米中統計悪化で景気循環系商品売られる
- MRA商品市場レポート
2022年8月2日 第2251号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米中統計悪化で景気循環系商品売られる」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は景気循環系商品が下落し、その他の商品は堅調な推移となった。
週末に発表された中国の製造業PMIが悪化して閾値の50を下回ったこと、米ISM製造業指数は50の閾値は上回ったものの減速したことを受け、資源消費の1位・2位の国の景況感の悪化が価格の下落要因となった。
そもそも、景気を悪くしてインフレを抑制しようとしている政策であり、景況感お悪化はあるいみ妥当なのだが、このままインフレが本当に沈静化しなかった場合、スタグフレーションに突入するリスクが高まる。
その可能性が高いのは、製造業国であるがエネルギーを輸入に頼らざるを得ない、ドイツや日本となる可能性が高い。
その他の商品はドルがジリ安となったため、水準を切りあげる展開となった。
【本日の見通し】
本日は価格に対する説明力が高い、期待インフレ率の変動要因となり得る原油価格動向に影響を及ぼすOPEC会合を明日に控え、取りあえずポジション調整的な取引が主体になるとみられ、昨日下落した商品の買い戻し、上昇した商品の売戻しが予想され、方向感に欠ける展開が予想される。
予定されている材料で注目はやはり米連銀総裁の講演で、金融政策に関して何か新しい発言があるかどうか。
今のところ9月FOMCは50bpの利上げが見込まれているが、明日のOPEC会合の結果次第では再び原油価格が上昇してインフレを助長する可能性はあり、その場合75bp程度の利上げが行われる可能性は排除しない。
【昨日のトピックス】
週末発表された中国の7月の中国製造業PMIは49.0(前月50.2)と市場予想の50.3を下回り、前月も下回り閾値の50も下回った。季節的に製造業の活動が停滞する月であることやコロナの影響や海外の金融引締めによる景気減速懸念も材料となった。
調査対象業種の21業種のうち、10業種(農業、食品、自動車、鉄道、船舶など)のPMIは52を上回っているが、石炭、石油、などの燃料加工や金属製品製錬、圧延などのエネルギー依存が高い消費産業のPMIは縮小傾向にあり、これが今回のPMI悪化の主因の1つとなった。
内訳を見ると、需要の指標である新規受注が50.4→48.5と急減速、輸出向け新規受注も49.5→47.4と減速が鮮明になった。これを受けて生産も49.8(前月52.8)と閾値の50を割り込んでおり、経済活動が再び減速していることを確認する内容。
なお、サプライヤー納期は50.1(51.3)とほぼ需給逼迫状況は解消している。
米国の金融引締め、中国のロックダウンなどの影響で多くのリスク資産価格が下落したため、投入価格は40.4(52.0)と4ヵ月連続で低下、最終消費の弱さから販売価格は40.1(46.3)と閾値を下回った状態が続く。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは新規受注は減少したが、在庫が減少したため、完成品が1.010(1.037)、原材料が1.013(1.048)と完成品・原材料とも低下はしたが、閾値の1は上回っているため、まだ需給はタイトである。
規模別の製造業PMIを見てみると、大企業が49.8(50.2)と減速、中堅企業(51.3→48.5)、中小企業(48.6→47.9)も悪化。より規模が小さな企業の方が景況感が悪化している。
この状況を受けて中国政府は、資金難に陥っている不動産会社の遊休地を差し押さえ、捻出した資金で工事が停止している事業者の工事完工に向けて財政支援をする計画を検討している。
8月は季節的に製造業の活動が戻ること、政府の経済対策の実施が期待されることから、8月の景況感は若干の改善が見込まれる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。米ISM製造業指数が閾値の50は上回ったものの悪化したことが材料となった。
しかし、国際価格の指標であるBrentは限月交代で大きく水準を切下げたが、200日移動平均線のサポートラインでサポートされており、まだ供給面の不安が価格を支えている状況。
今のところはWTI・Brentとも100日~200日移動平均線のレンジワーク(Brentは98ドル~110ドル、WTIは95ドル~106ドル)を続けている。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は84.54ドル(前日比▲8.60ドル)。
市場は明日のOPECプラスに注目しているが、今のところ増産の可能性はさほど高くないとみている。OPECプラスの結束が必要なのは、価格上昇時ではなく価格下落時であるためだ。
このとき、サウジアラビアはロシアにも応分の協力をしてもらう必要があるため、このタイミングで西側諸国に利する選択を自らしたくはない、と考えている可能性が高い。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態。
バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、OPECプラスの合意を得なければ増産は難しく、仮にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。
即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。
仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。
となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。
教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、昨日の下落が大きかったこと、テクニカルなサポートラインを維持していることから買い戻しが入って上昇すると見ている。
仮にBrentga200日移動平均線を割り込んだ場合、次のサポートラインはプットオプションが積み上がっている95ドルが意識されることになる。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇した。ノルドストリームの稼働が回復しない上、その他の欧州の主要なガス田やターミナルのメンテナンスの影響で供給が減少していることが材料となった。
ロシアのガス供給停止は、今回のガス供給制限で欧州域内に経済的な不利益を発生させ、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成するのが目的と考えられる。
そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」にする可能性は高い。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州全体のガス在庫は7月30日時点で68.9%(前日68.5%)と増加した。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らし続けた場合、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。
