株高でリスク選好回復上昇~工業金属は中国要因で低迷
- MRA商品市場レポート
2022年7月20日 第2242号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「株高でリスク選好回復上昇~工業金属は中国要因で低迷」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は前日に続いて堅調な推移となった。米企業決算を見極めたいとの動きが強まるが、市場が想定していた以上のペースでの利上げはない、との見方が強まっていることが株の買い安心感を広げ、リスク選好が回復したため。
結果、景気循環系商品には上昇圧力が掛ったが非鉄金属は上昇せず、むしろ下落している。これは中国の経済活動再開がかなり遅れていることを示唆している。「ドクター・カッパー」と言われているが銅は世界経済よりも中国の工業金属需要を映す鏡である。
仮に中国政府が住宅市場沈静化後のハードランディング回避に失敗した場合、鉱物資源価格がさらに下落する可能性はある。ただ、経済対策実施で年内は堅調で来年以降に下落、というのがメインシナリオだろう。
恐らく2022年はそこまで心配しなくても良いが2023年に発生する可能性がある「中国版財政の崖」リスクは小さくないといえるだろう。
【本日の見通し】
本日は市場参加者のリスク選好が回復しているため、総じて堅調な推移になると考える。ただし企業決算を受けた株価動向に依拠するため、大幅な上昇にはならないだろう。
工業金属セクターだけは中国の動向に左右されるため、中国政府による特に住宅セクター関連の規制緩和やテコ入れ策があるかどうかに注目が集まる。
その意味で、恐らく据え置きだろうが1年・5年の貸出最優遇金利の水準には注目したいところ。
予定されている経済統計では、米国の住宅市場の先行指標である中古住宅販売に注目している。
6月米中古住宅販売 市場予想 前月比▲1.1%の535万戸(前月▲3.4%の541万戸)
【昨日のトピックス】
昨日発表された米国の住宅着工・住宅着工許可件数は、住宅着工件数が前月比▲2.0%の155.9万戸(市場予想+2.0%の158万戸、前月▲11.9%の159.1万戸)と減速している。米国の利上げやQTの影響で長期金利が上昇していたことが影響したと考えられる。
先行指標である住宅着工許可件数は、▲0.6%の168.5万戸(市場予想 ▲2.7%の165万戸、前月▲7.0%の169.5万戸)と市場予想・前月を上回った。これは長期金利の上昇が一服し、むしろ低下を始めていることなどが影響したと考えられる。
このように市場予想に反してやや強めの統計が出始めているところは注目で、危機的な状況は「取りあえず」脱した可能性がある。
というのも、米サプライズ指数を見て見ると5月頃から急速に悪化(市場予想以上に実態が悪くなる)していたが、6月に底入れしている、ということは「アナリスト予想ほどハード指標が悪化していない」ことを意味する。
アナリストは過去データを元に分析するため、このように予想と乖離が起きるということは前提条件が変わりつつあることを示している。
サプライズ指数はまだマイナスであるため良いとはいえないが、目先、これまでの様な危機的な状況は少なくとも米国に関しては回避できているのではないか。
また、2023年の景気はそもそも循環的に減速する可能性が高いため、それを前提に、来年に向けた備えをもう始める時期に来ているといえる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は続伸した。株高に伴うリスクテイクでドル安が進行したことが材料となった。
現状、200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での推移が続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は89.95ドル(前日比+4.53ドル)。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。
リセッション入りが意識される中では想定価格のレンジも下方修正されやすいため、適宜、価格レンジは見直す予定。
バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。
即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。
仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。
となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。
教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は昨日の反動で一旦下落すると見るが、増産期待が後退したこと、米国の過度な利上げペースの加速への懸念が後退していることから、上昇余地を探る展開に。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小幅に続落した。一部関係者のコメントとして、ノルドストリームがメンテナンス終了後、低稼働率でガス供給を再開すると報じられたことが材料となった。
ロシアはこれまでの制裁の進捗状況を見極め、「この程度であれば(ロシアが)大丈夫」というギリギリのラインで交渉を続けている。やせ我慢もあろうが、今のところプーチン政権が転覆するほどの被害になっていない、というのが現状だろう。
つまり、エネルギー面の交渉カードはまだロシアが有している、ということである。と考えると、やはり今回のメンテナンス終了後に再稼働をしない、という選択肢はあると考えるべきである。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州全体のガス在庫は7月17日時点で64.4%(前日64.0%)と増加。LNGの輸入が季節性を無視して高水準であることや、ノルウェーの輸出増加、域内景気の減速が在庫増加に寄与していると考えられる。
しかし問題は「フロー」の供給であり、本番は今年の11月以降だ。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。
また、5.に関して欧州で記録的な熱波が報告されており、さらに厳しい状況に陥っている。ただ、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加する、ということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。
このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は小幅に下落した。気温上昇を見込んだ買いで2営業日上昇していたが、その反動で売られた形。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は全体的に小幅に上昇。夏場を控えた在庫積み圧力が強まっていると考えられる。ただ、中国の景気回復が遅れておりそれに伴う需要減少の影響で、TTFほどの価格上昇に繋がっていない。
とはいえ、今後も構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。
サハリン2に関しては、日本政府が出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。
仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍にはね上がり、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。
ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月10日時点の日本の発電用LNG在庫は194万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回っている。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを下回っている。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。
