中国ロックダウン・米引締め加速懸念で全面安
- MRA商品市場レポート
2022年6月14日 第2216号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「中国ロックダウン・米引締め加速懸念で全面安」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はエネルギーが供給面を材料に上昇したが、その他の商品は全面安となった。
商品市場において重要な中国のロックダウンの影響で、中国経済が5.5%の成長目標を達成するどころか、ハードランディングの可能性も出てきたことが実需面で景気循環系商品の価格を押し下げた。
同時に、米国の消費者物価指数がピークアウトしていなかったことを受けて、6月のFOMCでは75bpの利上げが行われるのではないか、との見方が強まったことがファイナンシャル面でより価格を押し下げることとなった。
上海ロックダウンは景気が悪くなろうとも、習近平国家主席がゼロコロナ政策を標榜する以上、中国共産党としてはやらざるを得ない政策でありこれは今年の秋までは続くことになるだろう。
なぜここまで苛烈なロックダウンをするのかといえば、国家主席がゼロコロナ政策を主張しているから、というメンツの問題の他に、これまでゼロコロナ政策を取り続けた結果、集団免疫を獲得出来て居ないこと、中国のワクチンの有効性に共産党政権も疑念を持っていること、この状態でゼロコロナを解除すると感染が急速に拡大して被害がより深刻になる可能性があること、などが要因として考えられる。
しかしこれらに関しては悪魔の証明に近く、憶測に過ぎない。しかし、現状において中国政府がゼロコロナ政策を止めるつもりはなく、それによって中国経済が非常に危機的な状況になるギリギリの状態に追い込まれている可能性は高いのではないか。
この状態で米国の利上げペースが加速すれば、新興国経済にも影響が及ぶためリスクシナリオとしていた「ハードランディング」の可能性が高まることになるため、引き続き当局の政策動向は注視せざるを得ない。
【本日の見通し】
本日の商品価格は、昨日の全面安の影響で割安感が出ているため、主に実需筋が「買い下がる」動きになるためまずは買い戻しが入ると考える。
しかし、米国の金融引締め加速観測が強まっていることからインフレ率の低下やドル高進行によって総じて軟調な推移を予想。
本日の予定されている材料で注目は米PPIと独ZEW景況感指数。
米PPI 市場予想 前月比+0.8%(前月+0.5%)、前年比+10.9%(+11.0%)コア 前月比+0.6%(+0.4%)、前年比+8.6%(+8.8%)
【昨日のトピックス】
昨日発表されたOECD景気先行指標はOECD諸国の数値が99.9(前月100.0)と閾値である100を下回った。
OECD景気先行指標は6ヵ月先の景気に影響を及ぼすと考えられる指標を元に算出されている。今回の統計は5月の統計であるため11月の景況感を示していることになるが、先進国の景況感は年後半にかけて減速する可能性が高い、ということである。
内訳を見ると、前回見通しからの下方修正が大きいのはユーロ圏であり99.9から99.7に減速している。経済規模の大きなドイツは100.0(前月100.2)と100を維持する見込みだが、そこに続くフランス(99.0→98.7)、イタリア(99.7→99.4)、既にユーロ圏ではないが英国(99.9→99.6)と軒並み急減速の見通しだ。
アジアも99.2(99.3)と減速見込みである。日本は100.7(100.7)と健闘の見通しだが、域内最大の中国は98.8(98.9)と減速見通しであり、さらに足下のロックダウンを考えるとさらに下押しされる可能性は否定出来ない。
一方、米国は横這いであるが99.8と100を下回った状態。今のところインフレ抑制のために景気を悪くしてでも金融引締めに舵を切りつつある状況を考えると景気先行指標はさらに減速する可能性の方が高かろう。
このように見てみると「日本は大丈夫」という感じがしなくもないが、日本は円安進行に伴う国内個人消費の減速の可能性が高いこと、結局の所輸出が重要になるが米中の景気減速の可能性が高いことを考えると、こちらも余り期待できないこと、からこの先行指標ほど安泰、というわけではないのではないか。
同時に日本の企業景況判断DIが発表され、いずれも今年の後半に向けて業況が改善する見通しとなっているが、やや楽観的ではなかろうか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は下落後上昇し、引けに掛けても上げ幅を削ったが高値を維持した。米国のインフレ抑制策が加速し、6月FOMCで75bpの利上げがあるのではないかとの見方から長期金利が上昇、株も下落しリスク回避姿勢が強まったが、リビアの原油供給停止により、供給が厳しい状況が続いていることが価格を押し上げることとなった。
