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供給面とインフレ抑制見通しで高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年6月9日 第2213号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「供給面とインフレ抑制見通しで高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は、エネルギ-、非鉄金属、穀物が上昇、貴金属や畜産品などは総じて水準を切下げた。

エネルギーに関しては昨日の米石油統計で確認できるように、この高値であってもまだ明確なレーショニング(価格上昇に伴う需要の減少)が確認できておらず、原油の増産もまだであり、原油・石油製品在庫の水準が低いことも確認されており、まだ価格が下落する、という感じではない。

非鉄金属は緩やかであっても中国の経済活動再開が需要を増加させる、との見方が価格を押し上げた。

しかし、OECD経済見通しはインフレや戦争の影響で大きく下方修正されている一方、10年国債の入札で最高落札利回りが3%を超え、米国の金融引締めのペースが加速するのではとの懸念も強まっている。

昨日、インドは政策金利を大きく引き上げており、米国の金融引締めやインフレの影響が新興国経済に悪影響を及ぼしていることを示唆している。

【本日の見通し】

本日はエネルギーは供給面が、非鉄金属は需要面(中国の回復)がフォーカスされるため価格の上昇要因となるが、同時に米国の金融引締め強化への懸念も強まることから、結局は現在の高値水準でのレンジワークになると考える。

本日の予定で注目はECBの政策きり発表。ラガルド総裁が7月の利上げに向けてどのようなコメントを出すかに注目。金融引締めが強まるようであれば、円独歩安となって再び円安が加速する可能性も。

予定されている統計では中国の貿易統計に注目している。輸出よりも輸入動向に注目だが、5月はまだ沿岸主要地域がロックダウンの状態であるため、それほど良い内容になるとは考え難い。

輸出 市場予想 前年比+8.0%(前月+3.9%)輸入 +2.8%(±0.0%)

【昨日のトピックス】

昨日発表されたOECD経済見通しは下方修正され3.0%成長(前回見通し比▲0.7%)に大幅に下方修正された。インフレの高進、長期にわたる可能性があるサプライチェーンの混乱により高いコストを支払うことになるリスクが指摘された。

ウクライナに対するロシアの侵略戦争の影響により、エネルギーコストの上昇や難民の流入による財政負担の増加などが見通し下方修正の主因の1つであるとした。

加盟38ヵ国のインフレ見通しは8.5%と前回見通しの+4.2%から倍増の見通しで、2023年についても+6.0%(+3.0%)とインフレの沈静化はそう簡単ではないとの見通しを示している。

地域別では米国が+2.5%(▲1.2%)、ユーロ圏が+2.6%(▲1.7%)、日本が+1.7%(▲1.7%)と軒並み下方修正された。

バブル崩壊の懸念が強まっている中国は+4.4%(▲0.7%)とやはり下方修正されており、中国政府が掲げる+5.5%の成長見通しの達成は「相当な無理」をしなければ達成は困難と予想される。

次の商品需要の牽引役になると考えられているインドの見通しも、2022年が+6.9%(▲1.2%)、2023年が+6.2%となっており、人口ボーナス期に入っていることもあって他地域よりも高い水準であるが、減速の見通し。

今後の商品需要動向を占う上では、人口ボーナス期入りしているインドの需要がどれだけ回復するかは重要なポイントになるが、長びくインフレがインド国民の不満を高めた場合、政権交代や政策の混乱リスクが高まるため、下振れの可能性も考慮する必要が出てきた。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。需給バランスがタイトな状況が続く中、米国債利回りの低下に伴うドル安進行が価格を押し上げた。

米石油統計は予想外の在庫増加となったAPI統計と同様、大幅な原油在庫の増加(+2,025KB、市場予想▲2,329KB、前週▲5,068KB)となったが、WTIに対する説明力が高いクッシング在庫が▲1,593KB(前週+256KB)の減少となったことや、ガソリン在庫の減少(▲812KB、市場予想+1,000KB)が影響した。

なお、米国の原油生産は11.9MBDと先週から横這いであり増産は起きていない。

レーショニングが発生しているか否かの判断材料の1つである石油製品出荷に関しては、ガソリンが9,000KBD(過去5年平均8,946KBD)、ディスティレートに関しても3,825KBD(3,828KBD)とほぼ過去5年平均程度まで低下している。