本日も、需給がタイトな状態に変わりはないため、ロシアの供給再開は当面ないことから、上昇すると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは上昇して再び400ドルに迫った。基本的に需給ファンダメンタルズに大きな変化がなく、高カロリー炭の物色が続いているためとみられる。
中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
6月の中国の石炭生産は、前年比+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日(前月+12.7%の3億6,783万トン、1,187万トン/日)と、生産は急増し、政府目標を上回っている。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速しているが、これは国内生産が「輸入が必要ないレベル」に回復していることと、ロックダウンの影響による経済活動の鈍化が影響していると考えられる。
6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給が不充分になる可能性はあり、その場合、海上輸送炭市場がタイト化するリスクはありえる。
日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。
また、意図的にロシアが石炭の輸出を停止することも充分にありえる。
米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強い。
本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、中国の経済対策前倒し実施観測、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。
なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。前日の価格上昇の反動で下落があると見ていたが、その後の買い戻しはなかった。やはり中国の経済活動の回復が遅れていることによるものと考えられる。
恐らく中国政府は遮二無二経済活動を活性化させようとすると予想されるため、年末に向けての上昇見通しは堅持しているが、まだ一連の措置による需要増加が顕在化していないと考えられる。
恐らく、ロックダウンが行われ、その後の解除でペントアップ需要が期待されると予想されるが、これまでの中国政府の対応を見ると早ければ季節的にも8月頃から顕在化するのではないか。
ValeのProduction Reportが公表されたが、概ねメンテナンスの影響が長びいたため前年比で大幅な生産減少となっている。
またメンテナンスの期間延長で銅の2022年のガイダンスは270-285千トン(従来330-355千トン)に大幅に引き下げられている。ニッケルのガイダンスは据え置き。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策の実施をなりふり構っていないことから、そろそろ買い戻しが優勢になると考えられる。
これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、1.が顕在化する可能性が出てきた。
2.は今後発表される企業決算動向に左右されるためまだ様子見、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは下向き圧力。
よって、しばらくは1.>2+3という展開が基本となる。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、価格のリスクは下向きである。
長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。
恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになるだろう。
本日は、株価が上昇していること、ドル安が進行していることから、昨日の下げを受けて再び買いが入る展開を予想している。ただし持続的な上昇のためには中国の需要顕在化が必要条件であるため、買い戻し圧力は緩慢になると考えられる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月・中心限月共に上昇した。
鉄鉱石価格は、中国の経済活動の回復が遅れる中、BHP Billitonが世界経済の成長が減速していること、鉄鉱石の生産が2022年中に前年比+3%程度増加する可能性があることを指摘したことで、急速に需給緩和観測が強まったため。
しかし、ValeのProduction Reportが公表されたが、鉄鉱石のガイダンス310-320百万トン(従来320-335百万トン)に引下げられた。Midwestem System(~350万トン)の売却や、生産の柔軟性確保のため。
なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は121ドル、原料炭価格は202.0ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。
ただし、この推測値から著しく乖離していた豪州原料炭価格の上振れは50ドルまで低下してきており、徐々に正常化しつつある。
本日は中国の経済対策期待と在庫が低水準であることから、在庫積み増しの動きが予想され、水準を切り上げる展開か。
◆貴金属
昨日の金価格は小幅高となった。実質金利が上昇して金の基準価格が前日比▲5ドルの1,126ドルとなったが、ドル安の進行で、リスク・プレミアムが+8ドルの586ドルとなったことによるもの。
弊社は現在、金融政策動向に伴う実質金利の変化がそれほど大きくなくなって来たことを受けて、よりリスク・プレミアムについて注目している。相場上昇局面の最終局面ではリスク・プレミアムが大きく拡大するが、その後沈静化する局面ではリスク・プレミアムが縮小するため。
仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば230ドル程度が現在の平均であるため、あと350ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,350ドル程度までの下落が有り得ることになる。
銀は金価格と同様の展開で小幅上昇。銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性がある。
しかし、
1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジはもう少し上に切り上がっているとみている。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲350ドル弱の下げ余地がある。これだけでも銀価格を▲3.8ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても15ドル程度まで、ということだろう。
PGMは供給過剰でセンチメントに流されやすいプラチナは、金価格の上昇と株価の上昇で大幅な上昇となった。
本日は過度な米金融引締めヘの懸念後退と株価上昇で、金銀はもみ合い、PGMは株価次第であるが上昇すると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。トウモロコシは前日の反動で下落。
作柄の改善期待が材料、とされているがどちらかと言えばテクニカルなサポートラインだった200日移動平均線を下抜けしてしまったことからテクニカルな売り圧力は強く、一方で需給見通しはタイトであることが価格を下支えた。
大豆は降雨予想などが材料になった、とのことであるが、これもこれまで価格を押し上げてきたファンド筋の手仕舞いが続いているためと考えられる。
小麦は小幅安。ロシア問題継続とドル安が支えに。
本日も需給ファンダメンタルズのタイトさから買いが入ると考える。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について