FRBが利上げ幅を拡大する、といっても実際に需要が減少するまでには時間が掛かり、こうしたファイナンシャルな材料の影響は一時的なものとなりやすい(その後実態経済に影響して長期的なトレンドに)。
以前から指摘していた懸念通り、リビアの原油供給がほぼ100%停止した。アラブの春以降、具体的に原油の生産が制裁以外で100万バレルオーダーの減産が頻繁に発生しているのはリビアぐらいのものだが、今回も昨年12月24日の選挙先送り以降、国内勢力の対立が激化しているとみられる。
報道では、Es sider、Ras Lanuf、Harigaなどの主要積み出し港がデモ隊の封鎖によって稼働していない。これら3つでリビアの総生産量の70%に相当する原油を取扱いしている。
現在、稼働しているのは南西にある4万バレル/日のWafa鉱区のみであり、同国の原油供給減少は供給面の大きなリスクとなり続ける。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3,の状態にあると考えられるが、リビアの減産によってむしろ2.の状態に近くなったと考えられる。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。
2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。
現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続 (↑)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓) リセッションの場合 (↓↓)Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)
※矢印の向きは価格の方向性。
本日も米国の金融政策動向がタカ派な見通しに傾いていることが価格をファイナンシャルな面で押し下げるが、供給面が制限されていること、価格上昇や利上げに伴うレーショニングはまだ起きていないこと、夏場の猛暑への備えから需要面が堅調であることに変わりはなく、高値維持の公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小動きだった。季節的に不需要期であること、欧米の金融引締め、中国のロックダウンによるスポット需要の減少観測が価格を押し下げているが、1.欧州域内最大の天然ガス生産国であるノルウェーの天然ガス生産が、定修・計画外停止両方の影響で大幅に減少していること、2.米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止(全米のLNG液化容量の約16.5%に相当)、による供給懸念が価格を支えている状況。
2.に関しては稼働再開が3週間程度で済むのであれば、どうにか夏の需要期前の調達には間に合いそうではある。しかし、これが延長された場合、夏場のLNGスポット価格は上昇が不可避となる。
また、欧州のこの窮状をみて「ロシアが意図的にガス供給を一部止める懸念」もショートポジションを取り難くし、価格を下支えしやすい。
現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.米LNGターミナル火災などの不足の供給停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)
日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通しであり、「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。
LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、あと数年は
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかない。
その大半をロシアからの輸入に頼らざるを得ないが、現状、ロシアからの輸出は停止していない。欧州全体のガス在庫は6月11日時点で51.5%(前日51.0%)と順調に在庫が積み上がっており、「このペースで行けば」10月までに90%の在庫積増しが達成出来る可能性が高まっている。
欧州全体では良いのだが、現在戦闘状態にあるウクライナのガス在庫の水準が著しく低い。ウクライナは欧州域内で最大の貯蔵能力を有するが、現在の在庫積増し進捗状況は18.2%(18.1%)とほとんど在庫が積み増しできていない状況。
