CONTENTSコンテンツ

米景気見通しで揺れるドル円相場
  • MRA外国為替レポート

2022年8月8日号

◆先週の市場総括


先週は米国のISM景気指数が製造業・非製造業ともに強めの数字で過度な景気後退懸念が一服。一方、ペロシ下院議長の台湾訪問で米中対立が激化するとの懸念がリスク選好を抑制した。

リスク回避の動きから米長期金利は低下。米10年債利回りは一時2.5%台まで低下した。一方、2年債は利上げ継続観測から低下しにくく早々に3%台を回復した。

リスク回避から円買い戻しが進み、ドル円相場は133円台で始まり一時130円40銭台まで下落した。ただその後は良好な経済指標に支えられ持ち直し。

注目の米雇用統計は極めて強い数字。米国景気後退懸念が和らぎ、FRBが金融引き締めを強化、大幅な利上げが続くとの見方が強まった。

ドル円相場は急騰して135円を回復。ユーロ円相場も136円台から133円台に下落していたが、週末にかけて持ち直し引けは137円台。日経平均は堅調な米国株や円高一服、良好な決算を材料に28,000円台を回復した。

月曜日の東京市場では日経平均が上昇。前週末の米国株が上昇したことを受けて買い優勢。決算への期待感も下支えとなった。前週末比+191円高の27,993円。

発表された中国の財新製造業PMI(7月)は前月51.7から50.4へ悪化して予想51.5を大きく下回った。

ドル円相場は133円20銭で始まり早々に60銭に上昇したものの9時から10時頃にかけて短時間で132円10銭へ急落。

ユーロ円相場も136円20銭で始まり135円20銭へ。円買い戻しが急速に進んだ。ドルは対ユーロでやや下落して1.0220から1.0240へ。

ドル円相場はその後132円70銭に反発したあと40銭~70銭で上下したあと、欧州市場から米国市場にかけて上下しながら次第に水準を切り下げた。

発表されたドイツ小売売上高(6月)は前年同月比▲8.8%減と予想以上に悪化。米国市場では一段の米長期金利低下もあり131円60銭まで下落した。値動き荒く、132円に反発したが引けは131円60銭。

ユーロ円相場も135円80銭に反発していたが上下しながら135円ちょうどへ。円は全面高となった。

ユーロドル相場はやや堅調。ユーロ高ドル安。引けは1.0260近辺。

米国株は小幅下落。中国や欧州の景気悪化懸念、米国の景気後退リスクが意識され、決算発表一巡で材料難のなか金利低下も支えとならず。

NYダウは▲46ドル安の32,798ドル、ナスダックは▲21ドル安の12,368ドル。景気後退が意識され原油価格WTIは下落して93.89ドル。

米10年債利回りは2.584%、2年債は2.884%に低下した。発表されたISM製造業景気指数(7月)は前月53.0から52.8へわずかに悪化。ただ支払価格指数が78.0から60.0へ低下したことでインフレ圧力の低下が意識された。

火曜日の東京市場は朝方からペロシ米下院議長の台湾訪問で揺れた。中国は再三にわたり米国に警告してきたがペロシ議長は訪台を強行。中国が強く反発。米中緊張が高まった。急激に、台湾海峡リスク、軍事衝突リスクも意識された。

リスク回避による円買い・円買い戻しが強まり、ドル円相場は131円60銭から130円40銭台に下落。

ユーロ円相場も135円ちょうどから134円20銭へ、さらに欧州市場から米国市場にかけて133円40銭に大幅続落した。ドル円相場は130円40銭~90銭近辺で上下。その後は130円70銭~131円ちょうどでもみ合った。

ユーロドル相場は1.0260で始まり概ね横ばいのなか上下。欧州市場では1.0220~40。

日経平均は大幅反落。米中対立激化を懸念。台湾株、香港株、さらに上海株も大きく下落し下押し。

円高も嫌気された。一時▲400円安となり引けは▲398円安の27,594円。欧州株、米国株も下落。ペロシ議長訪台による米中対立懸念が強まった。

無事台湾に到着したが、中国は大規模軍事演習実施を示唆。NYダウは▲402ドル安の32,507ドル。ナスダックは▲20ドル安の12,348ドル。長期金利の反発も嫌気された。