一方、コロナの移動制限が解除されつつあるケロシンの需要は増加基調にあり、1,599KBD(1,407KBD)と過去5年平均を大幅に上回っている。

結果、製品全体でも出荷は19,771KBD(19,250KBD)と過去5年平均を上回っており、ガソリンやディスティレートでレーショニングの可能性があるが、まだ需要が崩壊するには至っていない。

また、輸出を含めた出荷を見ると、25,906KBと過去5年の最高水準である25,439KBDを上回っており、脱ロシアの動きで米国産原油が物色されている可能性を示唆している。

以上を勘案すると供給制限があり、価格が上昇していてもまだ消費は堅調であり総じて強気な統計だった、という整理になる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3,の状態にあると考えられるが、今までの増産の延長線上で、予定通りOPECプラスの増産が9月で打ち止めとなれば、2.の状態に戻ると予想される。

脱ロシアが進み、景気の後退が明確にならなかった場合、短期的に1.にシフトする可能性もゼロではなくなってきている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)

本日も基本的には供給面がフォーカスされるため、高値維持の公算。ただし、米10年債入札結果を受けて再びドル高バイアスが強まる可能性があり、上値も重いと考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場下落した。冬場に向けた在庫積増しの動きで上昇する局面があったが、供給が現時点で問題になっていないこと、景気の先行き懸念、季節要因などを背景に水準を切下げた。

ロシアからの輸入は継続する可能性が高く(現に現在も100%ではないが、続いている)、域内の重要生産国であるノルウェーのガス生産は過去5年平均程度であるがネット輸出は増加しており、LNGの輸入フローも高水準であること、価格上昇や季節的な需要の減少を背景に、足下の需給は緩和している。

ただし、基本的にTTFの期間構造や絶対水準は変化しておらず、冬場の調達に懸念が残る状態が続く。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下の6点に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)3.景気減速(価格下落要因)4.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)5.季節要因6.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通しであり、「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、あと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。結局その大半をロシアからの輸入に頼らざるを得ない。なお、欧州全体のガス在庫は6月5日時点で51.4%(前日51.0%)と順調に在庫が積み上がっており、「このペースで行けば」10月までに90%の在庫積増しが達成出来る可能性が高まっている。

欧州全体では良いのだが、現在戦闘状態にあるウクライナのガス在庫の水準が著しく低い。ウクライナは欧州域内で最大の貯蔵能力を有するが、現在の在庫積増し進捗状況は17.6%(17.5%)とほとんど在庫が積み増しできていない状況。

仮に冬場にガスが不足した場合、欧州諸国からウクライナへの融通も視野に入れる必要があり、冬場に天然ガスが不足するリスクは無視できない。

なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、これ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物市場は下落。FreeportのテキサスLNGターミナルで火災が発生し、LNG輸出に影響がでて国内需給が緩和するとの見方が強まったことが背景。

本日発表の米天然ガス統計では、97.1BCFの在庫流入(前週90BCF)が見込まれている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は期近が下落、期先が上昇、さらに期先は下落した。欧州の需給が緩和していること、中国の経済活動再開が緩慢なことが特に期近のLNG価格を下押ししている。

6月8日時点の日本の発電用LNG在庫は214万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。

5月30日~6月5日のLNGトレードだが、取引量は731万トン(前週716万トン)と増加した。スポット取引のシェアは31%(前週25%)と上昇した。

スポット契約は欧州・イタリア向けが+27万トンの大幅な増加となった。主にイタリアの輸入増加によるもの。一方、日中台韓の輸入量は+15万トンの増加。韓国の輸入増加の影響。

長期契約ベースの輸入は日本と中国向けが各々▲15万トン、▲39万トンの減少となった。

本日は、米国Freeportの火災事故の影響を受けて、米国からの供給減少観測がスポットLNG価格を押し上げると考える。

しかし、欧州の需要が季節的に減速していることや、ロシアからの輸出もこの数日はノルドストリームからの供給が増加していることもあり、期近に関しては上値も重いのではないか。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に続落。欧州天然ガス価格の下落が影響したと考えられる。しかし期間構造はほとんど変わっておらず、高値を維持している。

