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米統計悪化を受けた引締め鈍化期待で上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年7月29日 第2249号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米統計悪化を受けた引締め鈍化期待で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は米エネルギー価格や発電燃料価格が下落したが、その他の商品は上昇した。

材料としては米GDPが悪化し、「テクニカル・リセッション入り」したこと。

これにより、米景気の先行き懸念が強まったこと(実需の減少要因)が米国が消費主体の商品価格が下落、同時に急速に進む利上げペースが鈍化するとの期待(ファイナンシャルな面の価格上昇要因)が総じてドル建て資産価格を押し上げた。

ここで引締め観測が弱まるのならば、「金融相場入り」となる可能性がある。金融相場は実需の需給バランス以上に金融政策動向が価格に影響を与えやすくなる状況を示唆し、多くの場合「似たような値動き」になる。

もしこうなるとFRBが期待している資源価格下落目標の達成が困難になるため、市場の期待とは裏腹に引締め強化でオーバーキルのリスクが逆に高まるため要注意だ。

【本日の見通し】

本日は昨日の米GDP悪化を受けて逆説的だが上昇する商品が目立つと考える。金融引締めペースの鈍化が期待されるため。ただし、実態経済の減速は続いていると考えられるため上値は抑えられよう(非景気循環系商品は別)。

とはいえ、引き続きインフレ動向には市場は敏感になっていると予想されるため、本日発表のユーロ圏CPIや米デフレータには注目したい。特に米デフレータは伸びが加速する見通しであり、仮にそうなった場合、引締め鈍化期待が後退するため下落要因となり得る。

7月ユーロ圏CPI 市場予想 前月比 ▲0.1%(前月+0.8%) 前年比+8.7%(+8.6%)、コア 前年比+3.9%(+3.7%)

6月米個人所得 前月比+0.5%(+0.5%) 支出 +0.9%(+0.2%)

米デフレータ 前月比+0.9%(+0.6%)、前年比+6.8%(+6.3%)

米コアでフレータ 前月比+0.5%(+0.3%)、前年比+4.7%(+4.7%)

7月シカゴPMI 55.0(前月56.0)

【昨日のトピックス】

昨日発表された米国のQ222GDP速報は前期比年率 ▲0.9%(市場予想+0.4%、前期確定▲1.6%)と2期連続でマイナスとなった。定義としては2期連続の悪化であり、テクニカル・リセッションとなる。

米政府はこれを真っ向から否定しており、リセッションではないとしているが、今年の冬に中間選挙を控えているためこれを認めたくないのだろう。

過去の指標ではあるが、個人消費の伸びは+1.0%(+1.8%)と鈍化、設備投資も急速に落ち込んでおり(+10.0%→▲0.1%)、住宅投資も▲14.0%(+0.4%)と急減速している。やはり3月から始まった利上げの影響が顕在化していると考えられる。

ただ、同時に発表された米週間新規失業保険申請件数は25.6万件(25万件、26.1万件)と先週から減少しており、労働市場はやはりタイトな状態が続いている。

結局、労働市場の需給が緩和するほどの需要減少をもたらさない限り、リセッションしたとは断言できない。ただ、労働市場の需給が緩和しない限りインフレ懸念も払拭されないため、やはり中央銀行は早いペースでの利上げを今後も継続するのではないか。

今のところFEDウォッチでは9月の利上げは77%の確率で50bpの利上げが想定されているが、これを上回る利上げとなる可能性もまだ充分残る状況である。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は高安まちまちとなった。米GDPの悪化を受けて国内需要の減少観測が意識されたWTIは下落、一方ドル安進行でBrentは上昇した。

為替と原油価格の動きを見ると「ドル安・WTI安(米景気減速)」「ドル安・Brent高(脱ロシアに伴うロシア産原油以外の需要増加)」となっており、欧米でやや売買材料が異なっている印象。

