金利上昇・景気悪化・リスク回避
- MRA外国為替レポート
2022年6月13日号
◆先週の市場総括
先週は大きく円安が進んだ。月曜日に黒田総裁が超金融緩和継続姿勢、円安容認のスタンスをあらためて示したことで円先安感が強まった。
前週の米雇用統計がしっかりした数字だったことでFRBの金融引き締めが強化されるとの思惑から米長期金利が上昇。さらに木曜日のECB理事会を前に利上げ前向き姿勢を織り込み。米欧と日本の金融政策格差が意識されて週前半に大きく円安が進んだ。
ドル円相場は131円近辺から134円へ、ユーロ円相場は140円台前半から144円台へ上昇した。
ECBは7月会合での0.25%利上げを明言。9月の0.50%利上げの可能性を示唆。ただその後は欧州景気懸念が強まりユーロは下落。週末の米消費者物価指数を受けてドル高が強まった。
米10年債利回りは週末に3.16%台。2年債も3%台に乗せた。
日本政府は円安加速に警戒感を示したが大きく円高に振れることはなかった。週末のドル円相場は134円40銭。ユーロ円相場は141円40銭。ユーロドル相場は1.0520に下落した。
米国株は週末にかけて大幅安。金融引き締め、景気減速懸念から、NYダウは水・木・金の3日間で1,800ドル近く下落した。日経平均はインバウンド再開や円安を好感して28,000円台を回復したが週末には27,000円台に押し戻された。
月曜日の東京市場では日経平均は続伸。前週末の米国株は下落したが、それに反して堅調だった。円安進行で輸出関連銘柄が買われた。
また政府の需要喚起策への期待から内需関連、消費や観光関連銘柄もしっかり。上昇幅は一時+200円を超え、引けは+154円高の27,915円。
ドル円相場は130円90銭で始まり50銭に下落したが底固く、50銭~70銭で上下して夕刻は130円80銭。ユーロ円相場は140円30銭で始まり139円90銭に下落した後、139円90銭~140円30銭で上下し夕刻は140円60銭に上昇。
ユーロドル相場は1.0720中心にもみ合い。夕刻は1.0750に上昇した。前週末の雇用統計が強い数字だったことでFRBの積極的な金融引き締め・利上げが続くとの見方がドルを支えた。
また黒田日銀総裁が超金融緩和の継続、円安を容認する発言をしたことが円先安感を強めた。
欧州市場から米国市場にかけてはドルが大幅高、円が全面安。ドル円相場は130円60銭台から132円ちょうど近辺に上昇し引けは131円90銭近辺。
ユーロ円相場も140円10銭近辺から141円ちょうど近辺に大幅高。ユーロドル相場はドル高に振れ、1.0690~1.07ちょうど近辺に下落した。
米長期金利が大きく上昇してドルを押し上げた。米10年債利回りは3.047%に、2年債利回りは2.734%に上昇。
米国株は中国の規制緩和・景気回復期待が支えとなったが、金利上昇が上値を抑え小幅高にとどまった。NYダウは+16ドル高の32,915ドル。ナスダックは+48ドル高の12,061ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅上昇。朝方は円安進行で輸出関連銘柄中心に買われ一時+170円高となり28,000円の大台を回復した。
ただ米金利上昇でハイテク関連は上値重く、輸入内需関連も上値が重かった。引けは+28円高の27,943円。
ドル円相場は131円90銭で始まり10時頃には132円70銭に大きく円安が進んだ。午後には一段高となり東証引け近辺には133円に迫った。欧州時間朝方には132円50銭台に反落。
ユーロ円相場は141円ちょうどで始まり昼過ぎまで右肩上がり。142円ちょうどをつけた。その後は反落し米国市場朝方には141円40銭。
この日、オーストラリア準備銀行(RBA)が利上げを実施。0.35%から0.85%へ0.50%利上げを実施し市場予想0.60%を上回った。
ユーロドル相場は1.0690近辺で始まり小動き。午後に1.0660に下落したが欧州市場に入ると1.07ちょうど近辺に反発。
米国株は上昇。長期金利上昇一服でハイテク株中心に買い直された。ただ一部消費関連銘柄には業績見通し懸念で売り。NYダウは朝方▲200ドル安となったが反発して+264ドル高の33,180ドル。ナスダックは+113ドル高の12,175ドル。
米10年債利回りは3%割れに反落して2.977%。2年債は2.735%。ドル高は一服。
ドル円相場は132円90銭に反発したが、その後は30銭台に反落するなど上値重く、132円60銭近辺で引け。
ユーロドル相場は1.0650に下落した後、1.07ちょうど近辺に反発。
ユーロ円相場は141円40銭に下落していたが米国市場では持ち直し142円ちょうど近辺で高値引け。
