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米統計を受けて高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年7月11日 第2235号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米統計を受けて高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は高安まちまちとなった。上昇したのはエネルギーや穀物・その他農産品、ロシア問題を背景にPGMなど幅広く物色されたが、中国が気温上昇や入試などの影響で短期間、工場稼働が停止されるなどの影響を受けて、非鉄金属セクターを含む工業金属セクターは水準を切下げた。

知名度が上がったため「景気の先行指標」としてドクター・カッパーを参考にする市場参加者が増えているが、ドクター・カッパーというよりはドクター・チャイナ、と呼ぶ方が適切だろう(そのうち、ドクター・インディアになると思われるが)。

注目の米雇用統計は比較的良好な内容であり、雇用者の増加もペースはやや落ちたが20万人を超えており、賃金も前年比+5.1%(前月+5.3%)と伸びが鈍化している。株式市場はこうした動きを特に前向に解釈しやすい。

ただし、金融引締めを行っている時に株が上昇することは余りなく、恐らく期待インフレ率などもQT進捗で低下するため、やはり中期的に商品価格には下押し圧力が掛かりやすい地合のままであり、1.供給の制限、2.景気とは関係ない大規模な経済対策、などの動向が今後の商品価格の方向性を決定することになるだろう。

G20はやはり米露が批難の応酬で共同声明の採択は見送られた。G7では結束出来るが、より重要度が増しているG20では合意を形成することが難しくなっており、日本がどのように振る舞うかは非常に難しい。

【本日の見通し】

週明け月曜日は米雇用統計を受けて「インフレ制御をしながらも、リセッション入りは回避出来る」との楽観から上昇余地を探る商品が多いのではないか。

週明け月曜日は予定されている材料で、新味があるものが少ないが、やはり金融政策・財政政策動向に焦点が当たっているため、ニューヨーク連銀総裁講演と、ECB財務相会合の内容には注目したいところ。

【昨日のトピックス】

昨日、安倍晋三元首相が銃撃され亡くなった。犯人はすぐに逮捕され、現在取調中である。今回のテロ行為は強く非難されて然るべきである。

このコラムでは「ラニーニャ現象発生の年は政治的なイベントリスクが発生しやすい」と指摘してきた。治安悪化や暴動発生は、異常気象を契機とする食料供給減少や価格上昇によって「生活困窮者の不満」が爆発して起きることが多い。

今回の犯人が生活困窮を背景に凶行に及んだのかどうかはよく分からない。日本も近年では政策に不満を持った国民がデモを起こすことは増えたが、あくまで民主的な抗議であり殺人に及ぶケースは、ほとんどなかったはずだ。

戦時中であればまだしも、戦後、民主主義国家になってから首相が凶行に倒れたのは、安倍元首相の祖父である岸信介元首相以来である(首相が亡くなったのは、226事件のときの犬養毅以来のことらしい)。いかなる理由があろうとも暴力は許されるものではない。

今回の事件は小さい問題ではない。犯人がどのような意図や背景があって今回の凶行に及んだかは今後の取り調べの結果を待つ必要があるが、今回の事件は様々な憶測を呼び、国内が政治的に分断される可能性があるからだ。

トランプ政権時代に米国で起きたような、「保守かリベラルか」といった極端な国家分断がこの日本で起きることもありえるということである。

ただでさえ米中対立やロシア・ウクライナとの対立に日本も巻き込まれ、資源価格の上昇や猛暑の影響でエネルギー供給が不足するなど、国民生活が不安定になっている状態である。

このタイミングでイデオロギー的な対立が激化し、議論で済むだけならまだよいのだが暴動にまで繋がることはなんとしても回避しなければならない。

政治家は誰でもそうであるが、全て100%正しい政策を遂行出来る人はいない。

安倍元首相も同じであり、安倍元首相在任中の政策は評価されるべきものと、批判されるべきもの、両方あることもまた事実である。これを両方とも正当に評価して、これからの日本がどのように進んでいくべきか、議論することが重要である。

それを踏まえた上で、未完となっているアベノミクスの3本目の矢を達成することが、安倍晋三元首相の最大の弔いになるのではないか。

Cool head, but warm heart

国民も政府与党、野党とも冷静な対応が望まれる。

いずれにしても、安倍元首相のご冥福を心からお祈りします。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続伸した。米雇用統計が比較的良好な内容となり、金融引締めが続いてもリセッション入りは回避出来るのではないか、との楽観が買い戻しを誘った。

今のところ200日移動平均線と100日移動平均線のレンジ内での値動きが続いている(Brent原油ベースで97ドル~111ドル)。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は91.32ドル(前日比+2.61ドル)。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態で「リセッション入り」が意識されている状態。