実際、WTI・Brentとも100日~200日移動平均線のレンジワーク(Brentは98ドル~110ドル、WTIは95ドル~106ドル)だが、WTIはサポートラインである200日移動平均線近辺での推移となり、Brentはレジスタンスラインである100日移動平均線近辺での推移となっている。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトは続いており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は91.04ドル(前日比+0.47ドル)。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。

バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、OPECプラスの合意を得なければ増産は難しく、仮にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は昨日の米GDPの悪化を受けた利上げペース鈍化期待を受けた株高などが価格を押し上げるが、需給ファンダメンタルズの緩和観測がこれを相殺、結局もみ合うものと考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落した。低水準ながらロシアからのガス供給が継続していることを受け、生産者側の売りヘッジが入ったためと考えられる。

フローが安定していない場合、急に供給が途絶するリスクがあるためヘッジ売りを入れにくい(売る現物が確保できない)。

引き続きロシアにとってガスは「武器」の位置づけといえ、需要本番となる冬場に掛けた稼働停止リスクは小さくないと考えている。

気になるニュースは独BASFがロシアのガス供給が止まった場合、未使用のガスを一般向けに供給することを検討しているとのこと。

このことは化学品の生産減少を意味し、広く世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼし、化学品に止まらず製品生産に影響を及ぼす可能性がある。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月25日時点で67.1%(前日66.7%)と増加。LNGの輸入が季節性を無視して高水準であることや、ノルウェーの輸出増加、域内景気の減速が在庫増加に寄与していると考えられる。

しかし問題は「フロー」の供給であり、本番は今年の11月以降だ。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らしたとすれば、単純計算で、来年2月初には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。

もちろん冬が暖冬・厳冬になればこの限りではない。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。

また、5.に関して欧州で記録的な熱波が報告されており、さらに厳しい状況に陥っている。ただ、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。

このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は続落。米天然ガス統計で在庫の増加が市場予想・前週とも下回ったが、50日移動平均線のレジスタンスラインを超えてから、気温上昇などを背景に買い上がってきた向きが、利益確定の売りを入れたと考えられる。

とはいえ、在庫が不足し気温が上昇見通しに変化がないことから、当面米天然ガス価格は高値で推移しよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は続落。欧州天然ガス価格下落と、そもそも絶対水準の高さから、生産者(サプライヤー)側の利益確定のヘッジ売りが入ったためと考えられる。

現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、持続可能な価格ではない。とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きだ。

ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まることが予想されるため、当面高止まりが予想される。

しかし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になろう。

サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月24日時点の日本の発電用LNG在庫は226万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

7月18-24日のLNGトレードは、738万トンと先週の793万トンから減少。主にターム契約の減少が影響した。欧州向けが▲23万トン、南アジア向けが▲19万トンの減少となった。主にインド向けの需要減少が影響。

スポット調達は26%と先週の24%から低下。欧州向けが+30万トンの増加、日中台韓は+13万トンの増加。主に日本の調達増加によるもの。

本日も欧州を巡るガス供給環境の改善が見られない中、北半球は世界的に猛暑であることから調達圧力強く、スポットガス価格は高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは期近は小幅に下落、期先が上昇した。さすがに価格が高すぎることもあり、ガス価格の調整を受けて売られたと考えられる。

ただし石炭市場は流動性が極めて低下しており、この価格が本当に適正な価格かどうかは怪しいところ。限界生産コストは260ドル程度まで上昇しているため、コンビニエンスイールドの効果は150ドル程度となっている。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されており、下がっても260ドル程度が基準となってしまう。

しかし、既に石炭市場の流動性は大幅に低下しており、下がったといっても気配値での低下と考えるのが妥当。この状況だと石炭価格のリスクマネジメントができる状況ではない。

石炭売買契約を、Brent原油などの別の流動性が高い指標を参考に、カロリーベースで換算して売買する形に変更するなどの対策を講じる必要があると考えられる(そもそもターム契約のLNGもJCCベースで取引されている)。