仮に冬場にガスが不足した場合、欧州諸国からウクライナへの融通も視野に入れる必要があり、冬場に天然ガスが不足するリスクは無視できない。
なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、これ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。
これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。
LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも上昇しているが、特に以西の価格が季節性を無視して顕著に上昇している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米国天然ガス先物市場は続落。FreeportのテキサスLNGターミナルでの火災の影響で域内のガス供給が増加し、需給が緩和するとの期待が高まっていること、気温上昇が落着く見通しであること、米国の金融引締め加速による需要減少観測が強まったことが背景。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物は直近限月と、期先の価格が小幅に下落した。欧州のガス価格は小動きだったが、中国のロックダウンによる足下の需要減少観測が強まったことが背景。
しかしそうはいっても、他の金融商品と異なり、夏場や冬場に関しては景気というよりは気温や供給状況に左右されているため、冬場のピークシーズンの価格は高いままである。
また、期先(2023年)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになろう。
6月8日時点の日本の発電用LNG在庫は214万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。
今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。
5月30日~6月5日のLNGトレードだが、取引量は731万トン(前週716万トン)と増加した。スポット取引のシェアは31%(前週25%)と上昇した。
スポット契約は欧州・イタリア向けが+27万トンの大幅な増加となった。主にイタリアの輸入増加によるもの。一方、日中台韓の輸入量は+15万トンの増加。韓国の輸入増加の影響。
長期契約ベースの輸入は日本と中国向けが各々▲15万トン、▲39万トンの減少となった。
本日も金融引締め強化観測と中国のロックダウンの影響で需要面はスポットLNG価格を下押ししやすいが、米Freeportの供給停止の影響は小さくなく、高値件での推移を予想。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は期先が下落した。中国のロックダウンにより需要が減少するとの見方が強まったことが背景。
ロックダウンの影響を分かり難くしているのは、ロックダウンとほぼ同時期に欧州から打ち出された「脱ロシア炭」の動きと、これに伴うロシア以外の石炭需要の増加、豪州や南アフリカの洪水の影響による供給停止が重なったこと。
しかし5月末からのロックダウン解除→再度のロックダウンの間の動きを見るに、ロックダウンによる中国国内の需要減少がより価格に影響を与える、といえそうだ。
しかしそれでも石炭価格は高い。在庫水準の低さ、夏場に向けた調達圧力、供給ソースの制限が背景にある。期近と期先の価格差を流動性プレミアム(コンビニエンスイールドの効果)とするならば、180ドル程度の流動性プレミアムが付加されていることになる。
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。
結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。
日本も今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。
これに加えて電力供給不足を補うため、ドイツがロシアからのガス供給途絶に備えるため、休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。
本日も上海ロックダウンの影響で軟調な推移を予想。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は続落した。特段新規の材料はなかったものの、米国のインフレが止まらず、6月FOMCで75bpの利上げがあるのではないか、との見方が米国との短期・長期金利の急上昇をもたらしドル高が進行したことが価格を押し下げた。
