CONTENTSコンテンツ

リスクヘッジを行うことで収益の「ぶれ」は抑制可能
  • MRA商品市場レポート

2022年9月8日 第2278号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環系商品売られる」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、その他農産品や貴金属などの景気動向よりもドル指数動向に左右されやすい商品が上昇し、その他は下落した。

米国の金融引締め継続や中国の貿易統計の悪化、エネルギー問題を背景に欧州の景気先行き減速懸念が非常に強まっていることが、総じて景気循環系商品価格を下押ししている。

8月の中国の貿易統計は輸出が前年比+7.1%(市場予想+13.0%、前月+18.0%)と急減速、中国国内の経済活動動向を判断する上で重要な輸入は+0.3%(+1.1%、+2.3%)と市場予想、前月も下回り、中国の貿易活動がロックダウンや電力不足、天災などの影響で鈍化していることが鮮明となった。

中国はゼロコロナにこだわらない方向に舵を切っていくと期待されたが、この数週間の動きを見ると全くその方針に変化はなく、現状、四川省や貴州省、深セン、重慶など多くの都市がロックダウンの状況であり、今後、回復には時間が掛ると予想される。

経済対策の金額は年末に向けて増加するため今後持ち直しが期待できるものの、1~2ヵ月前に想定していた回復はそれほど期待できなくなってきた。

足下、急速に注目が集まっているのは追い証(マージンコール、証拠金)の問題。電力やガス価格の上昇と乱高下を受けて水準が上昇しており、その資金負担が非常に重くなっている(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

【本日の見通し】

本日は昨日の反動で一旦原油が買い戻される中で多くの商品も買い戻されるが、恐らく米石油統計を受けて原油は米国時間の後場に掛けて下落すると予想されることから、結局行ってこいでレンジワークになると予想する。

本日は複数の米FOMCメンバーの講演が予定されているが、恐らくタカ派的な発言しか出てこないと予想されるため、余り積極的に材料にはならないか。

それ以上に注目は、欧州景気が減速するなかでエネルギー価格が高騰し、50bp~75bp程度の利上げを検討しているECBの動向だろう。

仮に75bpの利上げが行われれば、域内景気の減速感が強まり景気循環系商品の下落要因となる。

【昨日のトピックス】

足下、急速に注目が集まっているのは追い証(マージンコール、証拠金)の問題。電力やガス価格の上昇と乱高下を受けて水準が上昇しており、その資金負担が非常に重くなっている。

欧エクイノール(旧スタトイル)の試算では1.5兆ドルの流動性支援が必要となっている。

仮に証拠金が払えない場合、保有するポジションを解消する必要が出てくるが、そうなると暴騰・暴落となる可能性が出てきて、さらにその価格の暴騰・暴落がその他の企業の資金負担(証拠金負担)を増加させ、場合によるとこれらの資源市場で取引をしているエネルギー関連企業の連鎖倒産に繋がりかねない。

事情は同じではないが、つい先日、LME市場でニッケル取引の証拠金に絡み、ニッケル価格が暴騰・暴落し、数日間取引停止に陥ったことは記憶に新しい。

これを回避するには、

1.政府による流動性供給支援

2.何かしらの方法で価格の水準を下げ(これにより証拠金の水準は低下する)

3.変動性を抑制する、必要がある。

2.3.はその後の反動が大きくなるため、結局、1.の手法が最も現実的なのではないか。しかしEUで1.5兆ドルは決して小さい金額ではない。

2021-2027年度の中期予算計画(他年度財政枠組み、MFF)では1兆743億ドル、コロナからの復興基金が7,500億ユーロとなっており、ほぼこの他年度予算に匹敵する資金調達が必要であり、金額規模は決して小さくない。

LMEの場合はJPモルガンなどの大手銀行が緊急融資を行ったが、それでも調整に数日はかかるため、この時点からクレジットラインの拡充など資金繰りの準備を予めしておく必要がある

