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発電燃料再び上昇 OPECは予想外の減産決定
  • MRA商品市場レポート

2022年9月6日 第2276号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「発電燃料再び上昇 OPECは予想外の減産決定」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、米国市場が休場のため動意薄い展開。ただしOPECプラスが予想外の▲10万バレルの減産を決定し、原油価格が上昇したことでインフレ資産価格に上昇圧力が掛る展開となった。

また、ここまで「タンクが満杯」「デリバティブなどの取引規制」を欧州が検討していることで下落していたエネルギー価格も上昇、インフレ資産である非鉄金属も上昇している。

なお、今回の電力・ガス価格の高騰を受けて欧州はデリバティブなどの取引を規制する方針のようだ。しかしかつてドイツは1897年にベルリン先物取引所で小麦の投機取引を規制した。

その結果、流動性が低下してより価格の変動性が増したため、1900年にこの規制を解除した、という歴史がある。

現在の問題は投機が価格を押し上げているというよりも流動性の問題である。実際TTFの市場はICEのデータを元にすると、投機取引を行っている市場参加者のシェアは大きくない。

現物の需要者と生産者のみが市場参加者となった場合、供給不足の時には価格は高騰し、供給過剰の時は急落する、ということが起こりやすい。価格高騰に悩む政府からすれば何かをしなければならないと考えているが、安易な取引所の規制強化は、最終的により厳しい状況をもたらすことになる。

多くの場合、価格上昇は投機が悪い、と安直に排除する動きが強まるが、その先のことを考えると、今回の対策は決して適切な対応とはいえないのではないか。

政府方針で取引所や売買価格の規制を行っている権威主義国家の中国と、自由主義の欧州とでは土壌が異なることは忘れてはならない。

【本日の見通し】

本日は原油価格の上昇を受けた期待インフレの上昇と、循環的な景気減速の綱引きとなり、基本はレンジワークになると考える。後は固有商品毎の供給面が意識されて高値で推移するもの(発電燃料など)とそうでないものが分かれよう。

本日の注目材料としては、米国時間に発表予定のISM非製造業指数が「ほどほど」の内容になる可能性があり、その場合は米金融引締めペースの加速観測が後退するため、ファイナンシャルな面で価格は下支えされよう。仮に強い統計が出た場合には下落要因に。

8月ISM非製造業指数 市場予想 55.4(前月 56.7)

【昨日のトピックス】

昨日、不祥事が続いて退任したボリス・ジョンソンの後任にトラス外相が選出された。まだ47歳という若さである。

政策的には分かりやすく、大規模減税を打ち出し、外交では反ロシア・中国強硬路線を打ち出している。景気が悪くなった時にバラマキを行い、国民の不満を外に向ける政策であり、ある意味納得感がある。

しかし、英国は脱炭素・脱EUを行った結果、結果的に欧州では微妙なポジションにある。英国をEU側は重要なパートナーと見做しているが、既にEUではないため、今回のエネルギー問題が発生しても、大陸からのガスやその他のエネルギー供給の順位は劣後するからだ。

英国のガス供給は、自国生産が約半分、残りの多くをノルウェーから、そしてカタール・米国から輸入している。ガス需要の4割が家庭用、3割が発電向けであり今回の事態は企業・家計を直撃することになる。

また、英国は脱炭素の進捗によってガスの貯蔵設備が極端に減少しており、9.9Twhと、3日程度しか在庫がない。この状態で異常気象が発生して風力発電などが昨年の様に停止すれば、英国経済が危機的な状態に陥ることはほぼ間違いがない。

トラス次期首相が取り組まなければならない課題は山積している。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。今回は何も決定しないと見られていたOPECプラスが▲10万バレルの減産を決定したことが材料となった。

これまで米国やその他の国々からの要請を受けて増産を続けてきたが、大きな方針転換、節目のOPEC総会となり今後は米国の増産や景気減速による需要の減少が見込まれるため、OPECプラス総会では減産が議論されることになる。

今回の増産はロシアが支持していなかった。減産を行うことで「供給が需要を上回る」というメッセージを出し、価格が下落するというもの。

しかし、これまで増産計画も計画通り行われておらず、実質的には既に減産が行われていること、▲10万バレルの減産は、バイデンが中東を歴訪したことに対する形式上の増産だった10万バレル分を止めただけであり、恐らくこの程度の減産では価格を押し上げるには至らないと考えられる。