また、非鉄金属価格全体(LMEインデックス)に対する説明力が最も高いのは米期待インフレ率、ついでS&P500、中国炭、という順になっており昨日は期待インフレ率が急低下、S&P500も急低下しており、この相関性に着目したシステム売買なども価格を押し下げたと考えられる。
上記よりも、LME非鉄金属のトレンドを形成していると考えられるのが、上海でロックダウンの状況。現在の報道では6月中はロックダウンが続く見通しであり、いつのタイミングで解除することが出来るか不透明なことも価格を押し下げている。
これまで「ロックダウン中の需要大幅減少」が確認されてきたことから、少なくともロックダウン中に需要が回復することはない、との見方は市場参加者の中ではごく一般的な解釈となりつつある。
昨日非鉄金属の中で最も下落したのはスズ。長期金利が上昇した場合、ハイテク株に売り圧力が強まり、半導体向けの需要が減少するのでは、との見方を強めるため、そもそも取引の流動性が低いため、相場がクラッシュした時の上下の反応幅は大きくなる傾向が強いが、長期金利上昇で、バリュー株以上にグロース株が売られるような局面では下げが助長されやすい。
本日は下げ幅が余りに大きかったこともあり、実需筋の買いで取りまずは買い戻しが入ると考える。
ただし足下の米インフレ懸念は払拭されておらず、インフレ率を押し下げるための金融引締めが強化される見通しであること、本日からFOMCであり、さらなるタカ派な発言に備える意味で、ポジション調整の売り圧力が強まること、中国勢の買いがロックダウンの影響で限定されると考えられることから、結局下値余地を探る展開を予想。
なお、米PPIが予想以上に上昇した場合はさらに下値を、逆に予想以上に低下した場合は米引締め観測の後退で上昇要因になる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月が変わらず、中心限月が下落した。
上海で再びロックダウンが行われ、場合によると6月一杯は経済活動が回復しないとの見方が強まる中で鉄鋼製品価格が下落したことで、鉄鋼原料価格にも下押し圧力が掛かる展開となった。
豪州原料炭に関しては週末の下げが大きかったため、安値圏でヘッジ買いが入ったと見られる。
本日は、中国のロックダウンの動きに加え、米国の金融引締め観測による景気減速懸念が強まっていることから鉄鋼製品先物価格に下押し圧力が掛かり、鉄鋼原料先物価格にも下押し圧力がかかる展開を予想。
◆貴金属
昨日の金価格は大幅な下落となった。先週の米CPIショックで米国の金融引締め観測が強まり、長期金利が上昇したこと、それに伴い期待インフレ率も低下したことで実質金利が上昇したことが背景。
これにより、金の基準価格は前日比▲100ドルの1,108ドルまで低下、リスク・プレミアムは+48ドルの711ドルとなった、
銀価格はこのような株も下落する局面では金以上に売られるため大幅な下落、PGMも中国の需要減少観測が強まったことでより大きく水準を切下げることとなった。
本日は昨日の下落が大きかったことから一旦買い戻しが入ると考えるが、今後の方向性を決定するには米金融政策の方向を見極める必要があり、今日から開催されているFOMCの結果待ちでしばらく現状水準でのもみ合いになると考える。
ただ、今晩発表の米PPIがCPIのように予想に反して前月から上げ幅を拡大した場合、再び引締め加速観測を強めることになるため下振れリスクに、逆に落着いていれば過度な引締め懸念が後退するため上昇要因に。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が下落、小麦が小幅に上昇した。米インフレ懸念が高まっており、米国の利上げペースが加速すると見られ、ドル高が進行したことが材料となった。ほぼ予想通りの展開。
需給環境に大きな変化はなく、2022年の穀物市場需給は総じてタイトな状態が続くと予想されるため高値を維持しやすい。
しかし、米国の金融引締めが加速すればドル高進行が価格を下押しする上、景気減速にまで至ればエタノール需要も減少、トウモロコシの需要減少は代替飼料である小麦や大豆にも影響が及ぶため、非景気循環銘柄といえども、価格の下押し要因となる。
緩やかな景気減速であればディフェンシブ銘柄として物色されるが、景気が減速する局面では、上述の通りエネルギー市場を通じて景気循環系商品の需要動向に影響を受けるため軟調な推移になりやすい。
本日もドル高基調が続く見通しであり、軟調推移を予想するが、需給ファンダメンタルズの改善はないため高値維持の公算。
今晩発表の米PPIがCPIのように予想以上に前月から上げ幅を拡大した場合、再び引締め加速観測を強めることになるためドル高進行が下振れリスクに、逆に落着いていればドル安に転じて価格上昇要因に。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
