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株高・リスク選好で堅調 伊政情不安がドル高誘発上昇抑制
  • MRA商品市場レポート

2022年7月21日 第2243号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「株高・リスク選好で堅調 伊政情不安がドル高誘発上昇抑制」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はまちまち。一昨日売られていた工業金属が物色され、エネルギーや貴金属などが売られる流れとなった。

市場は米国の金融引締め加速がどの程度本気なのか、判断仕切れていない状態だが、FRBのスタンスをみるにインフレ加速からインフレ沈静化に向けて政策の舵を切っていることは明らかであり、品不足を背景に一気にインフレトレードにシフトしていた市場は、方向転換を余儀なくされている状況。

結果、何もなければインフレ系資産価格に下押し圧力が掛ることになる。しかし、中央銀行も本当にこれでインフレを沈静化できるのか確信が持てておらず、引締め過ぎ、引き締めなさすぎ、の両方のリスクが存在している状況。

恐らく方向が見えてくるのは9月のFOMC。このときの利上げが75bp程度で打ち止めとなるのか、ダラダラと50bpの利上げを継続せざるを得ないのか。それによって、そもそも景気が減速して価格水準が切り下がると予想される、2023年の絶対価格の水準が決定してくるため、このQ322の金融政策動向は、非常に重要になると考えられる。

足下、経済統計の減速が確認されるようになり、過度な金融引締めへの懸念はやや後退しているが、米国のインフレ沈静化策が成功しない可能性があることが、石油統計などから窺えるため(詳しくはエネルギーのコラムをご参照ください)、まだ予断を許さない。

【本日の見通し】

本日は引き続き株式市場動向を睨みながら、神経質な推移になると予想されるが、足下、リスク選好が戻っているため上昇余地を試す商品が多いのではないか。

本日の注目材料はECB政策会合とノルドストリームの再稼働状況。

ECBは50bpの利上げを決定すると見られるが、インフレ抑制のために75bpの利上げになるかどうかに注目。

ノルドストリームの稼働は今のところ「フル稼働はない」がコンセンサス。IMFの見通しではロシアからのガス供給が完全に遮断されれば、ドイツの経済成長は▲5%の下押し圧力が掛り、インフレ率も2022~2023年平均で+2%程度押し上げられると試算している。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米国の中古住宅販売は、前月比▲5.4%の512万戸(前月▲3.4%の541万戸)と前月から減速、市場予想の▲1.1%の535万戸も大きく下回った。

同時に発表された米MBA住宅ローン申請指数は申請指数が前週比 ▲6.3%(前週▲1.7%)と減速、購入指数(▲3.6%→▲7.3%)、借換指数(+2.2%→▲4.3%)と共に減速している。

背景には米国の金融引締めやQTの影響によるローン金利の上昇があり、30年金利は5.82%(5.74%)と上昇した。しかし15年の金利は4.88%(4.93%)と低下している。

これは米国の金融引締めによって景気が減速するのでは、との見方から長期金利に下押し圧力が掛り始めているためと考えられる。

一昨日発表の住宅着工・住宅着工許可件数は、住宅着工件数も前月比▲2.0%の155.9万戸(市場予想+2.0%の158万戸、前月▲11.9%の159.1万戸)、先行指標である住宅着工許可件数は、▲0.6%の168.5万戸(市場予想 ▲2.7%の165万戸、前月▲7.0%の169.5万戸)と減速していることと合わせて考えると、やはり米国の市場加熱沈静化策は機能しているといえるだろう。

一方、ほとんどバブル状態になっていた住宅市況の加熱沈静化に取り組んでいる中国では、不動産バブルが弾ける、というよりは住宅市況のゆっくりとした悪化が続いている状況。

金融システム不安を回避するため銀行に対する公的支援を行い、破綻した不動産会社の中国当局主導による救済合併などが行われているためと考えられるが、それでも個人の購買意欲が回復しなければそれも難しい。

日経新聞も報じていたが、中国では恒大集団が手がける未完物件に対する住宅ローンの支払いを差し止める、とした集団交渉が起きている。住宅市場規制強化の影響で、住宅の建設が進捗していないためだ。

