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欧米中銀の「贖罪」と日銀の「孤高」
  • MRA外国為替レポート

2022年6月20日号

◆先週の市場総括


先週は各国の金融政策動向をうけて株式・債券・為替市場はいずれも大きく変動した。

米国では、前週末の消費者物価指数がインフレ加速を示したことで、急遽、14日・15日のFOMCで0.75%の大幅利上げが実施されるとの見方が強まった。

市場はその後の大幅な利上げを織り込んで米長期金利が週初から大きく上昇。米10年債利回りは3.5%に迫った。

米国株はインフレ高止まり、急激な金融引き締め、景気後退懸念が強まり、長期金利急騰とともに株価が週初から急落。FOMC直後には予想通りの結果にひとまず下げ止まったが、週末にかけては続落した。

木曜日にはスイス中央銀行が予想外の大幅利上げを15年ぶりに実施。先進各国の強い引き締め姿勢に対する警戒感で株は続落した。NYダウは大台の3万ドルを割り込み年初来安値を更新。

一方、日銀は金融政策決定会合で現状の超金融緩和を維持。長期金利上昇を許容しない姿勢を堅持した。日経平均は26,000円割れに下落したが下げ止まり。

ドル円相場は米長期金利上昇を受けて週初に135円に乗せたが、株価急落・リスク回避・米長期金利低下による円買い戻しで133円台に下落。さらにスイス中銀による想定外の利上げが日銀の金融政策変更を警戒させ一時131円台半ばまでドル安円高が進んだ。

しかし日銀は動かず。

先進国のなかで唯一、超金融緩和を維持したことで、週末には円が全面安。ドル円相場は135円台に急反発して引け。ユーロ円相場も週初141円台前半で始まり木曜日には一時138円に下落したが、週末に急反発して141円台後半で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅安。前週末の米国株が強いCPIを受けてインフレ懸念・金融引き締め強化への懸念から大幅安となり市場心理が悪化したまま、東京市場でも売りが嵩んだ。

円安でも輸出関連株に買いは入らず。引けは前週末比▲836円安の26,987円と27,000円の大台を割った。

ドル円相場は朝方から大きく上昇。134円40銭で始まり135円ちょうどに上昇。さらに午後には135円20銭目前の高値をつけ20年ぶりの高値を更新した。

ただその後は国会で黒田日銀総裁が、最近の急激な円安の進行は経済にマイナスで好ましくない、政府と緊密に連携しつつ為替動向を十分に注視していく、と発言。株価下落によるリスク回避とともに円買い戻しが優勢となった。

夕刻には134円20銭に下落。ユーロ円相場は141円30銭で始まり朝方70銭に上昇したが、その後は横ばい。午後に入ると円高に振れて夕刻は140円60銭近辺。

ユーロドル相場は1.0520で始まり1.0480~90に下落して上下し、夕刻は1.0450近辺に一段安となった。

欧州市場でも株価は大幅安。米国株先物も下落するなかリスク回避のドル高、円高、が進んだ。円買い戻しの勢いが勝りドル円相場は米国市場朝方に133円60銭まで下落。ユーロ円相場も139円40銭に大幅安となった。

ユーロドル相場は1.0420へ続落。米国株は大幅続落し主要3指数は年初来安値を更新した。インフレ懸念が一段と強まるなか、今週のFOMC会合で0.75%の利上げが実施される可能性を織り込み、長期金利がさらに上昇。

米10年債利回りは一時3.4%台に上昇した。引けは3.362%。2年債利回りは3.367%。2年債と10年債の利回りは逆転し景気後退リスクを意識させた。

全面安のなかとくにハイテク株が大幅下落。NYダウは前週末比▲876ドル安の30,516ドル、ナスダックは▲530ドル安の10,809ドル。VIX指数は+6.27ポイント大幅上昇し34.02。