サンフランシスコ連銀総裁はインフレ抑制までなお程遠いと発言。シカゴ連銀総裁は9月会合で0.50%の利上げを支持すると述べた。

米10年債利回りはリスク回避で一時2.5%台に大きく低下していたが、急反発して2.74%。2年債は3.052%と3%の大台を回復した。

ドルは反発。ドル円相場は急速に上昇して引けは133円20銭。ユーロドル相場は1.0160近辺。ドルインデックスは前日の105.4ポイントから106.3ポイントに反発。

ユーロ円相場はひとまず急速なリスク回避、円買いが一巡し反発して135円40銭で引け。アジア時間の円急騰から米国市場では円急反落と値動きは激しかった。

水曜日の東京市場では日経平均は反発。円高が一服、円安方向に振れたことで、輸出関連銘柄、機械・電機などの一角が買われた。ただし米国で金融引き締め警戒感が再燃したことは重石。引けは前日比+147円高の27,471円。

ドル円相場は133円20銭で始まり80銭に上昇したあと昼過ぎには132円40銭に下落した。ただその後は反発。夕刻から欧州市場にかけては133円20銭近辺で上下した。

ユーロ円相場は135円40銭で始まり136円ちょうど近辺に上昇したが、134円80銭台に大幅反落した。ただ午後には円高一服。欧州市場にかけては上下動しながら136円20銭まで上昇した。

ユーロドル相場は1.0170で始まり欧州市場にかけて終始1.01台後半~1.02で上下した。

米国株は大きく反発。良好な経済指標や予想を上回る決算・業績期待でハイテク中心に上昇。ペロシ下院議長が無事に台湾を出国したことで米中対立激化への懸念が緩和した。NYダウは+416ドル高の32,812ドル、ナスダックは+319ドル高の12,668ドル。

発表されたISM非製造業景気指数(7月)は前月55.3から54への悪化予想に対し56.7へ改善。内訳で、新規受注が55.6から59.9へ大きく改善し、価格指数が80.1から72.3へ低下しインフレ圧力の緩和を示した。

米10年債利回りは強いISM非製造業景気指数を受けて一時2.83%に上昇したあと低下して2.704%。2年債は3.069%。

サンフランシスコ連銀総裁は、市場の利下げ予想は先を急ぎすぎ、インフレとの戦いはまだ終わっていない、深刻な景気後退なくインフレを鈍化させると楽観視している、と述べた。

ドル円相場はさらに上昇。134円40銭をつけ、引けは133円80銭。ユーロ円相場は135円70銭に反落したあと上昇して136円10銭近辺。ユーロドル相場は1.0120にユーロ安ドル高となったあと持ち直し1.0170で引け。

木曜日の東京市場では日経平均が上昇。前日の米国株が上昇、円安も支えになった。経済指標が強かったことで景気敏感株が買われた。ただ28,000円の大台近くでは利益確定売り、戻り売りが強かった。引けは前日比+190円高の27,932円。

ドル円相場は133円80銭で始まり40銭に下落。ただその後は底固く東証引けにかけて134円30銭に上昇。欧州市場にかけては134円20銭を中心に134円ちょうど~40銭で上下した。

ユーロ円相場は136円10銭~30銭で始まり135円70銭に下落。ただ午後から欧州市場にかけては反発して136円90銭に上昇した。

ユーロドル相場は1.0160~70でもみ合い。欧州市場にかけて1.02ちょうど近辺に上昇した。

欧州時間にはイギリス中銀が予想より大幅となる0.50%の利上げを決定。さらなるインフレ上昇の可能性を踏まえ引き締めを強化。10-12月期には景気後退入りを予想する、とした。

さらに中国の軍事演習によるミサイルが台湾上空を通過、と報じられた。これらでリスク回避が強まった。

為替市場では円が全面高。ドル円相場は133円20銭に下落。ユーロ円相場は135円70銭に下落。米国では週次の失業保険新規申請件数がやや増加。クリーブランド連銀総裁は景気後退リスクが高まりに言及した。

原油価格WTI先物は景気後退リスクを受けて88.54ドルに下落し半年ぶりの安値をつけた。米10年債利回りは2.695%に、2年債は3.049%に小幅低下した。

為替市場では再び円買い戻しが活発化。ドル円相場は133円80銭に上昇していたが132円80銭に大幅下落して引けは133円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.0160近辺に反落していたがユーロ高ドル安方向に大きく反発。1.0250まで上昇して引けは1.0240。

ユーロ円相場は135円70銭~136円20銭で上下し引けは136円20銭。米国株はまちまち。雇用統計発表を翌日に控えて様子見。NYダウは前日比▲85ドル安の32,726ドル。ナスダックは+52ドル高の12,720ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が上昇。前日の米国半導体株が堅調に推移。国内企業の決算発表で良好な内容も手掛かり。原油価格下落でコスト抑制・利益増期待も。