工事停止は不動産開発会社が資金不足に陥ったことによるものであり、不動産開発会社の資本規制強化を行った影響が大きいと考えられる。

こうした当局の対応の混乱は不動産バブルが弾けた時の日本と似る。ただし当局の強制力が強い中国で全く同じことが起きるとは考え難い。しかし、規制の緩和などが行われ無ければ、中国の不動産セクターの低迷は続き、工業金属価格の下押し要因となろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。米石油統計はヘッドラインの数字が市場予想比較で強めの数字だったこともあり上昇したが、イタリアでドラギ内閣の信任を主要3党が拒否、政局混乱が質への逃避でドルに向かい、ドル高が進行したことが価格を下押しした。

ただ、いずれにしても200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での推移が続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は90.73ドル(前日比▲0.72ドル)。

昨日発表された米石油統計は予想比でやや強気の内容。内訳を見ると原油は生産(▲0.1MBD)、輸入(▲0.2MBD)とも供給側が減少、稼働率が低下したものの(▲1.2%)在庫は▲0.4MBの減少となった。

製品生産は得率の変更でガソリン生産が増加(+0.4MBD)した。しかし製品出荷が低迷し、過去5年の最低水準に迫った結果、在庫は+3.5MBの増加となった。

輸出需要も含む在庫日数も+0.4日の23.7日と過去5年平均を回復している。

ディスティレートは生産が減少(▲0.1MBD)、出荷は過去5年平均程度であったため、在庫は▲1.3MBの減少、輸出を含む在庫日数も▲0.5日の21.7日と、過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

全体として、「価格上昇と金融引締めによる株価下落で米国内の消費活動に減速が見られるが、脱ロシアを背景とする原油・石油製品輸出は記録的な水準であり、結局、米国の利上げ効果による需要減少が、ロシア制裁効果を相殺できておらず、原油価格が高止まりしている」状況とまとめられる。

このことは、米金融引締めによるインフレ抑制策が、「功を奏さない」可能性があることを示唆している。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。

リセッション入りが意識される中では想定価格のレンジも下方修正されやすいため、適宜、価格レンジは見直す予定。

バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は昨日の反動で一旦下落すると見るが、増産期待が後退したこと、米国の過度な利上げペースの加速への懸念が後退していることから、上昇余地を探る展開に。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小動きだった。本日21日からロシアがノルドストリームを再稼働するかどうか、再稼働したとしてもどの程度の稼働状況になるかを見極めたいとして取引が手控えられたためと考えられる。

外貨が欲しいロシアが稼働を再開する可能性は高まっているが、ロシアの税収に占めるガス収入よりも原油関連収入の方が大きいため、ある意味「稼働をしばらく止めても比較感でロシアに対する打撃が少ない」とプーチン大統領が判断している可能性が高い。

結局は絶対的にガスが必要な冬場を前に「厳しい状況に欧州を含む西側諸国を追い詰め、ロシアに対して有利な終戦条件を引き出すこと」がプーチンの目的と考えられる。

つまり、エネルギー面の交渉カードはまだロシアが有している、ということである。と考えると、やはり今回のメンテナンス終了後にフル稼働、というのはなかなか考え難い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。※諸般の都合で本日アップデートしております。

欧州全体のガス在庫は7月18日時点で64.7%(前日64.4%)と増加。LNGの輸入が季節性を無視して高水準であることや、ノルウェーの輸出増加、域内景気の減速が在庫増加に寄与していると考えられる。

しかし問題は「フロー」の供給であり、本番は今年の11月以降だ。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。

また、5.に関して欧州で記録的な熱波が報告されており、さらに厳しい状況に陥っている。ただ、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。

このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。※諸般の都合で本日アップデートしております。

米国天然ガス先物は大幅に上昇した。気温上昇予報はあるが、それ以上に短期的な上値として意識されていた50日移動平均線を上抜けしたことで、テクニカルな買い圧力が強まったことが背景。

米国はFreeportの輸出停止により国内需給緩和の期待があるものの、米ガス在庫の水準は依然として低く、価格には需給面からまだ上昇圧力が掛かりやすい地合。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は全体的に大幅に上昇。夏場を控えた在庫積み圧力が強まっていると考えられる。ただ、中国の景気回復が遅れておりそれに伴う需要減少の影響で、TTFほどの価格上昇に繋がっていない。

とはいえ、今後も構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。

サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍にはね上がり、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月170日時点の日本の発電用LNG在庫は194万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と先週から変わらず。過去5年平均を下回っており、在庫状況はタイトな状態。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

