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原油上昇・ドル安で買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2022年7月19日 第2241号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「原油上昇・ドル安で買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は総じて堅調な推移となった。米国の利上げペースが今以上加速しないのではとの期待からドル安が進行したことや、7月に入ってから恐らく投機筋とみられる売りが加速していたが、これが一巡したことによる買い戻しが入ったためと考えられる。

またこれまで「インフレトレード」の指標となっていた米10年期待インフレ率の低下が一服、若干反発の兆しを見せていることも短期的なインフレトレードの復活を後押ししたと考えられる。

昨日の価格上昇の一因である原油価格の高騰は、やはりバイデン・ムハンマド会談で有効な供給増加策の合意を見なかったことが背景にある。

サウジアラビアにとっては「OPECプラス>欧米」という構図は変わらず、ここで不用意な発言はできなかった、ということだろう。

ただし仮に増産が行われても逆に増産余力が減少するため、過去の上昇局面と同様、結局、景気が後退して需要が減少するまでは価格は大きく下がらないのではないだろうか。

【本日の見通し】

本日は昨日の上げが大きかった商品も多く、まずは売りから入ると予想される。しかし、インフレトレードが短期的に回復する可能性があるため、買い戻しで結局前日比プラスとなる商品が多いのではないか。

本日の注目材料はやはりFOMC動向となるため、FRBブレイナード副議長の講演に注目している。

また、ロシア大統領がイランとトルコを訪問する予定。市場を大きく動かす材料にはならないと考えるが、コウモリのように立ち回っているトルコの対応には注目している。

あとは今後の見通しを占う上で重要な企業決算の発表も複数予定されているため、こちらも注目したい。

【昨日のトピックス】

先週金曜日に発表された中国の重要統計だが、「やや」回復の兆しが感じられる内容だった。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースで+3.9%(前月+0.7%)と伸びが加速、1-6月累計でも前年比+3.4%(1-5月期+3.4%)と伸びが小幅であるが加速した。ロックダウンの解除と、GDP成長目標である5.5%達成に向けて公共投資が加速しているとみられる。

固定資産投資は前年比+6.1%(1-5月期+6.2%)と減速してるが、内訳を見ると公的セクターが+9.2%(+8.5%)、民間セクターが+3.5%(+4.1%)となっており、「コロナや不動産セクター加熱沈静化策の影響などで、民間が投資に二の足を踏む中で、政府がアクセルを踏み込んでいること」が鮮明になっている。

実際、住宅販売は1-6月累計で前年比▲31.8%の4兆2,317億元(1-5月期▲34.5%の3兆3,248億元)と低迷が続いており、不動産開発投資も前年比▲5.4%の6兆8,314億元(1-5月期▲4.0%の5兆2,134億元)と「政府のテコ入れ」がなければ回復は難しい状況にある。

現在、中国のGDPに占める個人消費の比率も高まっているが、個人消費の指標である小売売上高は年初来累計で前年比▲0.7%の21兆432億元(1-5月期▲1.5%の17兆1,689億元)と回復はしたがまだ前年水準を回復していない。

ただ、単月では前年比+3.1%の3兆3,842億元(▲6.7%の3兆3,547億元)とプラス圏に復帰しており、徐々にロックダウン明けのペントアップ需要が顕在化しているようだ。

総じてまだ中国が置かれている状況が厳しいことを示唆する内容だったが、公的セクターのテコ入れにより、これまでほどの過度な悲観が若干和らいだ印象を受ける。

今夏に3期目の続投を北戴河会議で長老に確認する習近平国家主席がこのままの景気減速を容認出来るとは考え難く、経済通の李克強首相も「国難」として習近平主席を支える意向であり、景気刺激策がハードランディングを回避するとの期待はある。

しかし、党大会終了まではゼロコロナ政策=ロックダウン継続、が見込まれるため先行きの見通しのリスクは下向きと言わざるを得ない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は大幅に上昇した。先週末のバイデン大統領のサウジアラビア訪問でも増産の確約が得られなかったことで、需給バランスの緩和期待が後退したため。

サウジアラビアはOPECプラスのみならず、軍事面でも支援を得ているロシアに対して配慮しており、このタイミングでOPECプラスの枠組みを優先しない理由がない。

また、これまでの米民主党の対応を面白く思っていないムハンマド皇太子からすれば、大統領が来たからといってそう易々と言うことは聞かない、というポーズの可能性はある。

ただ、恐らくメインシナリオは次回のOPECプラスで、9月以降の増産を決定する可能性はあると見ている。

現状、200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での推移が続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は89.95ドル(前日比+4.53ドル)。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。

リセッション入りが意識される中では想定価格のレンジも下方修正されやすいため、適宜、価格レンジは見直す予定。

バイデン大統領の中東訪問を受けて、場合によると3.に移行するかもしれないが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていることから、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は昨日の反動で一旦下落すると見るが、増産期待が後退したこと、米国の過度な利上げペースの加速への懸念が後退していることから、上昇余地を探る展開に。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は小幅に下落した。ノルドストリームの稼働・再稼働を巡る思惑が交錯する中、カナダからのガスタービン輸送報道が若干価格を押し下げた形。

