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台湾問題とFOMCメンバータカ派発言で下落
  • MRA商品市場レポート

2022年8月3日 第2252号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「台湾問題とFOMCメンバータカ派発言で下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は発電燃料やその他農産品の一角を除き、総じて下落した。米ペロシ下院議長の訪台を受け、米中対立が激化する、場合によっては戦争も、との見方が強まりリスク回避の動きが強まったことが背景(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

またこれに加えてFOMCメンバーがタカ派的な発言を繰返し、9月FOMCで75bpの利上げの可能性が意識されたこともドル高を助長し、ドル建て資産価格の下落要因となった。

FED Watchでは9月の75bp利上げの可能性はさほど高くないとみられていたが、直近では41.5%まで上昇している。

当面、中国・ロシアを軸とした地政学的リスクの高まりと、欧米の金融引締めが商品市場の需給を大きく動かすことになるが、基本は下押しで、政治的要因で供給が制限されるものは高値維持、という形が続きそうだ。

なお、ロシアからのガス供給は電気・暖房の話ばかり取り上げられているが、原料としてのガス供給が停止し、化学品の供給停止に繋がった場合、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすため、このリスクも意識すべき重要なリスクである。

【本日の見通し】

本日は価格に対する説明力が高い、期待インフレ率の変動要因となり得る原油価格動向に影響を及ぼすOPEC会合を睨み、アジア~欧州時間に掛けては様子見気分が強まるとみている。

しかし、ペロシ下院議長の訪台を受けた台湾有事への懸念が市場参加者のマインドを悪化させ、リスク回避姿勢が強まっていることから総じて軟調な推移になりやすいとみている。

本日発表が予定されている統計で注目は以下の通り。なお、本日は複数の米連銀総裁の講演が予定されているため、昨日、相次いでタカ派的な発言が出てきたことを考えると、ファイナンシャルな面でも価格は下押しされやすいか。

6月ユーロ圏PPI 市場予想 前年比+35.7%(前月+36.3%)6月米製造業受注 前月比+1.2%(前月+1.6%)7月米ISM非製造業指数 53.5(前月55.3)

【昨日のトピックス】

昨日、米政府の制止を振り切って、ペロシ下院議長が台湾に到着、蔡英文総統と面談をする予定である。

そもそもリベラルで人権派のペロシ下院議長からすれば、中国は批判の対象であり彼女の政治的な信条を貫いたといえる。しかし、今回のこのタイミングでの行動は引退前のレガシー作りと言わざるを得ない。

というのも、今回の往訪の後、米国と同盟国が中国とどのような形で相対するのかの絵が描けていないからだ。正直、現在の米中対立の事態打開に寄与したとは思えず、いたずらに米中の対立を強めただけともいえる。

半導体などの重要な供給国であり、中国の東方拡大の防波堤として最前線にある民主主義(国)である台湾を支援する、という方針は道義的にも、戦略的にも理解できる。

しかし、今回のこのタイミングで、議会の実質トップであるペロシ下院議長の訪台は、以下の事態を招き、米中の対立をエスカレートさせただけともいえる。

1.無用に中国を刺激し、台湾問題をエスカレートさせる材料を中国に与えてしまった2.それに伴う偶発的な米中の軍事衝突の可能性の高まり3.有事発生で米中が対立した場合、集団的自衛権の枠組みの中で日本は米軍を防衛する必要が出てくる4.米国の強硬姿勢を受けて、今冬予定されている中国の党大会でより対米タカ派の人材が起用される可能性が高まった

今回は取りあえず台湾近辺でのあからさまな軍事演習を行うことだけで終り、となる見通しであるが、今回の出来事は台湾有事が日本に無関係のものではないことを強く印象づけるものとなった。

防衛力の強化は必須としても、外交面で解決できることを日本も再点検する必要があろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は底堅い推移となり、前日比プラスで引けた。市場は本日開催のOPECプラスに注目する中、様子見気分が強まっており、前日の急落の反動で買い戻しが入った。

