エネルギーセクター堅調 工業金属軟調
- MRA商品市場レポート
2022年7月14日 第2238号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「エネルギーセクター堅調 工業金属軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は液体燃料セクターと発電燃料セクター銘柄が上昇、生産にエネルギーを有する農畜産品価格も上昇、非鉄金属価格は下落した。
エネルギーは引き続き供給面が強く意識されている一方、OPECプラスの様なカルテルが存在しない非鉄金属は、最大消費国である中国の貿易統計が、同国の経済活動が、住宅セクター加熱沈静化策の影響が続く中で、ゼロコロナ政策の呪縛が経済活動を強制停止させていることが価格の下落要因となっている。
改めて整理すると、循環的な景気の減速局面であるにもかかわらず、供給面で高止まりしている商品が多いため、景気過熱を沈静化するための金融引締めが行われており、スケジュール通りなら来年の夏頃にむしろ金融緩和をせざるを得なくなる、という見通しが大勢を占めており、「2023年は2024年以降の回復に向けた準備の年」と整理出来る。
そもそも弊社も価格は2023年に向けて下落すると考えていたが、想定外といえば、米利上げが加速する見通しであることや、中国のゼロコロナ政策によるロックダウンが続く見通しであること、といった「リスクシナリオ」に位置づけていた材料が顕在化している点である。
そのため、原油は中間選挙後から下落、非鉄金属は11月の党大会に向けて上昇し、その後下落、と考えてたが、いずれも比較的早く水準を切下げてしまった。
上げの主導をインフレをテーマとしたファンド筋がその一翼を担っていたことは確かであり、ポジション調整が急速に進んでいることから、概ね後▲10%程度の調整余地はあると見るが、そのあたりが一旦目先の底値となり、その後は本当にインフレが沈静化出来ているか、経済状況はどうかを逐次点検しながらの相場展開が予想される。
【本日の見通し】
本日は米CPIの加速を受けた利上げ加速観測を背景に、多くの景気循環系商品に下押し圧力が掛る展開が予想される。
一方で、期待インフレ率が昨日のCPIを受けてむしろ上昇したため、インフレに連動しやすい工業金属・貴金属には一旦買い戻しが入るのではないだろうか。
本日の注目材料は、CPIの先行指標である米PPIの動向と、この状況を受けたFRBメンバーであるウォーラー理事の講演に注目したい。
なお、バイデン大統領はイスラエル首相と対談しているが、恐らく本番は今後である。
6月米PPI 前月比+0.8%(前月+0.8%)、前年比+10.7%(+10.8%)コアPPI 前月比+0.5%(+0.5%)、前年比+8.2%(+8.3%)コアPPI(除く貿易) 前月比+0.5%(+0.5%)、前年比+6.6%(+6.8%)
【昨日のトピックス】
6月の中国の貿易統計は輸出が前年比+17.9%(前月+16.9%)と加速、市場予想(+12.5%)も上回った。一方、国内の経済活動動向を判断する上で重要な輸入は+1.0%(市場予想+4.0%、前月+4.1%)と急減速。再びロックダウンの懸念が強まり、経済活動の再開が遅れたことが影響したためと考えられる。
6月1日にロックダウンが解除されたが、それでもゼロコロナ政策は継続しており、7月に入ってからは安徽省や江蘇省などでもロックダウンの懸念が強まり、さらにはオミクロン株の変異種が上海で見つかっていることから、再び上海がロックダウンとなる可能性が高く、7月の輸入も低迷するのではないか。
ここまで中国がゼロコロナにこだわるのは、1.ワクチン接種の義務化に国民が反対しており、ネットなどでもそのカキコミが多い(実際、北京でワクチン接種義務化を決定した後、直ちに撤回している)、2.ワクチンが効かない(これは認めていない)、3.ワクチン接種のために必要な資材の確保不充分、といったことが背景にあると考えられる。
最早中国の国民は「ゼロコロナ政策」になれてしまっており、その他の選択肢が排除されてしまっている。結果、買っていたペットを殺処分されるなどの蛮行も行われており、国民の不満がかなり高まっていることも事実だろう。
このままの政策が続けば(鎮圧はされるだろうが)暴動が中国国内で起きかねない。それは可能性は低いが、起きれば大きなリスクになると考えられる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は買い戻しで上昇、その後、米石油統計がベアな内容だったため下落したが、供給面がタイトな状況に変わりはないため結局前日比プラスで引けた。
それよりはロシアとの対立によってドイツ経済がかなり疲弊しており、ZEW景況感指数が大幅な悪化となる中で、ユーロが対ドルでパリティまで下落する流れになったことがより売り材料となった可能性が高い。
現状、200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での推移が続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は83.93ドル(前日比+0.37ドル)。
なお、IEA月報は需要見通しを大幅に下方修正しており、Call on OPECは下方修正、需給は基本的に緩和の見通しとなっている。