イエレン財務長官は、米国のインフレは許容できない水準に達している、と述べた。
水曜日の東京市場では日経平均は続伸。高値引け、3月30日以来、引値で28,000円を回復した。前日の米国株が堅調で投資家心理が回復。円安進行で輸出関連株が買われた。
ドル円相場は132円60銭で始まり午前中に132円20銭に上昇してもみ合い。米10年債利回りがアジア時間に上昇したことが支え。
ユーロドル相場は1.07ちょうど近辺から1.0680~90にやや軟調となりもみ合い。
ユーロ円相場は142円ちょうど~20銭で上下した後、午後から夕刻、欧州市場にかけて大きく上昇した。
ユーロ円相場は米国市場で144円20銭まで上昇。翌日にECB理事会を控え、強まる利上げ見通しが支えとなった。
ドル円相場も134円40銭へ大幅高。米10年債利回りは再び3%を回復した。米10年債入札が不調だったことも金利押上要因。10年債は3.025%、2年債は2.776%。
米国株は反落。住宅ローン申請が22年ぶり低水準となり景気後退の兆候ととられた。一部金融機関の決算が不芳だったことで金融株が売られた。
長期金利上昇がハイテク株に重石。NYダウは▲269ドル安の32,910ドル。ナスダックは▲88ドル安の12,086ドル。原油価格WTIは122.11ドル。
ドル円相場は上昇一服で133円60銭に反落した後、引けにかけ戻して134円20銭。ユーロドル相場は1.0740近辺に上昇したあと、反落して引けは1.0720。
ユーロ円相場は高値から143円60銭に反落したあと、持ち直して143円90銭近辺で引けた。
木曜日の東京市場では日経平均は前日引けとほぼ変わらず。円安進行で引き続き輸出関連に買いも円安一服は重石。中国での活動再開で自動車。機械に買いも、利益確定売りが上値を抑えた。
米金利上昇により成長株・グロース株は軟調だった。引けは前日比+12円高の28,246円。
ドル円相場は134円20銭で始まり朝方50銭に上昇した後反落。東証引け頃には133円70銭に下落、さらに欧州時間には133円20銭まで下落した。
ユーロ円相場は143円90銭~144円20銭で始まり上値の重い展開。143円60銭~144円ちょうどで上下したあと夕刻は142円70銭まで下落した。
ユーロドル相場は1.0720中心にもみ合い夕刻は1.0710近辺。
この日はECB理事会が注目された。会合では7月に0.25%利上げを実施することをあらかじめ表明。量的緩和は7月1日に終了。これらは予想通り。
ただラガルド総裁が会見で、9月の会合で0.50%の利上げの可能性に言及した。これを受けてユーロは急騰。ユーロドル相場は1.0770へ、ユーロ円相場は144円10銭へ。
ドル円相場は連れて134円ちょうどへ。ただユーロは直後に急反落した。
ユーロドル相場は1.0620へ、ユーロ円相場は142円60銭に下落して上下し引けは142円70銭。
ドル円相場は133円60銭に下落したあと持ち直し134円40銭。米長期金利持ち直しが支え。欧米では景気見通しが不透明ななかインフレ懸念から急激な引き締め実施で景気後退懸念が強まった。
欧米長期金利が上昇するなか欧州株は下落。米国株も翌日に消費者物価指数の発表を控えて警戒感から大幅安となった。
ハイテク株、景気敏感株ともに下落。NYダウは前日比▲638ドル安の32,272ドル、ナスダックは▲332ドル安の11,754ドル。VIX指数は+2.13ポイント上昇して26.09。米10年債利回りは3%を回復して3.047%。2年債は2.815%。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。前日の欧米株が金融引き締め強化、景気減速懸念、インフレ高止まり、米消費者物価指数の発表を前に大きく下落したことで大幅安。
前日までに800円上昇した反動で週末の手仕舞い売りも入りやすかった。引けは▲422円安の27,824円。
為替市場では日本の当局の急速な円安に対するけん制を受けて円が買い戻された。ドル円相場は134円40銭近辺で始まり134円ちょうど~20銭で上下。
その後午後から夕刻にかけて133円40銭に下落した。午後に、財務省・日銀・金融庁による3者会合が開催され急激な為替変動は好ましくない、との声明が出された。
ユーロ円相場も142円70銭で始まり30銭~70銭で推移した後141円90銭~142円ちょうどに下落した。
ユーロドル相場は小動き。1.0610~20で推移したあと1.0620~40で上下した。欧州市場に入るとドル円相場は反発。134円をつけたあと、134円手前で上下して雇用統計待ち。
ユーロは軟調。ユーロドル相場は1.0580~90、ユーロ円相場は141円70銭近辺。
注目の米消費者物価指数(5月)は予想より強い数字となり、インフレピークアウトの兆しを探っていた市場の期待を裏切る結果。