Gazpromがフォースマジュールを宣言、ただし過去1ヵ月の供給減少に関するものであり、カナダからガスタービンがドイツ向けに輸送されたことなどを踏まえ、今週終了予定のメンテナンス後にノルドストリームの稼働が再開するとの期待が価格を押し下げた。

しかし、今回のフォースマジュールもメンテナンス期限後に再稼働をしないための布石、と見る向きも多く大きく反応した感じではなかった。

EUがアゼルバイジャンから天然ガス輸入を増加させることで合意したと伝えられた。昨年の81億立方メートルから今年は120億立方メートルに増加、2027年までには少なくとも200億立方メートルまで増加させる計画。

BPデータを元にすると2020年、アゼルバイジャンの欧州向けパイプラインガス輸出は134億立方メートルと上記の数値と齟齬があるが、仮に報道通りであれば2027年までに119億立方メートル増加する。

しかし、ロシアからパイプライン経由で購入している天然ガスは1,677億立方メートルであり、この契約だけでは充分ではない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月16日時点で64.0%(前日63.6%)と増加。LNGの輸入が季節性を無視して高水準であることや、ノルウェーの輸出増加、域内景気の減速が在庫増加に寄与していると考えられる。

しかし問題は「フロー」の供給であり、本番は今年の11月以降だ。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。

このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は大幅に上昇した。米全土の気温が大幅に上昇する見通しであること、そもそも米国の天然ガス在庫の水準も低いことから需給逼迫観測が強まったことが背景。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期先が上昇し、冬場のピーク価格は40ドルを上回った状態が続いている。

今後も構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。

サハリン2の影響はなんともいえない。日本政府は出資継続を三菱商事・三井物産に打診しているようだが、今後どうなるかは分からない。

仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍にはね上がり、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。

ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月10日時点の日本の発電用LNG在庫は194万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回っている。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを下回っている。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の扱いがよく分からないことから、冬場のリスクは高い状況が続く。

本日も、需給がタイトな状態に変わりはないため、ロシアの供給再開は当面ないことから、上昇すると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは期近は下落して400ドルを割り込んだ。

短期的な買われず過ぎ・売られすぎを示すRSIが高い水準を示していたこと、6月の石炭輸入が減速しており、国内向けの需要が低迷していることが、海上輸送炭市場需給を緩和したことが背景。

しかし、中国政府の経済対策強化方針も考えると、国内炭だけでは充分ではなく今後海上輸送炭需要が増加する可能性は低くない(特に冬場)。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速している。

また、6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速している。

6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。

ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること(厳冬の懸念も)3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は低くない。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、中国の経済対策前倒し実施観測、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。中国政府が不動産市場で一部優遇措置を検討していると伝えられたことや、ドル安の進行が価格を押し上げることとなった。

今後は中国政府の景気テコ入れを目的とした経済対策の効果がいつ、どの程度顕在化するかが相場の方向性を決定する上での最重要ポイントになるが、コロナ相手の予想であり全く先行きは不透明。

恐らく、ロックダウンが行われ、その後の解除でペントアップ需要が期待されると予想されるが、これまでの中国政府の対応を見ると早ければ季節的にも8月頃から顕在化するのではないか。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には中国がGDP成長目標達成のために経済対策の実施をなりふり構っていないことから、そろそろ買い戻しが優勢になると考えられる。

これまで下げを主導してきた投機筋(ファンド筋)が短期的に買い戻しを入れる可能性も低くない。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、1.が顕在化する可能性が出てきた。

2.は今後発表される企業決算動向に左右されるためまだ様子見、3.は米FRBのインフレ抑制方針に大きな変更はないため、こちらは下向き圧力。

よって、しばらくは1.>2+3という展開が基本となる。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになるだろう。

本日は、昨日の上げを受けて一旦売りが入ると考えられるが、中国政府の対策期待やドル安が進行していることもあって、堅調な推移を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は直近限月が下落、中心限月を含む期先は上昇した。

中国政府が景気刺激のために住宅市場での規制緩和(金融面での優遇措置)を検討していると伝えられたことや、在庫水準の低さから在庫積増しの動きが強まったと見られる。

なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は121.3ドル、原料炭価格は202.0ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。

ただし、この推測値から著しく乖離していた豪州原料炭価格の上振れは50ドルまで低下してきており、徐々に正常化しつつある。

本日は中国の経済対策期待と在庫が低水準であることから、在庫積み増しの動きが予想され、水準を切り上げる展開か。

◆貴金属

昨日の金価格は小幅高となった。実質金利が低下したことが金の基準価格を押し下げたが、ドル安が進行したため、リスク・プレミアムが上昇してこれを相殺したため。

金の基準価格は前日比▲21ドルの1,131ドル、リスク・プレミアムは+22ドルの578ドル。

銀は金価格と同様の展開だったが結局前日比小幅安で引けた。銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性がある。