昨日発表された6月の中国の原油輸入は前年比▲10.7%の3,581万9,000トン(前月+11.9%の4,583万トン、いずれも季節調整を行わない単純な前年比)と急減速した。ロックダウンが解除された後も上海の活動が戻らなかったこともあり、需要が激減したため。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。
リセッション入りが意識される中では想定価格のレンジも下方修正されやすいため、適宜、価格レンジは見直す予定。
今週のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。
即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。
仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。
となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラック・スプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。
教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日は需要減速と供給制限継続を受けて結局高値でもみ合うと考える。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇した。ノルドストリームが稼働を停止する中、域内最大の供給国であるノルウェーからのネットガス輸出が、やや回復はしたもののまだ水準が低いことも価格を押し上げた。
昨日発表された中国の6月の天然ガス輸入は前年比▲14.6%の872万トン(前月▲12.1%の907万トン)と再び前年比で減速したが、過去5年平均は上回った。結局、ロックダウンの影響が継続していることに伴う、中国国内の経済活動鈍化が背景。
ロックダウンの影響で需要が減少していると考えられる。実際、中国国内の天然ガス生産は5月時点で+4.9%の1,770万トン(前月+5.0%の1,770万トン)と、伸びが鈍化しているが過去5年の最高水準だった前年を上回る。
※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
※週次(原則金曜日)の更新となります。明日が休刊で、週末もレポートがお休みのため本日更新しました。
欧州全体のガス在庫は7月11日時点で62.3%(前日62.1%)と増加。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、ノルウェーの生産も事故の影響で滞っている状況。
3.も欧州・日本で顕在化している状況で、この数週間では4.の可能性も高まっている。。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。
6月27日~7月3日の世界のLNGトレードだが、取引量は670万トン(前週778万トン)と減少した。スポット取引のシェアは20%(前週32%)と低下。
スポット契約は北欧向けが▲43万トンの大幅な減少。主にトルコの調達が減少したことによる。恐らくTurk Streamの再稼働が影響したと考えられる。南米の調達も▲25万トンと減少した。
一方、ターム契約分の調達は、JKCT向けは+24万トンの増加、北欧と東南アジア向けの輸出は▲29万トンの減少だった。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、スエズ以東は過去5年平均まで、スエズ以西は過去5年の最低水準まで低下している。
このことは欧州は、在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は大幅に上昇した。気温上昇観測や、原油生産の減少にも反映されるように、全米のガス生産が急減していることも材料視されている。
Freeportの事故で輸出減少→国内需給緩和期待が高まったが、在庫水準が低い中で生産が減少すればやはりこの限りではない、ということなのだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は期近は変わらず、期先は続伸し、冬場のピーク価格は46ドルを上回った。欧州ガス価格の上昇が背景。
今後も構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。
サハリン2の影響はなんともいえない。仮に日本が今まで通りの契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍にはね上がり、コスト増加は1兆円/年を超えることになる。
ただ、ロシアが今まで同じ条件では売らない、と言った訳でもなくロシアも受け入れ先が限られるLNGを日本・欧州以外に回す選択もそれほどないため実はそこまで深刻な状態にならないかもしれない(ただし相当希望的観測)。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月3日時点の日本の発電用LNG在庫は211万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回っている。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを下回っている。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。
