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米PPI減速・ドル安で上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年8月12日 第2259号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米PPI減速・ドル安で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は総じて堅調な推移となった。米生産者物価指数が消費者物価指数に次いで減速、米国の金融引締めペースの加速観測が後退したことが材料となった。

一方、引締め観測の減速が経済成長鈍化回避に寄与すると見られ、長期金利は上昇したため、金などのインフレ系安全資産価格は下落している。

この上昇は7月以降の調整の反動といえるが、非鉄金属を初めとする工業金属に関しては、これに中国政府の経済対策期待が織り込まれていると考えられる。

ただし、本当にこれでインフレが沈静化するかどうか分からない。というのもロシアの欧州に対する嫌がらせと異常気象は継続しており、渇水で河川上輸送にも影響が出始めているためだ。

基本的に欧米が政策金利引き上げとQTを停止するとは考え難いため、この足下の調整は一時的なものと考えるのが妥当だろう。

【本日の見通し】

本日は米国の金融引締めペースの鈍化への期待が高まる中でリスク資産の買い戻しが続いていたが、週末ということもあって一旦調整で売られる商品が多いのではないか。

しかし、金融引締めヘの過度な懸念が後退しているため底堅い推移になると予想される。

本日予定されている統計ではミシガン大学消費者マインド指数に注目。

ミシガン大学消費者マインド指数 市場予想 52.5(前月 51.5)現在景況感 57.8(58.1)先行景況感 48.5(47.3)1年期待インフレ率 5.1%(5.2%)5年-10年期待インフレ率 2.8%(2.9%)

【昨日のトピックス】

先週末に発表された7月の中国の貿易統計は、輸出が前年比+18.0%(市場予想+14.1%m前月+17.9%)と高い水準を維持した。しかし、中国国内の経済活動動向を判断する上で重要な輸入は+2.3%(+4.0%、+1.0%)と市場予想、前月も下回り、ロックダウンや住宅セクターの加熱沈静化の動きが経済活動を鈍化させていることを確認する内容となった。

中国は最早ゼロコロナにこだわらない方向に舵を切っていくと考えられるものの、基本路線としてはもうあと2ヵ月後となる党大会を控えてこのタイミングでゼロコロナ政策を「ゼロ」にするとは考え難い。

さらに、米ペロシ下院議長の訪台を受けた軍事練習の激化(中国が嫌がることを他国がしたことを理由に、そもそも中国がやりたかったことをやるという典型的な嫌がらせ政策では有るが)によって、逆に国内の経済活動に影響が出ると見られる。

また、輸出入にも西側・東側の対立が強まり、元に戻ってきたと期待されたサプライチェーンも再び寸断のリスクが高まっている状況。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米PPIが減速したことを受けて金融引締め加速観測が後退、ドル安が進行したことが材料となった。

IEAの見通しが材料になったとの報道もあったが、OPEC月報はむしろ弱気であり、どちらかと言えば為替の影響の方が大きかったと考えられる。

この上昇によって7月以降の下落で割り込んでいた200日移動平均線をBrent原油は回復している。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は81.25ドル(前日比+3.02ドル)。

7月の中国の原油輸入は前年比▲9.9%の3,733万トン、891万バレル/日(前月前年比▲10.7%の3,581万9,000トン、いずれも季節調整を行わない単純な前年比)と前年比マイナス幅は縮小したものの、低迷した。

ロックダウンが解除された後も中国の経済活動が回復していないことの証左。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。

今後の需給緩和には、米国の増産が需給緩和には必要になってくるが、ヒト・モノの確保が困難なこと、クラックスプレッドが空前の水準に達しており、増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、長らくサポートラインだった200日移動平均線を回復したことで、このサポートラインの支持を試す展開を予想。下落すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。渇水による山火事や水力発電の減速、原子炉の出力低下などガス火力への依存が高まりやすい環境になっていることから。

先日発表された中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

ロシアのガス供給停止は、今回のガス供給制限で欧州域内に経済的な不利益を発生させ、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成するのが目的と考えられる。

ウクライナのザポロジエ原発の攻撃も「原発を稼働指せるとこうなるぞ」という脅しとも取れる。

EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功している。そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けることは確実といっても言い過ぎではない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は8月9日時点で72.8%(前日72.4%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。ドイツに関して言えば、メルケル政権時代に原発廃止の方向性が強く打ち出され、現在の稼働は過去5年平均の半分程度である。

原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえる。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