しかし、台湾有事への懸念からリスク回避の動きが強まり株価が下落したこともあって、上値は限定された。

今のところはWTI・Brentとも100日~200日移動平均線のレンジワーク(Brentは98ドル~110ドル、WTIは95ドル~106ドル)を続けている。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は84.65ドル(前日比+0.16ドル)。

市場は本日のOPECプラスに注目しているが、今のところ増産の可能性はさほど高くないとみている。OPECプラスの結束が必要なのは、価格上昇時ではなく価格下落時であるためだ。

このとき、サウジアラビアはロシアにも応分の協力をしてもらう必要があるため、このタイミングで西側諸国に利する選択を自らしたくはない、と考えている可能性が高い。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態。

バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、OPECプラスの合意を得なければ増産は難しく、仮にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、OPECプラスを控えて様子見だが、恐らく増産が見送られるため上昇余地を探る動きになると考える。ただし、ペロシ下院議長の訪台を受けた有事への懸念が市場参加者のリスク回避姿勢を強めるため、上値も重い。

なお、本日の米石油統計では原油在庫が▲0.8MBの減少が見込まれているが、朝方発表のAPI統計では+2.2MBの増加が確認されており、予想に反して在庫が増加する可能性は高く、価格の下押し要因に。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。ノルドストリームの稼働が回復しない上、その他の欧州の主要なガス田やターミナルのメンテナンスの影響で供給が減少していることが材料となった。

ロシアのガス供給停止は、今回のガス供給制限で欧州域内に経済的な不利益を発生させ、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成するのが目的と考えられる。

既にEUの一部では、原油に対する保険禁止の規制を緩和する動きがみられており、ロシアの「嫌がらせ策」は奏功しているといえる。そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続けるだろう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月31日時点で69.3%(前日68.9%)と増加した。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

もちろん冬が暖冬・厳冬になればこの限りではない。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。ドイツに関して言えば、メルケル政権時代に原発廃止の方向性が強く打ち出され、現在の稼働は過去5年平均の半分程度である。

これが仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるだろう。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

また、5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。

このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。気温上昇が落着くとの見方と、週次のガス生産がこの10年で最高水準に達し、需給緩和に寄与すると期待されたことが材料。

ただし、米国の天然ガス在庫の水準は低く、価格がさらに下落するほどの在庫は積み上がっていない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近は小動きだったが、期先は上昇した。欧州のガス供給が制限されている状態が続いていることが材料となっている。

現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きとなる。

ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。

しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になる。

サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため、サハリン2に関しては、実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月24日時点の日本の発電用LNG在庫は226万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

7月25-31日のLNGトレードは、674万トンと先週の737万トンから減少。主にスポット調達の減少が影響した。

スポット調達は20%と先週の26%から低下。日中台韓向けのスポットカーゴが▲40万トン減少したことが影響した。主に日本と韓国のスポット調達減少に因るもの。

ターム契約は先週とほぼ変わらない水準だった。

本日も、需給を巡る環境の改善が見られない中、高値圏での推移が続く公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは期近は小動き。天然ガス価格が高値で推移する中、代替発電燃料である石炭も高値を維持している。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されているため、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は125ドル程度になるが、現状、それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

石炭市場の流動性が低い状態では、石炭価格のリスクマネジメントが非常に困難になる。

価格リスクマネジメントの観点からは、石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されていることを考えると、無理筋な話ではない)。

もちろん、このタイミングで生産者側に交渉を行えば割高なフォーミュラを要求される可能性が高いため、全量を原油リンクに、ということは回避すべきだろう。

今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。というのも国内炭の生産を増やした上、国内の企業活動が、ゼロコロナの余波で低迷しているからだ。

しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。

6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。

6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。

本日も、需給環境に大きな改善(緩和)が見られない中、高値圏での推移になる見込み。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は続落した。米ペロシ下院議長が台湾に到着、蔡英文総統と面談の予定でありこれに強く反発した中国が軍事演習をかなり露骨に行い、米国の空母も台湾近辺に展開するなど、有事への懸念が強まったことが市場参加者のリスク回避姿勢を強めたことが背景。

