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米長期金利低下と原油上昇で総じて堅調 買い戻し続く
  • MRA商品市場レポート

2022年8月1日 第2250号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米長期金利低下と原油上昇で総じて堅調 買い戻し続く」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品の一角が下落したが、総じて堅調な推移となった。注目の米個人所得・支出は市場予想を上回る内容だったが、物価指数も市場予想を上回ったため、米国の金融引締め加速観測が強まり、2年金利は上昇したが、先行きの景気減速観測を背景に10年金利が低下したことが背景。

10年ゾーンの期待インフレ率は、インフレ系商品の投資の目安となりやすいが、これまで金融引締めでインフレトレードが巻き戻されたが、短期的に10年実質金利が低下しているため、その反動で上昇したと考えられる。

しかし、基本的にはFRBはインフレ抑制に舵を切っていることから、期待インフレ率の低下、実質金利の上昇が見込まれるため、中期的に商品セクターが調整夷狄に下落する、との見通しは大きく変える必要がないと考えている。

ただ、東西が緩やかに分裂する中で、「一物二価」の状況が発生しつつあるため、特に流動性が低下している商品は、景気の減速が明確でない中で、「景気後退局面にありながらも高値を維持」する可能性が高い。

【本日の見通し】

週明け月曜日は、米景気の減速がまだ明確ではなく、インフレもまだ制御仕切れていないことから、景況感の先読み指標の発表を控えて、需給ファンダメンタルズ面と金融政策面の綱引きとなり、高値でのもみ合いを想定する。

予定されている材料では、フォワードルッキングな指標である米ISM製造業指数に注目している。ただし、市場予想は50の閾値は下回らないとしており、予想通りであれば、緩やかな利上げへの移行期待と、足下の景気がまだ悪くないことから、景気循環系商品価格の上昇要因になりそうだ。

7月米ISM製造業指数 市場予想52.0(前月53.0) 新規受注 49.0(49.2) 雇用指数 48.2(47.3)

【昨日のトピックス】

昨日発表された米国の個人所得・支出は、所得が前月比+0.6%(市場予想+0.5%、前月+0.6%)となる一方、支出は+1.1%(+1.0%、+0.3%)と加速した。

物価上昇率を加味した実質個人支出は+0.1%(±0.0%、▲0.3%)と市場予想も前月も上回ったが、やはりインフレが沈静化していないため小幅な伸びに止まっている。

これをどう解釈するかは難しい。今のところインフレはあるものの個人消費は堅調であり、パウエル議長が言うように「リセッションに入っている訳ではない」のかもしれない。

雇用や賃金は景気の遅行指標であるため、まだ労働市場が需要の減少を受けて緩和した、という感じになっていないのだろう。

しかし、貯蓄率は5.1%と前月の5.5%から低下しており、米国民が「貯蓄を取り崩しながら消費」している構図となっている。これを考えるとやはりインフレの沈静化がない限り、米国の経済安定は難しい。

一方、景気に先行性があるシカゴ製造業PMIは52.1(55.0、56.0)と急減速しているが、閾値の50は上回ったままだ。

まとめれば、FRBの金融引締めの効果は徐々に顕在化しているものの、当局が期待するほどの景気過熱沈静化にはなっておらず、インフレ沈静化のためにはまだ大幅な利上げを行う可能性がある、ということだろう。Q222GDP速報は前期比年率 ▲0.9%(市場予想+0.4%、前期確定▲1.6%)と2期連続でマイナスとなった。定義としては2期連続の悪化であり、テクニカル・リセッションとなる。

米政府はこれを真っ向から否定しており、リセッションではないとしているが、今年の冬に中間選挙を控えているためこれを認めたくないのだろう。

実際、FEDウォッチを見て見ると、9月は70%の確率で50bpの利上げ、30%の確率で75bpの利上げが見込まれているが、これは前日の77%の確率で50bpの利上げ、23%の確率で75bpの利上げ、から市場はタカ派に傾いていることが分かる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米国の経済統計は米経済がさほど減速していないことを確認する内容だったこと、OPECプラスが追加増産する可能性がそれほど高くないのでは、との見方も加わり、恐らくショートの買い戻しが入ったと考えられる。

サウジのアブドルアジズ エネルギー相とロシアのノヴァク副首相がOPECプラス閣僚級会合前に対談、原油市場安定で一致した。つまりこれは追加増産について何ら議論しなかったことを意味しており、恐らく今回のバイデン大統領の中東歴訪を持っても、恐らく追加増産が行われ無いことを意味している。