ドル円相場は米国市場では持ち直し。134円台を回復し、134円50銭~60銭で引け。リスク回避のなか、ドルと円が堅調。ドル円相場は米金利上昇が支えとなった。

クロス円相場は大きく円高に振れたがこちらも円高一服。ユーロ円相場は持ち直し140円ちょうど中心にもみ合い引け。ユーロドル相場は1.04ちょうど~1.0410で引け。境同時株安、急速なリスク回避、のなかビットコインも急落した。

火曜日の東京市場では日経平均が続落。米国株の大幅安を受けてシカゴ日経平均先物は下落していたとおり、東京市場が始まると下げ幅は▲500円を超え早々に26,400円台に下落した。

さらに昼前には▲600円超下落して26,300円台に。ただその後は米国株先物が持ち直したことから下げ幅を縮め、引けは▲357円安の26,629円。

ドル円相場は134円50銭で始まり朝方は133円70銭に下落したものの、株安一服でリスク回避が緩和したことで反発し134円70銭に上昇。ただ夕刻欧州市場朝方は134円ちょうどに下落するなど不安定な動きとなった。

ユーロ円相場は140円ちょうど近辺で始まり朝方139円50銭に下落。ただリスク回避の後退で持ち直し、夕刻は140円80銭近辺に上昇した。

ユーロドル相場は1.0410で始まり夕刻欧州市場朝方にかけて1.0480に上昇した。欧州市場では一転してユーロは下落。ユーロドル相場は大きく上下動しながら米国市場にかけてユーロ安ドル高が進んだ。一時1.04ちょうど近辺に下落して引けは1.0420近辺。

ドル円相場も大きく上昇して米国引けは135円40銭近辺。ユーロ円相場は140円ちょうどに下落したあと反発し、米国市場にかけて上昇し141円10銭近辺で引けた。

米国では急速に大幅利上げを織り込む動き。この日はFOMCの1日目が始まったが、今会合で0.75%の利上げが実施されるとの見方が大勢に。さらに次回7月も0.75%の利上げを実施し、来年とみられる利上げのピーク水準は4%に達するとの予測が市場の大勢となった。

これを反映して米長期金利はさらに上昇。10年債利回りは3.5%に迫り引けは3.479%。2年債は3.435%。

米国株はまちまち。NYダウは続落して▲151ドル安の30,364ドル。ナスダックはわずかに反発して+18ドル高の10,828ドル。発表された米国の生産者物価指数(5月)は前月比+0.8%、前年同月比+10.8%と予想通りだったがインフレ鎮静化はみられず。

水曜日の東京市場では日経平均は続落。前日の米国株が比較的落ち着いていたことから朝高も、FOMCの結果公表を前に引き締め警戒感からリスク回避が強まり下落。前日比▲303円安の26,326円で引けた。

ドル円相場は135円40銭で始まり早朝に60銭に上昇したあと。午前中にはリスク回避が強まるなか134円90銭に下落。その後昼過ぎまでは135円台を維持したが、午後から夕方にかけて下落し134円60銭~70銭でもみ合いとなった。

ユーロ円相場はアジア時間に乱高下。141円10銭~20銭で始まり141円を中心に次第に振れ幅を拡大し140円60銭~141円40銭で上下し夕刻にかけては140円90銭~141円40銭で上下。

ユーロドル相場は1.0420近辺で始まり夕刻欧州市場朝方にかけては1.0510まで上昇した。ただ欧州時間に入るとユーロは大きく下落した。

ECBが緊急会合を開催。このところの周辺国債利回り上昇、ドイツ国債との利回り格差拡大への対応を検討。柔軟にこれら国債を購入するよう決定した。

大きく上昇していたイタリア10年国債利回りは3.7%台に低下。ECBの柔軟な姿勢をうけてユーロは下落。ユーロドル相場は1.0380~90に下落した。

ユーロ円相場は米国時間に139円60銭に下落。注目のFOMCでFRBは0.75%の利上げを決定。

声明文では2%のインフレ目標達成に強くコミットする、とタカ派のトーンが示された。メンバーの予想では、年末のFF金利水準は3.25%~3.50%、来年は3.75%とされた。

