堅調地合続く~発電燃料価格は高騰
- MRA商品市場レポート
2022年7月27日 第2247号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「堅調地合続く~発電燃料価格は高騰」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は発電燃料やその他農産品、非鉄金属の一角が上昇し総じて堅調だったが、原油に関しては水準を切下げる展開となった。最も下落したのはビットコイン。
IMFが経済見通しを発表、大幅に下方修正されたがある意味これは予想の範囲内とされ、昨日については商品価格への影響は限定された。一方で、景気への懸念から「流動性が確保されている」原油は下落したが、その他、流動性が充分でないものは高値を維持する形となった。
ロシアの軍事侵攻に対する制裁で、西側・東側で価格が異なる「一物二価」の状態が定常化しており、我々西側諸国が購入する商品価格は割高になりつつある。
発電燃料の需要がピークとなる冬場に、欧州を含む西側諸国の民意を、自分達の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する意味がない、という方向に向けようとしているロシアと、そうはさせじと代替手段を探る西側諸国の対立の構図だが、ここから11月頃までの駆け引きはかなり厳しくなることが予想される。
【本日の見通し】
本日は注目のFOMCを控えて様子見気分が強く、アジア~欧州時間に掛けては、昨日上昇した商品が売られ、下落した商品が買われる、といった展開が予想される。
FOMCは恐らく事前予想通り75bpの利上げになると見ているが、9月以降の金融政策動向に関して何か手がかりとなる発言があるかどうかに注目している。
【昨日のトピックス】
昨日発表された欧州のPMIは、明確に同地区の景気が減速していることを示唆する内容だった。
景気に先行性がある指標という意味では製造業のPMIが重要だが、ドイツは49.2(市場予想50.7、前月52.0)と予想・前月を下回り、閾値の50を下回った。欧州全体の製造業PMIも49.6(市場予想 51.0、前月52.1)とやはり悪化している。
製造業PMIは比較的正確に3~4ヵ月、GDPに先行するため来月もさらに減速するようなことがあれば、欧州が年内に景気後退局面入りする可能性は排除できない。
米国のPMIも減速しているが、製造業PMIはまだ閾値の50を大きく上回る52.3であるが、個人消費の指標であるサービス業PMIは47.0(市場予想52.7、前月52.7)と一気に悪化した。実質賃金の低下が消費に影響を及ぼしていると考えられる。
ただし、景気循環的に2023年がそれほど良い年にならないことはある程度所与のものであるため、この減速を受けて余り慌てないことである。恐らく需要も減速し、多くの景気循環系商品価格は2023年の前半に掛けて調整することになるだろう。
恐らく多くの消費者・製造業などは調達面に関し、ここで一息つくことができそうだが、新東西冷戦が始まっていることを考えると、構造的な鉱物資源やエネルギー価格の高止まりは続くと予想されるため、将来の上昇に備える時期に来ている、と考えるべきだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落した。株価が調整する中でドル高が進行し、それが価格の下押し要因となった。
このコラムでも「ドル高・原油高が同時に発生する相場の終焉」が相場の転換点になると指摘していたが、徐々にその状況になりつつあるようである。やはり短期的な見通しは年末に掛けて下落、ということになるのではないか。
足下、200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での推移が続いている(Brent原油ベースで98ドル~111ドル)。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は88.02ドル(前日比▲0.28ドル)。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。
バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、OPECプラスの合意を得なければ増産は難しく、仮にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。
即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。
仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。
となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。
教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は、まずは買い戻しが優勢になると考える。ただしFOMCでの利上げが確実中、利上げ実施後は下落に転じるとみている。
本日は米石油統計の発表が予定されているが、市場予想は▲1.0MBの原油在庫減少が見込まれているが、朝方発表のAPI統計は▲4.4MBの減少が確認されており、API統計を参考にすれば予想以上の在庫減少が確認され、価格の上昇要因に。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は大幅に上昇した。ロシアによるノルドストリームの稼働率引き下げにより、域内需給が逼迫するとの懸念が価格を押し上げた形。
結局の所、フローの流入が確保できなければ、いくら在庫が積まれていたとしても現物需給がタイト化するため価格の上昇要因となる。
引き続きロシアにとってガスは「武器」の位置づけといえ、需要本番となる冬場に掛けた稼働停止リスクは小さくないと考えている。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州全体のガス在庫は7月21日時点で65.7%(前日66.3%)と増加。LNGの輸入が季節性を無視して高水準であることや、ノルウェーの輸出増加、域内景気の減速が在庫増加に寄与していると考えられる。
しかし問題は「フロー」の供給であり、本番は今年の11月以降だ。
LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアがパイプライン供給を▲80%減らしたとすれば、単純計算で、来年2月には欧州の天然ガス在庫は枯渇することになる。
もちろん冬が暖冬・厳冬になればこの限りではない。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。
また、5.に関して欧州で記録的な熱波が報告されており、さらに厳しい状況に陥っている。ただ、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。
このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は続伸。米北東部が記録的な気温上昇となる見通しである中で、「フロー」の需要増加観測が強まったことが背景。
50日移動平均線のレジスタンスラインを超えてから上げが加速しており、折からの在庫不足と相まって価格は高値を維持している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は大幅に上昇した。ノルドストリームの稼働率が20%と低迷している状況で、欧州向けのカーゴ需要増加観測が強まっていることが背景。
ただし、欧州のLNG受入キャパシティも限界があり、さらに上昇するには中国のペントアップ需要回復や、景気刺激策の実施、気温のさらなる上昇が必要条件になろう。
とはいえ、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。
サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。
仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍にはね上がり、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。
ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月17日時点の日本の発電用LNG在庫は194万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。
