再びリスク回避で総じて軟調
- MRA商品市場レポート
2022年6月20日 第2220号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「再びリスク回避で総じて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はその他農産品など、自国通貨建ての商品価格が上昇したがその他は軒並み水準を切下げた。
前日はリスクテイクの再開観測でドル安が進行し総じて堅調な推移となってたが、昨日は再び長期金利が上昇、ドル高も再開、株も調整圧力が強まったため総じてリスク回避の動きが強まった。
米国が3連休になることもあって、ポジション調整の売りが嵩んだともいえる。
昨日最も下落したのがエネルギーセクターであり、米景気の悪化観測を背景に原油が急落、それを受けて石油製品価格も調整している。
正直、インフレの動向や景気の動向など、米FRBですらどうなるかよく分かっていない、というのが現状だろう。そうなるとこれもまたなんともいえないところだが方向性がはっきりしない中ではポジションも取りづらく、足下の商品需要を支えるのは実需が主体になる、ということになる。
そのように考えた場合、景気を悪化させてでもインフレを抑制したいと考えているFRBの方針を考えると、景気循環系商品価格は年末に向けて需要面で下押し圧力が掛かる展開になりやすい。
【本日の見通し】
週明け月曜日は米国市場が休場のため、動意薄い展開が予想される。しかし週末の下げが大きかったことから、まずは実需の買い戻しが入る、というこの数週間続いている動きになると予想される。
予定されているイベントではEU外相理事会が予定されている。議題はソマリア問題とエジプトに関する議論。
エジプトについてはイスラエル・エジプト・EUがLNG供給に関して合意をしている。
この他、ロシア・ウクライナ情勢についても議論される予定であるが、具体的に何か新しい材料が出てくるという感じではない。
ただ、6月23日から24日までEU首脳会議が行われ、ウクラナに関して議論する予定であり、それに向けた何かしら手がかりになる情報が出てくるかに注目したい。
【昨日のトピックス】
昨日は目立った経済統計の発表も余りなく、相場は大きく調整したが米国の3連休、週末を控えたポジション調整と見るのが妥当だったといえる。
ただ、ほとんど商品市場においては材料にならないが、日銀のオペレーションに限界が出つつあるようだ。現在、10年金利を0.25%以下に抑え込む無限指し値オペを行っているが、それ以外のゾーンが対象となっていなかった。
外国勢は海外金利の上昇や、日本の財政的な問題を背景に国債の利回りが上昇すると判断、先物市場で売りをいれ、連動性の高い7年のチーペストゾーンの現物利回りもこれに合わせて上昇した。
これにより国債の利回りカーブは7年ゾーンが10年ゾーンよりも高い、いびつな構造となり、日銀はこのチーペストを対象に買いオペを入れざるを得なくなった。
しかしそれをやったとしてもチーペストが変わるだけであり、実際には全てのゾーンの買入を行わなければ同様のひずみが発生することになる。
仮にそれを実施しようとした場合、日銀の保有国債残高は飛躍的に増加することになる。こうなると財政ファイナンスが行われていると見做され、さらに国債の利回りに上昇圧力がかかるリスクが高まることになる。
日銀の市場調整機能が不全に陥ってるとまでは言わないが、これまでの大規模緩和の大きな「ツケ」を日銀次期総裁は払わなければならない。この「ホスピタル・パス」を誰が受けるのか。
正直、何が起こるか分からない状況に突き進んでいるといえ、このような状態だと、円に対する信認喪失で、円安が加速するリスクシナリオもありえるのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は大幅に下落した。特段目立った材料はなかったが、米国の金融引締め加速観測と同時に、弱めの米統計が立て続けに発表されたこと、一方で米長期金利が再び上昇して断続的にドル高になったことが影響した。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2,の状態にあると考えられる。
今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが期待されるが、OPECプラスの結束を優先すると考えられるサウジアラビアやUAEが、米国の増産要請にどの程度応じるかは全く不透明。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(→)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) リセッションの場合 (↓↓)Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
週明け月曜日は米国市場が休場であることから動意薄いが、基本的には大幅に下落したため割安感があること、供給面の状況改善はまだ起きていないことから一旦買い戻しが入り、上昇余地を探る展開になると予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は下落した。Freeportのターミナル火災で供給面への懸念が高まったことが価格を押し上げていてが、一報を受けた後のショートの買い戻しが一巡したことで水準を切下げたと考えられる。
ガスや原油の販売収入を確保したいロシアが代替販売先がない現状で、欧州向けのガス供給を停止する選択肢は考え難いが、LNGカーゴ市場の需給がタイト化することは必至である以上、ロシア情勢の価格への影響度は高まっている状況。。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。