ただ午後には雇用統計を前に様子見姿勢が強まった。引けは前日比+243円高の28,175円。

ドル円相場は133円ちょうどで始まり132円50銭に下落したが反発。その後は方向感なく133円を挟んだ上下となった。午後には133円台を回復しもみ合い夕刻は133円40銭台に上昇。欧州市場から米国朝方は132円80銭から133円20銭。

ユーロ円相場も136円20銭で始まり135円80銭に下落したがすぐに136円台を回復。その後は136円を挟んで上下した。欧州市場から米国市場朝方は135円90銭から136円20銭。

ユーロドル相場は1.0240~50で始まり1.02台前半で小動き。

注目の米国雇用統計(7月)は強い数字となり、大幅にドル高・円安が進んだ。非農業部門雇用者数・前月比は+528千人と予想+250千人を大きく上回り、前月も+398千人に上方修正。

失業率は前月3.6%から3.5%に低下して50年ぶりの低水準に。平均時給は前年同月比+5.2%と前月+5.1%から加速した。

これを受けて景気後退懸念が和らぎ、FRBが強い金融引き締めを続けるとの見方が強まった。米国株はまちまち。景気敏感株や金融株は買われたが、長期金利上昇がハイテク株の重石。

NYダウは前日比+76ドル高の32,083ドル。ナスダックは▲63ドル安の12,657ドル。

米10年債利回りは一時2.86%に上昇し2.827%。2年債は3.3%台に上昇したあと引けは3.23%。ドル円相場は発表直後に急騰して135円40銭に。その後は反落して引けは135円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.0230から1.0140へ急落。その後は下げ止まり上下して引けは1.0180。ユーロ円相場は137円70銭に上昇し、引けは137円40銭。

◆今週の3つの注目ポイント


木曜日は東京市場が休場

1.米国の経済指標

今週は物価指標に注目が集まる。FRB当局者は市場の早過ぎる利下げ織り込みを牽制。インフレとの戦いは終わっていないとして金融引き締めの手綱を緩める気配はない。

水曜日に発表される消費者物価指数(7月、前年同月比、予想+8.8%、前月+9.1%、コア指数、予想+6.1%、前月+5.9%)が最大の関心を集めよう。

ほか火曜日に労働生産性・単位労働コスト(4-6月期、生産性の悪化やコスト上昇はどの程度か)、木曜日に生産者物価指数(7月、前年同月比、予想+10.3%、前月+11.3%)、週次の失業保険申請件数、金曜日に輸入物価、ミシガン大学消費者信頼感指数(8月速報、予想51.8、前月51.5)が発表される。

2.日本の経済指標

月曜日に国際収支(6月)が発表される。予想は7,000億円の赤字。季節調整済みでも300億円ほどの赤字が見込まれている。週末にかけて大きくドル高円安方向に反転したが、その勢いの背中を押すか。

ただ足元で原油価格が大きく調整しており、その影響による収支改善は9月以降に反映されると見込まれ、そうした予測が円先安感にブレーキをかけるか。

同じく月曜日には景気ウォッチャー調査(7月)が発表され前月から悪化が見込まれている。

水曜日の企業物価指数(7月)は前年同月比が前月の+9.2%から+8.5%へ伸び鈍化が予想されている。欧米とのインフレ格差が意識されるか。

3.欧州の経済指標

水曜日にドイツ消費者物価指数(7月)の改定値が発表される。速報は前年同月比+7.5%と前月+7.6 %からやや上昇率が鈍化していた。

エネルギー供給懸念・景気悪化懸念が高まるなかインフレピークアウトの確度が高まり、金融引き締めの緩和予想が強まるか。

金曜日にはユーロ圏鉱工業生産(6月)が発表される。前年同月比で予想は+0.8%と前月+1.6%から鈍化。景気悪化懸念が強まるか。

このほか、水曜日には中国で消費者物価・生産者物価(7月)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


米景気見通しで揺れるドル円相場

先週のドル円相場は上下に大きく振れた。米国景気後退懸念や台湾情勢の緊迫化によるリスク回避、米長期金利低下に押されて一時130円台まで下落。一方、米国の経済指標、とくにISM景気指数が予想より強く、景気後退懸念や台湾問題によるリスク回避がひとまず緩和。さらに週末の強い米雇用統計を受けてドル円相場は135円台まで急速に反発した。