今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。

6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。

6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

また、意図的にロシアが石炭の輸出を停止することも充分にありえる。

本日も、ロシアを巡るガス供給問題は改善どころか悪化しているため、(地域によっては)競合燃料であるガスとの裁定が働くことから、高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気ではある。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は鉛以外が上昇した。中国政府の景気刺激策が季節的に8月以降に顕在化するとの期待が価格上昇の前提だが、米GDPが市場予想を下回り、急ピッチな米国の利上げペースの鈍化期待が高まったことが背景。

鉛は中国国内の需要減少で昨年Q321から中国が鉛のネット輸出国となったこともあり、中国外の需給緩和に寄与していると考えられる。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策実施が見込まれていることから買い戻し圧力を強めると考えられ、既に顕在化している。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると予想される。現状、1.が顕在化する可能性が高い。

2.は今後発表される企業決算動向に左右されるためまだ様子見、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは下向き圧力。

よって、しばらくは1>2+3という展開が基本となる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。

本日は昨日の米GDPを受けた利上げペースの鈍化期待と、中国の公共投資期待で上昇すると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は大幅に上昇した。

中国政府の不動産業者救済観測を受けた、住宅向けの需要増加期待、SMMの発表では鉄筋在庫が先週から▲8.3%の832万トンに減少したことを受けて鉄筋価格が上昇したことが、鉄鋼原料価格を押し上げた。

また、季節的に動きが緩慢な7月が本日最終営業日であることから、8月以降の需要増加期待が価格を押し上げているとみられる。

ただし、中央政府の体力も低下しており、不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、中国政府の支援がなければ鉄鉱石などの鉄鋼原料価格の急落のリスクは残る状況。

この場合、期先の価格が参考になるが、鉄鉱石では100ドル、原料炭は230ドル程度となるが、既に両者とも限界生産コスト近辺まで価格修正が終っており、この点だけを見ればコスト面から価格は下支えされると考えられる。

ただ、パニック的な売りが発生した場合、生産コスト云々の議論はほぼ無意味で、鉄鉱石で80ドル、原料炭で200ドル割れ、といった下落はありえるだろう。

鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は106.5ドルに上昇、原料炭価格は175.7ドルであり、現在の価格は鉄鉱石はほぼパリティに、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。

本日も一定の在庫積増し需要と、鉄鋼向け需要の低迷が綱引きとなる中、鉄鉱石は鉄鋼製品価格との比較感でパリティとなっているため現状維持、豪州原料炭価格は水準を切下げる展開を予想する。

◆貴金属

昨日の金価格は続伸した。米GDPが市場予想を下回り「テクニカル・リセッション」入りしたことを受けて過度な金融引締め観測の後退と、景気減速に伴う金利低下が発生、実質金利が低下したことが材料となった。

金の基準価格は前日比+42ドルの1,270ドル、リスク・プレミアムは▲21ドルの485ドル。

金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと▲250ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,500ドル程度までの下落が有り得ることになる(基準価格は上昇)。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジはもう少し上に切り上がっているとみている。その中で昨日は割安感から買いが入った。金価格が戻りを試しているため、割安感から買いが入りやすかったのだろう。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲250ドル程度の下げ余地がある。

これだけでも銀価格を▲3.0ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても17ドル程度まで、ということだろう。この下値の目処は切り上がっている。

PGMは金銀価格の上昇と、株価の上昇を受けて堅調。

本日は、米金融引締め加速終了観測を受けた実質金利安で、堅調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。特段固有の買い材料が合ったわけではないが、ロシア・ウクライナ問題の解消が本当にあるか懐疑的な見方が残存する中で、昨日の米GDPが市場予想を下回ったこともあってドル安が進行したことが、広く買い戻しを誘う結果となった。

ここまでの買い戻しで大豆はほぼ限月交代に伴う「窓埋め」が終った。

本日は米国の異常なペースでの利上げが9月で終了するとの期待感と、景気減速観測からドルがやや軟調に推移しやすい中、穀物セクターにも買い戻しが継続すると見られ、高値維持の公算。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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