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米景気と中国ロックダウン懸念で軒並み大幅下落
  • MRA商品市場レポート

2022年7月6日 第2232号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米景気と中国ロックダウン懸念で軒並み大幅下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は特殊な事情がある商品を除けば大幅な下落となった。ここに来て急に、米国のリセッションへの懸念が強まったことが背景。上昇となったのは「ロシアの嫌がらせ」を受けているスポットガスとLNG。

昨日の値動きをみるに、特段手がかり材料がない中で日本時間の10時ちょうどから原油価格の下落が始まり、期待インフレ率の低下を助長してその他の商品価格を押し下げた。

特に景気循環系、インフレ系資産は期待インフレ率(10年ブレークイーブンインフレ率)の説明力が高く、この水準が低下することは、恐らくプログラム売買をしている投機筋などの売りを誘いやすい。

また、弊社の下期見通しのリスク要因ととして挙げていた「中国の再ロックダウン」が、経済規模2位の江蘇省で発生する懸念が強まっていること、上海でも大規模検査が始まっていること、マカオでも感染が拡大していること、など、顕在化しつつ有ることも、鉱物資源価格の下落要因となった。

7月1日に価格見通しをアップデートしたばかりであるが、特に鉱物資源に関しては中国のリスクシナリオが顕在化していることもあり、恐らく見通しよりも低い水準で推移することになりそうだ。

【本日の見通し】

本日は昨日の下落が大きかったことから、一旦買い戻しが入ると予想する。

市場参加者の関心が「景気の先行き」に移っていることもあり、米連銀総裁の発言や、FOMC議事録の内容に注目が集まることになると予想される。

FRBのスタンスは、インフレ抑制>景気、のプライオリティだろうが、仮に足下の下落を受けてタカ派トーンを弱める様なことがあれば、再びリスク資産に上昇圧力がかかることになるだろう。

繰り返し主張しているが、景気は昨年後半にピークアウトしているが、それでもインフレが抑制されていないため、やむなく利上げや金融引締めを加速している状態であるため、基本的に景気が循環的な減速局面に有るため、景気循環系商品価格に下押し圧力が掛かる可能性は高い。

本日発表の統計で注目は、米ISM非製造業指数。市場予想は以下の通り小幅な減速を見込んでいるが、景気に焦点が当たる中で仮に市場予想を下回った場合、さらに大幅な下落になるだろう。

6月米ISM非製造業指数 市場予想 54.0(前月55.9)

【昨日のトピックス】

既に少し前のニュースだが、ロシアがサハリン2の運営に関して、その権利を新会社に移管する大統領令にプーチン大統領が署名した。

これにより、三井物産と三菱商事は移管する新しい会社に対して出資をするというロシア側の要請を受入れて株主として存続するか、これを断り、株主であることを諦めるかを選択しなければならなくなった。

この場合、売却額はロシアの口座に振り込まれるが引き出しは出来ないということで、実質無償譲渡に近い。明らかにFreeportのLNGターミナル事故が起きて供給が制限される中、ドイツ向けのガス供給も減らしてスポットカーゴ市場をタイト化させ、さらに参議院選挙を控えたタイミングで「仕掛けてきた」のは明らかだ。

狙いは、西側諸国の世論に「もうロシアを制裁しても我々の生活が持たない」と認識させ、世論を変更させてロシア制裁を解除させる方針と考えられる。もちろんロシア側も輸出先がなくなれば、その分財政的には苦しい訳だが、西側消費国が置かれている状況の方が遙かに厳しいだろう。

今後は、1.両者が新会社に出資して契約を継続する、2.新会社に出資せずに調達を継続する、3.出資せず、契約を放棄される

の三択となる。

1.は欧米が足並みを揃えてロシアに制裁を行っている中で、欧米からの理解が得られるかどうかが不透明。また、ロシアは今後、LNGに関してもルーブル建てでしか支払いを認めない、としておりここも欧米と足並みが揃うかが不透明だ。

ただしイタリアなどはルーブル建てで決済を行っており、なし崩し的にルーブル建て決済が行われる可能性はある。

2.は通常株主が変わっても契約は継続するため「普通なら問題ない」が、このタイミングでロシアが「通常の対応」をするとは思えない。

3.が最悪だが、ロシアからの調達分をスポット調達に変更する必要が出てくる。この場合、仮に現在のロシアからの調達(5月平均12ドル程度)をスポットに変更した場合、25ドル~30ドル程度調達コストが上昇すると予想され、1兆円程度の調達コスト増となる。