前週までのドル円相場は米長期金利の低下ほどにはドル安円高に振れなかったが、先週は金利動向以上にドル円相場の振れが大きくなり、とくに金利低下以上に急速にドル安円高に振れた。FRBの金融政策よりも、その前提である米国景気見通しそのものへの反応が強まっているようだ。

GDPが2四半期連続でマイナス成長となり、テクニカルに(数字のうえでは)リセッションとなったことから、市場の米国景気に対する警戒感は高まっている。パウエル議長が将来の利上げ幅縮小に言及したことで、景気後退・利上げ打ち止め、さらには利下げまで、市場は織り込んで米長期金利は低下した。

金融政策の動向を反映しやすい2年債利回りも3%を割り込んで2.8%台へ低下。足元のFF金利がすでに2.5%まで上昇しており、残りわずかな利上げしか見込まない状況にまでなった。

一方、FRB当局者は足元では景気後退には陥っていない、として、なおインフレ抑制への手綱は緩めない姿勢を示していた。

これにより景気悪化懸念がさらに強まり2年債と10年債の利回りが逆転する逆イールドが深まった。

為替市場ではドル買い持ちを減らす動きが強まった。ドル円相場は値動きからピークアウトしたとの見方が強まったことで、ドル売り戻し・円買い戻しの動きが強まり、また短期的にドル安円高トレンドにかけたポジションも増加。130円を試す動きとなった。

しかしそうした流れは、強い経済指標でひとまず収まった。市場が懸念するほど米国景気は一気には悪化せず、FRBも金融引き締めの手綱を緩めないとの見方が盛り返した。

雇用が極めて強かったことで、金融引き締めでも極端な景気後退を避けながらインフレ抑制を実現するソフトランディングが可能との期待が回復している。

FRBがインフレと景気の二律背反する条件をうまくコントロールしてソフトランディングに落とし込めるかが最大の関心事。

インフレ抑制を「無条件」で達成するために景気が犠牲になるだろう、との見方が強まり、景気悪化・後退リスクがドル高を抑制し始めた。

金利よりも景気そのものへの関心、ドルの感応度が高まった状態となっている。米国景気に対する見方は、すでに景気悪化がどの程度となるか、という議論に。金融引き締めが急ピッチで進むなかで景気が良くなる材料はない。

景気後退か景気減速にとどまるのか。先週はその狭間でドル円相場は大きく揺れた。

FRBは雇用統計を受けて金融引き締めに自信を持ったとみられる。9月の利上げ幅が0.75%となる確度は上がったようだ。これにより景気への下押し圧力はさらに強まるだろう。

長期金利がFRBの政策を先読みして低下していたために、早くも市場金利ベースで金融緩和効果が生じ、FRBの金融引き締め効果が減殺される状況となっていたことは当局者にとって悩ましいところだっただろう。

インフレ鎮静化が明確となるまで、長期金利に低下して欲しくないのが本音だろう。その意味で相応に強い経済指標は、金融引き締め・需要抑制によってインフレを鎮静化させたい当局にとって救いとなる。

一方、強すぎる小売・生産・雇用はインフレ高止まりを示唆し、むしろハードランディングリスクを強めることとなる。

現在の強い金融引き締めのもとで米国景気トレンドが上向く可能性は極めて低い。景気トレンドは悪化継続。なおも悪化度合い、下向き度合い・角度やペースについて、見方がぶれるに過ぎない。

為替市場では急速なドル安円高が修正された。これをドル安円高が一時的とみてなおもドル高基調が続いているとみるのか、すでにドル安円高方向に転換しておりその勢いが速すぎたことで一旦ドル安にブレーキがかかったとみるのか。

景気悪化トレンドが継続し、ここからさらに景気悪化が明確となる可能性は高いだろう。

利上げ継続・ドル政策金利上昇だけを囃してドル高がなおも継続するとみるのは難しそうだ。

少なくともドル円相場が140円台をつけて高値を更新する可能性は大きく後退したのではないか。

メインシナリオでは、7-9月期は高値波乱、135円~140円でピークアウトを探り、10-12月期に130円割れを試すと想定していた。実際には、それよりもかなり早く130円を試す値動きとなったが、それがやや時期尚早としてドル安に歯止めがかかったのが先週の値動きだったのではないか。

ドル安円高方向への流れは始まっており、米国景気の動向を軸に、そのペースを巡る波乱が続くことになりそうだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について