前月比は前月の+0.3%から+1.0%に加速、前年同月比は前月+8.3%から伸び率が横ばいの予想に反して+8.6%に上昇率が加速した。
市場にはインフレ加速で利上げが加速するとの懸念が台頭。6月のFOMCで0.75%の利上げが実施されるとの見方も台頭した。
米10年債利回りは3.165%に、2年債は3.067%に上昇。
一方でミシガン大学消費者信頼感指数(6月確報)が大きく悪化したこともあり、景気悪化懸念が広がった。米国株は景気敏感株、ハイテク株に加え金融株も売られるなど、幅広く売られ大幅安。
NYダウは前日比▲880ドル安の31,392ドル、ナスダックは▲414ドル安の11,340ドルで安値引け。
ドル円相場は雇用統計直後に134円30銭に上昇、133円50銭台に下落、と乱高下したあとにじり高となり、引けは134円40銭。ユーロドル相場はユーロ安ドル高が一段と進み1.0520で引け。
ユーロ円相場は140円80銭~141円40銭で高下したあと引けは141円40銭。ミシガン大学消費者信頼感(6月確報)は前月58.4から50.2に大幅に悪化した。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(米連邦公開市場委員会)、米国の経済指標
今週、火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMCが開催される。今回の会合では0.50%の利上げにより、FF金利誘導目標レンジを0.75%~1.00%から1.25%~1.50%へ変更することが確実視されている。
先週の消費者物価指数が予想以上に強い数字だったことで、一部には0.75%の利上げ予想もあるがどうか。パウエル議長からはすでに7月も0.50%の利上げを実施する意向が表明されており、9月も0.50%利上げとの当局者発言も散見される。
また出席メンバーによる景気・物価・金利見通しも注目される。
インフレ警戒感や利上げペースおよびピークが前回より引き上げられるか。パウエル議長のスタンスに変化はあるか。
火曜日 生産者物価指数(5月、前年同月比、予想+10.8%、前月+11.0 %)
水曜日 小売売上高(5月、前月比、予想+0.2%、前月+0.9%)
木曜日 住宅着工件数(5月、季節調整済み年率換算、予想1,720千戸、前月1,724千戸) 鉱工業生産(5月、前月比、予想0.5%、前月+1.1%)
2.日本の貿易収支
木曜日に日本の貿易収支(5月)が発表される。季節調整前で、前月8,400億円に対して、5月の予想は2兆100億円ほど。輸入金額は資源・農産物価格や円安の影響でどれほど増加するか。
底流で円安圧力をもたらしている赤字拡大がさらに際立ち、円先安感を刺激しなおも投機的円売りを促す可能性には留意したい。
3.日銀金融政策決定会合、黒田総裁会見
木曜日・金曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催され、金曜日に黒田総裁が定例会見を行う。
今回も政策変更は予想されず、日銀は従来の超金融緩和策を維持する方針とみられる。
黒田総裁は会見で現状の景気物価情勢にどのような判断を示すか。財務省・金融庁・日銀の3者会談では急激な為替変動・円安は好ましくない、と市場動向を牽制する声明が出されたが、円安容認姿勢を続けてきた黒田総裁のコメントはどうか。
ほか、水曜日には中国で5月の主要経済指標(小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資)が、木曜日にBOE(イギリス中銀)が金融政策決定会合を開催し0.25%の利上げを実施する(1.00%→1.25%)と予想されている。
◆今週のMRA's Eye
金利上昇・景気悪化・リスク回避
週末にかけて米国株は急落した。
消費者物価指数でインフレピークアウトの兆しがみえることに期待されていたが、結果は予想よりも強い数字に。FRBが一段と金融引き締めを強化するとの見方が強まった。
今週のFOMCでは0.50%の利上げが確実視されているが、0.75%との見方も生ずる状況。2年債の利回りも3%台に乗せた。2年債利回りは政策金利の見通しを反映しやすいが、FF金利のピークが3%台半ばになる可能性を織り込んだとみられる。
ECBは先週の理事会、金融政策決定会合で、7月1日に量的緩和を終了することを決定。さらに次回7月会合での0.25%利上げを表明した。次回会合での政策変更をあらかじめ表明することは異例。
早期に金融引き締め姿勢を示しインフレ期待をできるだけ早く鎮静化しようという意図もあろう。
9月の会合でも0.25%の利上げ実施が確定的だが、ラガルド総裁は0.50%の利上げの可能性にも言及した。