また、米国の金融引締めが新興国経済に打撃を与える可能性も。
・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「トウモロコシ価格上昇による国内のリスク」
6月10日に発表された米農務省の需給報告では、米国のトウモロコシの生産は前月見通しから横這いで正直大きな変化が見られなかった。ただし、米国のトウモロコシ生産は昨年から▲1,664万トン減少する見通しであり、コロナや悪天候の影響で生産が減少した2019-2020年以来の前年比マイナスとなる見込みである。
2022-2023年の減産は、ロシア危機の影響で肥料の価格が高騰、コメを代表としたトウモロコシを含むイネ科の植物は肥料を多く使うため、相対的に肥料が少なくて済む大豆の作付が増加(8,760万エーカー→9,096万エーカー)する一方、トウモロコシの作付が減少(9,114万エーカー→8,949万エーカー)することが主因である。
また、ロシアのウクライナ軍事侵攻の影響で重要な生産国の1つであるウクライナの生産が▲1,713万トンと大幅な減少になるうえ、基本的には自給自足が成立していた中国はこの5年でトウモロコシのネット輸入国に転じているが、さらに悪天候や洪水の影響で生産が▲155万トンの減少となる見通しであることから、ブラジルの増産(+1,000万トン)、アルゼンチンの増産(+200万トン)でも相殺しきれず、世界のトウモロコシ生産は▲3,026万トンの大幅な減少が見込まれている。
ただ、期初在庫の増加と価格上昇と供給不足に伴う輸出需要の減少により、価格に対する説明力が高い需給率(需要÷供給)は81.4%と前年の81.6%から低下する見込みである。
この数値のみを見るとそろそろトウモロコシ価格の上昇はピークに達しており、収穫時期に重なるQ322の価格は上昇するものの、Q422には下落に転じると予想される。アナリストコンセンサスでもQ322の中央値が795セント、Q422が740セントとなっている。
ただしロシア情勢不安や高値圏で推移するエネルギー価格上昇を考えると、価格はさらに上振れするリスクは充分ありえる。主要生産地であり、かつ、消費国である米国のトウモロコシ需要におけるエタノール向けの需要は増加しており、現在は4割を超えている。
そもそもガソリンのオクタン価を上げるために用いていた添加材のメチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(BTBE)の使用が禁止されたことでエタノールの需要が増加した。米国はエタノールの大半をトウモロコシから生産するため、ガソリン需要が高まる中ではエタノール価格が上昇し、ひいてはトウモロコシの価格が上がりやすくなる。
現在、バイデン政権は主にエネルギー価格を低下させるためにFRBと歩調を揃えて「景気を悪くしてでも」物価を押し下げる政策に舵を切っているが、供給問題の解消が困難なうえ、ロシアに対する制裁強化でロシア産原油からWTI、Brent、ドバイ(中東原油)といったその他の原油の価格が割高に推移する中、ガソリン価格はコスト面で下落するまでに至っていない。
一方でガソリン需要の減少も確認されていないため、エタノール価格も高止まりし、トウモロコシ価格にも上昇圧力がかかる。
また、上述の通り、ロシア情勢不安は引き続き供給制約となる。ロシアの肥料供給制限が継続した場合、トウモロコシの肥料価格も上昇が予想されるため、この点も価格を押し上げることになる。また、既に大幅に生産見通しが下方修正されているウクライナのトウモロコシ生産や供給がさらに下振れすることもありえる。
これに加えて、異常気象の発生も気がかりな内容である。トウモロコシも小麦ほど明確ではないが、2000年以降はラニーニャ現象発生時に価格が上昇擦る傾向が出ている。
ラニーニャ現象は今年の秋頃まで継続する見通しであり、仮に開花や結実のタイミングで悪影響を及ぼせば生産見通しが下方修正されることもありえる。また米海洋大気庁の見通しでは今年は例年よりもハリケーンが多い見通しであり、生産に影響が及ぶ可能性も否定出来ない。
こうした穀物価格の上昇は、日本の特に畜産業に影響を及ぼすと考えられる、牛や豚、鶏の飼料に用いられるためだ。ただでさえ円安が急速に進む中で輸入物価の上昇が問題になる中、今年の夏~秋にかけては一段の上振れリスクがあるためだ。
特にこうした穀物価格上昇の影響は時間差をもって顕在化するため我々日本人の生活に影響が及ぶリスクは小さくないだろう。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について