「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
現在、2.に関して、欧州域内最大の天然ガス生産国であるノルウェーの天然ガス生産が、定修・計画外停止両方の影響で大幅に減少、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。
Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。
報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年後半とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。
このため、ロシア産ガスからLNGヘのシフトがさらに困難になった可能性は高く、割安に推移していたスポット価格を押し上げ、これから本格化する夏場~冬場の調達が困難になることを意味する。
そして、欧州のこの窮状をみて「ロシアが意図的にガス供給を一部止める懸念」もショートポジションを取り難くし、価格を下支えしやすい。
LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、あと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
欧州全体のガス在庫は6月14日時点で52.1%(前日52.6%)と前日から減少している。ロシアのガス供給削減の影響が出ているようだ。
また、欧州域内で最大の貯蔵能力を有するウクライナの在庫積増し進捗状況は18.6%(18.4%)と遅々として進んでいない。
仮に冬場にガスが不足した場合、欧州諸国からウクライナへの融通も視野に入れる必要があり、冬場に天然ガスが不足するリスクは無視できない。
なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、供給が充分であっても受入側の都合でこれ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。米国のLNG供給制限もその動きを加速させるのではないか。
ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも急落。恐らくFreeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下した。
このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物市場は下落した。米国の景気が悪化するとの見方が再び強まっていること、需給面ではFreeportの火災の影響で輸出が減るため、米国内は在庫積増しが進むと見られることが、HH価格の下押し圧力となっている。
しかし中長期的には欧州向けのフローが増加することは確実であり、構造的には「絶対価格の水準訂正」が起きるステージにあるといえる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は欧州ガス価格の下落と景気への懸念から期近を中心に調整した。しかし30ドルを超える水準であり需給環境に大きな変化はないと考えられる。
FreeportのLNG輸出ターミナル稼働は年後半の見込みであり、夏・冬のピーク時の供給が逼迫するのはほぼ必定の状況。
アジアを含めた輸入者はターム契約が許す限りの上限で調達をすると考えられるが、夏・冬の気温次第でスポットカーゴの需要は増加するため、足下のリスクは上向きである。
なお、期先(2023年)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。
6月15日時点の日本の発電用LNG在庫は231万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを回復していない。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。
6月6日~6月12日のLNGトレードだが、取引量は700万トン(前週731万トン)と減少した。スポット取引のシェアは26%(前週31%)と低下した。
スポット契約はJKTC(日本、韓国、台湾、中国)向けが▲27万トンの減少となった。主に韓国の輸入が減少したことによるもの。
欧州向けもポーランドやクロアチアの輸入が減少したことで▲32万トンの減少となった。
一方、ターム契約分の調達は、JKCTで+55万トンの増加。主に中国向けであり、恐らくロックダウンが解除されることに伴う夏場の需要期に向けての調達と考えられるが、再びロックダウンの懸念が強まっているためなんともいえないところ。
欧州のLNG輸入は114万トンに達したが、前月の同時期からは▲21%低い水準。カタール・ロシアの供給減少を米国の輸出が相殺した。
週明け月曜日は景気というよりは季節的な在庫の積増しが始まる時期でもあり、堅調な推移を予想。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は上昇した。
基本、石炭とガスを「価格を見てスイッチする」ことができる様な発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇で、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の減少懸念(発電燃料の主力は引き続き石炭)が価格を押し上げている状況。
ただし中国のロックダウンの影響で同国の電力向け需要は低迷が予想され、海上輸送炭の需要も減少すると見られることから、価格の高騰は抑制されるだろう。