成長率見通しは下方修正し今年は1.7%。景気後退は避けるとの見通しを示した。パウエル議長は会見で、0.75%の利上げは異例、としつつ、次回7月の利上げ幅は0.50%か0.75%とし、9月の見込みは示さず。声明文よりはややハト派のトーンの会見となった。

株式市場では警戒感が後退し持ち直し。NYダウは+303ドル高の30,668ドル、ナスダックは+270ドル高の11,099ドル。VIX指数は▲3.07ポイント低下して29.62。

原油価格WTI先物は景気減速見通しを受けて下落し115.31ドル。

米10年債利回りは低下して3.293%、2年債利回りは3.216%。ドルは下落。

ドル円相場は133円50銭に下落したあと引けは133円80銭。ユーロドル相場は1.0470に反発したあと引けは1.0440近辺。ユーロ円相場は139円60銭~140円ちょうどで上下し引けは139円80銭近辺。

ドルインデックスは105ポイント台から104.80へ下落した。

発表された米国の小売売上高(5月)は前月比▲0.3%と前月+0.9%から急減速し予想を下回った。NY連銀製造業景気指数(5月)は前月▲11.6から改善も▲1.2とマイナスのまま。

木曜日の東京市場では日経平均は小幅上昇。FOMCを通過したこと、米国株が反発したことによる安心感から一時+600円の大幅高。しかしアジア時間に米国株先物が反落したことで上げ幅が縮小。

日銀の金融政策決定会合を前に様子見姿勢も強まった。引けは+105円高の26,431円。

ドル円相場は133円80銭で始まり134円60銭に上昇。その後夕刻にかけては134円30銭~60銭で上下した。

ユーロ円相場は139円80銭から140円60銭に上昇したあと140円ちょうど近辺に反落。

ユーロドル相場は1.0440で始まり1.0460に上昇したあと反落して夕刻は1.0380~1.0420。欧州市場に入るとユーロが大幅高。および円が急騰した。

この日金融政策決定会合を開催したスイス中央銀行が予想外の利上げを実施。現状の▲0.75%から▲0.25%へ0.50%の大幅利上げを実施。利上げは15年振り。さらなる利上げを否定せず。

スイスフランは対ドルで0.9980近辺から0.9780近辺へ大きくドル安スイスフラン高に振れた。スイス中銀の想定外の大幅利上げで、日銀が金融政策を変更するのではないかとの思惑が強まり円は全面高。ドルは急反落。ドル円相場は132円40銭に大幅下落。ユーロ円相場も138円ちょうど近辺まで下落した。

ユーロドル相場は1.0600近辺に大きくユーロ高ドル安が進んだ。

米国株は前日の反発をすべて打消し、さらに大幅下落。相次ぐ金融引き締め、さらに発表された米国の経済指標がいずれも弱く、金融引き締めによる景気後退懸念が大きく広がった。

NYダウは一時前日比▲900ドル急落したあと下げ止まり引けは▲741ドル安の29,927ドルと大台の30,000ドルを割り込み年初来安値を更新。ナスダックは▲453ドル安の10,646ドル。VIX指数は+3.33ポイント上昇して32.95。

米10年債利回りは一時3.5%をつけたが、景気悪化懸念・株安・リスク回避で3.28%に急低下。2年債利回りは3.09%。ドル円相場は131円50銭まで下落したあと132円20銭近辺にやや持ち直して引け。

ユーロドル相場は引けにかけてドル安一服となり1.0550近辺。ユーロ円相場は138円ちょうど~60銭で大きく上下したあと139円台後半に反発して引けは139円50銭。