7月の急落で、「景気の先行き」と「供給懸念」を材料に、Brentは95ドル~110ドルのレンジに入ったと考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、目立った材料に乏しく、100日~200日移動平均線の間でのレンジワークになるだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は下落した。ロシアからのガス供給が回復しない見通しであり、Freeportの生産も停止、サハリン2の強制接収を行おうとしていることなどの不安がショートを取り難くしており、価格を押し上げてきたが、今週の上昇が大きかったため、週末を控えて一旦一部の生産者は投機筋が売りを入れたためと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月5日時点で60.2%(前日59.8%)と増加。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

6月27日~7月3日の世界のLNGトレードだが、取引量は670万トン(前週778万トン)と減少した。スポット取引のシェアは20%(前週32%)と低下。

スポット契約は北欧向けが▲43万トンの大幅な減少。主にトルコの調達が減少したことによる。恐らくTurk Streamの再稼働が影響したと考えられる。南米の調達も▲25万トンと減少した。

一方、ターム契約分の調達は、JKCT向けは+24万トンの増加、北欧と東南アジア向けの輸出は▲29万トンの減少だった。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下している。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落した。一昨日の天然ガス統計を材料に大きく上昇していたが、Freeportの供給停止解消が年内は難しいとの見通しが強まる中で、週末を控えた利益確定の動きに押されたためと考えられる。

Freeportの輸出停止はあるものの、米国のガス在庫水準は過去5年の最低水準であり、また、プロパンなどのガス在庫は過去5年の最低水準を下回っている状況で、実は需給バランスの緩和はまた統計上は見られていない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は下落。欧州ガス価格が下落したことを受けて水準を切下げた。

米国からのカーゴ減少とロシアのガス供給の作為的な削減、欧州の調達圧力の強まり、北半球の猛暑、から価格は上昇圧力が掛かりやすいが、ここに来て再び中国がロックダウンとなる可能性が出てきたため、この影響は若干緩和されると考える。

しかし、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きと考えるべきである。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

7月3日時点の日本の発電用LNG在庫は211万トン(前年同月末226万トン、2017~2017年平均203万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回っている。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを下回っている。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。

週明け月曜日も需給バランスの改善(緩和)が見込めないこと、から高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇して410ドルを上回った。欧州のガス価格は下落したものの、脱ロシアを進める中で豪州炭などの代替品の需要が増加していることが価格を押し上げる状態が続いている。

また、中国政府の1兆5,000億元の経済値策の前倒し実行も、海外炭輸入圧力を強めていると考えられる。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の遅れヘの懸念が価格を押し上げている状況。

なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、まだ景気の減速が顕在化していないこと(石炭市場は投機筋が参入し難いため、足下の需給ファンダメンタルズの価格への影響が大きい)、中国の経済対策前倒し実施報道、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。昨日は再び上昇余地を探る動きになると見ていたが、気温上昇や上海の入試試験のために工場の稼働を停止する指示が出たこともあり、週末ということもあって一旦売りに押された。

その後、米雇用統計を受けて期待インフレ率が上昇する中で買い戻しが入り、下げ幅を削る展開となった。

既に経済対策実施は中国政府が決定していたことだが、今回は地方政府の特別債発行を2023年から前倒し、インフラ投資に充てるとのことであり非鉄金属を含む工業金属にとっては需要増加で価格上昇要因となる。

ただ、来年度予算の前倒しであること、中央政府のバランスシートを拡大する余地がないことも示唆しており、来年、中国の公的セクターの支援は余り期待できなくなる(いわゆる財政の崖)可能性がある。

別の言葉で言えば、来年は公的需要のサポートがそれほど期待できない、ということだ。

ただこれは、そもそも今年3期目を目指す習近平が形を付けるために行っている経済対策であるともいえ、そもそも来年の公共投資はそれほど期待できなかったことも事実である。

また、別の視点では5.5%の成長目標達成が極めて困難な状態にあること、継続するロックダウンでかなり中国経済が危機的な状況に置かれていることも示唆している。

今後は中国政府の景気テコ入れを目的とした経済対策の効果が、いつ、どの程度顕在化するかに依拠するが、季節的に7月は特に住宅セクターの動きが緩慢になりやすいため、8月以降になるだろうか。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が揃う必要がある。いずれか1つでも顕在化すれば多少なりとも価格は上昇すると見るが、現状、価格上昇の必要条件となる1.が顕在化していない。直近では、2.3.が顕在化した形。

1.に関しては政権維持のために習近平国家主席も必死と考えられ、実際、経済対策の前倒しが決定された。これまで計画している経済対策が今後、顕在化する可能性が高いと見ている。

