米景気減速と中国再ロックダウン懸念で軟調
- MRA商品市場レポート
2022年7月12日 第2236号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米景気減速と中国再ロックダウン懸念で軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は高安まちまちだったか一部を除いて総じて軟調だった。米天然ガスやその他農産品、非鉄金属の一角が上昇したが、その他は下落している。
材料としては米国の景気先行きを懸念した景気減速懸念に加え、中国上海でコロナのオミクロン株の変異種が発見されたことでロックダウン懸念が強まったことで、中国景気の減速懸念が強まったことが背景。
米国の景気先行き減速懸念は景気循環の中で起きていることなので違和感がないのだが、中国のゼロコロナ政策に基づくロックダウンは景気と連動しない話であるため、リスク要因としては小さくない。
これまで中国の大規模な経済対策が中国景気を押し上げ、年後半は回復すると予想していたが、コロナの発生によって景気が想定以上に下押しされる可能性が高まっており、リスクはかなり下向きである。
【本日の見通し】
本日も景気や米金融政策動向に注目が集まるが、売買材料になるような手がかり材料に乏しいため、今日は売られた商品には買い戻し、上昇した商品には売戻しが入り、結局高安まちまちになるとみている。
なお、本日からバイデン大統領が中東歴訪し、原油の増産を訴えるとみられるが、仮に増産があったとしても「信頼出来る」OPEC諸国の増産能力を減じることになるため、供給面での影響は中立、と見るのが適切だろうか。
【昨日のトピックス】
昨日発表された日本の工作機械受注は、市場予想がなかったが前月から前年比ベースでの伸びが大幅に減速し、足下の景況感の減速を示唆する内容となった。
基本的に工作機械受注は「企業設備投資の先行指標」とされる。過去データを元にした分析だと、1.景気の山の場合には景気に先行して設備投資の伸びが鈍化するが、2.景気の谷の場合は設備余剰を抱えていることが多いため、景気の回復に遅行しやすい、ことが分かっている。
これまではコロナからの立ち直りで明らかに景気は拡大していたが、恐らく景気は今後減速すると予想される。
ただこれは「●●ショックを引き金としたもの」ではなくある意味順当な景気の循環に因るものといえる。ただ、これにコロナやロシアの軍事侵攻によるサプライチェーンの混乱、それによって発生したインフレの早急な沈静化方針、という付加的要素が重なり、全体の動きを分かり難くしていることもまた事実である。
世界の景気は人口動態に依拠して大きなトレンドが決まるが、中期的な(5年程度)の景気は在庫の投資循環サイクルに連動することが多い。
工作機械受注は日本の統計であるが、日本の工作機械受注動向は世界景気に連動することもまた事実である。実際、リーマン・ショック以降の過去のピークを見てみると、2011年6月、2014年12月、2018年3月、2022年3月と、周期性は、3.5年、3.5年、4年と、「4年~5年」の在庫循環のルールに依拠していることが分かる。
この半分の期間が「景気減速局面」となるため、恐らく受注の伸びはこれから2年程度で底入れし、その後2年掛けて回復していく過程を経るのではないか。しかし、前年比ベースでのプラスはまだ続くと予想されるため、しばらくの間は緩やかな持ち直し、というのが見通しとなろう。
このとき「前月との比較と、前年比での比較、絶対水準、トレンドの方向性」はいずれも似たような指標であるが、前月ベースではマイナスだが、前年比ではプラス、というように内容が異なるため、指標の扱いと解釈は注意が必要である。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格はまちまち。目立った手がかり材料に乏しかったが、需給ファンダメンタルズのタイトさに変わりはないことに伴う買い戻しと、株下落などを背景としたリスク回避のドル高進行で、調整売りに押された形。
7月5日の急落で価格レンジが200日移動平均線~100日移動平均線のレンジに以降したが、週末発表のCFTCの統計では、この間、投機のショートの増加と、スプレッド取引(デルタリスクを取らず、イールドカーブの変化にベットする取引)の解消が確認されている。
投機のアウトライトの売りの規模は大きくなく、今回の下落は実需のヘッジ売りによるものとみていたが、どうも投機の売りがテクニカルな売りを巻き込んだと考える方が適切なようだ。
逆に言えば、投機のショートポジションはシェアは大きくはないが、この買い戻しがいずれかのタイミングで入ると予想され潜在的な価格上昇圧力となる。
今のところ200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での値動きが続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。
Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は91.69ドル(前日比+0.37ドル)。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態でかつ、リセッション入りが意識されている状態。リセッション入りが意識される中では想定価格のレンジも下方修正されやすいため、適宜価格レンジは見直す予定。
今週のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。
即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。
仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。
となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。