また、FOMCメンバーがタカ派的な発言をしたことを受けて、実質金利が上昇、ドル高が進行したことも価格を下押しした。

しかしこれだけの材料があってもそれほど大きな下落ではなかった、というのは正直なところだ。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的にはペロシ下院議長の訪台を受けた緊張の高まりが、中国の経済活動を鈍化させる可能性があること、米金融引締め加速観測が再び強まっていることが価格を下押しすると考える。

しかし同時に、中国がGDP成長目標達成のために経済対策実施が見込まれていることから買い戻し圧力も強まると考えられ、上記の影響を相殺し、価格は横這い~上昇すると考えられる。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が満たされているが、ふたたび2.3.は満たされなくなった。そのため価格には下押し圧力が掛ることになる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。

本日は、台湾有事への懸念が中国経済に影響を与える、との連想とドルが再び上昇していることから軟調推移を予想。ただし実際に有事にまでは発展せず、下落局面では買い戻しも予想されるため、結果、底堅い推移になると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は直近限月が上昇、中心限月が下落した。

台湾問題が緊張の度合いを高める中、再び工業活動が停滞するとの見方が強まったことが価格を下押しした。

しかし、恐らく今回実際に有事は発生しないと考えられ、中国政府が不動産問題で対策を実施する見通しであることから鉄鋼原料価格は底堅い推移になっている。

結局、経済成長見通しを達成できなくても、それに近づける努力をする見通しであり、鉄鋼製品価格は年末に向けて上昇圧力が掛かりやすい。

なお、中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。

ただ、パニック的な売りが発生した場合、生産コスト云々の議論はほぼ無意味で、鉄鉱石で80ドル、原料炭で200ドル割れ、といった下落はありえるだろう。

本日は、台湾にペロシ下院議長が滞在しており、蔡英文総統と面談の予定であり有事リスクが去っていないことから水準を切下げる展開を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。米FOMCメンバーが相次いでタカ派的な発言をしたことで長期金利が急上昇し、実質金利が上昇したことが影響した。これにより、金の基準価格は前日比▲66ドルの1,241ドルとなった。

しかし、台湾有事への懸念などからリスク・プレミアムは+54ドルの520ドルとなっておりこれが金を高値に維持した。台湾有事発生の場合、米国は当事者であるため有事のドル買い、というよりは金買いになるだろう。

金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲300ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,470ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジはもう少し上に切り上がっているようだ。

その中で昨日は金価格の上昇を受けて買いが入った。金銀レシオは88.1倍(前日比+0.01倍)。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲300ドル程度の下げ余地がある。

これだけでも銀価格を▲3.4ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても16.6ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

PGMは金銀価格の下落を受けて下落。株価の下落も価格を下押しした。

本日は、米国の金融引締め強化観測が価格を下押しするが、金に関しては台湾有事への懸念から安全資産需要が高まるため、比較的高値を維持しよう。銀・プラチナも高値維持。

一方、株価の下落の影響を受けてパラジウムには下押し圧力が強まる展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。オデーサからの穀物輸出再開を受けた現物需給の緩和期待と、米連銀総裁のタカ派発言を受けてドル高が進行したことが材料となった。

ただし、トウモロコシ・大豆の作柄は過去5年平均を下回って決して良いとはいえない状況にあり、需給ファンダメンタルズはそれほど緩和している訳ではない。

これまで価格上昇を牽引してきたのはラニーニャ現象やロシアの戦争を背景としたファンドの買いだが米QTを受けたリスク資産手仕舞い売りの動きが強まっていることによるものである。

しかし、ラニーニャ現象は冬まで継続する見通しであること、アラビア半島での降雨は来期以降のバッタ大量発生のリスクを高めていることから、秋以降に価格が上昇する可能性は高いと考える。

本日は、昨日の下落の反動で買いが入ると考えられるが、米FOMCメンバーがタカ派的な発言をしていることにより、ファイナンシャルな面で上値は抑えられよう。

 

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

 

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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