一方、日銀は引き続き現状の強力な金融緩和を継続する姿勢を示している。
欧米の長期金利が金融引き締め、利上げを反映して上昇するなか、10年債利回りの上昇を抑制し無制限に国債を購入する姿勢を貫いている。黒田総裁は円安を容認する姿勢を崩していない。
超金融緩和継続で円安となるのは必定であり、金融政策を継続する以上円安を容認せざるを得ないというほうが正しいか。
先週は欧米と日本の金融政策格差があらためて意識され、週前半は円が独歩安となった。
ドル円相場に加え、ユーロ円相場での円安進行が顕著だった。これをうけて、財務省・金融庁・日銀は3者会談を行い、為替相場の急激な変動は好ましくない、必要であれば対処する、との異例の声明を発した。
手の内は明かさない、としたが、市場は実際に打つ手はないと見ており、投機的な円売りが収まる兆しはみえない。
米国ではインフレが鎮静化する兆しがみえず。週末の消費者物価指数(5月)は上昇が加速した。インフレは消費に影を落とし、消費者は防衛行動を強めつつある。
消費者信用残高の増加、カードのリボルビング支払いが急増していることは気がかりだ。コロナ給付金が終了したところで、物価急騰、金利急騰、となり、消費者心理が悪化するとともに、資金繰りが悪化している可能性がある。
雇用は堅調で賃金上昇圧力は高まったままだが、所得増加を上回る逆風となっている。
米バイデン政権、FRBの目下の最重要課題は依然としてインフレの鎮静化だ。景気を犠牲にしても目的を達することを優先しつつある。供給の鈍い伸びに合わせるべく、需要を鈍化させる方針。そこからすれば景気後退はやむなしということだろう。
企業の景況感、消費者信頼感は悪化傾向にある。これを反転させる材料はなく、またFRBは景気好転を望んでいない。
問題は、今後想定される景気のさらなる悪化の傍らで、なおも金利上昇がどこまで続くのか。利上げは加速する可能性もあり、インフレ高止まりとあいまって長期金利には上昇圧力がかかる。
インフレ高止まりと金融引き締めを主因とする、景気と金利の逆行、とくに長期金利の上昇がどこまで、いつまで続くのかが焦点だろう。
望ましくは、インフレ鎮静化、浅めの景気後退、利上げペース鈍化、ピークアウトが視野、となるか。
しかしそうした理想的な状況となる保証はなく、なお急激な金融引き締めと急激な景気悪化、となるリスクがある。どのようなパスとなるのか、結果は7-9月期にはみえず、10-12月期になり判明しそうだ。
金融市場には一段とストレスがかかっている。資産価格には、景気悪化・企業業績悪化・金利上昇、という逆風が強まっている。株価にはとくにダブルパンチだ。
リスクをとる環境にはなく、株価調整は続きそうだ。最終的には景気減速が終わり、景気底打ちがみえるか、あるいはその手前で金融引き締めが終わるか、それまではネガティブにみざるをえない。
リスク回避的な市場環境が長引きそうだ。それも踏まえて長期金利が金融引き締めだけで上昇し続けるかは見方が分かれるところ。インフレピークアウトがみえれば、債券市場に資金が流入し長期金利上昇にはブレーキがかかる可能性がある。
為替市場においては金利相場が続いている。
通貨と金利は密接不可分であり、もとより金利差と為替相場動向は相関が高く相性が良い。ただこのところの円急落は投機的な動きが主導している。確かに日本の貿易赤字は大幅に拡大しており円安圧力となっているが、これを反映する円相場の動向はこれほど急激なものとはならない。
投資家が急激に円資産から外貨資産にシフトしている証左もない。
その意味で、日本の当局が投機的な動きに釘を刺すのは正しいが、ただ円を買い戻すきっかけが今のところ見当たらない。
米国株がさらに急落しリスク回避が深まれば、ポジション手仕舞いの動きで円高に振れる可能性はあろう。
ただドル金利がなおも高止まりする状況ではドル安円高にも限界がある。また手仕舞いであれば円高も一時的だ。
本格的には、米国の景気悪化、金利のピークアウト感、を主因とするファンダメンタルズを主要因とするリスク回避局面を待たざるをえないだろう。
タイミングとしてはやはり早くても10-12月期となりそうだ。ドル円相場が110円を割る可能性は今のところ低下しているが、それでも130円台から急激なドル安円高となるリスクがある。
足元ではリスク回避・金利志向の強まりはドルに優位に働くだろう。ただその反動は大きくなりうる。低インフレ化の安定成長、という時代が終わったことは、金融市場、株価、金利、為替の変動が激しくなることを意味する。
変動率をリスクとみれば、明らかに従来よりもリスクが上下双方に増していることに留意する必要はある。
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