エネルギーは下落・その他は上昇
- MRA商品市場レポート
2022年8月5日 第2254号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「エネルギーは下落・その他は上昇」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はエネルギーセクターが軒並み水準を切下げたが、その他の商品は上昇した。
米景気の先行きへの懸念が強まり、米国のエネルギー需要が減速するとの見方が「原油安・ドル安」を誘発したため(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。
一方、米景気の方向性が変化した可能性を受けて金融引締め加速観測が後退し、ドル安が進行したことが広くドル建て資産価格の上昇要因となった。中国政府の経済対策期待で需要増価期待が高まる非鉄金属価格が上昇したのはこの影響もある。
エネルギー価格の下落は重要なサポートラインを割り込んだことによるテクニカルな売りも重なったことが影響しているとみているが、基本的には景気減速で下落見通しであったため、この下落に違和感はない。
ただ、弊社はQ422からの下落を想定していたため、下落のタイミングが1四半期早まった点では想定と異なる。
【本日の見通し】
本日は米国の景気先行きへの懸念が材料となる中、今晩発表の米雇用統計を控えて様子見気分が強まり、アジア時間は昨日上昇した商品が売られ、下落した商品が買われる展開が予想される。
本日予定されている統計ではやはり雇用統計に注目。
7月米非農業部門雇用者数 市場予想 前月比+25.0万人(前月+37.2万人)民間部門雇用者数 +23.0万人(+38.1万人)製造業雇用者数 +2万人(+2.9万人)失業率 3.6%(3.6%)平均時給 前月比+0.3%(+0.3%)、前年比+4.9%(+5.1%)労働時間 34.5時間(34.5時間)労働参加率 62.2%(62.2%)
【昨日のトピックス】
昨日、原油価格が下落し、ドルも売られる流れとなった。以前、本レポートでドル指数と原油価格の関係性について解説したことがあるが、需給バランスが落着いているときは、「ドル高・原油安 / ドル安・原油高」の関係性になっている。
これは物理的な商品価値は為替に左右されないため、ドルが増価した場合には同じ価値の現物をより少ないドルで購入できるため、名目価格が下落し、逆に減価した場合にはより多くのドルが必要になるため、名目価格が上昇するためだ。
しかし、米ファイイザー社のワクチン開発成功以降、ドル高・原油高の組み合わせになっていた。これは「米国の景気がよいから」である。そのため、ドル高が進行して原油価格が下落する局面が訪れた場合、それは景気の転換点になる可能性があると指摘してきた。
今振り返ってみると7月からこの傾向は強まっており「ドル高・原油安」の構図になっている。そして足下は原油安とドル安が同時に発生するケースが増えてきた。このことは「米国の景気が悪いから、ドル安・原油安」となっている可能性があり、米国が景気後退局面入りした可能性がある。
仮にまだ景気後退局面入りしていなかったとしても、景気がこれまでの上向きのトレンドから反転した可能性がある、ということだ。
欧米の主要調査機関は来年後半からの景気後退局面入りを予想しているところが多いが、もう少し早く、場合によると年内にリセッション入りする可能性があることは意識する必要があるのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は続落した。長らく維持してきた200日移動平均線を下回ったことでテクニカルな売りが入ったこと、ドル安・原油安の構図になっていることから、米景気の方向性が下向けになりつつある可能性があることが背景(詳しくは昨日のトピックスを参照ください)。
200日移動平均線のサポートを割り込み、オプションが積み上がっていた95ドルを割り込んだため、次のサポートは90ドルとなる。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は77.85ドル(前日比▲3.27ドル)。
弊社の年初の予想は年末Brentが75ドル程度を予想していた。足下の原油価格の実力値はほぼこの水準まで低下している。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。
今後の需給緩和には、米国の増産が需給緩和には必要になってくるが、ヒト・モノの確保が困難なこと、クラックスプレッドが空前の水準に達しており、増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。
ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、長らくサポートラインだった200日移動平均線を大きく下回っているため、一旦買い戻しが入るが、最大消費国である米国の景気見通しのトレンドが下向きになった可能性があり、テクニカルにBrentベースで90ドルを試す展開を予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小動き。原油価格が下落してエネルギーセクター全体に下押し圧力が掛っているものの、ロシアがノルドストリームのメンテナンス完了に必要なタービンの取得が遅れているため、稼働がさらに遅れる可能性をしたしたことが相殺した。
ロシアのガス供給停止は、今回のガス供給制限で欧州域内に経済的な不利益を発生させ、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成するのが目的と考えられる。
EUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功しているといえる。そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けるだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州全体のガス在庫は8月2日時点で70.5%(前日70.2%)と増加した。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。ドイツに関して言えば、メルケル政権時代に原発廃止の方向性が強く打ち出され、現在の稼働は過去5年平均の半分程度である。
原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。
最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるだろう。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
また、5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きいが、報道ベースでは10月にターミナルの稼働が再開すると報じられたことは、米国内需給のタイト化要因となる。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。
このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に下落した。米天然ガス統計で貯蔵施設へのガス流入量が市場予想を上回ったことが影響した。しかし、米国の天然ガス在庫の水準は低く、域内需給のタイト化観測は価格の上昇要因となる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は期近はまちまち、期先は上昇した。ロシアからの供給再開期待が後退する中で、徐々に期先の価格が現状を受入れつつ有るためと考えられる。
現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きとなる。
ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。
しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になる。
サハリン2は日本政府としては権益維持方針を強調しているが、今後どうなるかは分からない。
仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。
ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため、サハリン2に関しては、実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月24日時点の日本の発電用LNG在庫は226万トン(前年同月末226万トン、2017~2021年平均203万トン)と先週から変わらず。弊社の集計では過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。
今年の夏は猛暑で電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。
7月25-31日のLNGトレードは、674万トンと先週の737万トンから減少。主にスポット調達の減少が影響した。
スポット調達は20%と先週の26%から低下。日中台韓向けのスポットカーゴが▲40万トン減少したことが影響した。主に日本と韓国のスポット調達減少に因るもの。
ターム契約は先週とほぼ変わらない水準だった。
本日は、ロシアの供給制限継続と景気減速観測が綱引きとなる中で現状維持を予想。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは下落した。米Freeportが10月からLNGの輸出を再開すると報じられたことで、ガス価格が下落したことが影響した。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。
期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されているため、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は125ドル程度になるが、現状、それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
石炭市場の流動性が低い状態では、石炭価格のリスクマネジメントが非常に困難になる。
価格リスクマネジメントの観点からは、石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されていることを考えると、無理筋な話ではない)。
もちろん、このタイミングで生産者側に交渉を行えば割高なフォーミュラを要求される可能性が高いため、全量を原油リンクに、ということは回避すべきだろう。
今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。というのも国内炭の生産を増やした上、国内の企業活動が、ゼロコロナの余波で低迷しているからだ。
結果、中国国内炭と豪州炭の価格差は拡大しており、一物二価の状態となっている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くなく(特に冬場)、海上輸送炭市場需給に永享を与える可能性はある。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。
6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。
本日は、ガス価格の下落が見込まれることから、石炭価格も調整して下落すると考える。
なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は上昇した。中国政府の経済対策期待とドル安の進行を受け、これまでの下落が大きかったことから買い戻しが入った形。
世の中では「ドクター・カッパー」と呼ばれているが、「ドクター・チャイナ」と呼ぶ方が適切であり、中国要因が価格を押し上げたと考える。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には、米金融引締め加速観測が再び弱まっていることと、中国政府の経済対策期待で価格は横這い~上昇すると考えられる。
これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.が満たされているが、2.3.が怪しくなってきた。1.の影響で価格は上昇しようが、2.3.がその効果を減じよう。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。
この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。
本日は、米国の金融引締め観測が再び後退していることがドル安を誘うため、価格には上昇圧力が掛る展開を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は期近が変わらず、中心限月価格が下落した。
中国の主要鉄鋼メーカーの7月下旬の粗鋼生産が、これまでの7月の累計の3分の2まで低下し、前年比▲10l3%の189万トン/日に低下したことで、鉄鋼向けの需要減少が意識されたことが背景。
中国の不動産・鉄鋼セクターの先行き見通しは何もしなければ下向きだが、これを中国政府の経済対策が下支えする、という展開が少なくとも10月の党大会までは続くと予想される。
中国中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。
ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。
この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。
ただ、パニック的な売りが発生した場合、生産コスト云々の議論はほぼ無意味で、鉄鉱石で80ドル、原料炭で200ドル割れ、といった下落はありえるだろう。
本日も、中国政府の政策期待と、不動産市場の過熱沈静化策の影響が残存していることの綱引きとなり、現状水準を維持すると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。特段材料がなかったが、ドルが米景気への懸念から軟調な推移になったことを受け、ドル価減価に伴うリスク・プレミアムの上昇が価格を押し上げた。
昨日まで9月FOMCの利上げ幅は50bpとなる確率を市場は58.5%の確率で織り込んでいたが、足下、66.5%まで上昇しており75bp利上げの可能性は33.5%(41.5%)まで低下した。
金の基準価格は前日比▲3ドルの1,254ドル、リスク・プレミアムはドル安の進行を受けて+29ドルの536ドル。
金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲300ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,470ドル程度までの下落が有り得ることになる。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、
1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジはもう少し上に切り上がっているようだ。
その中で昨日は金価格の上昇を受けて買いが入った。金銀レシオは88.1倍(前日比+0.01倍)。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲300ドル程度の下げ余地がある。
これだけでも銀価格を▲3.4ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.6ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。
PGMは金銀価格の上昇と、株価が維持されたことを受けて水準を大きく切り上げた。
本日は、米雇用統計を控えて様子見気分が強いが、今晩の米雇用統計では賃金上昇率の低下が見込まれており、米金融引締め加速観測の後退を受けて実質金利が上昇、ドルも下落が予想され、堅調な推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。ドル指数が下落したことを受けてこれまで水準を切下げて来たことから買い戻しが優勢となった。
基本的には需給ファンダメンタルズのタイトさに大きな変化はなく、ラニーニャ現象は冬まで継続する見通しであること、アラビア半島での降雨は来期以降のバッタ大量発生のリスクを高めていることから、秋以降に価格が上昇する可能性は高い。
本日は、米雇用統計を控えてアジア時間は様子見気分が強い。雇用統計では平均時給の伸びが鈍化すると見られており、仮にそうであれば金融引締め加速観測の後退を受けてドル安が進行し、価格を押し上げるか。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
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