需要が減速を始めた場合、大幅な減産を行わなければ価格を維持することは難しい。前回コロナ・ショック時以降の価格上昇は、

1.景気が回復基調にあったこと2.減産を渋っていたロシアをサウジアラビアが押さえ込み、大幅減産を成功させたこと

が価格上昇に寄与した。しかし今回は景気が減速する局面であり2.が達成できたとしても効果が減じられ、最終的にはOPEC諸国が外貨獲得競争に陥り、増産に踏み切るという展開はありえる。この場合価格は大きく下落することになろう。

価格は供給よりも需要の動向、景気動向が左右するため、最大消費国である米国が強い意志を持って金融引締めを継続している以上、基本的に価格は中期的に下落すると予想される。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は85.26ドル(前日比+2.97ドル)と上昇、Brentの実力ベースとの価格乖離は10.48ドル。

なお、引き続き脱ロシアの動向が価格に影響を与えることも間違いがない。G7はロシア産原油に上限価格を設定し、上限を超える石油の海上輸送に保険会社が保険を提供することを禁止する方針を決定した。

これによってロシア産原油は回避されることになるが、そうなるとその他の原油価格が代替品需要で上昇することが予想される。

具体的にはマーカー原油で言えば、BrentやWTI、ドバイの価格に上昇圧力が掛ることになるだろう。しかし、エネルギーの安定供給に指標がでる場合は例外としている。

しかし、こうした良いとこ取りをロシア側が認めるかどうかは不透明であり、ロシアとの取引を断絶していない中立国(中国やインド、OPECプラスメンバーである中東諸国など)経由で西側諸国が原油を購入するルートはまだ残ると考えられる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 110-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行される(ないしはOPECプラスの減産)Brent 85-110ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国(主に非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 80-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 75-105ドル

5.4.の状態で産油国(主に非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 85-100ドル

7.6.に加えて産油国(非OPECプラス)のいずれかが増産するBrent 65-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、OPECプラスの減産決定はあったが、実情を変えるほどの減産ではなく、軟調に推移すると考える。

ただし、米国時間に発表予定のISM非製造業指数が「ほどほど」の内容になる可能性があり、その場合は米金融引締めペースの加速観測が後退するため、ファイナンシャルな面で価格は下支えされよう。

仮に強い統計が出た場合には下落要因に。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇。ガスタンクが満杯になるとの見方やEUによる価格上限設定を目的とする市場介入観測が価格を押し下げていたが、ガスが冬場も足りている訳ではなく、今後も購入し続けなければならないことから水準を切り上げた。

取引所に当局が介入して価格をゆがめた場合、その市場で取引する参加者が減少して、市場が機能不全に陥るリスクがある。実際、つい先日LMEが非常に不透明な理由でニッケルの取引解合を行い、取引が急減している。

また、実勢と乖離して電気やガスの市場価格を変更した場合、価格上昇による需要減少が起きず、却ってエネルギー不足が発生するリスクも高まることになる。

EUは財政規律を重んじるため、日本のように財政出動で目先の光熱費の上昇を抑制する、という手段を取り難いため、こう言う判断になったと考えられる。

しかし、ロシアからの供給制限は冬場も続く可能性が高く、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計だろう。当面はウクライナ危機時に付けた345ドルが上値として意識されよう。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。

TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。これはロシアが今後もガスを供給するつもりがないことを示唆しているう。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波に襲われた。ただしこの影響はそろそろ夏が終了するため沈静化すると見られる。

しかし、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態は季節的にも今後も続く可能性が高い。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東・以西とも上昇している。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響と、冬場の調達が始まったとみられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は休場。

米天然ガスの在庫水準は低く、一方で価格が高い欧州向けの輸出は継続して域内需給がタイト化すると予想されるため、今冬のガス価格は高値で推移することになるのではないか。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は休場。恐らくOTC市場ではTTFの上昇を受けて水準を切り上げていると考えられる。

はこれからが本番であり、ロシアは早くもノルドストリームの再稼働に否定的な発言をするなど、ピークシーズンの供給は不安定であり価格のリスクは依然、上向き。

現在の価格水準では日本の電力会社は上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2は新会社への移行が進むが、中長期的な観点では以下の2点が強く意識すべきリスクとなる。