そうなると、夏場は1.>2.3.、となり、年後半は1.<2.3.という展開が基本となり、非鉄金属価格は一旦上昇した後、中期的な見通しの通り、年後半から年初にかけて再度調整があると考えるのが自然である。

しかし、コロナの感染が確認され、再びロックダウンの動きが拡大している状況下、再び下落余地を探る可能性が出てきた。規模とロックダウン期間にもよるが、中国政府の経済対策の効果を相殺することになり、価格がそのまま上がらない、という可能性はあり得る。

週明け月曜日は米国の景気先行きへの懸念がやや後退(金融引締めを行ってもリセッション入りは回避出来るのでは、との楽観)していること、中国の経済活動の再開期待から、買い戻しが入ると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は直近限月価格が下落、中心限月価格が下落した。

中国のロックダウンの状況、それに伴う景気減速を回避するための経済対策動向の先行きが不透明であるが、昨日は上海で行われた大学入試試験や、気温の上昇を背景に工場現場地域での作業が中止されたため、それが週末を控えた鉄鋼製品価格の下落を促したようだ。

週次の鉄鋼製品在庫は前週比▲36万4,000トンの1,612万4,000トンと過去5年平均である1,240万7,000トンを上回る状態が続いている。

鉄鉱石の港湾在庫は、鉄鉱石が前週比+280万トンの1億2,830万トン(過去5年平均1億2,971万6,000トン)、在庫日数は24.5日(+0.5日、過去5年平均28.4日)と、まだ平年の水準を回復しておらず、テクニカルな在庫の積み圧力は残存。

原料炭は▲16万トンの174万トンと、過去5年平均の172万2,000トンを漸く回復した。

なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は124.3ドル、原料炭価格は207.7ドルであり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。

、一時、200ドル以上まで拡大していた流動性プレミアムは縮小しており、徐々に粗鋼生産と鉄鋼製品価格に見合った価格に収れんしていくと期待される。

週明け月曜日は、中国政府の対策期待や試験明けで稼働が再開すると見られ、鉄鋼製品価格の上昇に連れる形で鉄鋼原料価格も上昇を想定。

◆貴金属

昨日の金価格は雇用統計を受けて一旦急落したが、前日比プラスで引けた。7月5日の大幅な下落が一服し、市場参加者のリスク選好が回復する中、再び「将来のリスク資産価格の下落」リスクをヘッジする目的の買いが入ったと見られる。

銀も、金価格の上昇を受けて小幅に水準を切り上げた。

PGMはロシアの制裁に対する報復などの懸念から供給面のリスクが意識される中、株価が総じて高値を維持したことで買いが入る形となった。

プラチナは投機取引を除く需給バランスが供給過剰であり、市場参加者のセンチメントに左右されやすい。パラジウムは投機を除いても供給過剰ではないが、以前よりは大きく需給バランスが緩和しているため、市場参加者の思惑が価格を決定しやすい。。

週明け月曜日は、米雇用統計が良好な内容だったこと、それに伴う名目金利の上昇を受けてやや軟調な推移になると考えるが、同時に期待インフレ率も上昇しているため、下落余地は限られるだろう。

PGMはリスク選好の回復を受けて堅調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。7月5日の原油価格急落以降、水準を大きく切下げてきたが、原油価格が反発し、穀物セクターのベンチマーク的な位置づけであるトウモロコシ価格が上昇したことを受けて、そもそもの需給ファンダメンタルズのタイトさから買い戻しが優勢となった。

今のところラニーニャ現象は冬も続く見通しが示されており、北半球の穀物供給への懸念は小さくない。

なお、これまで下げを主導したのはファンド筋であると考えられるが、インデックスファンドの買越し額は全ての穀物で減少している。

週明け月曜日は為替動向、エネルギー価格動向に引き続き左右されるが、市場参加者のリスクテイク意欲が回復していること、需給ファンダメンタルズのタイトさから上昇余地を探る展開を予想。

昨日発表のCONABの統計は以下の通り。

・7月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,167万ha(2,168万ha、2,166万ha)大豆 4,095万ha(4,093万ha、4,099万ha)

・7月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,566万トン(1億1,526万トン、1億1,522万トン) 単収 5,338kg/ha(5,321kg/ha、5,319kg/ha)大豆 1億2,405万トン(1億2,494万トン、1億2,427万トン) 単収 3,029kg/ha(3,055kg/ha、3,032kg/ha)

本日は、まずはこの2営業日の下落が大きいことから買い戻しが入ると考えているが、景気の先行きへの期待が後退しており、エネルギー価格上昇を抑制することからトウモロコシ価格の上値も抑えられ、頭重い展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「小麦の調達リスクはこれからが本番か」