教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓) 想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日はバイデン大統領の中東歴訪を控えて、基本的には現状水準でもみ合うことになるだろう。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は下落した。カナダ政府が同国内で修繕しているノルドストリーム向けのタービンのドイツへの返送を認めたことで、メンテナンス終了後のノルドストリームの再稼働期待が高まったことが背景。
ロシア大統領府はタービンが返却されれば、欧州向けのガス輸送拡大に寄与するとの見方を示している。
なお、現在の稼働停止は昨年も行われた定期メンテナンスであるが、これが終った後に元の水準に戻る保証はない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州全体のガス在庫は7月9日時点で61.6%(前日61.2%)と増加。
域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。
仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。
ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。
6月27日~7月3日の世界のLNGトレードだが、取引量は670万トン(前週778万トン)と減少した。スポット取引のシェアは20%(前週32%)と低下。
スポット契約は北欧向けが▲43万トンの大幅な減少。主にトルコの調達が減少したことによる。恐らくTurk Streamの再稼働が影響したと考えられる。南米の調達も▲25万トンと減少した。
一方、ターム契約分の調達は、JKCT向けは+24万トンの増加、北欧と東南アジア向けの輸出は▲29万トンの減少だった。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下している。
このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物は大幅に上昇。米国全土で気温が上昇する見通しとなり、冷房用の需要が増加すると見られたことが材料となった。
そもそも貯蔵がし難い商品であるため在庫水準よりは、フロー需要が価格を決定しやすい。なお、米国の在庫水準は過去5年の最低水準であり、決して充分とはいえない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は下落。欧州ガス価格が下落したことを受けて水準を切下げた。
米国からのカーゴ減少とロシアのガス供給の作為的な削減、欧州の調達圧力の強まり、北半球の猛暑、から価格は上昇圧力が掛かりやすいが、ここに来て上海がロックダウンになる見通しが示されたことも、価格を押し下げたと考える。
しかし、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。
なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
7月3日時点の日本の発電用LNG在庫は211万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回っている。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを下回っている。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。
本日も、需給がタイトな状態に変わりはないため、ロシアの供給再開期待はあるものの買い戻しで上昇すると考える。米天然ガスは逆に利益確定で売り戻しが入るか。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップは上昇して420ドルに迫った。脱ロシア炭の流れから高カロリーの豪州炭が物色される流れが続いている。
また、中国政府の1兆5,000億元の経済値策の前倒し実行も、海外炭輸入圧力を強めていると考えられる。
基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の遅れヘの懸念が価格を押し上げている状況。
なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。
中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。
また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。
ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、
1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること
から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。
日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。
米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。
本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、まだ景気の減速が顕在化していないこと(石炭市場は投機筋が参入し難いため、足下の需給ファンダメンタルズの価格への影響が大きい)、中国の経済対策前倒し実施報道、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は高安まちまち。概ねこれまで売られてきたことに伴う割安感からの買い戻しによるもの。
ただし、非鉄金属の中で株価との連動性が高い銅・アルミ・亜鉛は株価の下落もあって水準を切下げた。また上海でオミクロン株の変異種が発見されたことでロックダウンの懸念が強まったことも価格を下押ししたと考えられる。
既に経済対策実施は中国政府が決定していたことだが、今回は地方政府の特別債発行を2023年から前倒し、インフラ投資に充てるとのことであり非鉄金属を含む工業金属にとっては需要増加で価格上昇要因となる。