ロックダウンの影響がどの程度であるかを分析し難くしているのは、ロックダウンとほぼ同時期に欧州から打ち出された「脱ロシア炭」の動きと、これに伴うロシア以外の石炭需要の増加、豪州や南アフリカの洪水の影響による供給停止、豪州の寒波の影響による化石燃料輸出の制限といった事象が重なったこと。
しかし5月末からのロックダウン解除→再度のロックダウンの間の動きを見るに、ロックダウンによる中国国内の需要減少がより価格に影響を与える、といえそうだ。
しかしそれでも石炭価格は高い。在庫水準の低さ、夏場に向けた調達圧力、供給ソースの制限が背景にある。
期近と期先の価格差を流動性プレミアム(コンビニエンスイールドの効果)とするならば、180ドル程度の流動性プレミアムが付加されていることになる。
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。
結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。
日本も今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。
これに加えて電力供給不足を補うため、ドイツがロシアからのガス供給途絶に備えるため、休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。
本日も、欧州ガス価格の上昇が裁定的な取引を促すこと、上海ロックダウンの影響による中国の輸入需要の減少のせめぎ合いで高値維持の公算。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は続落した。予想通りまずは買い戻しが入り上昇する局面があったが、その後、再び米長期金利が上昇、ドル高が進行したことでファイナンシャルな影響で水準を切下げる動きとなった。
現状、中国のロックダウンや経済統計の鈍化(工業生産のみ前年比プラスに転じているが)が続いており、特に工業金属の先行指標となる住宅販売の落ち込みが続く中、ドル高が進行していること、それに伴う株価上昇、期待インフレ率の低下は価格の下落要因となる。
現状、ほとんどの金属でS&P500、期待インフレ率、ドル指数、の影響が大きくなっているのは事実で、言葉を換えると米金融政策動向が価格を左右しているともいえる。
一方で中国のロックダウンへの懸念や実態経済の回復の遅れは中期的なトレンドであり、基本的には価格に下向きの圧力を掛けるが、同時にロックダウン解除後のペントアップ需要も増加する可能性があるため、そろそろ上昇圧力となってもおかしくない。
なお、LMEは1ヵ月の通告期間を経て、LME市場参加者の全てのポジションを開示することを決定した。
取引の透明性を高めるため、としているが、顧客が保有するポジションの開示は、守秘義務などに違反する可能性があり、全てのポジションの開示は困難とみられるし、それを望まない市場参加者のLMEからの退場も懸念される。
今回の決定は取引の透明性を増すことが目的としているが、それをするならば、今回の「ニッケル取引の強制解け合い」が、いつどこの誰が、どのような経緯と判断でその決断を下したのかの詳細な情報を開示する方が透明性を増すためにも重要といえるし、順番としてはそちらが先だろう。
うがった見方をすれば、既に中国政府の支配下となった香港において、香港取引所に圧力がかかり、中国企業を救済するために強制解け合いを行ったと疑われても仕方がない(過去に類似の例も散見されている)。
LMEは非鉄金属の国際指標価格を提示する、極めて重要な国際取引市場であり、特定の国のコントロール下におかれている市場と同じであるべきではない。
このままだと、ICEやCMEに代替となる市場の整備が進んだり、場合によると今回の訴訟を通じてLMEを、ICEやCMEが買収する、ということもあるかもしれない。
週明け月曜日は米国市場が休場で様子見気分が強まるが、引き続きドル指数動向を睨みながら神経質な展開になると考える。
ただし当面は、1.朝方買い戻しが入り、2.中国経済の減速観測から引けに掛けて売られる、という流れが続きそうだ。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは続落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は大幅に下落した。
鉄鋼製品価格が在庫が増加、季節的には増加してもおかしくないタイミングでは有るが過去5年レンジを大きく上回っており、鉄鋼製品需給の緩和観測が価格を押し下げた。
週次の鉄鋼製品在庫は前週比+32万5,000トンの1,673万4,000トンと、過去5年平均である1,221万5,000トンを大きく上回っている。
鉄鋼原料も鉄鋼製品価格の下落で鉄鉱石価格は下落したが、海上輸送原料炭・中国原料炭市場の需給はタイトなままであり高値を維持した。
鉄鉱石の港湾在庫は前週比▲200万トンの1億2,630万トン(過去5年平均1億2,940万6,000トン)と、在庫水準は低く、相応の在庫積増し需要があることは確か。
原料炭の重要な輸入港である唐山港在庫は159万トン(前週比+10万トン)と、過去5年平均を回復している(なお、先週の統計は発表数字に誤りがあり、修正された)。
週明け月曜日も、中国のロックダウンの懸念と、米国の金融引締め加速観測による景気減速懸念が強まっていることから水準を切下げる展開を予想。
ただし、中国の工業生産の回復や在庫積増しの需要も相応に見込まれることから、絶対価格は高い水準を維持すると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。長期金利が再び上昇したこと、原油価格が景気の先行き懸念などを材料に大幅に下落、金利上昇の中でも期待インフレ率が横這いだったことで実質金利が上昇したことが背景。