また、5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きいが、報道ベースでは10月にターミナルの稼働が再開すると報じられたことは、米国内需給のタイト化要因となる。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が低下したが、以西が急騰している。

このことは欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいることを示唆している。実際、欧州のLNGネット輸入量は季節性を無視して増加している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は大幅に上昇した。Freeportの再開観測や、風力発電が低迷していることなどが材料となった。米天然ガス市場は投機の影響がそれほど大きく無く、どちらかと言えば需給ファンダメンタルズの影響の方が大きい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期先が大幅に上昇。期近は在庫が足りていること、中国の稼働が低迷していることからさほど上昇していなかったが、期先が大きく上昇して50ドルを超えた。

市場が恒常的な需給タイト化を「受入れ」始めたと考えられる。過去、このような価格上昇があった場合は構造的な変化となり、期先水準上昇が定常化することが多いため、要注意である。

現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きとなる。

ただし、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。

しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になる。

サハリン2は日本政府としては権益維持方針を強調しているが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため、サハリン2に関しては、実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

8月7日時点の日本の発電用LNG在庫は230万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と昨年の水準を上回った。

弊社の集計では過去5年平均に漸く到達しつつある状況で、在庫状況はやや緩和している。

今年の夏は猛暑で電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

7月25-31日のLNGトレードは、674万トンと先週の737万トンから減少。主にスポット調達の減少が影響した。

スポット調達は20%と先週の26%から低下。日中台韓向けのスポットカーゴが▲40万トン減少したことが影響した。主に日本と韓国のスポット調達減少に因るもの。

ターム契約は先週とほぼ変わらない水準だった。

本日は、ロシアの供給制限継続と景気減速観測が綱引きとなる中で高値維持を予想。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは小幅に下落した。特段目立った手がかり材料はないが、期近は限月交代時に▲30~40ドル下落するものの、数日で400ドルを回復するという展開が続いている。

先日発表昨日された7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。ただし現在は、中国国内炭市場と海上輸送炭市場が分離し、一物二価の状態となっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、現状それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

石炭市場の流動性が低い状態では、石炭価格のリスクマネジメントが非常に困難になる。

価格リスクマネジメントの観点からは、石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されていることを考えると、無理筋な話ではない)。

もちろん、このタイミングで生産者側に交渉を行えば割高なフォーミュラを要求される可能性が高いため、全量を原油リンクに、ということは回避すべきだろう。

本日は、ガス価格が上昇していることから、石炭価格も高値を維持すると考える。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。7月以降、インフレトレードの終焉で急速にファンド筋が買いポジションを解消、下げを主導してきたが、ここに来て米国の金融引締めが最終局面に来ていると見られているからか、ドル安が進行していることが、ファンド筋の買い戻しを誘った。

背景には、中国政府の経済対策の影響があると考えられる。

7月の中国の貿易統計では、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+9.3%の46万3,694トン(前月+25.5%の53万7,698トン)と急減速し、過去5年平均を下回った。

一方、銅鉱石の輸入は前年比+0.5%の189万9,309トン(前月+23.3%の205万9,654トン)と減速し、過去5年の最高水準を下回っている。

鉱石需給の緩和によるTCの上昇はあるが、7月は季節的に中国の経済活動が鈍化する月であるため、減速したと見られる。

6月の銅スクラップの輸入は前年比+9.8%の16万5,136トン(前月+13.5%の15万8,208トン)と回復している。しかし、過去5年平均は上回っていない。

精錬銅の輸入の水準が過去5年平均を下回っていることを考えると、やはり、インフラ投資などの景気刺激策の効果が顕在化していないとみられる。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め加速観測が再び弱まっていることと、中国政府の経済対策期待で価格は横這い~上昇すると考えられる。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が満たされているが、2.3.が怪しくなってきた。1.の影響で価格は上昇しようが、2.3.がその効果を減じよう。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。

本日も米国の金融引締めペースの加速観測の後退、中国の経済対策の効果による製造業活動の再開観測で上昇余地を試す展開に。

ベンチマークの銅は50日移動平均線のレジスタンスラインを超えるかどうかがポイントに。超えた場合、恐らく年後半までは8,200ドル~9,000ドルのレンジでの取引が想定される。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物はほぼ変わらずだった。

中国の工業活動が再開し始めていることで在庫の積増し需要が増加したためと考えられる。現状、鉄鋼製品価格を元にした回帰分析では、鉄鉱石は111.6ドル、原料炭は179.8ドル程度が適正価格。