もちろん冬が暖冬・厳冬になればこの限りではない。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。
こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。ドイツに関して言えば、メルケル政権時代に原発廃止の方向性が強く打ち出され、現在の稼働は過去5年平均の半分程度である。
これが仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるだろう。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。
また、5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。
このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に上昇。北米の気温上昇やガス在庫水準の低さが引き続き材料視された。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は全ゾーン、大幅に上昇した。欧州天然ガス価格が上昇したことが背景。
現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きとなる。
ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。
しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になる。
サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。
仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。
ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月24日時点の日本の発電用LNG在庫は226万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。
7月18-24日のLNGトレードは、738万トンと先週の793万トンから減少。主にターム契約の減少が影響した。欧州向けが▲23万トン、南アジア向けが▲19万トンの減少となった。主にインド向けの需要減少が影響。
スポット調達は26%と先週の24%から低下。欧州向けが+30万トンの増加、日中台韓は+13万トンの増加。主に日本の調達増加によるもの。
本日も、需給を巡る環境の改善が見られない中、高値圏での推移が続く公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは期近は小動き。天然ガス価格が高値で推移する中、代替発電燃料である石炭も高値を維持した。
現在、ロシア炭を西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。
期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが260ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されているため、下がっても260ドル程度が基準となってしまう。需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。
仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は125ドル程度になるが、現状、それは見込み難い。
異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。
石炭市場の流動性が低い状態では、石炭価格のリスクマネジメントが非常に困難になる。
価格リスクマネジメントの観点からは、石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されていることを考えると、無理筋な話ではない)。
もちろん、このタイミングで生産者側に交渉を行えば割高なフォーミュラを要求される可能性が高いため、全量を原油リンクに、ということは回避すべきだろう。
今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。というのも国内炭の生産を増やした上、国内の企業活動が、ゼロコロナの余波で低迷しているからだ。
しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。
6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。
本日も、需給環境に大きな改善(緩和)が見られない中、高値圏での推移になる見込み。
なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しはその他のエネルギーと同様、弱気。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。週末発表された中国の製造業PMIが悪化しており、景気の先行きへの懸念が強まったことが背景。
しかし逆に統計の悪化は中国政府による対策期待を高めるため、影響は比較的限定されたとの印象(PMIの評価は昨日のトピックスを参照)。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策実施が見込まれていることから買い戻し圧力を強めると考えられ、既に顕在化している。
これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、現在、1.が満たされているが、ふたたび2.3.は満たされなくなった。そのため価格には下押し圧力が掛ることになる。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。
この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。
本日は、米中統計の減速が逆に金融引締め観測を後退させるため、買い戻しが入り上昇すると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。
中国政府が不動産問題で対策を実施する見通しが示されたことが材料となった。ただし、日本や米国と同様、人口動態がピークアウトする中では不動産市場の崩壊に対する耐性が弱いことは証明済みであり、中国政府は厳しい舵取りを要求される。
結局、経済成長見通しを達成できなくても、それに近づける努力をする見通しであり、鉄鋼製品価格は年末に向けて上昇圧力が掛かりやすい。
なお、中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。
ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定される。
この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。
しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると見る。
ただ、パニック的な売りが発生した場合、生産コスト云々の議論はほぼ無意味で、鉄鉱石で80ドル、原料炭で200ドル割れ、といった下落はありえるだろう。
鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は111.7ドルに上昇、原料炭価格は174.3ドルに低下している。
7月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は33.0(前月36.2)と2ヵ月連続で悪化し、中国の鉄鋼業の業況が低迷していることを確認する内容となった。そもそも7月は企業活動が鈍化しやすい月であるため、その影響もある。
新規受注は25.9(25.9)と低水準を維持、輸出受注も39.4(47.1)と急減速した。海外の景況感も悪化しているため、先行きの見通しは明るくない。在庫は完成品(48.0→33.0)、原材料(36.9→28.2)と非常に低い水準に有るため、新規受注在庫レシオは完成品が0.78(0.54)、原材料が0.92(0.70)とむしろ上昇している。
このことは、需要は旺盛ではないものの、一定の在庫積み増し需要があることを示唆しており、鉄鋼原料価格、鉄鋼製品とも底堅い推移が予想される。
今後は中国政府の住宅セクターの支援策や、広範な経済対策の動向に左右されるが、通常中国の公共投資は年末に向けて規模が拡大するため、政策面で鉄鋼セクターは支えられることになるだろう。
実際、住宅セクターの指標である建設業PMIは59.2(56.6)と大幅に改善、2021年11月以来の高水準となっている。とはいえ、住宅バブルを中国政府は望んでいないため、価格の戻りも限定されるのではないか。
本日は、経済統計の悪化を受けて中国政府の対策期待が高まるため、水準を切り上げる展開を予想。
◆貴金属
昨日の金価格は続伸。米ISM製造業指数の悪化を受けて長期金利が低下、実質金利も低下したことが材料となった。
金の基準価格は前日比+8ドルの1,306ドル、リスク・プレミアムは▲2ドルの466ドル。
金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲230ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落が有り得ることになる(基準価格は上昇)。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、
1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジはもう少し上に切り上がっているようだ。
その中で昨日は金価格の上昇を受けて買いが入った。金銀レシオは87.1倍(前日比+0.08倍)。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲230ドル程度の下げ余地がある。
これだけでも銀価格を▲2.7ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても17.7ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。
PGMは金銀価格の上昇を受けて上昇。株価の下落はあったが昨日はほとんど材料視されなかった。
本日も、米国の景気減速とそれに伴う長期金利の下押し圧力を受けて高値維持の公算。ただし中期的にはQTの影響で長期金利には上昇圧力が掛るため、下押し圧力がかかるとの従来見通しを変更する必要はないと見ている。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。オデーサからの穀物輸出再開を受けた供給懸念の後退と、米中経済統計の減速を受けた原油価格の下落が材料となった。
トウモロコシはそれを原料とするエタノールが、ガソリンの競合燃料であるためより市場の大きな原油市場の動向に価格が左右されやすい。
しかし、チャートを見るに下ひげが長く、下落局面では買いが入っていることも事実。これは需給ファンダメンタルズはタイトな状態が続くと見込まれていること、ウクライナからの穀物輸出も継続できるか微妙であるkとが背景にあると考えられる。
本日は、昨日の急落を受けて一旦原油には買い戻しが入ると予想されるため、穀物価格も上昇余地を探る動きになると考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「アラブの春2.0のリスク」
現在発生しているラニーニャ現象は、各国の気象庁の発表に多少の差はあるものの今年の秋頃まで継続する見通しで、米海洋大気庁の見通しでは冬に再びラニーニャ現象が発生する、としている。
過去にラニーニャ現象が発生した時の状況を振り返ると、食品価格、特に人間の口に入る小麦価格の上昇に繋がっているケースが多く、相前後して暴動が起きていることが多い。
ラニーニャ現象発生時は、局地的な豪雨や洪水をもたらすため、石炭の一大生産国である豪州の生産が滞るなど、食品以外のリスクが顕在化することもある。
異常気象の発生は食品価格やエネルギー価格の高騰、調達難を背景に国民の不満が高まり、暴動やクーデターが発生することが多い。
今回のロシアのウクライナに対する軍事進行が食品供給制限のタイミングを狙って行ったものであるかどうかは不明だが、ウクライナとの戦闘状態が継続する間は、ロシア・ウクライナからの小麦・トウモロコシ・ひまわり油などの供給は制限され、食品価格の上昇要因となった。
仮に今年の秋の北半球の収穫が期待ほどではなく凶作となった場合、例年よりも多いとみられる米国のハリケーンが穀倉地帯を直撃、供給減少となった場合など、食品供給に影響が出て貧困国の国民生活に影響を及ぼすリスクは高まることになる。
米国の利上げやQTの影響で新興国が金融引締めをせざるを得なくなった場合、暴動に繋がる可能性もありえる。
中東・北アフリカの主要産油国の2022年の財政収支(IMFによる見通し)をアラブの春が発生した2010年と比較すると、コロナショックの影響で原油の生産量を大幅に減らしていたこと、コロナ対策費負担の増加から、アラブの春発生年の財政収支から悪化している国が多い。
特に状況が悪化しているのがナイジェリア、アルジェリア、クウェート。IMFの推定ではいずれの国も原油価格上昇の沈静化の影響で、財政収支黒字は縮小の見込み。
総じて「若年層失業率」が上昇し、若者の不満が高まっている国が多い(例外はカタール程度)。不満の源泉となり得る「食品価格」は既にアラブの春・ジャスミン革命発生時の水準を遙かに超えており、ここにロシア・ウクライナの戦争に伴う穀物の「現物供給障害」が発生した場合、地政学的リスクが顕在化し、特にエネルギー供給のリスクとなりかねない。
各国の1人あたりGDP(危機への対応能力の高い富める国と貧困国の指標の1つ)と、若年層失業率の関係を調べると、若年層失業率が20%を超えている国では、サウジアラビアを除けばほとんど全ての国で暴動やデモ、体制崩壊が発生している。
足下の財政状況の悪化、若年層失業率の上昇、そもそも「農業国」であるが故に不作の場合の食料供給リスクが大きいことから、ナイジェリアの政情不安・原油供給リスクは小さくない。
特にこの数週間、アラビア半島地域では豪雨・洪水が発生している。こう言う年の翌年はバッタが大量に越冬できるため(草木が生えて食べ物を確保できるため)、来年も食品調達リスク、価格上昇リスクが顕在化する可能性は低くないと見ている。
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