ドルインデックスは103.83ポイントまで下落した。

米国の経済指標は、住宅着工件数(5月)が季節調整済み年率換算で前月1,724千戸から1,549千戸に大幅減。建築許可件数も1,819千戸から1,695千戸へ。

週次の失業保険新規申請件数は前週の数字が229千人から横ばい。継続受給者数は1,306千人から1,312千人に微増。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(6月)は前月2.6から▲3.3へ悪化し2020年5月以来のマイナスとなった。

金曜日の東京市場では朝方から円安基調。この日の日銀金融政策決定会合2日目で政策据え置きとの見方が広がると円が軟調に推移した。ドル円相場は132円20銭で始まり133円40銭近辺へ上昇。ユーロ円相場は139円50銭から140円50銭へ上昇した。

昼頃に公表された結果は現状維持。それをうけてドル円相場は134円50銭へ、ユーロ円相場は141円70銭へさらに急騰。その後は黒田総裁の会見待ちとなり、一旦、警戒感から円安は一服し、ドル円相場は133円60銭に、ユーロ円相場は140円80銭に反落した。

日経平均は米国株大幅安、相次ぐ各国の利上げによる景気悪化懸念から一時▲700円超下落した。しかし日銀が政策を維持したことで下げ幅を縮めて引けは前日比▲468円安の25,963円。

黒田総裁は会見で急激な円安は好ましくないとしつつも、現状の金融緩和を粘り強く続けるとの姿勢を堅持。長期金利の変動幅を拡大すれば海外からの金利上昇圧力を受け金融緩和効果が失われるとの見解を示した。

発言をうけて再び円は下落。欧米市場にかけてドル円相場は135円40銭まで上昇し、その後米国市場の引けにかけてはポジション手仕舞いでやや下落して135円ちょうど近辺で引け。

ユーロ円相場は142円ちょうどに上昇したあと、ユーロ安ドル高をうけて141円ちょうどに反落し、引けは141円60銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.0550近辺で始まり、夕刻には1.05ちょうど~1.0550で上下動。その後欧米市場では1.0450へ下落。米国市場引けにかけて持ち直して1.05ちょうど近辺。

米国株は上値の重い展開。世界景気減速観測をうけて原油価格が大きく下落。インフレ懸念がやや弱まり消費悪化懸念もやや後退。しかし強力な金融引き締めで景気懸念は根強く上値の重い展開となった。

NYダウは前日比▲38ドル安の29,888ドル。ナスダックは+152ドル高の10,798ドル。

パウエル議長は、FRBメンバーはインフレ率を2%の目標に戻すことに集中している。ミネアポリス連銀総裁は、7月次回会合での0.75%利上げを支持し、その後9月会合は0.50%で0.75%には反対の意向を示した。

カンザスシティ連銀総裁は、今回6月の会合で利上げ幅0.50%を主張して反対したが、バランスシート縮小を開始するタイミングで不確実性が高まるためであり、大幅な利上げに反対しているわけではない、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


月曜日の米国株式・債券市場は休場。

1.パウエル議長議会証言、FRB当局者発言

今週、FRBパウエル議長は半期に1度の議会証言を、水曜日に上院、木曜日に下院で行う。先週のFOMCで0.75%の大幅利上げを実施したが、その趣旨を説明あるいは議員の質問に答えることになる。

インフレ抑制の見込みや景気後退リスクについて問われることとなろう。

あらためて強力な金融引き締めスタンスを確認することとなるか。

またFOMCが終了したことで当局者の発言機会、討論会や講演が多く予定されている、メンバーが景気やインフレの現状・先行きや金融政策スタンスをどのように考えているか。ドルにプラスとなるか、あるいはドル高に警戒的となるか。株価の反応も含めて気になるところ。

2.米国の経済指標

景気後退懸念が一段と強く意識されるなか、経済指標が懸念を助長するか。米長期金利やドルの反応はどうか。

火曜日 シカゴ連銀全米活動指数(5月)、中古住宅販売(5月、季節調整済み年率換算、予想540万戸、前月561万戸)