ただ、これも調達が出来れば、という前提になるため仮に調達が出来なかった場合この夏や冬、在庫が尽きれば工場稼働停止や場合によると人命に関わる事故が発生することになる。

原子力発電所は今のところ自国の判断で稼働が可能な電力源であり、最早この年内稼働も視野に入れる必要が出てきた。省エネももちろんだが、あらゆる選択肢を駆使しなければ、今回ロシアが仕掛けてきた陰謀に打ち勝つことは難しいだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は大暴落した。目立った材料がない中で日本時間10時頃に前日終値を下回ったあたりから下げが加速した。

教科書的には供給面の改善はほとんどない中での下落であるため、景気の先行きへの懸念が強まっていること、価格上昇に伴うレーショニングへの懸念が材料になったと考えられる。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は87.07ドル(前日比▲10.96ドル)。

景気に再び焦点が当たっているため、次の焦点はOPECプラスというよりは7月28日のFOMCだろう。引締めペースを加速させた状態が続くのか、打ち止めなのかで今後の見通しはかなり変わってくることになる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態で「リセッション入り」が意識されている状態(シナリオを追加しました)。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル(リセッション入りの場合 110-140ドル)

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル(90-120ドル)

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル(80-115ドル)

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル(75-105ドル)

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル(70-95ドル)

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル(85-110ドル)

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル(70-100ドル)

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル(60-90ドル)

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル(40-60ドル)

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、昨日の下落が余りに大きかったこと、供給面の改善はまだ起きていないことから、一時的に買い戻しが入ると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。ロシアがサハリン2の強制接収を行おうとしていること、ドイツ向けのガス供給はメンテナンス終了後も回復しないのでは、との見方が強まっていることがスポット市場でのガス調達圧力を強めたため。

ノルドストリームの稼働をロシアが回復させる保証はなく、先行きの供給への不安は高い状態で、こういったストライキの発生は価格を押し上げることになる。なお、まだノルウェーからのガスネット輸出は減少していない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は7月3日時点で59.4%(前日59.0%)と増加。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も欧州・日本で顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアは恐らくそれを狙って日本やドイツに圧力を掛けているのだろう。

6月27日~7月3日の世界のLNGトレードだが、取引量は670万トン(前週778万トン)と減少した。スポット取引のシェアは20%(前週32%)と低下。

スポット契約は北欧向けが▲43万トンの大幅な減少。主にトルコの調達が減少したことによる。恐らくTurk Streamの再稼働が影響したと考えられる。南米の調達も▲25万トンと減少した。

一方、ターム契約分の調達は、JKCT向けは+24万トンの増加、北欧と東南アジア向けの輸出は▲29万トンの減少だった。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも低下。Freeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下している。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落した。米国のリセッションへの懸念が強まったことが材料となった。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は上昇。欧州のLNG・ガススポット市場需給がタイト化している中で、ロシアが日本に対して「サハリン2」に関して嫌がらせをしてきていることに伴い、日本がスポット調達に動かざるを得ないとみた市場参加者の調達圧力が強まったことが背景と考えられる。

米国からのカーゴ減少とロシアのガス供給の作為的な削減、欧州の調達圧力の強まり、北半球の猛暑、から価格は上昇圧力が掛かりやすいが、ここに来て再び中国がロックダウンとなる可能性が出てきたため、この影響は若干緩和されると考える。

しかし、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きだろう。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月26日時点の日本の発電用LNG在庫は215万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを大きく下回っている。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。

本日も供給面で消費者にとって状況が改善すると考え難く、米国のガス供給再開の遅れ、サハリン2の強制接収のリスクも考えるとスポットカーゴの需要は旺盛であり、日欧の天然ガス価格は高値維持の公算、HHは逆に低下余地を探る動きに。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇して400ドルに迫った。ロシアの嫌がらせを背景とする天然ガス価格・LNG価格の上昇で、代替燃料需要が増加していることが材料。

カロリーの高いロシア産石炭の西側諸国への供給停止により、高品位炭を求める動きが強まっていることが、豪州炭価格の押し上げ要因となっている。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の遅れヘの懸念が価格を押し上げている状況。

なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、まだ景気の減速が顕在化していないこと(石炭市場は投機筋が参入し難いため、足下の需給ファンダメンタルズの価格への影響が大きい)、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

しかし、中国で再びロックダウンの懸念が強まっていることから、上値も重いと考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は反落した。中国の長江デルタでコロナの感染拡大が懸念される中、上海が市内全16区のうち、9区でコロナの大規模検査を始め、マカオなどでも感染が拡大していることから、「ロックダウンが大規模に行われる可能性」が意識されたことが背景。