しかしクレジットの良くない企業が無制限に資金を調達することは理論的にも不可能であり、この対応は焦眉の急だろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落。米金融引締め加速による先々の景気減速懸念が価格を下押しした。弊社は「ドル指数と原油価格の動き」に注目しているが、通常、景気過熱沈静化のタイミングでは、原油高とドル高が併存、その後原油安・ドル高となり、米景気減速で原油安・ドル安となる。

昨日はドル安と原油安が同時に発生していることから、米景気が転換点に入った可能性を意識させるものだった。

なお、昨日発表8月の中国の原油輸入は前年比▲9.4%の4,035万4,000トン、963万バレル/日(前月▲9.9%の3,733万トン、いずれも季節調整を行わない単純な前年比)と前年比マイナス幅は縮小したものの、低迷した。

ロックダウンが解除された後も中国の経済活動が回復していないことの証左であるが、基本的に中国の統計で原油価格が大きく動いたのは見たことがない。あくまでまだ原油は米国の動向が左右する、と考えるべきである。

この状況ではOPECプラスは定期的に減産を考える必要がある。DOE月報でも年末からの原油増産が見込まれている。しかし需要が減速を始めた場合、よほど大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。

前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、

1.景気が回復基調にあったこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと

が価格上昇に寄与した。

しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は77.56ドル(前日比▲5.10ドル)と低下、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.45ドル。

なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。

これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており(ギリシャ沖での「瀬取り」も然り)、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 80-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル

5.4.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル

7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)が増産するBrent 65-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日の大幅下落の反動で買い戻しが入ると考える。本日も複数のFOMCメンバーの講演が予定されているが、恐らくタカ派な発言が続くため、上値も重い。

本日発表予定のン米石油統計は▲0.7MBの原油在庫減少が見込まれているが、朝方発表のAPI統計は+3.6MBの増加であり、予想に反して在庫が増加して価格はやはり下落に転じるのではないか。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は下落。EUが進める取引所規制や足下のガス在庫積増しペースの早さ、価格上昇やECBによる金融引締めにより域内景気が減速する、との見方が価格を押し下げた。

しかし、チャートを見ると50日移動平均線でサポートされており、やはり潜在的な調達需要が旺盛であると考えられ、価格は高止まりしている。

欧州の先物市場で取引をしている市場参加者は、価格高騰と高変動性に伴うマージンコール(証拠金)の引き上げを受けて市場参加者の資金繰りが極端に悪化しており、クレジット・クランチに繋がるのではないか、との懸念が広がっている。

ただし、取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、このような判断になったと考えられる。

価格抑制策の導入が検討される中で買いポジションを保有していた消費者が、負けポジションになる前に手仕舞い売りを入れた、あるいは現物の確保が困難、ないしは景気悪化で現物需要が減少したために、ヘッジ外しの売りを入れた可能性が高いと見る。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計だろう。冬期の上限価格は、ウクライナ危機時に付けた345ドルが意識される。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。

TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。これはロシアが今後もガスを供給するつもりがないことを示唆しているう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は続落。生産増加や穏やかな天候見通しが材料だが、欧州のマージンコール問題を背景に、買い手が手仕舞い売りを入れたことも価格下落に寄与したと考えられる。

とはいえ、米天然ガスの在庫水準は低く、一方で価格が高い欧州向けの輸出は継続して域内需給がタイト化すると予想されるため、今冬のガス価格は高値で推移することになるのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が上昇、期先が下落した。欧州の取引規制観測や、エネルギー価格の高騰が欧州経済を悪化させるとの見方が強まり、2023年以降の需要の減少観測が強まったことが期先の価格を押し下げていると考えられる。

現在の価格水準では日本の電力会社は上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した。

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

た中国の8月の天然ガス輸入は前年比▲15.2%の885万トン(前月▲6.9%の870万トン)と前年比での減少幅が拡大はしたが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の国としてのガスへの転換は進んでいるが、ロックダウン後の経済活動の回復が遅れていることを示唆している。また、中国国内の天然ガス生産が増加していることも輸入の伸びが鈍化している背景にある。

