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中国統計若干改善と予想通りのFOMCで買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2022年6月16日 第2218号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中国統計若干改善と予想通りのFOMCで買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は非鉄金属やその他の農産品価格が上昇、原油は下落した。最も上昇したのが米Freeportの火災の影響で供給制限が必至の欧州天然ガス。しかし総じて昨日は堅調だった、という印象である。

中国の重要統計が発表され、やはり個人消費の回復が遅れていることが確認されたが、予想外に工業生産が前年比でプラスとなったことが、「ほぼネガティブな材料しか出てきていない、中国の先行き」に関して市場参加者のセンチメントを若干明るくしていたことも、価格を押し上げた。

注目のFOMCは市場予想通り75bpの利上げ。7月も75bpの利上げを否定しなかった。しかし75bpの利上げは基準にならずQTに関しても特段の変更はなく、9月以降の政策に関してコメントがなかったことで、「早期に大幅な利上げを行って年後半は流すのではないか?」との見方が広がった。

結果、長期金利低下・期待インフレ率上昇・株高、とよくよく考えるとFRBが余り望まない結果に(ただし株の投資家からすればポジティブな内容)。

なお、市場参加者は、7月会合で75bpの利上げを79%と見ており、9月は7月に75bpの利上げを行ったのち、50bp程度の利上げ、11月も50bp、12月は25bp程度を見込んでいるようだ。

このままのペースの利上げが可能になる、ということは今年の夏から秋にかけての景気減速によるインフレ抑制が成功する場合だが、後は市場の期待と裏腹にCPIの上昇が発生しないかどうか。中国のロックダウンの影響も受けるため、まだ先行きは不透明である。

【本日の見通し】

本日は昨日のFOMCの結果を受けて市場参加者のリスクテイク意欲が回復しているため、総じてリスク資産に上昇圧力が掛かる展開を予想する。

円安は昨日のFOMCを受けてやや一服しているが、欧州の政策動向も無視できないため、本日予定の英中銀・スイス中銀の政策金利には注目したい。

また、米国の金融引締め策がどの程度実態経済に影響を与えているかを占う上で重要な、米住宅着工(市場予想 前月比▲1.8%の169.3万戸、前月▲0.2%の172.4万戸)、先行きの指標である着工許可件数(▲2.5%の177.8万戸、▲3.0%の182.3万戸)にも注目。

また、ISM指数・GDPの先行指標の1つであるフィラデルフィア連銀指数(市場予想5.0、前月2.6)も金融引締めが行われる中で重要に。

【昨日のトピックス】

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースで+0.7%(前月▲2.9%)と小幅に回復したが、1-5月累計では前年比+3.3%(1-4月期+4.0%)と減速した、ロックダウンが経済活動を顕著に鈍化させていることによるもの。

住宅セクターは加熱沈静化を目的とした政策が2020年夏頃から採用されているが、コロナの影響とロックダウンの影響で1-5月の不動産開発投資は前年比▲4.0%の5兆2,134億元(1-4月期▲2.7%の3兆9,154億元)と減速傾向が持続している。

住宅販売はそれに輪を掛けて不調で、前年比▲34.5%の3兆3,249億元(1-4月期▲32.2%の2兆6,073億元)となった。住宅セクターバブル崩壊のリスクはまだ残存している。ただ銀行の不動産向け貸出のシェアは低下していることから金融危機になるリスクも低下している。

ストック需要の指標である固定資産投資も1-5月期が6.2%(1-5月期が前年比+6.8%)と減速、公的セクターが+8.5%(+9.1%)、民間セクターが+4.1%(+5.3%)と共に減速している。明らかにロックダウンの影響だろう。

現在、中国のGDPに占める個人消費の比率も高まっているが、個人消費の指標であり小売売上高は1-5月期が前年比▲1.5%の17兆1,689億元(1-4月期▲0.2%の13兆8,142億元)と減速している。単月では前年比▲6.7%の3兆3,547億元(▲11.1%の2兆9,483億元)とマイナス幅が縮小しているが、依然、中国が置かれている状況は厳しい。

とは言え、今夏に3期目の続投を北戴河会議で長老に確認する習近平国家主席がこのままの景気減速を容認出来るとは考え難く、経済通の李克強首相も「国難」として習近平主席を支える意向であり、景気刺激策がハードランディングを回避するとの期待はある。

しかし、党大会終了まではゼロコロナ政策=ロックダウン継続、が見込まれるため先行きの見通しのリスクは下向きと言わざるを得ない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は総じて軟調な推移となった。リビアの供給不安は続くものの、米国の金融引締め加速観測、それに伴う需要減少観測が強まったことが背景。