また、米国の金融引締めによる「意図的な景気後退」政策の効果が顕在化し始めており、非鉄金属価格に対する説明力が高いドル高(リスク回避)を助長したことも価格を下押しした。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)、2.株価が上昇すること、3.期待インフレ率が上昇すること、が揃う必要がある。

いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、現状、1.と3.は顕在化していない。恐らく、2.3.はむしろ年末に向けてもう一段の調整がある、という見方が強まっており、可能性という意味では1.しかない。

1.に関しては政権維持のために習近平国家主席も必死と考えられ、これまで計画している経済対策が今後、顕在化する可能性が高いと見ている。

そうなると、夏場は1.>2.3.、となり、年後半は1.<2.3.という展開が基本となり、非鉄金属価格は一旦上昇した後、中期的な見通しの通り、年後半から年初にかけて再度調整があると考えるのが自然である。

しかし、コロナの感染が確認され、再びロックダウンの動きが拡大している状況下、再び下落余地を探る可能性が出てきた。規模とロックダウン期間にもよるが、中国政府の経済対策の効果を相殺することになり、価格がそのまま上がらない、という可能性はありえる。

本日は株価が昨日は戻っていることもあって、一旦買い戻しが入ると考えるが、中国の再ロックダウンへの懸念から戻りも限定されるのではないか。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は続落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は中心限月価格が続落した。

中国のロックダウンが、長江デルタ地域、上海、マカオに広がり、不動産大手の破綻も報じられる中、中国の鉄鋼需要回復が遅れるとの見方が強まっていることが鉄鋼製品価格を押し下げており、鉄鋼原料価格にも影響したが、鉄鉱石の港湾在庫水準は過去5年平均を切っていることから、割安感からの買いが入ったと見られる。

一方、中国の原料炭の需給動向を占う上で参考になる、唐山市京唐港の原料炭港湾在庫は過去5年平均を回復しており、鉄鉱石よりも調達圧力が弱まった。

また、国内の原料炭生産も増加が見込まれることもあって、供給不安が後退、流動性プレミアムを吐き出す形で価格の調整が続いている。

鉄鋼原料・鉄鋼セクターは同じ鉱物資源でも非鉄金属に比べれば投機的な動きの影響を受け難く、需給ファンダメンタルズを反映した価格となりやすい。

弊社は中国政府の対策期待で鉄鋼製品・鉄鋼原料価格は上昇すると見ていたが、リスクシナリオに常に位置づけられるロックダウンの動きが拡大しており、鉄鋼製品価格も調整、当面鉄鋼原料価格は低水準での推移を余儀なくされると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は大幅な下落となった。景気の先行きが懸念される中、逃避需要でドル高が急速に進行、リスク・プレミアムを吐き出す形で金価格は下落した。

基準価格は前日比+4ドルの1,163ドル、リスク・プレミアムは▲46ドルの603ドル。

リスク・プレミアムは過去の信用リスクイベントが発生した時よりも遙かに高い水準にあるが、仮に過去5年平均程度まで戻るならば、▲400ドル程度の下げ余地があることになる。銀は金価格の下落を受けて20ドルの節目を割り込んだ。

PGMは供給過剰で銀との連動性が高いプラチナは大幅な下落となった、投機を除いても供給不足とみられるパラジウムは、株価の戻りを受けて前日比小幅プラスで引けた。

本日の金価格は、昨日の大幅下落の反動で一旦買い戻しが入ると考える。基本的に「リスク発生時の逃避資産」であるため、株価が調整したりその他の商品がリスクオフで売られる中では同様に売られやすい。

しかし、金利低下で株価が上昇しているため、金にも買い戻しが入るだろう。銀・プラチナも同様。

パラジウムも株価動向次第だが、堅調な推移を予想

◆穀物

シカゴ穀物市場は大幅に下落した。原油価格が景気の先行き懸念を材料に大幅に下落、石油製品価格も下落したことで、エタノール向けの需要減少観測が強まりトウモロコシが下落、大豆、小麦もそれに連れる形となった。

ラニーニャ現象の発生に伴う不作を織り込んで特にファンド筋が穀物を買い上がっており、過去5年の実績と比較しても高い水準の買越しとなっていたため、米国のリセッション懸念が強まる中で、ポジション解消の売りが強まったためと考えられる。

本日は、まずはこの2営業日の下落が大きいことから買い戻しが入ると考えているが、景気の先行きへの期待が後退しており、エネルギー価格上昇を抑制することからトウモロコシ価格の上値も抑えられ、頭重い展開を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水に拠る水不足や猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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