ロックダウン解除後の中国の経済活動回復が緩慢であることも、価格の下押し要因になっているが、経済活動は再開の見通しであり在庫の水準の低さを考えると石炭価格は高止まりする可能性が高い。

期近と期先の価格差を流動性プレミアム(コンビニエンスイールドの効果)とするならば、180ドル程度の流動性プレミアムが付加されていることになる。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。

結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。

日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。

これに加えて電力供給不足を補うため、ドイツがロシアからのガス供給途絶に備えるため、休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。

本日は、米国のLNG輸出ターミナルでの火災の影響で恐らく欧州のスポットガス価格が上昇すると見られることから、石炭にも上昇圧力が掛かると予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。一昨日の下落の買い戻しによるもの。昨日は米国債入札結果などを睨んだ長期金利とドル指数動向に注目が集まっていたが、アジア~欧州時間に掛けてはドル安が進行したことや、LME指定倉庫在庫減少を受けて買い戻しに弾みが付いた。

一方、米国時間に入ってからは金利上昇を受けたドル高と、株安が影響し、上げ幅を削る展開に。特にベンチマークである銅のLME指定倉庫在庫は2002年以来最大の減少となったが、銅価格に対する説明力が高い株価が調整したことを受けて、価格上昇は抑制された。

本日は中国の経済活動の再開期待や、実際にLME指定倉庫在庫が減少していることによる需給タイト感の継続から高値維持の公算であるが、再び米金利が上昇してドル高が進行する可能性が出ており、本日はどちらかと言えば調整売りに押される展開を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月が変わらず、中心限月が小幅に上昇した。

中国の鉄鋼製品価格は休み明け・ロックダウン明けの中国勢の動きが緩慢であり、やはり2ヵ月に及んだロックダウンからの回復に手間取っていると見られる。懸念はこの状態が続いて中国景気が急速に悪化することであるが、習近平国家主席がその状況を容認するとは考え難く、今のところリスクシナリオの位置づけ。

ただし、中国経済は人口動態のピークアウトから、かつてほどの勢いを失っていることは確かである。

鉄鋼製品価格で説明可能な水準は、鉄鉱石が142ドル、原料炭が現在の期先の価格水準とほぼ同じ240ドル。原料炭に関してはスポットと期先の価格差である250ドル程度が流動性プレミアムと考えられる(コンビニエンスイールドの効果)。

本日も中国の経済活動再開を受けて高値維持の公算だが、戻りが緩慢であるため上値も思いと考える。

◆貴金属

昨日の金価格は乱高下した。ドル指数が上昇するなkで水準を切下げたが、欧州時間に掛けてドル安が進行した買い戻され、米10年債入札結果を受けた金利上昇・ドル高で水準を切下げる展開に。

金の基準価格は▲13ドルと低下したが、逃避需要としてのリスク・プレミアムの上昇(+14ドル)が相殺してほぼ前日比変わらず。

銀は金価格が高止まりしたが、株の調整を受けて下落、PGMも同様だった。

基本、FRBがインフレ抑制と金利引き上げの方針であることから、ベンチマークである金価格には下押し圧力が掛かりやすいはずだが、ロシア問題や米金融引締めの裏側にある新興国経済や財政状況の悪化リスクが価格を下支えしており、なかなか方向性が出難い。

本日は昨日の流れを受けた金利上昇やドル高が価格を下押しすると見るが、金はリスク回避需要で底堅く、銀・PGMは水準を切下げる展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇後、下落したが前日比プラスで引けた。基本的に供給制限の状態が続いている中で買いが入ったが、米10年債利回りが上昇、入札結果もベア(金利上昇)な内容だったことからドル高が進行し、引けに掛けて下げ圧力となった。

需給環境の改善が見込み難い中、高値での推移が続いている。一番懸念されている小麦は豪州やカナダなどの豊作見通しで供給のつじつまが合う、との期待はあるものの、ロシア問題や天候問題などの不確定要素が余りに多く、リスクは引き続き上向き。

昨日発表されたCONAB統計は以下の通り。価格上昇でいずれも作付は増加見通しとなっている。

・6月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,166万ha(2,152万ha、2,150万ha)大豆 4,099万ha(4,079万ha、4,092万ha)