1.ロシアが契約を一方的に履行しない場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超える

2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまう

8月28日時点の日本の発電用LNG在庫は263万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月22日-28日のLNGトレードは677万トンと減少、スポット取引のシェアは20%(前週27%)と低下した。

スポット需要の減少は、主に台湾の輸入減少によるもの。日本と中国のスポット調達も減少、一方で韓国の輸入は増加。

本日は、欧州のガス在庫積増しは継続する見通しであり、TTF・JKMとも上昇余地を試す展開を想定。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇した。下落していたガス価格が上昇したことに加え、冬場の発電燃料確保の動きが価格を高値に維持している。

ガスタンクのキャパシティが一杯になりつつある中、ガスに比べれば保管が容易な石炭に関しても在庫積増しの動きが強まり始めたと考えられる。

ただしガスに比べれば石炭火力のシェアは低いため、影響は限定されるはずだ。しかし、取引が薄い中で上限価格に意味はないが、この上昇で期近は節目の450ドルを越えてしまったため、切りの良い水準である475ドル、500ドルといった水準がこの冬場は意識されるのではないか。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日もガス価格の上昇が見込まれる中、上昇余地を探る展開が予想される。

今のところ海上輸送炭市場から遠ざかっているため影響は限定されるが、中国で再びロックダウンの動きが広がっていることは上昇を抑制しよう。

この冬が終了した場合、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまち。総じてここまでの下落に伴って割安感が強まったことから買い戻しが優勢となった。比較的大きく上昇している金属も多かったが、いずれの金属も50日移動平均線がチャート上のレジスタンスラインとなっている。

これまで中国政府の経済対策期待で買いが入ってきたが、ロックダウンは劇的に経済活動を停滞させるため、非鉄金属を始めとする工業金属価格の下落要因となる。

また、今回の四川省の地震も経済活動を停止させ、いわゆる実需ではない投資家の投資マインドを冷え込ませる。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水・地震、足下の欧州のガス価格の下落による生産回復期待の影響で軟調な推移になると考える。

ただし同時に、中国政府の経済対策が価格を下支えすると予想する。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水とロックダウンで満たされなくなり、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。

本日は、最大消費国である中国の経済活動停滞、それを緩和するための景気刺激策の綱引きとなり、基本はレンジワークを予想。

ただし、米国時間に発表予定のISM非製造業指数が「ほどほど」の内容になる可能性があり、その場合は米金融引締めペースの加速観測が後退するため、ファイナンシャルな面で価格は下支えされよう。

仮に強い統計が出た場合には下落要因に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

四川省・深センがロックダウンとなり、今度は四川省でM6.8の地震が発生し、中国の経済活動が停滞する可能性が意識されているため、基本的には下落しやすい地合だが、今後、中国政府による経済対策への期待から、これまでの下落による割安感から買い戻しが入った形。

なお、四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

今後、10月の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。

中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

また、北戴河会議を経ても結局ゼロコロナ政策を変更する意思はないことが今回の一連の対応で明らかになり、習近平が3期目続投となる可能性が高い以上、当面(場合によると来年以降も)ゼロコロナ政策が維持され、経済の強制停止リスクが残存することは世界経済の大きなリスクになる。

なお、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくないと見ている(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日も、経済対策実施期待と各地の天災の影響による経済活動の強制停止の綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は小幅に下落。米国市場が休場で動意薄く、もみ合った結果小幅上昇となった。銀、PGMも同様。

金の基準価格は変わらずの1,095ドル、リスク・プレミアムは▲2ドルの618ドル。

仮に過去5年平均程度にリスク・プレミアムが回帰するとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲370ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,400ドルを割り込む可能性が出てくる。

ただし、クレジットリスクの高まりがリスク・プレミアムを高止まりさせるため、しばらく金価格は実質金利以上に高止まりすると考えられる。

リスク・プレミアムの低下は、クレジットリスクヘの懸念が後退することが恐らく必要条件になるが、それは米利上げが打ち止めとなる来年4月以降でありそれまでは金価格は、実質金利の上昇が価格をじりじりと押し下げながらも高止まりすると予想される。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは切り上がっていると考えられる。その点では現在の価格は売られすぎともいえ、金銀レシオはコロナ・ショック時に急騰した127倍を「エラー値」として処理すれば過去最高水準に迫りつつある状況。