木曜日 PMI景況感指数(6月速報、製造業、予想56.0、前月57.0、サービス業、予想53.9、前月53.4)米週間新規失業保険申請件数、カンザスシティ連銀製造業活動指数(6月)

金曜日 ミシガン大学消費者信頼感指数(6月確報)新築住宅販売(5月、季節調整済み年率換算、予想590千戸、前月591千戸)

3.欧州の経済指標、ECB理事会議事要旨、当局者発言

欧州でも利上げが相次いでいる。すでにECBは7月の利上げを確定、9月も追加実施しマイナス金利から脱する予定。一方でイタリアなど財政状況の悪い国の国債利回りが上昇していることにも対処を迫られている。

また景気悪化懸念も燻る。難しい舵取りが求められるなか、景況感や発言、政策指針は注目される。

月曜日 ラガルドECB総裁発言

水曜日 ユーロ圏消費者信頼感指数(6月、予想▲20.5、前月▲21.1)

木曜日 PMI景況感指数(6月、ユーロ圏、製造業、予想53.8、前月54.6、サービス業、予想55.5、前月56.1)ECB議事要旨公表

金曜日 ドイツIFO景況感指数(6月、予想92.7、前月93.0)

ほか、金曜日には日本の消費者物価指数(5月)が発表となる。全体は前年同月比で2.5%の上昇予想。エネルギー・食料品を除くベースでは同0.8%上昇が予想されている。

◆今週のMRA's Eye


欧米中銀の「贖罪」と日銀の「孤高」

先週、FOMCは0.75%の利上げに踏み切った。

足元のインフレ高騰が一向に収まらないことから、利上げ幅は、0.25%、0.50%、0.75%、と会合を追うごとに拡大し、金融引き締めを急速に強化している。

パウエル議長は2%のインフレ目標を達成することに強くコミットしていることをあらためて明らかに。景気よりも物価優先の姿勢を鮮明にした。

今回のFOMCメンバーによる景気物価予測では、景気が緩やかに減速し、インフレが徐々に目標に近づくソフトランディングシナリオが示された。しかし予測通りの展開は一段と難しくなってきたと思われる。

このところのFOMCメンバー予測は結果的に実現していない。

FOMCメンバーが、そもそも目標達成が難しいことを示すのは自己否定するようなもの。政策目標が達成された理想の状態へのシナリオを示すことは当然。問題はそれが実現できるかどうか。もはやメンバーの予測は参考値でしかなさそうだ。

これほどのペースで金融引き締めを実施し続ければ景気後退に陥らないと考えることのほうが難しい。

今後4%近くまで利上げが実施されると想定されるなか、すでに垣間見える景気減速がさらに深まり、早々に景気後退ないし景気急減速に陥ることは確実な情勢とみられる。

欧州でもECB、BOEがインフレ対策優先の政策に舵を切り、金融引き締め姿勢を強めている。なかでもスイス中銀が15年振りに利上げに踏み切ったことは市場にショックを与えた。

政策金利の水準としては、▲0.75%から▲0.25%へ、マイナス金利の幅を縮小したもので当然ではある。インフレ率が「正常化」し、さらに上昇気配がみえるなか、マイナス金利では道理が通らない。

そうしたなか、ECBは金融引き締め策による弊害への対応、政策の若干の修正にも踏み出した。ユーロ圏内ではイタリアなど財務格付けの悪い国の債券利回りが上昇。リスクプレミアムが上乗せされてドイツとの利回り格差が拡大した。

これに対してECBはこうした国の債券購入の道を広げ、格差拡大に歯止めをかける動きに出た。

振り返れば、中央銀行によるコロナ禍への対応が、やむを得なかった面があったとはいえ、適切ではなかった可能性がある。それをウクライナ紛争が鮮明に炙り出したかたちだ。

コロナ禍は感染拡大や行動規制による経済の強制停止であり、循環的な景気悪化ではない。需要が喪失したのではなく、モノへの需要はそのまま、ひととの接触を伴うサービスへの需要が急停止した。