しかし、コロナの感染が拡大する中ではロックダウンを行う、というのが中国政府の揺るぎない方針であるため、これらの大規模な経済対策は需要の減少を下支えする程度の効果に止まるかもしれない。
各金属とも米期待インフレ率との連動性が高く、米国はインフレ抑制方向に舵を大きく切っているため、コロナの感染が断続的に続く用であれば、価格は現状から上がらない、ということになる。
今後は中国政府の景気テコ入れを目的とした経済対策の効果が、いつ、どの程度顕在化するか不透明である。
恐らく、ロックダウンが行われ、その後の解除でペントアップ需要が期待されると予想されるが、そうだとすればロックダウンの可能性がある7月の回復は難しく、8月中旬以降になるだろうか。
今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。
最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。
中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。
ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。
短期的に非鉄金属価格が上昇するには、
1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)
2.株価が上昇すること
3.期待インフレ率が上昇すること
が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば多少なりとも価格は上昇すると見るが、現状、価格上昇の必要条件となる1.が顕在化していない。直近では、2.3.が顕在化した形。
1.は経済対策の前倒しが決まったが、同時にコロナの感染が拡大しているため先行きが不透明になってきた。
そうなると、7月~8月中旬頃までは1.が2.3.の影響を緩和することが出来ず、現状水準で横這い推移となる可能性が高まっている。
そして、年後半は1.<2.3.という展開が基本となるが、恐らく公共投資やペントアップ需要の顕在化が遅れるため、年後半から年初にかけての下落がなく、こちらも横這い推移となる可能性を意識しておく必要がある。
本日は、最大消費国である中国の再ロックダウンリスクの高まりと、株価の調整、期待インフレ率の低下から軟調推移を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は大幅に下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月・中心限月価格とも大幅に下落した。
中国上海でオミクロン株の変異種が発見されたことでロックダウンが再開される可能性が高まったことが材料となった。
また、中国第二の省である江蘇省の近隣安徽省でもコロナの感染拡大が確認されており、再び沿岸部の景気減速懸念が強まったことが鉄鋼製品先物価格を押し下げ、鉄鋼原料価格の下落要因となった。
中国政府は景気刺激のため、地方債1兆5,000億元の前倒し発行を決定、インフラ投資に充てる計画であるが、ストック需要の増加であるためフロー需要の増加が見込まれないことがこれを相殺している。
この状態が続けば、中国の経済対策は「景気の減速を下支えする程度」の効果しかもたらさず、工業金属価格が現状水準程度に止まる可能性は排除出来ない。
なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は123.6ドル、原料炭価格は207.7ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。
一時、200ドル以上まで拡大していた海上輸送原料炭の流動性プレミアムは縮小しており、徐々に粗鋼生産と鉄鋼製品価格に見合った価格に収れんしていくと期待される。
本日は中国のロックダウン懸念から水準を切下げる展開を予想。
◆貴金属
昨日の金価格は総じて下落した。先週の雇用統計を受けて景気への楽観から実質金利が上昇して価格が下落する、と見ていたが、株価の下落に伴う益出し売りで下落した。
金は安全資産として物色されており、主に株価が調整した時の調整弁として取り扱われることが多いと考えられるが、昨日の株価の急落を受けてセクター全体に利益確定の動きが強まった。
金の基準価格は前日比+13ドルの1,111ドル、リスク・プレミアムは▲21ドルの623ドルに低下している。
銀は金価格の下落を受けて水準を切下げた。注目すべきは銀価格が高騰した「バイデンの太陽光パネル数百万枚設置」報道前の水準に銀価格が低下していること。
ある意味「祭り」が終ったとも言え、金価格が下落する中では下値余地を探りやすい。ただ、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻るか否かに関しては、1.太陽光パネルの設置は恐らくまだ増えること、2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること、からレンジはもう少し上に切り上げっているとみてはいる。
しかし、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲400ドル程度下げ余地がある。これだけでも銀価格を4.5ドル程度押し下げると考えられる。逆に言えば、現状、銀の下値は最も下がったとしても14.50程度まで、ということだ。
PGMは金価格の下落と株価の下落で水準を切下げた。特に供給過剰で投機的な動きに左右されやすいプラチナは大幅な下げに。
本日は米10年債の入札を控えてアジア~欧州時間はまずは買い戻しが入ると考える。
10年債入札は足下の長期金利の低下や景気の先行きへの懸念から好調な結果になると予想され、貴金属価格にはプラスに作用するだろう。そのため、米国時間の後半に掛けて上昇を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は高寄りした後、下落して上げ幅を削った。ドル高が上昇したことが売り材料視された。ただしいずれの穀物も需給ファンダメンタルズはタイトな状態。