また、ドル指数が上昇したことによるドル価の上昇がリスク・プレミアムを押し下げる形となった。
銀価格は金価格の下落と株価の調整を受けて金銀レシオを引き上げながら下落、PGMは中国の経済活動が戻らずセンチメントが悪い中で株価も調整したこともあり下げ幅を拡大した。
堅調な恣意を予想していたが、金利が再び上昇に転じたことで全く逆の展開になった。
週明け月曜日は米国市場が休場のため動意薄く、方向感の出難い展開となり現状水準でのもみ合いが想定される。ただ週末の下落が大きかったこともあって、まずは買い戻しから入ると予想される。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。昨日は改めて金融引締め加速への懸念が強まり、ドル高が進行したこと、それに伴い週末と米国3連休を控えたポジション整理の売り圧力が強まったことが背景。
ドル高進行で価格は下落するとみていたため、ほぼ予想通りの展開。
特に小麦は大きく水準を切下げ、100日移動平均線のサポートラインまで下落した。冬小麦の収穫が始まり、ハーベスト・プレッシャーに押されたと考えられる。
投機筋の動向を見ると、先週はロングもショートも軒並みポジションが落されており、スプレッド取引もポジションが落されている。
忘れがちであるが6月末は四半期末であり、一旦投機筋の利益確定の動きが強まりやすい時期でもあり、そうしたテクニカルな売りも価格を押し下げたと考えられる。
週明け月曜日はシカゴ市場は休場。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済に打撃を与える可能性も。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「FOMC金融引締め加速の影響」
6月15日に開催された米FOMCでは、「急に高まった市場の利上げ期待」に応える形でFRBは75bpの大幅な利上げを決定した。
通常、FRBは長期のインフレや経済見通しを元に政策を行うのだが、目先の市場動向を見て政策判断を行っており、正直一貫性がない、という印象を受ける。
各国中央銀行は政府の意向を受けて政策の舵取りを行うようになっている。これはリーマン・ショック以降、多数の危機が発生する中で政府との連携が必要になっていることもあるが、政府が中央銀行総裁の人事権を握っていることも影響していることは事実だろう。
今回もバイデン政権の意向を忖度した可能性はあるが、ただ、これまでの過剰な金融緩和による景気下支え、バブルをバブルで吸収する手法に限界が来ていること、「いつかのタイミングでこれを断ち切る」必要性があるのも事実であり、その意味ではこれまでのスタンスにこだわらず、出血覚悟で金融引締めを決定したことはある意味英断、ともいえる。
ともあれ今回の利上げを受けて、次回7月、9月のFOMCでも50bp~75bpの利上げが行われる可能性が出てきた。このことは、「景気を悪くしてもにインフレを抑制」する方針を鮮明にしているといえる。
結果、早期にインフレを沈静化出来れば、恐らく米政権からも要請があるだろう「2024年の大統領選挙に向けた金融・財政面のフリーハンド」が増えることになる。
しかし、現在の政策金利と、物価上昇率を用いた簡単な回帰分析を行うと、現在のコアCPIを元にすると10年長期金利は4.5%程度が妥当であり、もし今後、2回の会合で150bpの利上げが行われるのであれば、10年金利は5.6%まで上昇することになる。
期待インフレ率が仮に3%程度に落着くのであれば。政策金利が3.25%であればその程度までの金利上昇はあってもおかしくはない。
ただ、前回の2000年問題の時と状況が似ているためそのときと比較すると、比較的速やかに利上げが行われた後、景気が減速したため再び金融緩和に踏み切り、長期金利も低下している。
恐らく今回も一時的な金利のスパイクはあるかもしれないが、(望むべくは)年後半に掛けて金利上昇が一服、その後は3%台後半に向けて再度上昇、という展開になるのではないか。この展開であれば、経済へのマイナスの影響は、比較的軽微に止まると期待される。
しかし、金融引き締めやQT実施による「信用収縮」や「流動性の低下」はこれから本格化する見込みで、ハードランディングに繋がるリスクもはらむのも事実。
過去の北米のハイイールド債のスプレッドを見ると、リーマン・ショック以降、米国の利上げ・QT時に発生した上海株ショックやOPECショック、米中対立が激化時のクレジット・スプレッドの水準に迫る。そしていずれの場合も原油・銅価格が下落している。
流動性に関してもリーマン・ショック後のFRBのバランスシートの変化を見ると、バランスシートの拡大と共に原油・銅の価格は上昇し、バランスシート拡大が終了するタイミング、圧縮のタイミングで水準が切り下がっている(銅は2011年頃から下落しているが、これは人口動態のピークアウトや、4兆元経済対策が終了したことによるもので、リビア危機で供給が減少していた原油とは需給の状況が異なる)。
「直接的に」こうした緩和マネーが商品市場に流入して買いを入れて価格が上昇したとは考え難いが、流動性の低下が結局商品価格に影響を及ぼしていることが分かる。
今後、金融引き締めが加速する中ではクレジット・スプレッドは拡大し、流動性の低下が価格を下押しする可能性は高く、供給問題の解消があればやはり価格には下押し圧力が掛る見通しである。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
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