本日も、需給がタイトな状態に変わりはないため、ロシアの供給再開は当面ないことから、上昇すると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは期近は上昇して430ドルを付けたが、期先は小幅に下落した。競合燃料のLNG・天然ガスのスポット価格が上昇していること、脱ロシア炭の流れから高カロリーの豪州炭が物色される流れが続いている。
また、中国政府の1兆5,000億元の経済値策の前倒し実行も、海外炭輸入圧力を強めていると考えられる。
基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の遅れヘの懸念が価格を押し上げている状況。
なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。
また、6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速している。
6月の内訳はまだ発表されていないが、5月の統計では。ロシアからの輸入が+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となっていた。
ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。
日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。
米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。
本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、中国の経済対策前倒し実施観測、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。
なお、景気の先行きへの懸念は強まっており恐らく2022年後半以降、いずれかのタイミングでリセッション入りすると予想されるため、先行きの見通しは比較的弱気。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。買い戻しでアジア時間は上昇する局面があったが、米CPIが市場予想を上回ったことで下げに転じた。しかし、逆に景気への懸念から長期金利が低下、期待インフレ率も制御できていないとして、インフレを材料にする買い戻しが若干入り、引けに掛けて下げ幅を削る展開となった。
6月の中国の貿易統計では、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+25.5%の53万7,698トン(前月+4.3%の46万5,495トン、4月▲4.0%の46万5,330トン、3月▲8.7%の50万4,009トン、2月+12.1%の45万9,461トン)と同じ月の過去5年の最高水準に迫った。
前年比での増加率もプラスが続いており、中国国内の景気刺激策に向けた在庫積増しの動きが起きていると考えられる。
一方、銅鉱石の輸入は前年比+23.3%の205万9,654トン(前月+12.8%の218万8,612トン)と回復し、過去5年の最高水準を上回っている。
鉱石需給の緩和によるTCの上昇、電力供給の安定、今後のインフラ投資期待で在庫の再積増し需要が顕在化していると考えられる。
5月の銅スクラップの輸入は前年比+13.5%の15万8,208トン(前月▲19.3%の13万5,331トン)と、こちらも回復している。やはり経済の再活動期待が高まってるためといえるだろう。
ただし、上海が再びロックダウンになる可能性があるほか、安徽省や江蘇省のロックダウンの可能性もあるため、7月の輸入は低迷する可能性は排除出来ない。
今後は中国政府の景気テコ入れを目的とした経済対策の効果がいつ、どの程度顕在化するかが相場の方向性を決定する上での最重要ポイントになるが、コロナ相手の予想であり全く先行きは不透明だ。
恐らく、ロックダウンが行われ、その後の解除でペントアップ需要が期待されると予想されるが、今のところこれが何月になるか最早明言は出来ない。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
短期的にはロックダウンの懸念や欧州景気の減速、米QTの進捗による期待インフレ率の低下を受けて下落しやすい。このコラムではここまでの下落で投機筋(ファンド筋)に買い余力が発生している、としていたが、逆に「ネットスクエア」の状態まで投機が短期的にポジションを解消する動きも否定出来ない。
その場合、LME非鉄金属価格は現在の水準から▲10%強、下落する可能性がある。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、全て顕在化していない。
1.は経済対策の前倒しが決まったが、同時にコロナの感染が拡大しているため先行きが不透明になってきた。3.は6月米CPIをみるに、米国の金融引締め策が充分でないと見做されており、今後、金融引締めが加速する中ではさらに低下する可能性があるだろう。
年後半は1.<2.3.という展開が基本となるが、恐らく公共投資やペントアップ需要の顕在化が遅れるため、年後半から年初にかけての下落がなく、こちらも横這い推移となる可能性を意識しておく必要がある。