本日も、需給がタイトな状態に変わりはないため、ロシアの供給再開もフル稼働の期待が低下していることから、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇して再び400ドルを上回った。限月交代の度に水準を切下げるが、足下の需給がタイトなせいか、すぐに窓を埋めて上昇する傾向が強い。

引き続き、需給ファンダメンタルズに大きな変化がなく、高カロリー炭の物色が続いているためとみられる。

低カロリー炭と高カロリー炭価格の比較は、データが取得できるインドネシア炭で比較すると、足下、低カロリー炭の価格は下落し、高カロリー炭価格は上昇している。

ロシア炭の供給減少や、景気の減速や発電容量の問題から高カロリー炭を志向する動きが強まっているためと考えられる。

今のところ中国は海上輸送石炭市場の需給に大きな影響を及ぼしていない。しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。

6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。

6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

また、意図的にロシアが石炭の輸出を停止することも充分にありえる。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強い。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、中国の経済対策前倒し実施観測、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。ベンチマークである銅価格上昇の必要条件である中国政府による景気テコ入れ策への期待が高まっていることが、安値拾いの買いを促していること、株価の上昇が価格を押し上げたが、イタリアの政局不安を材料にドル高が進行したため、引けに掛けて上げ幅を削る展開となった。

現在、中国は不動産市況の悪化や、民間を通じて行われている新興国への貸し込みの焦げ付き(スリランカなど)により、中国の財政状況も厳しさを増している状況。

恐らく中国政府は遮二無二経済活動を活性化させようとすると予想されるため、年末に向けての上昇見通しは堅持しているが、徐々に財政による景気下支え余力が低下していることもまた事実。

足下の非鉄金属価格は株やセンチメントの悪化による投機の手仕舞いなどで下落しているが、LME指定倉庫在庫の減少は継続しており、全てを合計した在庫水準は中国でバブルが起きていたリーマン・ショック前の水準を下回っている。

ベンチマークである銅に関しては過去最低水準、という訳ではないが、2000年以降で見た場合、在庫水準はまだ充分に低い状態だ。

そして、足下の現物需要を見る上で参考になるオフワラント率も実は上昇傾向にあり、まだ現物需要が堅調であることを示唆している。2023年に掛けて価格が下落する可能性は高いが、やや足下の反応は行き過ぎの感は否めない。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策の実施をなりふり構っていないことから、そろそろ買い戻しが優勢になると考えられる。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、1.が顕在化する可能性が出てきた。

2.は今後発表される企業決算動向に左右されるためまだ様子見、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは下向き圧力。

よって、しばらくは1>2+3という展開が基本となる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠する。

本日は、株価の上昇が継続して投資余力が改善していることが、投機の買い戻しを誘発するが、欧州危機懸念でドル高が進行しているため、この影響を相殺、結局現状水準でのもみ合いになると考えている。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月・中心限月共に下落した。

中国の経済活動の回復に遅れが出ており、公共投資などのテコ入れは恐らく8月以降と見られること、季節的に建設セクターは7月の動きが緩慢であることから鉄鋼製品先物価格が下落、鉄鋼原料価格もこれに連れる形となった、

なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は120ドル、原料炭価格は202.0ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。

この推測値から著しく乖離していた豪州原料炭価格の上振れは50ドルまで低下してきており、徐々に正常化しつつある。

本日は中国の経済対策期待と在庫が低水準であることから、在庫積み増しの動きが予想され、小幅に水準を切り上げる展開か。

◆貴金属

昨日の金価格は実質金利の上昇とドル高進行を受けて比較的大きな下げとなった。

金の基準価格は前日比▲7ドルの1,119ドルとなったが、リスク・プレミアムは▲9ドルの577ドル。

弊社は現在、金融政策動向に伴う実質金利の変化がそれほど大きくなくなって来たことを受けて、よりリスク・プレミアムについて注目している。相場上昇局面の最終局面ではリスク・プレミアムが大きく拡大するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小するため。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと350ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,350ドル程度までの下落が有り得ることになる。

銀は金価格と同様の展開で小幅上昇。銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性がある。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジはもう少し上に切り上がっているとみている。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲350ドル弱の下げ余地がある。これだけでも銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても15ドル程度まで、ということだろう。

