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リスク選好回復で上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年7月8日 第2234号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「リスク選好回復で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は多くの商品が反発した。7月初に原油価格が急落し、その他の商品の下落の引き金となったが、期初のテクニカルな下落、と受け止められたこと、急落に伴う割安感から実需筋の買いが入ったこと、などが材料となった。

米国株はジェットコースター相場となっているが、景気後退の発生なく、インフレを抑制出来るとの期待が価格を押し上げている。ただし、「期待」であり、正直なところFRBもどうなるか確信が持てていないと考えられる。

市場参加者のFRBの金融政策見通しは、7月のFOMCで93.9%の確率で75bpの利上げを見込み、9月が80.7%で50bp、11月が25bp、50bpがほぼ半々、といった見通し。このスケジュールは織り込んでいるため、この利上げペースでも景気後退しない、という判断なのだろう。

ただ、2年10年の逆イールドが発生すると1年後に景気後退局面入りすることが「過去の例」では多い。景気循環も考えると2023年は2024年の景気回復に向けて「力を溜める年」になる可能性が高いと見ている。

【本日の見通し】

本日は市場参加者のリスク選好が戻っていること、これまで売り一辺倒だった市場参加者が週末を控えてポジション整理の買い戻しを入れると考えられることから高値推移を予想。

本日注目の材料はG20、ECB総裁講演が政治面、統計では米雇用統計に注目している。G20ではロシアと反ロシアの動きに注目(詳しくは昨日のトピックスを参照)。

雇用統計は雇用増加ペースよりも、やはり賃金上昇率に注目したい。

6月米雇用統計非農業部門雇用者数 市場予想 前月比+26.8万人(前月+39.0万人)失業率 3.6%(3.6%)平均時給 前月比+0.3%(+0.3%)、前年比+5.0%(+5.0%)

【昨日のトピックス】

G20外相会合が始まった。今回の焦点はロシアの各国への対応と、日本を含む西側諸国のロシアに対する対応。米中対立が激化し、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻以降、世界は緩やかに東西に分裂している。

今回ロシアが「非友好国」としてして指定している国は48ヵ国ある。これらの国が「大きなくくりで見た場合の西側諸国」といえるだろう。

分量が多いが、以下の通りとなっている。

米国、カナダ、EU加盟国全て、英国、ウクライナ、モンテネグロ、スイスアルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコノルウェー、サンマリノ、北マケドニア、日本、韓国、豪州ミクロネシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾

この基準でG20参加国を反ロシアと、ロシアを消極的・積極的に支持、あるいは態度を留保している親ロシアに分けると以下の通りとなる。

この中で親ロシアは今後の世界経済の成長のドライバーになる可能性がある国(インドなど)や、資源国が多数含まれていることが分かる。つまり、現状、西側諸国が思っているほど、西側諸国は優勢ではないということである。

(反ロシア)米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、EU、豪州、韓国

(親ロシア)ロシア、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ共和国インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン、インド、トルコ

今回、西側諸国は日本も含めて夕食会を欠席するなどの選択をしている。しかし、終戦に向けた協議が可能になるように、あるいはサハリン2の問題についての交渉のチャネルを確保する意味で、非公式にでもロシアとの接触を図る必要はあるのではないだろうか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は反発した。景気の先行き懸念を材料に恐らく7月5日の段階で実需の売りヘッジが嵩み、それに伴いテクニカルな売りが積み上がって大幅に下落していたが、当面のサポートラインである200日移動平均線を割り込まなかったこともあって、実需の買い戻しが入ったこと、「インフレ抑制を景気後退なしに達成出来るのでは」との楽観から株価も戻ったことが材料となった。

また、タス通信が「サハリン1」もロシア企業の管理にする方針、と伝えられたこともBrentなどの代替需要増加観測を強めた。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は88.47ドル(前日比+4.08ドル)。

昨日発表の米石油統計は、予想比原油が弱気、製品が強気な内容だった。原油は生産が変わらずだったが、稼働率の低下を受けて在庫は大幅に増加、一方製品は稼働率が低下したものの得率の調整で生産が増加、需要はガソリンが過去5年平均を下回り、ディスティレートも過去5年平均程度と低迷したものの、製品在庫は大幅に減少しており、引き続き製品需給はタイトだ。