本日は、昨日の下げを受けて一旦買い戻しが入るが、米金融引締め加速観測を背景とする景気の減速観測とインフレ率低下観測が価格を押し下げると考える。
株式市場が決算内容を受けて落着くまでは、短期的な価格下振れリスクは小さく無いとみている。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は直近限月・中心限月価格とも下落した。
中国上海でオミクロン株の変異種が発見されたことでロックダウンが再開される可能性が高まったこと、安徽省や中国2位の省である江蘇省でもロックダウンのリスクが高まっていることが、鉄鋼製品価格を押し下げているが、先々の景気刺激策への期待と在庫水準の低さから、鉄鋼原料には一定の買い需要があったと考えられる。
なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は123.6ドル、原料炭価格は207.7ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。
中国政府は景気刺激のため、地方債1兆5,000億元の前倒し発行を決定、インフラ投資に充てる計画であるが、ストック需要の増加であるためフロー需要の増加が見込まれないことがこれを相殺している。
この状態が続けば、中国の経済対策は「景気の減速を下支えする程度」の効果しかもたらさず、工業金属価格が現状水準程度に止まる可能性は排除出来ない。
6月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲36.7%の79万1,000トン(前月▲33.4%の80万6,440トン)と低迷が続き、2000年以降の最低水準となった。そもそも中国国内の粗鋼生産能力が高いため、鉄鋼製品輸入需要は限定されるが、やはりロックダウンの影響で工業活動停滞していることが背景にある。
5月の中国粗鋼生産は前年比▲5.1%の9,278万トン(前月▲6.1%の8,830万トン)と高い水準を回復している。ロックダウンの影響による鉄鋼製品不足で鉄鋼製品価格が高値を維持していることが生産増加に繋がったと考えられる。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。
6月の鉄鋼製品の輸出は前年比+17.0%の755万6,660トン(前月+47.2%の775万9,170トン)と急回復した。国内経済がロックダウンの影響で低迷し、内外価格差に着目した輸出が増加したためと考えられる。
6月の鉄鉱石の輸入は前年比▲0.5%の8,897万トン(前月+3.0%の9,250万トン)と小幅に減少したが、過去5年平均は維持した。ロックダウンの影響で鉄鉱石在庫の水準が低下したため、在庫積増し需要があるものの、ロックダウンの影響による工場稼働の低迷が需要を低迷させている。
6月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲33.1%の1,898万2,000トン(前月▲2.3%の2,055万トン)と急減速した。
中国の国内生産増加で輸入需要が減少していること、中国のロックダウン解除後も経済活動の戻りが緩慢であることが輸入需要を減じたと考えられる。
本日は中国のロックダウン懸念から鉄鋼製品価格の水準が急低下し、過去5年平均を割り込んでいることから、鉄鋼原料価格にも下押し圧力がかかる展開を想定。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。米CPIを受けて金融引締め観測がさらに加速、7月FOMCでは100bpの利上げの可能性を78%織り込む中で短期金利が上昇、長期金利が景気の減速観測の強まりで低下したことで、実質金利が低下したことが背景。
金の基準価格は前日比+19ドルの1,136ドル、リスク・プレミアムは▲10ドルの598ドルに低下している。
銀は金価格の上昇を受けて19ドル台を回復した。
ただ、銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性が出てきた。
しかし、
1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること
からレンジはもう少し上に切り上げっているとみている。
とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲400ドル程度下げ余地がある。これだけでも銀価格を4.5ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても14.50程度まで、ということだろう。
PGMは供給過剰でセンチメントに流されやすいプラチナは上昇。
パラジウムは価格に対する説明力が最も高いのが独PMIと独製造業受注となっているが(ディーゼル車主体なので余り実需の上では関係ないのだが)、欧州通貨が景気悪化を織り込んで下落していることが材料になっているようだ。
恐らく価格の相関性をみたプログラム売買などの影響が出ていると考えられる(この点についてはもう少し詳しく分析の予定)。
本日は米金融引締め加速に伴う景気減速観測が、逆に長期金利を押し下げるため、堅調推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは米石油統計でエタノール生産が減少、エタノール在庫も増加したものの、一昨日の大幅下落の反動で買い戻しが入った。
