧州全体の在庫水準が95%まで積み上がった場合、仮にロシアのガスが現状の▲80%でLNGの輸入が現状程度であれば、100日程度で在庫が払底、▲100%であれば90日であり、まだガス供給への不安は拭い切れていない。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、このような判断になっていると考えられる。

しかし、ロシアは価格上限を設定すればガスを止めると発言しており、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、まだ欧州のガス危機が去った、といえるタイミングではない。

ガス価格の下落があるとすれば冬場を乗り切って、目先の安心感が広がる春頃になるのではないか。一方で。冬期の上限価格は、ウクライナ危機時に付けた345ドルが意識される。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。

TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。これはロシアが今後もガスを供給するつもりがないことを示唆している。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想されている。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は上昇。想定よりも米経済の減速ペースが速くないことと、米国のガス在庫の水準の低さが価格を高止まりさせている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇した。TTF価格の上昇に連れる形となった。

世界的な構造的ガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は7月時点で+8.2%の170億6,000万立方メートル(前月+0.5%の173億立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月4日時点の日本の発電用LNG在庫は265万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

9月5日-11日のLNGトレードは714万トン(先週682万トン)と増加、スポット取引のシェアは22%(前週25%)と低下した。

スポット需要は日中台韓で増加(+20万トン)、主に日本の輸入増加によるもの。ただし欧州の輸入が合計▲40万トン減少したことがスポット調達の比率を低下させた。ターム契約は日中台韓の調達が増加している。

本日は、欧州の規制強化観測と景気先行き懸念の強まりが価格を下押しするものの、ガス在庫積増しは継続する見通しであり、TTF・JKMとも高値もみ合い継続を予想。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇。特に期先の上昇が顕著だった。欧州のガスタンクのキャパシティが一杯になりつつある中、ガスに比べれば保管が容易な石炭が、発電燃料として選好されている可能性が高く、ガス価格の下落はあっても高値を維持している状況。

この間、欧州の石炭輸入・石炭生産とも顕著に増加はしていない。一方で豪州炭の輸出は低迷しており、恐らく足下の価格上昇はガスとある意味同様だが、供給ソースの不足が影響しているとみられる。

この場合、景気が減速する、ないしは冬場が終了、ないしは暖冬の時に価格は下落することが予想されるが、需要のピークである冬はまだ始まってもいない。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼすリスクは無視できないだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況であり、ロシアの石炭輸出も週次ベースで減少を続けている。

期先の価格をみるに、2022年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが300ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は300ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も冬場に向けた在庫積増しの動きは継続すると見られ、高値を維持すると考える。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇していたが、米CPIを受けて下落した金属も目立った。亜鉛・アルミは欧州のガス価格上昇が価格を押し上げた。

ベンチマークである銅価格は株価との連動性が高いため、株価が下落する局面では特に投機(ファンド筋)の売りが入りやすい。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンの影響はあるものの、金融緩和策が奏功したか中国のファイナンスが回復しており、やや満たされつつある。ただし、現状2.は満たされていない。

この状況を勘案すると、足下の買い戻し圧力は強まり、年末に向けて一時的な価格上昇はあると考えている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日は、目立った新規手がかり材料に乏しい中、昨日のCPIショックを受けた金融引締めペースの加速観測を受けて軟調な推移を予想。

ただし、中国政府の経済対策や同国の借り入れ増加など、経済活動の活性化も確認されていることから下落余地も限定されると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅下落、上海鉄筋先物は上昇。

中国が9月に入り建築シーズンとなる中、コロナのロックダウンからの回復(新疆ウイグル自治区など)、中国政府による不動産市場の下支え策を背景に、鉄鋼製品需要が回復する、との見方が鉄鋼原料価格を支えている状況。

中国の不動産セクターは低迷しており、恐らく人口動態的に今後も減速は不可避と考えられる。しかし、不動産セクターが不調だと中国地方政府の重要な財源である不動産関連収入が減少するため、何らかの対策を行わなければ、中国経済がスパイラル的に悪化する可能性が出てくる。

この状況で不動産セクターのテコ入れをすることは非常に議論が割れるだろうが、現状は対策実施は不可避の状況と整理するのが適切だろう。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは「今のところ」回避できると見ている。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、経済対策実施期待と各地の天災の影響による経済活動の強制停止の綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米CPIを受けた長期金利の上昇が、期待インフレ率の上昇を上回ったことが背景。銀も下落、PGMは株価の下落もあって大きな下落となった。

金の基準価格は▲9ドルの1,013ドル、リスク・プレミアムは▲13ドルの688ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲450ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,300ドルを割り込む可能性が出てくる。

ETFの管理残高と金価格の間には高い相関性が見られるが、過去10年のデータを元にするとここまでの下落の場合、現在のETFの管理残高の凡そ3分の1に当たる▲1,200トン弱の金が流出する必要が出てくる。

荒唐無稽なレベル、と思われるかもしれないが2016年のETFはこの水準であり、このときの金価格は1,100ドル台だったことを考えるとない話ではない。

大規模プレイヤーの金市場からの退場は、ETFの他、各国中央銀行の金準備売却のいずれかとなるが、後者が戦争や制裁による国の資金繰り悪化で金を売却せざるを得ないときに恐らく限定されることを考えると、引き続きETFの動向は重要。

なお、足下、金価格に対して説明力が高いのは期待インフレ率であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることがわかる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,640ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。

恐らく最終的に実質金利で説明可能な水準に回帰していくと考えられるが、当面は期待インフレ率を基準に分析と併用する必要があろう。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下していたが、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻ったようだ。

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,640ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に90倍とすれば、銀価格は18.2ドル程度となる。

本日は、米CPIショックの影響で長期金利上昇・実質金利上昇が予想されるため、金銀は下落、PGMは株価が下落する可能性が高いとみられ、さらに水準を切下げると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。原油価格の下落を受けてトウモロコシと大豆は下落、小麦は黒海経由の穀物輸出に関してロシアが否定的な発言をしたことが材料視されたようだ。

トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。

そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。

しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、米CPIショックを受けて原油価格が軟調に推移すると予想されることから、トウモロコシ・大豆は小幅に下落、小麦は米金融引締めペースの加速観測が強まったことによるドル高進行が価格を下押しの見込み。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について