原料炭価格はこの水準から50ドル程度高いが、流動性プレミアムと考えられる。

先週末に発表された7月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲24.9%の78万8,950トン(前月▲36.7%の79万1,000トン)と低迷が続き、2000年以降の最低となった。

そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高いため、鉄鋼製品輸入需要は限定されるが、ロックダウンの影響で工業活動停滞していることが背景にある。

6月の中国粗鋼生産は前年比▲3.4%の9,073万トン(前月▲5.1%の9,278万トン)と高い水準を回復している。ロックダウンの影響による鉄鋼製品不足で鉄鋼製品価格が再び上昇していることが輸入増加に繋がったと考えられる。

ただし、中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。

7月の鉄鋼製品の輸出は前年比+17.7%の667万1,110トン(前月+17.0%の755万6,660トン)と前年ベースでの伸びが加速した。国内経済がロックダウンの影響で低迷し、内外価格差に着目した輸出が増加したためと考えられる。

7月の鉄鉱石の輸入は前年比+2.6%の9,124万トン(前月▲0.5%の8,897万トン)と前年比ではプラスに回復したが、過去5年平均は下回った。

ロックダウンの影響で中国国内の経済活動は低迷しているとみられる。今後はインフラ投資が実施されるため、年後半に掛けては一時的な輸入量の増加や価格水準の回復がyそうされる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

中国の不動産・鉄鋼セクターの先行き見通しは何もしなければ下向きだが、これを中国政府の経済対策が下支えする、という展開が少なくとも10月の党大会までは続くと予想される。

中国中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。

本日も、中国の経済活動再開観測を背景に堅調な推移を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米PPIが減速し、金融引締めペース加速観測が後退したことで逆に長期金利が上昇したことが金の基準価格を押し下げた。銀価格は金価格の下落につれて下落、金銀レシオは88.1倍でほぼ変わらず。

昨日まで9月FOMCの利上げ幅は50bpとなる確率を市場は61.5%と上昇しており、75bp利上げの可能性は38.5%に低下している。

金の基準価格は前日比▲21ドルの1,197ドル、リスク・プレミアムは+18ドルの592ドル。

金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲360ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,430ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がっているようだ。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲360ドル程度の下げ余地がある。

これだけでも銀価格を▲4.0ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.3ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

PGMは金銀価格に連れる動きとなったが、株価が調整したとは言え高値を維持したことや、中国の経済活動再開観測が価格を押し上げた。

本日は、米金融引締め加速観測の後退が逆に長期金利を押し上げていることから、金銀価格は調整、工業金属の色彩が比較的強いプラチナ・パラジウムは堅調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。ドル指数が米PPIを受けて下落したことや、そもそもの需給ファンダメンタルズのタイトさが材料となり、買い戻しが優勢となった。

基本的には需給ファンダメンタルズのタイトさに大きな変化はなく、ラニーニャ現象は冬まで継続する見通しであること、アラビア半島での降雨は来期以降のバッタ大量発生のリスクを高めていることから、秋以降に価格が上昇する可能性は高い。

昨日発表のCONAB需給見通しは以下の通り、強気な内容。

・8月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,158万ha(2,176万ha、2,167万ha)大豆 4,095万ha(4,108万ha、4,095万ha)

・8月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,469万トン(1億1,664万トン、1億1,566万トン) 単収 5,314kg/ha(5,359kg/ha、5,338kg/ha)大豆 1億2,405万トン(1億2,550万トン、1億2,405万トン) 単収 3,029kg/ha(3,058kg/ha、3,029kg/ha)

本日は、米需給見通し次第だが、市場予想は強気な内容を予想しており、想定通りであれば穀物セクターには買い戻しが継続することになろう。

本日発表のUSDA需給見通しの市場予想は以下の通り。

・8月米単収見通し実績(市場予想、前月)トウモロコシ 175.98Bu/エーカー(177.0)大豆 51.04Bu/エーカー(51.5)小麦 NA(47.3)

・8月米生産見通しトウモロコシ 143億9,734万Bu(145億500万Bu)大豆 44億7,300万Bu(45億500万Bu)小麦 17億9,618万Bu(17億8,100万Bu)

・8月米在庫見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 14億659万Bu(14億7,000万Bu)大豆 2億2,452万Bu(2億3,000万Bu)小麦 6億4,972万Bu(6億3,900万Bu)

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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