プラチナは供給過剰でセンチメントに流されやすいが、金価格の下落の影響が大きく、昨日は大幅な下落に。パラジウムは株の上昇もあって比較的下落率は制限された。

本日はECBの政策会合に注目が集まる。今のところ25bpの利上げが予定されており、市場が織り込んでいる現状を追認する形となるため、恐らく貴金属価格への影響は中立で、基本、現状水準でのもみ合いを予想。

ただし50bpの利上げがあった場合、金利面でユーロ高(ドル安)となる可能性があり、この場合は貴金属価格を押し上げへ。

また、イタリアで政局不安が発生しており、これに伴う安全資産需要の高まりも、リスク・プレミアムの上昇を通じて金価格・貴金属セクター価格を下支えの公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が下落、小麦が上昇した。トウモロコシ・大豆はドル高進行を材料に原油価格が下落したことが背景。

小麦は調整が続いていたが、供給面の問題が解消したわけではないことから割安感からの買いで上昇した。

基本、需給ファンダメンタルズはタイトな状態が続いているが、ロシアの供給問題以上にQTなどによる流動性低下の影響は小さくなく、これまで相場を牽引してきた投機筋の手仕舞い圧力が需給要因を上回っている状況、といえる。

シカゴ穀物はファンドの手仕舞いと需給ファンダメンタルズのタイトさの綱引きとなり、本日ももみ合い推移すると予想する。

今後は、ラニーニャ現象発生の中で頻発する異常気象の影響を受けた、生産地の作況を睨みながら一進一退の展開が予想される。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「2022年貴金属価格見通し~金」

2022年の貴金属価格は、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻ヘの懸念が高まる中、2月~3月に掛けて急騰した。

ロシアの軍事進行に対する制裁を強化、エネルギーの輸出が制限されることに伴う原油価格の上昇、それに伴うインフレ率の上昇、また、ロシアの供給シェアが大きいパラジウムなどの供給途絶懸念が高まったことが背景。

しかし、実際にはロシアに対する制裁は対象分野が限定されたこと、かねてから欧米のインフレが大きな問題となっており、欧米中央銀行が金融引締めに舵をきり、長期金利の上昇と期待インフレ率の低下圧力といった金価格の下落要素が大きくなったことが価格を下押しした。

しかし同時に金融引締めの強化が新興国経済にマイナスに作用し、財政破綻などのリスクが意識されていることがリスク・プレミアムを高止まりさせ、価格を下支えしている。

金価格は世界的なインフレを背景に、各国中央銀行が金融引締めを強める姿勢を示したことで長期金利が急上昇、実質金利もプラスに転じて金価格には下押し圧力が掛かりやすい環境になっているが、高値での推移となっている。

今後、米国の金融引締め強化に伴う、1.長期金利上昇、2.インフレ抑制策、の影響でさらに実質金利に上昇圧力が掛かる見通しであり、金価格はFRBの政策に大きな変更がなければ緩やかに水準を切下げる見通し。

しかし、過去の利上げ、QT局面の金価格を見ると実質金利が上昇しているが、リスク・プレミアムを押し上げつつ高値を維持している。これは金融引締めが新興国経済にマイナスに作用し、新興国経済に悪影響を及ぼす、との見方から安全資産需要が増加したためと考えられる。

今回のQTは前回のQTの2倍のペースで行われる見通しであり、さらにコロナショックやそれに伴う物流障害が物価を押し上げ、財政状況も悪化している新興国も多いことから前回と同様、信用リスクが意識されているためリスク・プレミアムが上昇している状況。

今年は食料インフレリスクが顕在化しており、それに伴う地政学的リスクの高まりも金価格を下支すると予想される。

無事、QTを乗り越えることが出来ればリスク・プレミアムが剥落する形で▲300ドル程度の下落はあるが、過去の例を見るにQT中に「イベントリスクの顕在化がなければ」「終了後」に下落に転じる見込み。

以上から、2022年の金価格は1,848ドル/オンスと4月見通しから▲41ドル引き下げた。

2023年は金融引締めペースの鈍化が価格を押し上げるものの、リスク・プレミアムが修正され1,788ドル(+100ドル)と高止まりの公算。

上記見通しのリスクは、上昇リスクがFRBがオーバーキル回避で金融引締めペースを緩める、資源インフレで期待インフレ率が上昇する、米金融引締め中に新興国のデフォルトリスクが高まる場合など。

下落リスクは景気の過熱ペースが想定を上回り、長期金利が想定以上のペースで上昇した場合。


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