また、昨日発表された米週間石油統計が予想比原油ベアであったことも価格押し下げに寄与した。

なお、IEA月報はかなり需給逼迫を指摘する内容だったが、欧州に本拠を置くIEAの見通しは「これだけ需給がタイトなので、増産を」というスタンスになりやすく昨日はさほど材料視はされなかったようだ。

昨日の石油統計で弊社が注目したのは原油生産が前週比+0.1MBD増加の12.0MBDになった点。かなり遅れていたが米国の生産が回復したことが昨日の下落の主因だったのではないかと考えている。

一方で石油製品の出荷は堅調で、ガソリン、ディスティレートとも過去5年平均程度の推移となっており、製品全体の出荷も過去5年平均を上回っており、価格上昇にもかかわらずまだ明確にレーショニングは起きていない。

輸出も含めた総出荷は過去5年レンジを上回っており、やはりまだ需要は堅調といえる。しかし米FRBの金融引締めや循環的な景気の減速もあって、年後半にかけての価格下落の可能性は高い。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2,の状態にあると考えられるが、リビアの減産によってむしろ2.の状態に近くなったと考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが期待されるが、OPECプラスの結束を優先すると考えられるサウジアラビアやUAEが、米国の増産要請にどの程度応じるかは全く不透明。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(→)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      リセッションの場合 (↓↓)Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は昨日のFOMCがタカ派だったものの想定内とされ、リスクテイク意欲が回復していることから、ファイナンシャルな面で上昇余地を探る動きになると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に上昇した。米Freeport社のLNGターミナル火災からの復帰が年後半になる可能性が高いことで、需給逼迫懸念が現実のものとなりつつあることが材料。ショート筋の買い戻しが続いていると考えられる。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、欧州域内最大の天然ガス生産国であるノルウェーの天然ガス生産が、定修・計画外停止両方の影響で大幅に減少、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年後半とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。

このため、ロシア産ガスからLNGヘのシフトがさらに困難になった可能性は高く、割安に推移していたスポット価格を押し上げ、これから本格化する夏場~冬場の調達が困難になることを意味する。

そして、欧州のこの窮状をみて「ロシアが意図的にガス供給を一部止める懸念」もショートポジションを取り難くし、価格を下支えしやすい。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、あと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

欧州全体のガス在庫は6月13日時点で52.6%(前日52.3%)と順調に在庫が積み上がっている。しかしFreeport社の事故の影響で、10月までに90%の在庫積増しは微妙になってきた。

また、欧州域内で最大の貯蔵能力を有するウクライナの在庫積増し進捗状況は18.4%(18.3%)とほとんど在庫が積み増しできていない状況。

仮に冬場にガスが不足した場合、欧州諸国からウクライナへの融通も視野に入れる必要があり、冬場に天然ガスが不足するリスクは無視できない。

なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、供給が充分であっても受入側の都合でこれ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。米国のLNG供給制限もその動きを加速させるのではないか。

ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも上昇しているが、特に以西の価格が季節性を無視して顕著に上昇している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物市場は上昇。米国の気温見通しでテキサスやフロリダなどの南東部の気温が大幅に上昇する見通しであることから、テキサスLNGターミナルでの火災の影響が長期化したことで大幅に天然ガス価格が下落していたこともあり、安値拾いの買いが入った形。。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が小幅下落、期先が大幅低下となった。Freeportの火災を巡るLNGカーゴ市場の需給逼迫が価格を下支えしているが、一昨日の上昇の反動とみられる。

ただ、FreeportのLNG輸出ターミナル稼働は年後半の見込みであり、夏・冬のピーク時の供給が逼迫するのはほぼ必定の状況。

アジアを含めた輸入者はターム契約が許す限りの上限で調達をすると考えられるが、夏・冬の気温次第でスポットカーゴの需要は増加するため、足下のリスクは上向きである。

なお、期先(2023年)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月15日時点の日本の発電用LNG在庫は231万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを回復していない。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。

6月6日~6月12日のLNGトレードだが、取引量は700万トン(前週731万トン)と減少した。スポット取引のシェアは26%(前週31%)と低下した。

スポット契約はJKTC(日本、韓国、台湾、中国)向けが▲27万トンの減少となった。主に韓国の輸入が減少したことによるもの。

欧州向けもポーランドやクロアチアの輸入が減少したことで▲32万トンの減少となった。

一方、ターム契約分の調達は、JKCTで+55万トンの増加。主に中国向けであり、恐らくロックダウンが解除されることに伴う夏場の需要期に向けての調達と考えられるが、再びロックダウンの懸念が強まっているためなんともいえないところ。