中国の天然ガス生産は7月時点で+8.2%の170億6,000万立方メートル(前月+0.5%の173億立方メートル)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回っている。

※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

サハリン2は新会社への移行が進むが、中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

9月4日時点の日本の発電用LNG在庫は265万トン(前年同月末246万トン、2017~2021年平均194万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月22日-28日のLNGトレードは677万トンと減少、スポット取引のシェアは20%(前週27%)と低下した。

スポット需要の減少は、主に台湾の輸入減少によるもの。日本と中国のスポット調達も減少、一方で韓国の輸入は増加。

本日は、欧州の規制強化観測と景気先行き懸念の強まりが価格を下押しするものの、ガス在庫積増しは継続する見通しであり、TTF・JKMとも底堅い推移を予想する。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは下落した。欧州による発電燃料取引の規制報道を受けたガス価格の下落が続いていることが価格を押し下げた。

ガスタンクのキャパシティが一杯になりつつある中、ガスに比べれば保管が容易な石炭が、発電燃料として選好される可能性が高く、ガス価格の下落はあってもやはり高値で推移することになろう。

ただしガスに比べれば石炭火力のシェアは低いため、影響は限定されるはずだ。取引が薄い中で上限価格に意味はないが、この上昇で期近は節目の450ドルを越えてしまったため、切りの良い水準である475ドル、500ドルといった水準がこの冬場は上値として意識されるのではないか。

8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も冬場に向けた在庫積増しの動きは継続すると見られ、高値を維持すると考える。ただしガス価格の下落が上値を抑えよう。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。中国の貿易統計が発表され、輸入・輸出とも減速したことが影響した。ただし、ベンチマークである銅の鉱石輸入は増加しており、公共投資実施期待が価格を下支えした。

8月の中国の貿易統計では、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+26.4%の49万8,189トン(前月+9.3%の46万3,694トン)と急減速し、過去5年平均を下回った。

一方、銅鉱石の輸入は前年比+20.1%の226万9,858トン(前月+0.5%の189万9,309トン)と過去最高水準を上回った。

中国政府の経済対策期待や電力供給障害の解消、TCが高止まりしていることなどが材料になったとみられる。

7月の銅スクラップの輸入は前年比+3.9%の15万5,169トン(前月+9.8%の16万5,136トン)と低迷、過去5年平均は上回っていない。

精錬銅の輸入の水準が過去5年平均を回復、鉱石輸入も増加していることから中国国内の経済活動に回復の兆しが見られていると考えられる。季節的にも年後半に公共投資が顕在化するケースが多い。

しかし、ゼロコロナ政策が堅持される中、気温が低下する年末に掛けて再びロックダウン地域が増加する可能性はあり、先行きの見通しは不透明になっている。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

本日も、中国の経済対策期待と経済活動強制停止という「アクセル&ブレーキ」で方向感が出難いが、中国の重要な貿易相手である欧州の景気減速がほぼ確実な中、下押し圧力が掛る展開を想定。

また、FOMCメンバーの講演が複数予定されているが、タカ派な内容になることは確実であり、ファイナンシャルな面でも価格には下押し圧力が掛る展開に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物はまちまち。

鉄鋼製品在庫の低さ、経済対策の実施期待が価格を押し上げる一方、昨日の貿易統計で確認されるように中国の景気が実際に減速しており、さらにゼロコロナ政策によるロックダウンの動き拡大が、鉄鋼原料・鉄鋼製品とも価格を下押しする状況が続いている。

8月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲15.7%の89万3,460トン(前月▲24.9%の78万8,950トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高いため、鉄鋼製品輸入需要は限定されるが、ロックダウンの影響で工業活動停滞していることが背景にある。

7月の中国粗鋼生産は前年比▲6.2%の8,143万トン(前月▲3.4%の9,073万トン)と急減速し、過去5年平均を下回った。輸入品の減少とあわせるとやはり中国国内の需要はまだ回復するに至っていないと考えられる。