原油価格の戻りや受粉期に入るトウモロコシの作柄悪化が懸念されていることも買い材料視されている。
今のところ取引所の受渡適格品となる「優良」と「良」の合計は64%と先週から横這いだが、過去5年平均を下回っている。大豆の作況は62%と悪化し、過去5年平均を下回った。
小麦は紛いなりにもロシアから小麦が輸出され始めていることが売り材料視されている。
新規手がかり材料に乏しい中、今晩発表の米需給報告には注目が集まる。
・7月米単収見通し実績(市場予想、前月)トウモロコシ 177.02Bu/エーカー(177.0)大豆 51.5Bu/エーカー(51.5)小麦 NA(46.9Bu/エーカー)
・7月米生産見通しトウモロコシ 145億2,250万Bu(144億6,000万Bu)大豆 45億2,223万Bu(46億4,000万Bu)小麦 17億3,348万Bu(17億3,700万Bu)
・7月米輸出見通しトウモロコシ NA(24億Bu)大豆 NA(22億Bu)小麦 NA(7億7,500万Bu)
・7月米在庫見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 14億3,731Bu(14億万Bu)大豆 2億673万Bu(2億8,000万Bu)小麦 6億3,712万Bu(6億2,700万Bu)
本日は統計待ちでアジア~欧州時間は昨日と反対の値動き(ポジション調整)を予想するが、最も材料にされやすい在庫見通しは、トウモロコシが増加、大豆が減少、小麦が増加見通しであり、この通りであれば、トウモロコシ・小麦は下落、大豆は上昇することになろう。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「粗糖価格は調整も底堅く」
2020年に欧米でコロナの影響によるロックダウンの動きが広がり、経済活動が強制停止された時に粗糖価格は急落したが、その後「エネルギー供給に制限された状態」で景気が回復したことで価格は上昇、昨年から続くラニーニャ現象の影響で各地が厳冬や猛暑、渇水に見舞われており、特殊なエネルギー需要の増加があったことも価格上昇の一因となった。
粗糖は文字通り砂糖(白糖)向けに加工される原料の1つであるが、同時にエタノールなどの燃料の原料にも用いられ、フレックス車が普及しているブラジルなどではガソリンの代替燃料として用いられている。
また、米国ではガソリンの添加材として用いられているためガソリン需要・価格動向にエタノール向けの粗糖価格は連動しやすい。
今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻したため、西側主要国は制裁としてロシア産原油や石油製品の輸入を停止、それに伴う原油価格上昇がガソリン価格を押し上げ、さらにエタノール向けの需要を押し上げたことも価格高騰に寄与した。
これらを背景として粗糖価格は高騰し、2016年以来となる20セント/ポンドを上回る水準まで上昇していたが、足下天井感が出始めている。先行きのエネルギー需要の減速観測が強まったためだ。
米国のみならず欧州も、コロナショック・ロシアショック・中国再ロックダウンの影響によるサプライチェーンの正常化が遅れる中、「金融引締めによって景気を悪化させ、需給をバランスさせる」政策に舵を切っているためだ。
また価格高騰が需要を減じるレーショニングもエネルギー市場では顕在化しつつある状況。恐らく、米国の金融引締めが続くならば今後、価格は下値余地を探る展開になると予想される。
しかし、下落局面になってもそこまで大きく粗糖価格は下がらないと予想される。
米農務省のデータを元にすると2022-2023年の世界の粗糖需給バランスはブラジルと中国、ロシアの生産増加がウクライナとインドの減産を相殺するため、前年比+170万7,000トンの1億8,289万1,000トンが見込まれており、需要も前年比+22万3,000トンの1億7,884万3,000トンと生産を下回る見通しで、需給バランスは+404万8,000トンの供給過剰が見込まれている。
しかし供給過剰幅は昨年、一昨年から大きく縮小する見込みである。
また、農産品価格に対する説明力が高い需要を供給で割った「需給率」は、前年比+1.2%の84.0%と価格が高騰した2016-2017年の84.3%に迫る水準までの上昇が見込まれている。
需給率と平均価格の過去データを元にすると、2022年の粗糖平均価格は現在の水準よりも高い19.20セント程度が想定される。
また、原油価格も景気減速によって下落する、というのがメインシナリオではあるものの、ロシアに対する制裁強化によって原油価格の下落が始まらず、結果的にガソリン価格も高いままであり代替燃料としてのエタノール需要が高水準で推移する、ということも想定されることが需要面で粗糖価格を支える可能性もある。供給面も決して安泰ではない。
多くの農産品と同様、粗糖も異常気象の影響を受けやすいが、2009年のエルニーニョ現象発生時を例外として粗糖価格が高騰しているのは、ほとんどラニーニャ現象が発生している時である。
米海洋大気庁の見通しでは今年の冬に再びラニーニャ現象の発生を予想しており、過去の異常気象と価格の関係は比較的周知されつつあるため、その材料だけでも価格には上昇圧力が掛かりやすい。以上を勘案すると、粗糖価格には下押し圧力が掛かりやすいが、需要面・供給面両面で下げ余地が限定される可能性があるとみている。
なお、日本の場合、国内生産者保護の観点から価格調整制度が導入されており、国内外の価格差を調整する仕組みとなっている。
しかし、国内生産コストが上昇し、それを企業努力で吸収仕切れない場合、価格は最終価格に転嫁されることになる。国内の砂糖の出荷額は7月11日以降、6%程度引き上げられる見通しとなっている。
砂糖価格の変動要因としては、原料となる粗糖の調達コストと輸送費、製造時の燃料費などが主なところだが、ドル建ての原料価格が高止まりする中で、円建ての輸送費や燃料費が上昇したことによるもの。
エネルギー価格が高止まりし、円安傾向が続けば今後も国内砂糖価格が引き上げられる可能性は低くない。
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