7月18-24日のLNGトレードは、738万トンと先週の793万トンから減少。主にターム契約の減少が影響した。欧州向けが▲23万トン、南アジア向けが▲19万トンの減少となった。主にインド向けの需要減少が影響。
スポット調達は26%と先週の24%から低下。欧州向けが+30万トンの増加、日中台韓は+13万トンの増加。主に日本の調達増加によるもの。
本日も欧州を巡るガス供給問題が解消していないこと、北半球は世界的に猛暑であることから調達圧量強く、スポットガス価格は高値維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは期近は小幅に上昇、第2限月以降が大幅に上昇した。ロシアのノルドストリーム稼働引下げにより、代替発電燃料の需要が増加していることが背景。
価格上昇の一因として流動性の低下が挙げられるが、限界生産コストは250ドル程度まで上昇しているため、コンビニエンスイールドの効果は170ドル程度で変わっていない。
恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されており、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。
今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。
6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。
日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。
また、意図的にロシアが石炭の輸出を停止することも充分にありえる。
米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強い。
本日も、ロシアを巡るガス供給問題になんら改善が見られない中、、(地域によっては)競合燃料であるガスとの裁定が働くため、高値維持の公算。
なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はまちまちとなった。4月の中国ロックダウン以降から下落を続けてきたが、割安感からの買い戻しが入ったためと考えられる。ただしリスク回避のドル高が断続的に進行したこともあり、引けに掛けては上げ幅を削る展開。
ニッケル・錫は株の下落もあって欧州時間の後場に下げ幅を拡大し、前日比マイナスで引けた。
コロナショック後以降のサプライチェーン混乱と景気刺激によって「インフレトレード」がテーマとなる中、投機の買いも加速して上昇していた非鉄金属価格は調整圧量が強まっているが、短期期には売られすぎ感も強く、過度な金融引締めへの懸念が和らぐ中では安値拾いの買いが入りやすい。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策の実施をなりふり構っていないことから、買い戻し圧力を強めると考えられ、既に顕在化している。
これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が必要となるが、いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると予想される。現状、1.が顕在化する可能性が出てきた。
2.は今後発表される企業決算動向に左右されるためまだ様子見、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは下向き圧力。
よって、しばらくは1>2+3という展開が基本となる。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。
本日も基本的には買い戻しが入りやすい地合が続くと考えられる。予定されている材料では銅価格に対する説明力が高い工業セクター利益に注目している。
前月は年初来で+1.0%、単月で▲6.5%と減速しているが、単月の悪化幅は縮小しているため前月からは改善となるか。この場合、価格の上昇要因となる。
なおFOMCの結果は時間的に明日以降の材料に。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。
中国の住宅セクターの回復が遅れる中で鉄鋼製品需要は低迷していると考えられ、昨日の鉄鋼製品価格は下落した。ただし中国政府が開発業者を支援する不動産機器を設立する方向で国務院が承認しており、不動産セクターの下支えが期待される。
ただ、日本も同様だったが、人口動態がピークアウトする中で不動産セクターを維持することは難しく、当面は調整圧力が強まる展開が続こう。
この中で鉄鋼原料価格は上昇しているが、需要対比での在庫水準の低さから一定の在庫積増し需要があることが要因だろう。
鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は106.5ドルまで低下、原料炭価格は175.7ドルであり、現在の価格は鉄鉱石はほぼパリティに、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。
この推測値から著しく乖離していた豪州原料炭価格の上振れは70ドルまで低下してきており、徐々に正常化しつつある。
本日も一定の在庫積増し需要と、鉄鋼向け需要の低迷が綱引きとなる中、鉄鉱石は鉄鋼製品価格との比較感でパリティとなっているため現状維持、原料炭価格は水準を切下げる展開を予想する。
◆貴金属
昨日の金価格はまちまちとなった。金は実質金利の上昇とリスク・プレミアムの上昇で小幅安。プラチナはほぼ金と同じ相場展開。
銀は米国時間に掛けて上昇。特段固有の材料はなかったが、金銀レシオが90倍を超えるなど割安であるため、テクニカルな買い戻しが入ったと考えるのが妥当だろうか。パラジウムは小幅高。
金価格は過去の例を見ると相場上昇局面の最終局面でリスク・プレミアムが大きく上昇するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小する傾向が強い。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと300ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,420ドル程度までの下落が有り得ることになる。
銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性がある。
しかし、
1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジはもう少し上に切り上がっているとみている。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲300ドル弱の下げ余地がある。これだけでも銀価格を▲3.3ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても15ドル程度まで、ということだろう。
本日はFOMCを控えて様子見気分強く、もみ合うものと考える。利上げは想定通りの75bpと予想されるが、発表後はさすがに下落で反応するのではないか。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。トウモロコシと大豆は作況が悪化していることで収穫への懸念が高まったこと、小麦はウクライナ産・ロシア産の穀物類の輸出再開はあるものの、直後にロシアがオデーサを攻撃するなど、このまま供給が継続できるかどうかは非常に微妙であることから買い戻しが入っている。
プーチン大統領は今年の冬が「対欧州戦のピーク」と捉えていると考えられ、冬に突入する前にあらゆる妨害行為、地域の治安悪化行為に繋がることを行ってくる可能性は高いと考えられ、引き続き穀物価格の上昇要因となる。
本日はFOMCを控えて様子見気分が強くもみ合うと考えるが、恐らく利上げは予想通り行われ、直後は下落しようが、むしろ需給ファンダメンタルズを意識した買いで総じて堅調推移と考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
それに伴う各地での暴動発生。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
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