大豆も前営業日の暴落の反動で大幅に買い戻しが入ったが、中国の貿易統計で大豆輸入が大幅に減少したことで下落に転じ、結局前日比マイナス。
小麦も割安感からの買い戻しが入ったが、ウクライナの穀物輸出協議の行方を受けて結局小幅安に。
昨日発表された6月の中国の大豆輸入は前年比▲23.0%の825万トン(前月+0.6%の967万トン)と急減速し、過去5年平均を下回った。
中国の経済活動の鈍化や港湾在庫の水準が比較的高いこと(とはいえ過去5年平均を下回ってきた)から輸入が減少したとみられる。
本日も需給ファンダメンタルズのタイトさから買いが入ると考えるが、穀物価格に影響を及ぼすようになった原油・ガソリン価格が「やや」弱気に傾いていることから軟調推移を予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「脱ロシアによるインフレ高止まりの可能性~原油統計レビュー」
昨日発表された米石油統計は、予想比弱気な内容だった。
原油は増加していた原油生産が減少(▲0.1MBD)、輸入の減少(▲0.2MBD)、製油所の稼働率が前週比+0.4%の94.9%とこの時期にしては高い水準(過去5年の最高水準が96.7%)に上昇したものの、在庫は+3.3MBの大幅な増加となった。
これにより在庫日数も前週比+0.1日の25.1日と上昇したが、過去5年の平均(28.0日)を下回っており、在庫水準はまだ十分ではない。
またWTIの価格に大きな影響を与えるクッシング在庫は前週比+0.4MB(前週+0.1MB)と増加。PADD2の輸入は前週比▲0.1MBDと減少したが、稼働率が▲0.8%と低下したことが影響したようだ。
原油に関しては、ここまで価格が上昇しているにもかかわらず、シェールオイル企業の増産が顕在化していない点が気になるところ。
1.コロナの影響による働き方の変化によって労働者が確保出来ていない、
2.脱炭素の影響(そもそもボードメンバーに増産を反対している人がいる、ExxonMobilなど、増産して価格が下落するよりも、製品需要が堅調であればクラック・スプレッドが非常に大きく拡大しているため、収益的には増産のメリットを上回っていると判断されること
3.物流は回復しつつあるが必要な部材が手に入っていない、
4.化石燃料増産に根本的に反対である民主党政権に、「塩」を送る必要はないとの判断
といったことが背景にあると考えられる。
また、SPRの減少が顕著であるが、昨日も▲6.9MBの減少となっている。SPRの減少はリーマン・ショック以降続いているが、足下の石油製品価格を押し下げる目的で行われている戦略備蓄放出によって、在庫水準が低下した分を再度積増しを行うのか否か。
また、戦略備蓄放出期間が終了した後、今回の戦略備蓄の多くが欧州向けに輸出されているため、欧州が脱ロシアを進める中で十分な原油を確保出来るのか、といったことも問題となる。
ガソリンは製油所の稼働率が上昇したものの、得率の低下で生産は▲1.4MBDの8.9MBDと、過去5年の最低水準を下回った。輸入も減少(▲0.2MBD)したが出荷が急減速して▲8.7MBDと過去5年平均(9.4MBD)を大きく割り込んだため、原油在庫は+5.8MBの大幅な増加となった。
しかし、在庫の絶対水準は過去5年の最低水準を回復しておらず、日数ベースも輸出分も含めて23.3日(前週比+1.2日)と過去5年の平均を回復していない。
このため、ガソリンのクラック・スプレッドは、過去5年の最高水準を大きく上回る39.50ドルで推移している。
以前は60ドルまで拡大していたためかなり縮小したが、それでも充分高い。それでも増産が充分でない背景には、原油の充分な供給がないこと、生産キャパシティの問題が挙げられる。
ディスティレートは得率の低下で生産が減少(▲0.2MBD)したが、出荷が▲0.1MBDの減少となり、過去5年平均(3.9MBD)を下回ったことから、在庫は+2.7MBの増加となった。しかし、在庫の絶対水準は過去5年の最低水準を下回っている。
在庫の絶対水準の低さから在庫日数は22.2日(+0.6日)と低く、過去5年の最低水準(23.1日)を大きく下回っている。
灯油のクラックは57.67ドルと大幅に拡大した状態で、ロシア産原油の供給減少に伴う、中間留分供給不足が問題になっていることが浮き彫りとなっている。
以上から、結果、石油製品の国内出荷は過去5年平均を割り込んだ。一方で輸出を含む石油製品出荷は過去5年の最高水準を上回っている。
結局、国内は価格上昇によるレーショニングが顕在化しつつあるが、脱炭素や脱ロシアで原油・石油製品輸出が「構造的な需要増加」になっていると考えられる。
このことも米国の石油製品在庫の積増しを遅らせ、石油製品・原油価格を下支えしている状況。こうなると、原油価格下落のために金融引締めを行っても、原油価格が下がらず、総合インフレ指数が高止まりすることもあり得る。
つまり、欧州の景気も減速してエネルギー需要が減少することが、充分な増産がなく、かつ、脱ロシアを進める中での必要条件となっているといえる。
普通に考えて、欧州が忌避する石炭や原子力を用いず、経済活動に全く影響を与えずに脱ロシアを行うことは不可能である。
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