しかし、

1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジはもう少し上に切り上がっているとみている。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲400ドル弱の下げ余地がある。これだけでも銀価格を4.5ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても14.50程度まで、ということだろう。

PGMは供給過剰でセンチメントに流されやすいプラチナは昨日は上昇、パラジウムはノルドストリームの稼働再開見送り懸念からの連想え、ロシアの供給制限への懸念が意識されたとみられ上昇した。

本日は過度な米金融引締めヘの懸念後退で金価格は堅調、それを受けて銀、PGMも堅調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。原油価格の急騰や、米国の気温上昇でミシシッピ地区での作物が打撃を受けたこと、などが材料となった。これまで利益確定で売られてきた小麦はドル安進行もあり買い戻しが入った。

なお、限月交代で全ての穀物の価格が200日移動平均線を下回っており、この秋の収穫が厳しいものにならない限り、しばらくはレンジが切り下がった状態で推移することが予想される。

本日も需給ファンダメンタルズのタイトさから買いが入ると考える。トウモロコシと大豆の作況が例年よりも非常に悪いことが材料に。

なお、春小麦の作況は例年よりも良いが、基本的に需給ファンダメンタルズがタイトであることに変わりはないため、現状水準でのもみ合いか。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「銅価格は上昇後下落へ」

2022年の銅需給は13万1,000トン(前年▲56万6,000千トン)の供給過剰となる見込み。

中国のロックダウンの影響が長期化する可能性があるほか、米国の金融引締め加速の影響で需要の伸びが鈍化(前年比+3万トンの2,529万4,000トン)、一方で鉱山生産は回復し、精錬銅供給が前年比+60万トンの2,542万5,000トンとなる見通しであることが供給過剰の背景。

2023年は+72万6,000トンの大幅な供給過剰を見込んでいる。精錬銅生産が回復(前年比+131万9,000トンの2,674万5,000トン)と増加する一方、米金融引締めや循環的な景気減速で需要の伸びが前年比+72万5,000トンと生産の回復を下回り総需要は2,601万9,000トンに止まる見通し。

基本的に銅価格には景気循環や米国の金融引締めの影響で下押し圧力が掛かりやすい。

しかし3期目を目指す習近平国家主席や、5.5%の経済成長見通しを打ち出している共産党としても、ここまでの累計で前年比+2.5%に止まっていることを勘案するとかなりの規模で経済対策を行う必要がある。共産党政府の威信に関わるからだ。

そのため、2023年の予算を前倒ししてインフラ投資に充てるなど、なりふり構っていない。また、ロックダウンが解除されれば、ロックダウン期間中のペントアップ需要が顕在化するため、一時的に価格は上昇すると考えられる。

また、例年通りであるが最大の銅の用途である電線向け投資も、年末に掛けて電線向け投資は加速すると予想されることも銅価格を押し上げよう。

一方、過去3年のデータを元にした分析では、足下、銅価格に対して最も説明力が高いのが米S&P500(次いで米10年期待インフレ率、フィラデルフィア半導体株指数)であり、株価動向に銅価格は左右されやすい。

主要アナリストのS&P500の年末予想は中央値で4,600ポイント。昨年末の水準が4,766ポイントであるため回帰分析の結果を基にすると2022年末の銅価格は9,400ドルが目処となるが、ここまでの上昇はかなり厳しいと考えられる。

以上から、2022年の銅価格は、中国の景気刺激策の影響で夏場~秋に掛けて一旦強含むものの、循環的な景気減速や欧米の金融引締めの影響で年後半~来年半ばに掛けて再び調整すると予想。

結果、2022年の平均価格は9,273ドル(4月予想比▲796ドル)と見通しは前回から下方修正。

2023年についてはQ123~Q223は低迷するものの、脱炭素向けの投資は恐らく継続し、中国に加えてインドの近代化向け投資需要が顕在化することから、年央から長期的な上昇基調へ。

しかし、2023年度予算前倒しに伴う財政の崖発生などの影響から景気減速は不可避と考えられ平均価格は8,950ドル/トン(▲750ドル/トン)と前回見通しから大幅に引き下げた。2022年の動向によってはさらに下方修正の可能性も排除しない。

上記見通しのリスクは、上昇リスクが世界的な経済の混乱を回避する目的で米国の金融引締めのペースが鈍化、緩和する場合、ロシア問題などを背景にエネルギー供給に制限(ガス・石炭)が発生する場合、価格上昇や脱炭素の流れに乗って資源国で資源ナショナリズムの動きが加速する場合(南米・インドネシアなど)、脱ロシアの流れを受けて電化や再生可能エネルギーインフラ投資が加速した場合など。

下落リスクは、米国の金融引締めペースが早すぎて経済がオーバーキルになってしまう場合、米金融引締めの影響で需要の牽引役である新興国も金融引締めを余儀なくされ、新興国の需要減少・デフォルトが発生した場合、中国政府が引き続きゼロコロナ政策を継続し経済活動の強制停止が続く場合、中国の不動産セクターバブル抑制が行き過ぎてしまい、中国政府が取り組んでいる秩序あるデフォルトが達成できなかった場合など。


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