欧州のLNG輸入は114万トンに達したが、前月の同時期からは▲21%低い水準。カタール・ロシアの供給減少を米国の輸出が相殺した。

本日は米Freeport社の供給回復に時間が掛ることが確定したことで、広く2022年内の価格に上昇圧力が掛かる展開を予想、米HH価格は昨日の大幅下落もあって一旦買いが入るだろうが、続落の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇して高値を維持。欧州のガス価格の上昇を受けて、石炭の価格優位性が増したことが材料。ただし、中国のロックダウンの影響により最大消費国である中国の電力需要が減少する見通しであることが上昇余地を限定した。

ロックダウンの影響を分かり難くしているのは、ロックダウンとほぼ同時期に欧州から打ち出された「脱ロシア炭」の動きと、これに伴うロシア以外の石炭需要の増加、豪州や南アフリカの洪水の影響による供給停止、豪州の寒波の影響による化石燃料輸出の制限といった事象が重なったこと。

しかし5月末からのロックダウン解除→再度のロックダウンの間の動きを見るに、ロックダウンによる中国国内の需要減少がより価格に影響を与える、といえそうだ。

しかしそれでも石炭価格は高い。在庫水準の低さ、夏場に向けた調達圧力、供給ソースの制限が背景にある。

期近と期先の価格差を流動性プレミアム(コンビニエンスイールドの効果)とするならば、180ドル程度の流動性プレミアムが付加されていることになる。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。

日本も今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。

これに加えて電力供給不足を補うため、ドイツがロシアからのガス供給途絶に備えるため、休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。

本日は、上海ロックダウンの影響とLNGスポットカーゴの不足による価格優位性から現状水準でもみ合い推移を予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。予想通りだがこの数日間の下落幅が大きかったことで実需筋の安値拾いの買いが入ったため。また、日本時間の11時に発表された中国の工業生産が、想定外に前年比プラスになったことで、需要回復期待が高まったことも価格を押し上げた。

ただし、上海は7月まで大規模なPCR検査を継続する見込みであり、恐らく党大会まではロックダウンが不定期に発生する可能性は高く、米国の金融引締め強化観測も手伝って引けに掛けては上げ幅を削る展開で上値は重かった。

足下の需給環境を占う上で参考になる指標はいくつかあるが、市場単価社が広く確認することが可能なオフワラント率を見ると、昨日はアルミを除く全ての金属で低下が確認されており、現物の払い出し需要が低下していることが窺える。

また、全ての市場参加者が確認出来る需給指標である期間構造は、銅、鉛、アルミ、ニッケルがコンタンゴとなっており、足下の需給は緩和しているといえる(ただし物流の停滞もあって地域毎の現物の取得し難さに跛行性があることは事実)。

やはり、中国の活動の回復の遅れと、インフレ抑制のための金融引締めで年後半に向けての景気のトレンドが下向きになっている、と見る市場参加者が多いということだろう。

本日は昨日のFOMCが75bp、予想通りの利上げとなったほか、足下の利上げペース加速、年後半減速はある意味市場が望む見通しであるため、恐らく金融面での影響は限定されると考えられ、むしろ昨日の中国の統計が一部改善したことを材料に、上昇余地を探る動きになると考える。

しかし、ロックダウンやそれでも米国は景気減速方向に舵を切っていることから上値も重いと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは続落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は直近限月が変わらず、中心限月が下落した。

上海は7月末まで大規模なPCR検査を毎週末実施する見通しで、再びロックダウンの懸念が強まるとして鉄鋼製品先物価格が下落、これを受けて鉄鋼原料価格も水準を切下げた。

昨日の中国工業生産が前年比プラスに転じたことは余り材料にされなかった。

中国の鉄筋価格は例年よりも高い状態が続いていたが、このロックダウン期間の需要減少で水準を切下げており、価格面では過去5年レンジまで水準を切下げている。

本日も中国のロックダウンの懸念と、米国の金融引締め加速観測による景気減速懸念が強まっている一方、中国の一部の統計に改善の兆しが見えていることが鉄鋼製品先物価格を押し上げるため、現状水準での推移を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。注目のFOMCは想定通りの75bp利上げだったが、今後も75bpの利上げを行うことに関して、7月はその可能性を示唆したが、9月以降に関しては言及がなかったこと、カンザスシティ連銀ジョージ総裁が50bpの利上げを主張する、などFOMC内部が一枚岩ではなく、過度な引締め観測が後退して金利が低下したことが材料となった。

