シカゴの通貨先物ポジションから乖離したドル高円安
- MRA外国為替レポート
2022年7月25日号
◆先週の市場総括
先週は前週末の米国の期待インフレ率低下や週明けの弱い米住宅関連指標を受けてインフレ懸念が後退。過度な引き締め懸念が弱まったことから米国株は週央にかけて堅調。
週央の日銀金融政策決定会合は想定通り現状維持。黒田総裁は今後の金融政策変更・修正を行うつもりは全くない、と述べた。
ドル円相場は週初から138円をはさんで上下。総裁発言で139円に迫ったが勢いは続かなかった。
欧州ではECBが想定外の0.50%の利上げを実施し中銀預金金利のマイナス金利を解消。米国の経済指標が弱かったこととあいまって景気後退懸念が強まった。
さらに週末のPMI景況感指数が欧米ともに景況感の分かれ目である50を下回り景気後退観測が強まった。米長期金利は大きく低下。米10年債は週末に2.75%。2年債は2.97%と3%を割った。
ドル円相場は一時135円60銭まで下落し週末は136円10銭で引け。ユーロ円相場は週前半には141円台に上昇していたが週末にかけて138円台に下落し引けは139円ちょうど近辺。
日経平均は米国株の堅調、円安、決算期待に支えられ週末の引けは28,000円に迫った。
月曜日の東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は軟調。円安一服。138円60銭近辺で始まり138円ちょうど~10銭に下落。その後欧米市場にかけては138円ちょうど~40銭で上下し動意薄。
米国市場では138円ちょうど~20銭で小動きとなり引けは138円20銭。
米国市場にかけてはドルが軟調、ユーロは堅調。ユーロドル相場は1.0080で始まり1.0110に上昇。その後欧州市場に入ると1.0150に上昇して1.0120~70で上下して米国市場では1.0200を回復した。引けは押されて1.0140。
ドルインデックスは108ポイント台から107.43に下落。
ユーロ円相場もユーロドル相場の動向につれて上下しつつ堅調。アジア時間に139円70銭で始まり40銭~70銭で上下。欧州市場から米国市場にかけては上下しながら140円80銭まで上昇した。
引けにかけては反落して140円20銭近辺で引け。
米国株は主要3指数がそろって下落。前週末の指標で期待インフレ率の低下が示され過度な金融引き締めへの懸念が後退。しかし決算・企業業績への警戒感から軟調となった。
アップル社が業績への逆風に備え雇用・支出を抑制する方針を示したことが嫌気された。NYダウは▲215ドル安の31,072ドル、ナスダックは▲92ドル安の11,360ドル。VIX指数は+1.07ポイント上昇して25.30。
米10年債利回りは2.99%、2年債は3.174%で逆イールドが続いた。原油価格WTI先物は102.60ドルに上昇。バイデン大統領が中東訪問でサウジアラビアとの交渉も増産要請が不調に終わったことが材料視された。
火曜日の東京市場では日経平均が上昇。前日の米国株は下落したものの、前週末の米国株が大幅高となったことで、3連休明けの日本株には買いが入った。一時27,000円に上昇。
ただ利益確定売りに押され、引けは前週末比+173円高の26,961円。
ドル円相場は138円10銭~20銭で始まり朝方40銭に上昇したあと一貫して下落。夕刻から欧州市場にかけて137円40銭まで大幅安となった。ドルが軟調。
ユーロドル相場は1.0140で始まり1.0120~40で推移したあと一貫して上昇し1.0270をつけた。
ECB関係者の発言として、次回会合では0.25%か0.50%のいずれかの利上げ、0.50%をより積極的に検討、と報じられたことでユーロ買いが強まった。
ユーロ円相場は140円ちょうどで始まり141円20銭に上昇。
米国株は大幅高。急激な金融引き締め観測、景気後退懸念が後退し、景気敏感株、ハイテク株、など広く買われた。決算・業績への期待も支え。NYダウは前日比+754ドル高の31,317ドル。ナスダックは+353ドル高の11,713ドル。
リスク選好の回復で米長期金利は上昇。10年債は3.026%と3%を回復。2年債は3.244%。いずれも上昇したが逆イールドが続いた。
ドル円相場は米金利上昇に支えられ反発し引けは138円20銭。ユーロドル相場は上昇一服し1.0220~40でもみ合い。ユーロ円相場は一段高となり141円30銭で引けた。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅高。過度な金融引き締め懸念が後退したことで前日の米国株が大きく上昇。アジア株も堅調で強気心理で買い優勢となった。引けは前日比+718円高の27,680円。