一時高騰していた小麦価格が水準を切下げている。小麦生産に大きな影響を及ぼすと考えられているラニーニャ現象が発生し、不作への懸念が高まっていたところに、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻の影響で、ウクライナ産の小麦輸出がほぼ停止している状態となり価格は一時14ドルを上回っていた。

しかし、5月中頃から下落に転じ、今は200日移動平均線を割り込んだ。足下は反発してるがまだ200日移動平均線を回復するには至っていない。

価格下落の要因は輸出が不可能とみられていたウクライナ産の小麦が恐らく陸路を通じて輸出されており、その数量がそれなりに有ると考えられること、黒海の「蛇島」を巡る攻防でウクライナが同島を奪還、ウクライナからの小麦輸出が再開されるのではとの期待が高まっていることが実需面の価格下落の背景。

これに加えて、米国の金融引締め強化観測が強まっており、2月のロシアのウクライナに対する軍事侵攻を受けて積極的に買い上がってきた投機筋が、利益確定の動きを強めていることが金融面でも価格を下押ししていると考えられる。

投機に焦点を当てると、概ね2月のロシアの軍事侵攻前後の水準まで小麦は調整しており、さらに下落するかどうかは今後の生産・供給動向に左右されることになろう。

しかし、6月の米農務省の需給報告をみるに、基本的に世界の小麦の需給バランスはまだタイトであると考えられる。

2022-2023穀物年度の世界の小麦の需給バランスは、2021-2022年の▲817万トンの供給不足に続く、▲943万トンの供給不足が見込まれている。2年連続で供給不足となるのは2006-2007、2007-2008年以来のことだ。

穀物相場動向を占う上で弊社は供給を需要で割った「需給率」を重要な指標として参考にしている。

この数値が上昇するときは、1.供給が減少する、2.需要が増加する、3.1.2.の両方が起きる、ことになる。即ち需給がタイトになるとこの数値が上昇する。

今のところ米農務省の数値を参考にすると、小麦の需給率は78.7%と前年の77.9%から0.8%程度上昇することが予想されている。過去10年のデータを元にすると、需給率1%の上昇でブッシェルあたり40セント程度上昇するため、見通し通りの生産・需要となった場合でも2022年の平均価格は2021年比で上振れする可能性が高い。

全体を俯瞰すると、やはり2022年~2023年にかけての小麦価格は高値を維持すると考えるのが妥当だろう。

恐らく小麦の動向を占う上で、しばらく重要になるのが、冒頭の下落要因として挙げている輸出動向であるが、ロシアの軍事侵攻で南部の耕作が事実上不可能になっているウクライナの生産見通しは、前年比▲1,151万トンの2,150万トンに激減する見通しである。同国の輸出の見通しも前年比▲900万トンの1,000万トンとなる見込みだ。

ただ、この10年の穀物年度の輸出平均が1,544万トンであることを考えると▲544万トンも減少しており、ウクライナが置かれている状況が厳しいことに変わりはない。

一方、ロシアは生産が+584万トンの8,100万トン、輸出が+700万トンの4,000万トンが見込まれており、輸出の多くは同盟国の中国、軍事的にも繋がりの強い中東・北アフリカ地区向けになるが、全体で見た場合ウクライナからの供給減少の多くを相殺出来る見込みとなる。

世界全体でもカナダ(+810万トン)、EU(+650万トン)、カザフスタン(+100万トン)などの輸出増加が、インド(▲153万トン)、米国(▲82万トン)、豪州(▲350万トン)、アルゼンチン(▲250万トン)の輸出減少を相殺するため、輸出は前年比+520万トンの2億459万トンとなり、輸出市場での供給は数字の上ではそれほど問題がないということになる。

しかし、基本的には生産から需要を引いた残りが輸出に回される訳だが、主要生産国で生産下方修正や輸出停止などの動きがみられており、米海洋大気庁の見通しでは、58-59%の確率でラニーニャ現象は今年の冬まで続くと予想されており、生産が下触れするリスクは小さくない。

また、ウクライナの港から本当に小麦の輸出できるのか、に関しても戦闘状態に左右されるため、なんとも言えないところである。調達面で問題がなかったとしても、ロシアからの肥料輸出の減少やガス価格の高騰で肥料の価格が上昇しており、この生産コストの上昇が小麦価格の押し上げ要因となる。

恐らくこれら諸々のリスクが顕在化するのは、北半球の収穫期である秋以降となる。足下の小麦価格は下落しているが、決して危機が去った訳ではないと考えるべきだろう。


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