・6月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,522万トン(1億1,445万トン、1億1,459万トン) 単収 5,319kg/ha(5,320kg/ha、5,330kg/ha)大豆 1億2,427万トン(1億2,430万トン、1億2,383万トン) 単収 3,032kg/ha(3,049kg/ha、3,026kg/ha)

本日は昨日の流れ(ドル高)を受けて軟調に推移するが、需給ファンダメンタルズがタイトな状態に変化ないことから買い戻され、結局、前日比プラスで引けるのではないか。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「中国景気の下振れリスク」

2001年12月に中国はWTOに加盟してから世界の工場としての地位を確保、膨大な農村部の人口を工業セクターで受け入れ、爆発的な成長を遂げてきた。

しかし2010年頃に農村部の人口を都市部の人口が上回る「ルイスの転換点」に達したとみられ、賃金上昇と共に投資が中国外(北ベトナムなど)に流出した。

中国は食糧問題を理由に長年1人子政策を採用してきたため、生産年齢人口比率がピークアウトすると経済の基礎的な成長力が低下していると考えられる。

習近平政権になってから対米強硬姿勢を強化、世界覇権を目指す姿勢を強めたため米国は対中政策を強化し、これは現在も継続している。

具体的には関税引き上げで関税の掛らない中国外の国への労働人口流出を加速させ、「中所得国の罠」を加速させる戦略を採用、IT部門で覇権を目指す中国に対して華為技術の包囲網を敷くなどの対策を実施した(ただし現在は、米国のインフレが沈静化していないため、米国国民向けに関税を緩和する可能性はある)。

また、人口動態がピークアウトしていることに伴い労働者の賃金が上昇、かつ、有効求人倍率の上昇と失業率の低下が同時に起きており、労働力不足が経済に与える影響が顕著になっていることも事実であり、中国経済は大きな転換点に差し掛かっていると考えられる。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって、米中対立による東西分裂は加速しており、中国が置かれている状況は厳しさを増している状況。

また、コロナ対策の実施による経済の過熱を抑制するため、2020年夏頃から中国政府は特に不動産セクターを対象にバブル抑制策を実施している。

結果、景況感の悪化は特に資金繰りが厳しい中小企業で悪化しており、融資総額の伸び率も急速に鈍化、経済活動の停滞が懸念されている状況。

この状況で中国はオミクロン株の発生による大規模ロックダウンを強硬、2ヵ月にわたって実施、経済活動が鈍化しておりロックダウン解除後も「ロケットスタート」にはなっていない。

3期目を確実にするまで習近平政権はゼロコロナ政策が継続する可能性が高いことを考えると、3期目を自身に有利な体制で迎えるためにも、習近平国家主席は景気刺激のために対策を強化すると考えられる。

ところが、今までの様に製造業や投資を刺激すれば景気が回復した時と異なり、中国のGDPの構成要素を見ると第三次産業の比率が増加しており、サービス業主体の国に変化していることから、個人消費を刺激する対策を行う必要がある。

今後もロックダウンが起きる可能性があることを考えると、個人消費を刺激する効果的な対策を間断なく行うのは難しい。結果、時計の針を元に戻し、公共投資や製造業や不動産投資をしやすくする環境にシフトする必要が出てくる。今のところ一連の経済対策は、コロナショックがあった2020年よりは小さい規模だが2021年よりは大きな規模の対策が予定されているため、恐らく製造業の活動は夏場に向けて回復することが予想される。

リスクとしては不動産のバブルが弾けてしまい、制御不能になる場合だが、中国政府も金融機関の破綻が起きないよう、安全網の整備を行っている。

また、中国は他の資本主義国とは異なり、中国共産党(習近平)の決定1つで金融機関に公的資金を注入することが可能であり、現時点で中国のバブル崩壊が壊滅的な被害をもたらすシナリオは今のところリスクシナリオの位置づけである。

しかし、ゼロコロナ政策にこだわり、今後もロックダウンが起きるようなことがあれば、下振れリスクは無視できなくなる。中国がソフトランディングに失敗するリスクは、世界経済の大きな下振れと、地政学的リスクの高まり(国民の不満を外に向ける)に繋がるため、下期に掛けての重要なリスク要因といえるだろう。


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