ドル円相場は終始動意薄。日銀金融政策決定会合が水曜・木曜の2日間開催されていることから様子見となった。138円20銭で始まり138円台前半の狭いレンジで上下し、米国市場でも138円20銭~30銭で小動き。
ユーロは欧州市場に入って下落。東京市場のユーロドル相場は1.0230~50で上下し、欧州市場では1.0180に下落。その後一時1.0230に反発したものの、1.0160~80で取引を終えた。
ユーロ円相場は141円30銭で始まり30銭~80銭で上下動。欧州市場に入ると140円70銭に下落。141円ちょうどを挟んで140円70銭~141円30銭で上下したあと米国市場終盤に140円40銭に下落して引けは140円80銭。
米国株は堅調。決算が予想ほど悪くなかったことで業績懸念・警戒感が緩んだ。住宅関連指標が弱く、過度な金融引き締めへの警戒が引き続き緩和し株価を支えた。
NYダウは前日比一時▲100ドル超下落したが引けは+47ドル高の31,874ドル。ナスダックは+184ドル高の11,897ドル。
米長期金利は前日とほぼ同水準。10年債利回りは3.028%、2年債は3.238%。引き続き逆イールドが続いた。
発表された米国の中古住宅販売(6月)は季節調整済み年率換算で512万戸と前月541万戸から大きく減少して2020年6月以来の低水準となった。
木曜日の東京市場では日経平均が続伸。日銀が現状維持、超金融緩和政策の継続を決定したことを材料に買い優勢。
ノルドストリーム点検終了でロシアからのガス供給が再開したと報じられ供給不安が緩和したことも支え。引けは前日比+122円高の27,803円。
ドル円相場は138円30銭で始まり50銭台に乗せたが138円10銭に下落して黒田総裁の会見待ち。
朝方発表された日本の通関統計(6月)は貿易収支が▲1兆3,830億円の赤字で予想よりやや少なく、季節調整済みでも予想より赤字幅は小さかった。
輸入金額は前年同月比+46.1%と引き続き高い伸び。輸出も+19.4%と予想を上回り赤字額は予想より減少した。
昼頃に日銀金融政策決定会合の結果が公表され現状維持。展望レポートではインフレ率見通しが上方修正された。今年は前回1.9%から2.3%へ、来年が1.1%から1.4%へ。
黒田総裁は会見で国債買い入れ方針を含め現状維持で、今後も変更、修正するつもりはないと述べた。
これを受けてドル円相場は138円60銭台に上昇。さらに欧州市場では90銭近くまで続伸した。
ユーロ円相場は140円70銭台で始まりじり高。黒田総裁の発言を受けて141円60銭まで上昇した。その後はECB理事会を前に141円ちょうど~30銭で推移。
ユーロドル相場は東京市場では1.0180近辺で始まり1.0230に上昇した後、欧州市場では1.0170に押し戻された。
注目のECB理事会では予想を上回る0.50%の利上げ。中銀預金金利は0.0%となりマイナス金利が解消した。直近のインフレ率が前年同月比+8.6%となったことでインフレ対応を急いだ。
ただラガルド総裁は金利の着地水準自体は変更ないと述べた。
ユーロドル相場は1.0280に急騰したが1.0160へ急反落。その後は1.0170~1.0210で上下。
ユーロ円相場も142円80銭に上昇したあと、米国市場では140円20銭まで下落した。
米国市場では弱い経済指標を受けて景気後退懸念が強まり長期金利が低下。米10年債利回りは2.874%へ、2年債は3.091%へ。逆イールドは継続。米国株は主要3指数とも続伸した。
金利低下がハイテク株の支え。NYダウは朝方▲340ドル安となったが持ち直して+162ドル高の32,036ドルで引け。ナスダックは+161ドル高の12,059ドル。VIX指数は23.11に低下した。
ドルは下落。弱い経済指標、米長期金利の低下、バイデン大統領のコロナ感染などがドル売り材料となった。
ドル円相場は137円40銭まで大きく下落して引け。
ユーロドルは持ち直し1.0230。ユーロ円相場は140円50銭で引け。
ドルインデックスは106.58に下落した。
発表された米国の経済指標は弱め。週次の失業保険新規申請件数は251千件と前週244千件から増加して3週連続増加。継続受給者数も1,331千件から1,384千件に増加。
フィラデルフィア連銀製造業景気指数(7月)は前月▲3.3から▲12.3へ大幅悪化。景気先行指数(6月)は前月比▲0.8%、前月も▲0.4%から▲0.6%に下方修正された。
4ヵ月連続の低下となり年末ないし来年初に景気後退との見方が強まった。
金曜日の東京市場では日経平均が7営業日続伸。好決算銘柄に買いが入った。業績見通し上方修正の海運株が大幅高。米長期金利低下、ハイテク株高で半導体関連株にも買い。