また経済主体ごとに悪影響もまだら模様となった。こうした状況では金融緩和による景気下支えというマクロ政策が必ずしも適切ではなかっただろう。

金融政策よりも給付金など財政支出をともなうピンポイントの政府支援、あるいは保健政策が適切だ。

金融政策面も同様で、マクロ的に利下げや市場に資金を大量にばら撒くことではなく、資金繰りに窮した経済主体へのミクロ的な支援を行うべきだった。

ただ極めて不透明な状況で緊急避難的にやむを得ない面もあっただろう。政治的にも大胆な金融緩和が求められる局面だったかもしれない。

すでに感染拡大のなかでも堅調なモノへの需要は需給を逼迫させてインフレの芽を育てた。

ヒトが移動できないのならモノが移動するしかなく、これが物流を逼迫。生産や物流の現場にヒトが移動できないことで供給が逼迫した。

その後、ワクチン開発や感染拡大による免疫獲得で事態は徐々に沈静化。行動規制緩和でサービス需要も回復し始めた。急停止していた需要の再開に、供給回復が間に合っていないのがここまでの状況で、インフレ圧力が強まるのはやむを得ない。

こうしたミスマッチを一時的と判断し、異例の超金融緩和策の修正を緩慢に行おうとしていたのが、当初の各国中銀、FRBのスタンスだったと思われる。

しかし、極めて間が悪いことに、ウクライナ紛争が勃発し、世界的なエネルギー供給、食糧供給の悪化がさらに需給ミスマッチの拡大に追い討ちをかけた。

こうしてみると、本来は必要なかったコロナ禍に対する過剰な金融緩和を実施したことが、足元の急激な金融引き締めの原因ともいえそうだ。

コロナ禍で経済が急停止したが、停止した需要はサービス需要でありモノへの需要、消費は健在。財政支出拡大もありペントアップディマンドが積み上がった。

そこに状況改善、景気急回復となった。

急停止したものが急発進。Withコロナないし実質的には脱コロナによる景気過熱に対し超金融緩和政策の修正が間に合わず、株価急騰やインフレの助長を招いてしまったようにみえる。

理由はともかく、過剰な金融緩和を実施し高インフレとなったのでは、中央銀行は極めて居心地が悪いだろう。FRBが急激な金融引き締めに舵を切るのはもっともだ。

過剰なかつ本来は不必要だった金融緩和を急速に止め、さらに逆サイドの引き締めへ急速に向かうことは頷ける。

ECBは金利水準からみて微妙だが同様の状況。欧米で相次ぐ強力な急激な金融引き締めは、やり過ぎた緩和で結果的に高インフレを招いた「贖罪」ともいえる。

これに対して日銀は「孤高」を保っている。超金融緩和、量的緩和の継続をあらためて明確にした。これは偏に日本のインフレがなお低水準で保たれてきたことによる。

短期的には企業が収益を犠牲にして価格転嫁を抑制している面もあるだろう。ただ日本でも物価上昇率は消費者物価総合ベースで2.5%に達している。すくなくともデフレリスクはなくなっていることから過剰な金融緩和の修正ぐらいは行っても良い時期だ。

量的緩和にもはや意味はない。

ゼロ金利政策を維持していれば景気下支えには十分だろう。企業や個人は短期金利=ゼロ金利ベースの変動金利で資金調達は可能であり問題ない。

日本が物価の優等生であることはマイナスではない。強力な金融引き締めで景気が悪化するリスクが低いだけで十分だ。円の価値は対外的には下落しているが、物価高が抑制されているという点では相対的・国内的には米国よりも維持されている。

為替相場は資本の動きや金利の影響が大きいというが投機的に円売りし金利差を稼ぐことは可能だ。

しかし日米の景況格差が短期的に逆転する可能性、クレジットリスクの増大や株価調整継続も想定され、このままドル高円安が継続するかは注意深くみておく必要がありそうだ。


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