中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。

8月の鉄鋼製品の輸出は前年比+21.8%の615万2,910トン(前月+17.7%の667万1,110トン)と前年ベースでの伸びが加速した。国内経済がロックダウンの影響で低迷し、人民元安を受けた内外価格差に着目した輸出が増加したためと考えられる。

8月の鉄鉱石の輸入は前年比▲1.3%の9,621万トン(前月+2.6%の9,124万トン)と前年比ではマイナスだが、過去5年平均は回復した。

ロックダウンの影響で中国国内の経済活動は低迷しているとみられるが、鉄鋼製品在庫の水準の低さと公共投資の期待から、先々の鉄鋼製品在庫積み増しに備えた動きが診られているためと考えられる。

しかし、既に鉄鉱石の港湾在庫の水準は高く、コロナのロックダウンの影響が継続していることから輸入の大幅な増加はないだろう。

先日発表昨日された8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+5.0%の2,945万6,000トン(前月▲22.1%の2,352万3,000トン)と急回復し、過去5年平均を上回った。

価格水準は高いが、国内の供給が低迷している、ないしはロシアを支援するために輸入を増加させていると考えられる。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。

中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

また、北戴河会議を経ても結局ゼロコロナ政策を変更する意思はないことが今回の一連の対応で明らかになり、習近平が3期目続投となる可能性が高い以上、当面(場合によると来年以降も)ゼロコロナ政策が維持され、経済の強制停止リスクが残存することは世界経済の大きなリスクになる。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくないと見ている(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、経済対策実施期待と各地の天災の影響による経済活動の強制停止の綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇。原油価格の下落などを材料に期待インフレ率が低下、名目金利も低下して実質金利が低下したことが背景。銀価格も上昇、株の上昇を受けてPGMは大幅に上昇した。

金の基準価格は+18ドルの1,063ドル、リスク・プレミアムは▲2ドルの655ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

しかし、この1年だけを切り出して金価格と実質金利の関係性を俯瞰すると、その説明力は統計的には無相関の状態となっている。長期的にはまだ説明力が担保されているロジックと考えているが、足下の価格を推定するには、この手法のみでは不充分な状態となった。

現在、金価格に対して説明力が高いのは「期待インフレ率」であり、金融政策動向、原油価格動向、QTの動向が影響していることがわかる。

Q422の弊社予想原油価格を元に期待インフレ率・金価格の推定を行うと1,643ドル程度が予想され、金融引締めがあっても下げ余地は比較的限定されることになる。恐らく長期的には実質金利で説明可能な水準に回帰していくと考えられるが、当面は期待インフレ率を基準に分析と併用する必要がある。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。上記の期待インフレ率を元にした分析の結果、金価格は2023年1,630ドル程度になると予想されることから、金銀レシオを仮に現状水準と同じとすれば、銀価格は17.2ドル程度となる。

本日は、原油価格の下落を受けて期待インフレ率が低下することから、金価格は下落の見込み。PGMは金利低下によって説明力の高い株・半導体株指数の上昇が予想されるため、堅調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の下落を受けて水準を切下げた。大豆は中国の貿易統計で輸入需要が大幅に減少していることが材料となった。

昨日発表された8月の中国の大豆輸入は前年比▲24.5%の716万6,000トン(前月▲9.1%の788万3,000トン)と減速し、過去5年レンジを下回った状態が続いている。

小麦価格は大幅に上昇。プーチン大統領がウクライナ産穀物を輸出するために設定された「回廊」に関し、大半が欧州に向かい貧困国の助けになっていないと発言。さらに同ルートの制限をトルコのエルドアン大統領と協議すべき、と発言したことで再び小麦輸出への懸念が強まったことが背景。

トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっている。

そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。

しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、原油価格が恐らく米石油統計を受けて下落する可能性があることがトウモロコシ・大豆価格を押し下げるが、小麦はロシア問題への懸念から堅調推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。