円安継続で輸出関連企業の業績期待も支えとなった。引けは前日比+111円高の27,914円。
ドル円相場は137円40銭で始まり朝方137円ちょうどを試したが底固く反発。夕刻まで一貫して上昇し138円ちょうどに迫った。
ユーロ円相場も同様。140円50銭で始まり140円ちょうどを試したが反発。140円60銭に上昇した。
ユーロドル相場は1.0230で始まり上値重く1.0180~1.0210。欧州市場に入るとユーロが下落。
発表されたPMI景況感指数(7月)が景況感の分かれ目である50を割り込み景気後退リスクがさらに高まっていることを示した。
ユーロ圏製造業は前月52.1から49.6へ、サービス業は53.0から50.6へ、総合指数は52.0から49.4へ悪化。
ドイツは製造業が52.0から49.2へ、サービス業が52.4から49.2、総合指数は51.3から48.0に悪化した。
ユーロドル相場は1.0130へ、ユーロ円相場は139円40銭に急落。
リスク選好が後退するなかドル円相場も軟調。米国市場朝方には136円60銭まで下落した。
続いて発表された米国のPMI景況感指数も総合指数が50割れ。製造業は52.7から52.3へ小幅悪化で踏みとどまったが、サービス業が52.7から47.0へ大きく悪化。総合指数は52.3から47.5へ悪化した。
欧米ともに景気後退リスクが意識され米国株は軟調。NYダウは前日比▲137ドル安の31,899ドル、ナスダックは長期金利大幅低下にもかかわらず▲225ドル安の11,834ドル。
米10年債利回りは2.754%、2年債は2.792%に低下して3%を割り込みつつ、なおも逆イールドが続いた。
ドル円相場は135円60銭近辺まで下落。その後は136円を挟んで上下し引けは136円10銭。
ユーロドル相場は持ち直し1.0250に反発。その後は1.02がらみで推移して引けは1.0210。
ユーロ円相場はリスク回避が強まるなか軟調となり138円80銭に下落し、引けは139円ちょうど近辺。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(米連邦公開市場委員会)
火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMCが開催される。結果は日本時間木曜日未明3:00。パウエル総裁が同3:30から定例会見を行う。
今回の会合では0.75%の利上げが予想されている。一時は1.00%の利上げとの思惑も強まったが、期待インフレ率のピークアウトや弱い経済指標を受けて0.75%の利上げがほぼ確実視されている。
全員一致か、反対票の有無やバイアスはどうか。経済指標には弱い数字が散見されており、次回9月会合での利上げ幅がどうなるかが関心事となりつつある。
0.75%を継続するか0.50%に縮小する可能性があるか。現時点で当局も判断が難しいところだが、議論のニュアンス、声明文、議長会見から何等かの示唆が伺えるか。
2.米国の経済指標
先週の経済指標には弱い数字が散見され景気後退懸念がさらに強まっている。今週もそうした見方を後押しするか。市場は弱い数字に反応しやすい状況。
火曜日 ケースシラー住宅価格指数(5月、前年同月比、前月は+21.2%) 消費者信頼感指数(7月、予想96.0、前月98.7) リッチモンド連銀製造業指数(7月) 新築住宅販売(6月、季節調整済み年率換算、予想675千戸、前月696千戸)
水曜日 耐久財受注(6月、前月比、予想▲0.4%、前月+0.7%)
木曜日 GDP(4-6月期速報、前期比年率、予想+0.6%、前期▲1.6%、個人消費、予想+1.2%、前期+1.8%) 米週間新規失業保険申請件数
金曜日 個人所得・消費支出(6月、前月比、予想+0.5%・+0.8%、前月+0.5%・+0.2%) 個人消費支出価格指数(同、前年同月比、予想+6.6%、前月+6.3%、コア指数、予想+4.8%、前月+4.7%) シカゴ購買部協会景気指数(7月、予想56.4、前月56.0) ミシガン大学消費者信頼感指数(7月確報、速報は51.1)
3.欧州の経済指標
欧州でも景気後退懸念が強まっている。ロシアからの天然ガス供給は再開したものの供給量は一部削減されたままで安定供給への不透明感が残る。
PMIは50を割り込み景気後退リスクが高まるなか弱い数字が景気懸念を後押しするか。
月曜日 ドイツIFO企業景況感指数(7月、予想90.5、前月92.3)
水曜日 ドイツGFK消費者信頼感指数(8月、予想▲30.0、前月▲27.4)
木曜日 ユーロ圏経済信頼感(7月、予想101.0、前月104.0) ドイツCPI(7月、前年同月比、予想+7.6%、前月+7.6%)