足下、景気の循環で原油価格が下落する可能性が高いとみられているが、OPECプラスの結束が必要なのは、価格上昇時ではなく価格下落時である。

このとき、サウジアラビアはロシアにも応分の協力をしてもらう必要があるため、このタイミングで西側諸国に利する選択を自らしたくはない、と考えている可能性が高い。

とはいえ、今のところはWTI・Brentとも100日~200日移動平均線のレンジワーク(Brentは98ドル~110ドル、WTIは95ドル~106ドル)を続けている。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は93.14ドル(前日比+2.10ドル)。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態。

バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、OPECプラスの合意を得なければ増産は難しく、仮にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、米ISM製造業指数がさほど減速しない可能性が出てきたこと、OPECプラスの追加増産の可能性が今のところ低下していることから、上昇余地を探る動きになると考える。

ただしBrentは限月交代もあって、200日移動平均線のレジスタンスを上回るほどの上昇にはならないだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落した。低水準ながらロシアからのガス供給が継続していることを受け、生産者側の売りヘッジが入ったためと考えられる。

ただしフロー供給は制限されており、引き続き価格は高いままの状態が続いている。ロシアにとってガスは「武器」の位置づけといえ、需要本番となる冬場に掛けた稼働停止リスクは小さくない。

ロシアのガス供給停止は、今回のガス供給制限で欧州域内に経済的な不利益を発生させ、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成するのが目的と考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月25日時点で67.1%(前日67.8%)とついに減少した。ロシアからの供給制限が影響し始めたといえる。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らしたとすれば、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

もちろん冬が暖冬・厳冬になればこの限りではない。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。ドイツに関して言えば、メルケル政権時代に原発廃止の方向性が強く打ち出され、現在の稼働は過去5年平均の半分程度である。

これが仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるだろう。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

また、5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。

このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は小幅に上昇。北米の気温上昇やガス在庫水準の低さが材料になった。ここしばらく、欧州ガス価格が下落するときには米ガス価格が上昇、逆の場合は上昇・下落、となる組み合わせが多い。

とはいえ、在庫が不足し気温が上昇見通しに変化がないことから、当面米天然ガス価格は高値で推移しよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近・期先でまちまちの動き。需給環境がタイトな状況に大きな変化はなく、ポジション調整程度の動きだろう。

現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きとなる。

ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。

しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になろう。

サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月24日時点の日本の発電用LNG在庫は226万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

7月18-24日のLNGトレードは、738万トンと先週の793万トンから減少。主にターム契約の減少が影響した。欧州向けが▲23万トン、南アジア向けが▲19万トンの減少となった。主にインド向けの需要減少が影響。

スポット調達は26%と先週の24%から低下。欧州向けが+30万トンの増加、日中台韓は+13万トンの増加。主に日本の調達増加によるもの。

週明け月曜日も欧州を巡るガス供給環境に大きな変化は見られず、気温上昇による需要増加が見込まれる中、スポットのガス価格は高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは期近は小幅に下落、欧州天然ガス価格が下落したことが価格を下押しした。

足下、ロシア炭を事実上西側諸国が使うことはできないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっているため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが260ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されているため、下がっても260ドル程度が基準となってしまう。需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

流動性が低い状態では、石炭価格のリスクマネジメントが非常に困難になる。

価格リスクマネジメントの観点からは、石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されていることを考えると、無理筋な話ではない)。

もちろん、このタイミングで生産者側に交渉を行えば割高なフォーミュラを要求される可能性が高いため、全量を原油リンクに、ということは回避すべきだろう。

昨日発表されたGlencoreのProduction Reportでは、石炭生産は+11%の26.9百万トン(前期 28.5百万トン、前年 24.2百万トン)となり、石炭合計生産目標は121±5百万トン(121±5百万トン)で据え置いた。

しかしこの計画には直近のニューサウスウェールズ州での洪水事故の影響はまだ織り込まれていないといい、恐らく生産見通しは下方修正されることになるのではないか。

今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。

6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。

6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。

週明け月曜日も、ロシアを巡るガス供給問題は改善どころか悪化しているため、(地域によっては)競合燃料であるガスとの裁定が働くことから、高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。米個人消費・所得が市場予想を上回り、米経済が金融引締めにも関わらず堅調に推移していることから利上げ観測が強まり、先行きの景気減速観測からドルが修正安となったこと、原油価格上昇が期待インフレ率を押し上げたことが、非鉄金属価格を押し上げた。