◆本日のMRA's Eye


「価格リスクマネジメントの必要性」

商品価格が高騰したかと思えば急落する商品も散見されている。欧米の金融引締めやロシア動向、金融引締めや中国のロックダウン、OPECの減産観測といった複雑な要素が絡み合い、方向性が出難くなっている。

この状況で日本の伝統的な価格変動(主に価格上昇)に対する対応は、使用数量を減らして価格感応度を下げる、それでも不足であればその他のコストを見直すといった手法が主流だったと考えられる。

しかし、特に2020年のコロナ・ショック以降、価格の変動性は増しており市場の先行きの予見が難しく、コスト削減以上の相場変動が発生してコスト削減努力効果が相殺されてしまうことが増えた。

このとき、企業によっては販売価格に仕入コストの上昇分を転嫁している企業がある。しかし、価格転嫁には時間差が有るため、販売価格を仕入価格+αで販売するというフォーミュラを締結していなければ、価格の変動リスクは無視できない。

企業が原材料を仕入れてから販売するまでに時間差があるが、このとき販売時の市場価格で販売する契約の場合は価格変動リスクに晒されることになる。例えば、仕入の価格は3ヵ月前だが、販売価格は現在の価格といった場合だ。

少し話が逸れるが、最近導入が議論されているサーチャージ制も、過去データを元にサーチャージが発生するが、購入とサーチャージの転嫁のタイミングか参照している指数が同じでなければリスクが生じる可能性はある。

ここで、具体的に円建てのアルミを購入し、3ヵ月後に製品にして市場価格を基準とした価格で販売したケースと、アルミを購入した段階で、3ヵ月先物で売りヘッジを行い、販売価格を確定させた場合の「月次収益の分布」を比較してみた。

また、同様に原油についても月次収益の分布を比較した。原油の場合、エネルギー産業ばかりではなく、化学品なども過去の価格を参照して仕入れ、現在の価格で販売しているケースは多い。

この場合、リスクヘッジをしていない場合、「仕入価格から遅れて販売価格が決まる」ため、市場価格が上昇する局面では利益が増加し、下落局面では減少することになる。

結果はリンクの通りであるが、ヘッジなしとヘッジありでは、収益の分布が異なることが分かる。明らかにヘッジをしていた方が月次収益のブレが小さくなっていることが分かる。

価格リスクマネジメントをする場合、まずはこの収益(ないしは仕入)の振れを小さくし、ある程度予見可能な状態に近づけることが重要になってくる。

収益のブレが小さくなるメリットはいくつかあるが

1.株主と約束した予算達成の確度が向上する

2.自己資本の毀損が一定程度に抑制される

3.長期的に見た場合、収益の安定性が確保されている状態だと株価を算定するときの割引率が低下するため、株価にとってプラスに作用する

4.期間損益の安定

などが主なところだろうか。少なくとも市場の変動は企業の本業とは関係ないところで発生しており、自助努力で対応できる範囲は限られる。

これまでは他の会社も同じだから、という理由でリスクマネジメントを行わないケースが多かったのもまた事実だろう。

しかし、足下の価格変動性の大きさは企業の自助努力を超えているといえ、価格変動リスクの制御は、企業が取り組むべき「古くて新しい課題」になっていると考えられる。

決算短信などを見ると、取り組むべき課題や事業のリスクのところに「原材料価格の高騰・変動」を上げている企業は多いが、インフレが定着する可能性がある中で個別企業のアナリストや投資家も、この点の対応可否に付いては注目するようになってきている。

なお、必ず議論に出てくる、「ヘッジをしたら支払いが増えてしまった」というのは勝ち負けのみを議論しており、この業績の予見性を高めるという重要な視点が考慮されていない。

恐らく2023年は景気の減速でいろいろな景気循環系商品、インフレ系資産の価格が下落すると予想されるが、脱炭素や脱ロシア、東西分裂といった流れが強まる可能性を考えると資源需要は旺盛であり、再び上昇する可能性は高いと考えられる。

まずは自社のコストや収益がどの程度振れるのか、といった現状把握を行い、今後の対応を考えるべき時期に来ているのではないだろうか。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について