金曜日 ドイツGDP(4-6月期速報、前年同期比、予想+1.7%、前期+3.8%) ユーロ圏GDP(同、予想+3.4%、前期+5.4%)
◆今週のMRA's Eye
シカゴの通貨先物ポジションから乖離したドル高円安
先週、ドル円相場は139円を試したが週末にかけて反落し一時135円60銭をつけた。弱い経済指標が散見されたことで欧米の景気後退懸念が強まり、米長期金利が大きく低下。2年債と10年債利回りが逆転し逆イールドとなったまま、ともに3%を割り込んだ。
景気後退や将来の利上げ打ち止めなどを織り込み始めた。それにともない、ドル買い円売りの解消が生じ、円が買い戻されたとみられる。
ただそれでも従来の相関からすれば米10年債利回り水準からドル高円安にバイアスがかかった状態だ。
ドル円相場と米10年債利回りが安定的に推移していた状況では、3.5%で135円近辺だった。現状は2.75%でも136円に踏みとどまっている。相関の相手が10年債ではなく2年債など金融政策動向により近い金利にシフトしたとしてみても、なおドル高サイドに振れている。
相関からの乖離という点では、シカゴ通貨先物における円の投機ポジション動向とドル円相場は大きく乖離している。
シカゴポジションは年初来概ね5万枚~10万枚の円売り越しを上下している。一方的に円売りが積み上がっているわけではない。
その一方、ドル円相場は3月以降、115円近辺から140円に迫るほど急速にドル高円安が進んだ。それまでは概ねシカゴの円ポジションの動向とパラレルな動きだったが、それを逸脱した状態が続いている。
その原因は、まずシカゴ通貨先物のポジションが、同市場を使う投機取引に限られた数字で、投機売買の全体を示いていない点が大きい。
グローバルに行われている投機取引のわずか氷山の一角、にすぎないという点には留意を要する。
1枚は1,250万円。10万枚は1兆2,500万円ということになる。決して少なくはないが、グローバルな投機取引全体からみればわずかだ。
そのため、シカゴのポジションを解釈する際には、金額ボリュームそのものではなく、過去との対比、時系列的にみて多寡を相対的に判断する必要がある。
そのうえで、今回はなぜ、シカゴポジションから乖離してドル高円安が進んだのか、いくつかの要因を想定する必要がある。
まずはシカゴ通貨先物を通さない投機取引の増加、急増が考えられる。日本の個人によるFX取引が代表的なものだろう。
日本人による投機的な円売り(ドル買い、ユーロ買い、など)が、内外金融政策格差や円安に備えるべきとのメディア論調から積極化した可能性がある。
また海外の個人や投機取引も含めて、暗号資産取引いわゆる仮想通貨取引から撤退し、わかりやすい為替取引に回帰した可能性もある。
日本時間に円安が進み、あるいは欧州市場に入ってから急速に円安が進むなど、値動きが散見され、これらはそれぞれの投機取引が活発化した可能性を示唆する。
投機取引以外のドル高円安要因が強まった点も挙げられる。日本の貿易収支が大幅な赤字となり円売り圧力が強まった点は、従来の投機ポジション動向から円安方向に乖離させる要因となった可能性はある。
ただし、この点については、10円、20円、という値幅で急速に円安を推し進める要因とならず、じわじわと円安圧力がかかるにすぎない。
もうひとつは、グローバルにドル資産、ドルキャッシュへ資金が回帰ないし逃避した可能性。ドルインデックスは急騰、ドルは対ユーロなど円以外の通貨に対してもドル高が進んでいる。
投機的なドル買いが全通貨に対して取り組まれたことに加え、投資家のリアルマネーがドルに避難した結果、円売りポジションの動向以上にドル高円安が進んだ可能性がある。
こうした可能性がありながらも、急速なドル高円安をもたらしているのは投機動向が主体とみられる。
少なくとも日米金利差、米長期金利動向、金融政策格差が明確となったタイミングで、高い相関で、あるいは機敏な反応で、ドル高円安が進んでいることは、投機動向が主体とみたほうが良いだろう。
投機ポジションにとって重要なのは相場の方向感。金利差はポジションの多少のバッファーとはなるが、相場が反転しアゲインストとなれば投機収益は簡単に喪失する。
上がるから買う、買うから上がる、という回転でドル高円安が進んできた可能性がある。これが行き詰まれば金融政策格差にかかわらず大きく調整、円高となりやすい。
7-9月期はすでに高値波乱となり、一方的なドル高円安に歯止めがかかり、140円超えに疑問符がつく可能性がある。
そうなると、10-12月期の相場反転、ドル安円高方向への調整が視野に入る。リスクバイアスは現状で中立、次第にドル安円高サイドに変化するというのがメインシナリオだ。
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