金の基準価格は大幅に上昇し、前日比+70ドルの1,132ドル、リスク・プレミアムは▲44ドルの702ドルに低下した。

銀は金価格の反転上昇と、株価の上昇に支えられ大幅に上昇、金銀レシオは86.0倍(前日比▲0.4倍)と低下した。

PGMは相対的に株価の影響も受けやすいが、金価格を上回る上昇となった。

本日は、米国は足下利上げを急ぐが、リセッション入りするまでの利上げはどうも見送る方針であることから、金価格は上昇、銀・PGMは株価も上昇が予想されるため上昇余地を探る動きに。

◆穀物

シカゴ穀物市場はもみ合った結果高安まちまち。新規手がかり材料に乏しい中、テクニカルな売買に終始した、という印象である。

米FOMCは市場予想通りの75bpの大幅な利上げが行われたが、先々の75bp利上げ継続には否定的な見方をしたため評価が分かれるところ。これを受けてドル指数が乱高下したため、ほぼこれに連れる様な動きとなった。

本日はFOMCの評価は分かれるものの、株式市場は結果を好感して上昇しており、リスク選好回復と米金利低下がドル安を促すため、堅調な推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済に打撃を与える可能性も。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「スズ価格は値幅のリスク大きく」

はんだに用いられるスズの価格は40,000ドルを超える高値で推移していたが、ここに来て急速に水準を切下げている。

スズの需要は半導体の出荷状況に左右されるが、その半導体出荷が昨年頭打ち、その間、電力供給不足などでスズ供給に懸念が生じ半導体出荷と関係なく高値を維持していた。

しかし、足下のLME指定倉庫在庫の増加や、非鉄金属需給の指標であるタイムスプレッドが、その指定倉庫在庫の増加を受けて軟調に推移しており、実際に需給ファンダメンタルズはやや緩和方向にあると考えられる。

MBなどのデータを元にすると、2022年のスズ需給は、▲2.2千トンの供給不足と前年の▲8.6千トンの供給不足から供給不足幅が縮小する見通し。

需要はロシア問題を背景とする経済活動の鈍化により、欧州需要が減少(▲2.5千トン)、世界全体で+2.8千トンの389.3千トンとなる一方、生産は中国の生産回復(+7.4千トン)で全体で+9.2千トンの389.3千トンとなることで需要増加を供給増加が上回る見通しであることが背景。

しかし、2023年は▲10.6千トンと供給不足幅が拡大する見込みで、スズ価格には上昇圧力が掛かる公算。主に、需要の回復(+15.3千トンの406.7千トン)に供給増加(+6.9千トンの396.2千トン)と追いつかないことによるものだ。

恐らく今年に関しては中国のロックダウンや、米国の金融引締めの影響で需給バランスが「やや」緩和した状態になると見られ、需給バランス以外の材料が価格動向を左右しそうだ。

価格に対する説明力、という観点では半導体出荷についで説明力が高いのが米S&P500と米10年期待インフレ率であり、この動向に価格は左右されやすい。

昨日のFOMCは75bpの大幅な利上げが行われ、7月も75bpの利上げを否定しなかった。

足下の金融引締めを強化して早期にインフレを沈静化し、景気減速並びに米政権にとって重要な中間選挙前に、政策のフリーハンドを持ちたい、と当局は考えているのではないか。

これを受けた市場の反応は、株高・金利安・期待インフレ率上昇、であり、株が落着いてリスク資産市場が落着き、株の投資家にとっては好ましい内容だったといえるが、金利や期待インフレ率の反応を見ると、必ずしも当局にとって喜ばしい材料ではなかった。

結果、現物需給は緩和するものの、ファイナンシャルな面でスズ価格が押し上げられる可能性は高い。

なお、スズはLME非鉄金属の中でニッケルに次いで価格変動性が高く、ボラティリティは53.8%に達している。VaRの概念を用いると、概ね7割程度の確率で1年後のスズ価格は26,000ドル~48,000ドル程度で推移する可能性が高いことを示唆しており、一定期間の「値幅」は非常に大きくなる。

現物調達/販売においては、割安に調達、割高に販売出来るチャンスは多いといえるが、逆もまた真なりでリスクは小さくない。

景気が減速する可能性が高い中、変動性が高い商品の調達/販売は業績への影響が大きいため、リスク測定やそれに基づく価格コントロールの必要性はより高まることになるだろう。


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