石油製品の総出荷はほぼ過去5年平均程度、輸出も含めた場合の出荷は依然、過去5年レンジを上回っている。世界的な製品不足で輸出は好調だ。

昨日の統計で注目したのは、米戦略備蓄(SPR)の動向。OPECの増産がない中で米国はSPRを急速に放出している。

SPRの減少はリーマン・ショックがあった前後から始まっており、昨年の追加放出決定以降、1億1,053万バレルも減少(減少率▲18.3%)、ピークの水準との比較では、▲32.3%も減少している。

具体的にSPRのうちのどれだけが欧州向けに輸出されたかは分からないが、今年の開戦以降米国の原油輸出が増加しており、3月・4月の欧州向けの輸出量は各々、4,000万バレル、4,770万バレルとなっている。

「このペースが続けば」ではないが、5月・6月も同じような水準だったとすると累計で1億7,540万バレルが欧州向けに輸出されたと考えられる。

このとき、1.SPRが枯渇したらどうなるのか、2.減少したSPRを再度積み上げるときに原油価格の上昇要因にならないか、ということが次のポイントとして意識しておくべきだろう。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態で「リセッション入り」が意識されている状態(※リセッション入りの場合の価格水準は、分かり難いため削除しました)。

7月の急落で、「景気の先行き」と「供給懸念」を材料に、Brentは95ドル~110ドルのレンジに入ったと考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-115ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日も昨日の上げが比較的大きかったことから一旦売られると考えるが、景気への過度な悲観の後退と供給懸念が解消されていないことから結局上昇に転じると考える。

景気に再び焦点が当たっているため、次の焦点はOPECプラスというよりは7月28日のFOMCだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。ロシアからの供給が回復しないのではとの懸念、Freeportの生産停止、がサハリン2の強制接収を行おうとしていることなどの不安がショートを取り難くしており、価格を押し上げている状況。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月5日時点で60.2%(前日59.8%)と増加。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

6月27日~7月3日の世界のLNGトレードだが、取引量は670万トン(前週778万トン)と減少した。スポット取引のシェアは20%(前週32%)と低下。

スポット契約は北欧向けが▲43万トンの大幅な減少。主にトルコの調達が減少したことによる。恐らくTurk Streamの再稼働が影響したと考えられる。南米の調達も▲25万トンと減少した。

一方、ターム契約分の調達は、JKCT向けは+24万トンの増加、北欧と東南アジア向けの輸出は▲29万トンの減少だった。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下している。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は大幅に上昇。Freeportの供給停止による国内需給の緩和期待が価格を押し下げていたが、昨日発表の週間ガス統計で、在庫注入量が60BCFと市場予想の75BCF、先週の82BCFを大きく下回ったことが材料となった。

Freeportの輸出停止はあるものの、米国のガス在庫水準は過去5年の最低水準であり、また、プロパンなどのガス在庫は過去5年の最低水準を下回っている状況で、実は需給バランスの緩和はまた統計上は見られていない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。欧州のLNG・ガススポット市場需給がタイト化している中で、ロシアが日本に対して「サハリン2」に関して嫌がらせをしてきていることに伴い、日本がスポット調達に動かざるを得ないとみた市場参加者の調達圧力が継続して居ることが背景。

米国からのカーゴ減少とロシアのガス供給の作為的な削減、欧州の調達圧力の強まり、北半球の猛暑、から価格は上昇圧力が掛かりやすいが、ここに来て再び中国がロックダウンとなる可能性が出てきたため、この影響は若干緩和されると考える。

しかし、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きだろう。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月26日時点の日本の発電用LNG在庫は215万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを大きく下回っている。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。

本日も供給面で消費者にとって状況が改善すると考え難く、米国のガス供給再開の遅れ、サハリン2の強制接収のリスクも考えるとスポットカーゴの需要は旺盛であり、日欧の天然ガス価格は高値維持の公算。

HHは逆に低下余地を探る動きになると見るが、昨日の統計でも分かるようにまだ米国内の需給が緩和している訳ではないため、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇して400ドルを上回った。欧州のガス価格上昇や、脱ロシアを進める中で豪州炭などの代替品の需要が増加していることが価格を押し上げる状態が続いている。

また、中国政府が1兆5,000億元の経済値策を前倒し実行する、との報道も価格を押し上げた。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の遅れヘの懸念が価格を押し上げている状況。

なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、まだ景気の減速が顕在化していないこと(石炭市場は投機筋が参入し難いため、足下の需給ファンダメンタルズの価格への影響が大きい)、中国の経済対策前倒し実施報道、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。中国政府が景気テコ入れのため、1兆5,000億元の経済対策実施を検討していると伝えられたことが、公的受容の増加期待を高めたことが背景。

ニッケルのみ下落したが、件の「青山集団事件」以降、ニッケルの売買は非常に低調であり、ポジション調整の中で下落したと考えられる。

最早LME以外の価格指標を用いた売買、ないしはLMEを西側諸国が買収して透明性の高い市場に戻す、といった選択が必要なタイミングなのではないか、と考えるが、金属価格への影響力を残そうとする中国政府の意向もあり、買収は困難だろう。

既に経済対策実施は中国政府が決定していたことだが、今回は地方政府の特別債発行を2023年から前倒し、インフラ投資に充てるとのことであり非鉄金属を含む工業金属にとっては需要増加で価格上昇要因となる。

ただ、来年度予算の前倒しであること、中央政府のバランスシートを拡大する余地がないことも示唆しており、来年、中国の公的セクターの支援は余り期待できなくなる(いわゆる財政の崖)可能性がある。

別の言葉で言えば、来年は公的需要のサポートがそれほど期待できない、ということだ。ただこれは、そもそも今年3期目を目指す習近平が形を付けるために行っている経済対策であるともいえ、そもそも来年の公共投資はそれほど期待できなかったことも事実である。

また、別の視点では5.5%の成長目標達成が極めて困難な状態にあること、継続するロックダウンでかなり中国経済が危機的な状況に置かれていることも示唆している。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)、2.株価が上昇すること、3.期待インフレ率が上昇すること、が揃う必要がある。

いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、1.が顕在化していない。直近では、2.3.が顕在化した形。

今後は、米政府がどこまで3.の期待インフレを調整させる意向があるかに依拠する。

1.に関しては政権維持のために習近平国家主席も必死と考えられ、実際、経済対策の前倒しが決定された。これまで計画している経済対策が今後、顕在化する可能性が高いと見ている。

そうなると、夏場は1.>2.3.、となり、年後半は1.<2.3.という展開が基本となり、非鉄金属価格は一旦上昇した後、中期的な見通しの通り、年後半から年初にかけて再度調整があると考えるのが自然である。

しかし、コロナの感染が確認され、再びロックダウンの動きが拡大している状況下、再び下落余地を探る可能性が出てきた。規模とロックダウン期間にもよるが、中国政府の経済対策の効果を相殺することになり、価格がそのまま上がらない、という可能性はありえる。

本日は中国の経済対策期待や、株価の戻りなどもあって再び上昇余地を探る動きになると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は続落し、255ドルに下落、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄筋先物は中心限月価格が上昇した。

中国政府が地方債の前倒し発行(2023年度分)する方針であると伝えられ、かつ、得た資金はインフラ投資に充てられると報じられたことで、減速している鉄鋼セクターの活動再開期待が高まったこと、そもそも鉄鉱石の在庫水準が低下していることから、在庫積圧力が相応にあることが材料となった。

なお、鉄鋼製品価格から類推される鉄鉱石価格は124.5ドル程度、原料炭価格は207.5ドル程度であり、現在の価格は鉄鉱石が割安、豪州原料炭はやや割高に推移していることになる。

ただし、一時、200ドル以上まで拡大していた流動性プレミアムは縮小しており、徐々に粗鋼生産と鉄鋼製品価格に見合った価格に収れんしていくと期待される。

本日は、中国の経済対策期待で鉄鋼製品先物価格に上昇圧力が掛かる中、鉄鋼原料価格も水準を切り上げる展開を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は総じて堅調な推移となった。実質金利は乱高下してほぼ前日と変わらない水準となったが、ドル安が進行したことがリスク・プレミアムを押し上げた。銀価格はほぼ金価格と同じ値動きとなり小幅高。

PGMはロシアのPGM供給減少への懸念が残存する中、株価の戻りもあって上昇した。なお、PGM価格に対する説明力が高い指標は余り存在せず、現状、両者ともETFの説明力が高い。