基本、中国共産党が経済対策を実施していることから「価格上昇の必要条件である、中国需要の回復」が条件として満たされつつある状況に有ることが、価格上昇を助長している。

昨日発表されたGlencoreのProduction Reportでは、銅の生産ガイダンスの中心生産量が111万トンから106万トンに引き下げられている。主にKatanga鉱山の地盤工学的な制約と、Ernest Henry銅・金鉱山を売却したことなどによる。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策実施が見込まれていることから買い戻し圧力を強めると考えられ、既に顕在化している。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.~3.全てが満たされている状況。

ただし、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは年末に向けては下向き圧力に。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなる。

この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。

週明け月曜日は、米国時間発表の米ISM製造業指数が閾値の50を超えて好調を維持する見通しであること、中国の経済対策期待で上昇余地を探る展開を予想。

しかし、同時に米国の景気がまだ減速していないことを背景に、金融引締めが加速する可能性もあるため、上昇余地も限定されるだろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は続伸した。

中国共産党は28日の党中央政治局会議で厳しい経済状況を指摘したが、新たな刺激策を打ち出さず、住宅ローンの支払い拒否の動きが強まる中で、地方政府に対応の責任を負うように要求した。

結局、中央政府の対応能力は財政的にかなり厳しい状況になっており、ある意味今回の問題を地方政府に丸投げした形であり、引き続き不動産セクターの調整が続く可能性は高い。

ただこれは、年間のGDP成長目標が未達となる可能性があることに含みを持たせるためのものともいえ、恐らく景気の底割れを回避(ソフトランディング)のための対策は対象を限定して行われると予想されるため、鉄鋼製品価格は逆に上昇して反応している。

なお、中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられることから、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(ゼロではない)。

ただし、不動産市況が急速に悪化した場合、鉄鋼製品需要が減少して鉄鉱石価格も下落が想定されるが、この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となる。

しかし、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っていることから、コスト面から価格は下支えされると考えられる。

ただ、パニック的な売りが発生した場合、生産コスト云々の議論はほぼ無意味で、鉄鉱石で80ドル、原料炭で200ドル割れ、といった下落はありえるだろう。

鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は108.6ドルに上昇、原料炭価格は174.3ドルに低下している。

週明け月曜日も、一定の在庫積増し需要と、鉄鋼向け需要の低迷が綱引きとなる中、鉄鉱石は鉄鋼製品価格との比較感でパリティとなっているため現状維持、豪州原料炭価格は水準を切下げる展開を予想する。

◆貴金属

昨日の金価格は続伸。米インフレ関連統計が市場予想を上回ったことから金融引締め強化観測が強まったが、同時に金価格に対する説明力が高い長期金利が低下、原油価格も上昇していたため実質金利が低下したことが影響した。

金の基準価格は前日比+28ドルの1,298ドル、リスク・プレミアムは▲18ドルの468ドル。

金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲230ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,530ドル程度までの下落が有り得ることになる(基準価格は上昇)。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジはもう少し上に切り上がっているようだ。その中で昨日は割安感から買いが入った。金銀レシオは86.7倍(前日比▲1.0倍)に低下している。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲230ドル程度の下げ余地がある。

これだけでも銀価格を▲2.7ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても17.7ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

PGMは金銀価格の上昇と、株価の上昇を受けて続伸。特にパラジウムの上昇が顕著だった。

週明け月曜日も、米金融引締め観測を背景とする「長期金利の低下」が見込まれることから、高い水準での推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。ドル安が進行したことに加えて、原油価格が上昇、トウモロコシ・大豆はこれに連れるかたちとなった。

小麦は国連機関がウクライナの穀物輸出を請け負う方針を示したことで下落している。

ただし、いずれも需給ファンダメンタルズはタイトな状態が続く見込みであり、これまでファンド筋の手仕舞いが加速して下落していたことも考えると、今後の上昇リスクは小さくない。

まだ先の材料になるが懸念しているのは、中東地域での豪雨・洪水被害が多発している点。ラニーニャ現象の影響とみられるが、これによって草木が増加し、越冬できるバッタの数が増加するリスクが高まることになる。

今年は秋の穀物収穫が十分かどうか、という懸念がまだ残るが、バッタが越冬できてしまった場合、来年のリスクも高まることになるため、今後、バッタ動向は要注意である。

週明け月曜日も、リスクテイクの株高・ドル安が見込まれ、原油価格もOPECプラスの増産が期待し難いことから原油価格高・期待インフレ率高止まりが予想されるため、戻りを試す展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「天然ゴム価格は上昇へ」