金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲370ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。

この場合、銀の下値は14ドル程度となる。「何かあった場合」の下値は切り下がった。

本日は原油価格の上昇による期待インフレ率の上昇や、ISM非製造業指数が発表されるが恐らく「良くも悪くもない」内容になると予想されるため、実質金利が低下、貴金属価格は上昇すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は休場。

トウモロコシは米国ではその需要の4割がエタノール向けであり、輸送燃料に用いられている。そのため、これまでは景気と価格が連動しない商品だったが、この10年で「準景気循環系商品」になっているといえる。

そのため、米国が金融引締めを行い、世界的にも景気が循環的な減速をするなかではトウモロコシを初めとする穀物価格は下落しやすい。

しかし、秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、昨日のOPECプラスで減産が決定され、(影響は大きくないと思われるものの)原油価格が上昇しているため、穀物セクターも上昇すると見る。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

・日本政府の財政規律感の欠如による、実質的な日銀による財政ファイナンスにより海外からの信認が低下、円が暴落して先進国市場に混乱をもたらす場合(今のところ角度の低いリスク要因)。

◆本日のMRA's Eye


「欧州景気悪化のリスク高まる」

欧州の景況感は悪化しており、景気の先行き不透明感が強まっている。経済統計の減速はもちろんだが、独センティックス社が2,800の投資家やアナリストに対して調査した、今後6ヵ月間の投資家の景況感指数である「センティックス投資家信頼感指数」は▲31.8と、欧州危機時(▲28.9)、コロナ・ショック時(▲24.8)を下回り、過去最低となったリーマン・ショック時に付けた▲42.7に迫る勢いである。

6ヵ月の投資マインド調査であると言うことは、年明け2月頃まで欧州の景気回復が期待されていない、ということだろう。

ロシアの欧州に対する「カウンター制裁」の影響で、欧州の石油・ガス生産は減少しており、2015年を100としたときの生産量は、2022年6月は41.9と過去5年レンジの下限(46.6)を下回り、極めて低調な推移となっている。

また、現状においても重要な化石燃料である石炭については35.1と域内最大の生産国であるポーランド、2位のトルコの生産増加によって増加基調にはあるものの、過去5年平均(49.1)を回復するにはほど遠い。

いずれの化石燃料も欧州が主導して始まった、環境保護派の「採掘停止を働きかける動き(保険・銀行融資の規制)」によって鉱山の開発やメンテナンスが停滞し、即時の増産能力を持ち合わせていない状況になっていると考えられる。

恐らく今後も原発の再稼働など、既にエネルギーがそこにあり、即時に発電ができるような熱源を使用しない限りエネルギー供給は限られることになる。

その結果、生産活動が停滞し、経済活動が停滞することは必至であり、暖冬や停戦、ロシアに対する制裁解除がなければ冬場の景気減速の可能性は高い。さらにこの状況でインフレ抑制のためにECBは利上げを断行しており、このことも欧州景気を悪化させることになるだろう。

また、動力源としての熱源のみならず、ガスからの加工品である化学製品やその内数である肥料の生産水準は毎月着々と減少しており、今後、ロシアが供給を絞ればさらに生産が減少する可能性は高く、化学セクターのみならず幅広い製造業、農業の生産に影響を及ぼすことは必至の情勢だ。

ロシアは恐らく今年の冬場を「正念場」と捉えており、冬場にノルドストリームが再稼働することは期待薄の状況だ。また、この状態が続けば来年の夏や来年の後半から再来年の冬にかけて同様の問題が生じることになり、この問題は長期に渡って欧州経済にダメージを与え、最大貿易相手経済圏である中国の景気を構造的に悪化させることになる。

ただし、欧州がこの数年のうちに(恐らく最低でも5年程度はかかるか)LNGを米国やその他の地域から輸入する体制を確立し、その他のエネルギーも原油・石炭・原子力・再生可能エネルギーなどで確保することができた場合、ロシアのガスは「浮く」状態になるため、ガス価格は下落することが予想される。

しかし、そのときのロシアとその他の国の関係がどうなっているかに依拠するが、恐らく親ロシア国と反ロシア国で異なる価格で資源が販売される可能性は高いと考える。


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