結果「市場参加者の思惑」や「センチメント」が価格に影響を及ぼしやすい。

本日の金価格は、原油価格の上昇が期待インフレ率を押し上げるものの、インフレ制御のQTは継続すると見られ実質金利が結局現状水準でもみ合うとかんがえられるため、同様にレンジワークとなるだろう。

一方、PGMは株価の戻りもあって、市場参加者のセンチメントが「やや」改善していることから高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。そもそも需給ファンダメンタルズはさほど良くない、タイトな状態が続いている中で、積み上がっていた投機筋(ファンド筋)のポジション解消の売りが価格を押し下げていたが、昨日の原油価格上昇や株価上昇を受けて、再びリスクテイク余力が回復したことが背景。

昨日発表のCONABの統計は以下の通り。

・7月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,167万ha(2,168万ha、2,166万ha)大豆 4,095万ha(4,093万ha、4,099万ha)

・7月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,566万トン(1億1,526万トン、1億1,522万トン) 単収 5,338kg/ha(5,321kg/ha、5,319kg/ha)大豆 1億2,405万トン(1億2,494万トン、1億2,427万トン) 単収 3,029kg/ha(3,055kg/ha、3,032kg/ha)

本日は、まずはこの2営業日の下落が大きいことから買い戻しが入ると考えているが、景気の先行きへの期待が後退しており、エネルギー価格上昇を抑制することからトウモロコシ価格の上値も抑えられ、頭重い展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「市場価格変動リスク制御ヘの取組みの重要性」

今日の日経新聞に、「価格転嫁不充分」という記事が掲載されていた。資源価格の高騰が続く中で業績が圧迫されていることは確実であり、かつ、価格の上昇は今後も続く可能性が高いからだろう。

この中で、企業の値上げの対応策の上位は

「仕入先との価格交渉(72.3%)」「設計や仕様の変更(54.3%)」「代替材料への置き換え(52.1%)」

となっている。しかし今回の価格上昇は仕入先が利益を拡大するために値上げをしている訳ではなく、仕入先も、販売先もコントロールが出来ない「市場価格の高騰」によるものである。

付加価値の高い下流の商品であればまた話は別であるが、原材料に近いところの価格は「市場価格+手数料+諸掛かり」などで販売価格が決定される。

原材料の種類にもよるがこの中で最もシェアが高いのが「市場価格」部分であり、価格構成要素の中で90%を超えるものも多い。

今回仕入先との価格交渉で実際に値引き画出来るのは手数料部分であり、その下げ幅は限定される。さらにこの状況でこの手数料部分が削られてしまった場合、仕入先の業況にも影響が発生し、現物自体の調達が出来なくなる可能性が出てくる。

そうなると「特殊な価格体系」を導入する企業が出てきてもおかしくない。

これに関しては、

2022年7月5日付MRA's Eye「サーチャージのリスク」

2021年9月28日付MRA's Eye「価格高騰時に特殊な価格で契約するリスク」

を是非ご参照頂きたい。

欧米ではこうした市場価格の変動リスクを制御するために、先物取引やデリバティブを活用するところが多く、それを決算資料は株主説明会で披露していることも多い。市場価格変動リスクへの取り組みが、株主の利益になると考えているためだ。

これまでの日本の十八番である数量削減「設計や仕様の変更」では対応仕切れないリスクが顕在化している訳であり、市場価格自体の制御への取り組みは今後、避けて通れない選択肢になると考えられる。

なお、代替品へのシフトは他社も追随してくるため、結果的に代替品の需要が増加して価格が上昇する、ということが起きること、代替品の市場価格も変動することから、よほど価格が安定している商品でない限り、価格変動リスクを制御する手段としては充分ではないだろう。

米国の利上げや金融引締めによって、一時的に商品価格の上昇が一服し、下落しているものも多いが、構造的な需要の増加(脱炭素や脱ロシアなど)やインド・中国の人口ボーナスが続くことを考えると、足下の価格下落は今後訪れる可能性がある。

価格が上昇している時は淡々と値下げ交渉を行うしかないが、価格上昇リスクへの取組みは、価格が下落しているあるいは安定している時でしか行えないことから、足下の価格下落は、「将来の価格上昇に備えるための体制整備・準備期間」と捉えるべきではないだろうか。


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