今年のシンガポール天然ゴム価格は年初から春頃にかけては堅調な推移になっていた。

天然ゴム生産国協会が3月時点で2022年の天然ゴムの生産量は1,410万7,000トン、需要見通しは1,433万トンと▲22万3,000トンの供給不足を予想するなど、景気の先行きへの懸念がそれほど強くなかったことに加え、ロシアの軍事侵攻によって競合商品である合成ゴムの原料となる原油価格が高騰したことが価格を押し上げた。

しかしその後じりじりと水準を切下げ、5月頃から下げが加速した。シンガポール天然ゴム価格の年初来の上昇率は原稿執筆時点で▲11.2%とマイナス圏に沈んでいる。

価格下落の要因は複数考えられるが、最も影響が大きかったのが最大消費国である中国がオリンピック、パラリンピックで経済活動が一時的に停止した他、2019年のコロナウイルス発見以降、頑なに守り続けているゼロコロナ政策によって経済活動が強制停止された影響が大きかった。

いわゆるハード統計(実際の統計数字など)の中で天然ゴム価格に対する最も説明力が高いのが中国のタイヤ生産であり、これが落ち込んだことが背景にある。

3期目を目指す習近平国家主席・中国共産党は少なくとも年後半の党大会まで一度決めたゼロコロナ政策を取り下げるとは考え難く、それまでの間は常にロックダウンによる強制的な経済活動停止のリスクは残存すると予想される。

また、昨年からインフレに悩まされている米国が、国民の生活コストの上昇リスクを回避するため「景気を悪くしてでもインフレを抑制する」方針に舵を切っており、急速なペースで利上げと市場に供給していた流動性の縮小を始めたことで景気の先行き懸念がさらに強まったことも天然ゴム価格を押し下げた。

金融引締めは企業の経済活動や個人消費の足かせになるほか、株価が下落することで市場参加者の投資余力が低下し、投機的な視点で天然ゴムを購入していた市場参加者の手仕舞い売りも誘いやすい。

しかし、今後についてはむしろ天然ゴム価格は年末に掛けて上昇に転じる可能性が高いと考えている。

まず季節性の要因で年末に向けて価格が上昇する傾向があること、中国政府の経済対策期待、異常気象による供給懸念が意識されるからだ。

先日発表された2022年第2四半期の中国の実質GDPは年初来累計で前年比+2.5%と前期の+4.8%から大幅に減速しており、これも天然ゴム価格の押し下げ要因となっていた。

しかし2022年の中国の経済成長目標は前年比+5.5%であり、この数値とは大きく乖離している。恐らくどれほど頑張っても前年比+4.0%程度の成長を達成できるかどうか、というレベルと考えられるが、少なくとも年末に向けて経済対策が実行される可能性は高い。

タイヤ生産に直結する自動車販売に関して、中国地方政府は消費促進策を打ち出しており、自動車販売促進に向けて新エネルギー車購入の補助金支給やナンバープレート発給の上積みを計画するところも多い。

第3期目を目指す習近平国家主席がこうした経済対策を強化する可能性は高く、その意義はある。また、供給面も天然ゴム価格にプラスに作用する可能性が高いとみている。

過去3年のデータを元に分析を行うと、最も天然ゴム価格に対する説明力が高い指標は海洋ニーニョ指数であり、ラニーニャ現象発生時にはゴム価格が上昇しているケースが多い。

年初の予想では夏頃にラニーニャ現象が終息する見通しだったが、米海洋大気庁の予想では、秋口に一旦ラニーニャ現象が落着いた後、冬場に再びラニーニャ現象が発生する見通しとなっている。

異常気象が発生すればこの数年確認されているように、東南アジア地域の生産が下振れし、価格を供給面で支える可能性はある。また、今のところ来年に掛けては下落する見通しである原油価格も、ロシア情勢次第では上振れするリスクもあるため、供給面・コスト面は価格の上振れリスクとなり得る。

以上から、年末に向けて天然ゴム価格はむしろ上昇圧力がかかると予想しているが、ラニーニャ現象が発生しない、ないしは発生しても影響が限定された場合や、中国政府の経済対策の効果が限定されたり、米金融引締めがさらに加速した場合など、下向きのリスクも多いのも事実だ。

恐らく方向性が見えてくるのは、中国の経済対策の効果が顕在化し、今年9月のFOMCで今後の金融政策の方向性がある程度見えてくる秋以降になるのではないか。


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