ドル高・円安継続の条件
- MRA外国為替レポート
2022年6月6日号
◆先週の市場総括
先週はドル円相場が大きく反発・上昇した。米国の経済指標が軒並み予想を上回り、足元で景気の底固さを示し、強い金融引き締め姿勢が維持されるとの見方が強まった。
米10年債利回りは前週末に一時2.7%近辺に低下していたが、週末には一時2.98%に上昇。ドルを押し上げた。
発表されたシカゴ購買部協会景気指数、消費者信頼感指数、ISM製造業景気指数強い数字となり、週末に発表された雇用統計も強かった。これにより6月、7月、9月と3会合連続で0.50%の利上げが行われるとの見方が大勢となった。
ドル円相場は週初127円ちょうど近辺で始まり週央に130円を回復。週末の雇用統計後には131円に迫り引けは131円90銭近辺。
欧州ECBの利上げ観測も強まっておりユーロ円相場も大幅に上昇。週初は136円台半ばだったが週末には140円台前半までほぼ右肩上がり。
一方、米国株は金利上昇で上値を抑制された。NYダウ、ナスダックともに前週に大きく上昇したが今週は方向感なくもみ合いないしやや軟調。
一方日経平均は米国株の底固さ、上海ロックダウン解除による中国景気回復期待、円安進行で堅調。週末は27,800円手前で高値引けとなった。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。前週末の米国株が大幅高となったことで全面高。上げ幅は前場に+500円を超えた。
アジア株が堅調、米国株先物も堅調に推移したことから後場に一段高。前週末比+587円高の27,369円で引けた。
ドル円相場は127円10銭で始まり朝方30銭に上昇するもすぐに127円割れ。午後にかけては127円ちょうど近辺でもみ合い推移し、夕刻から欧州市場では30銭~40銭で上下した。
ユーロ円相場は136円40銭で始まり60銭に上昇したあと30銭に反落。午後から夕刻にかけては136円40銭~60銭で上下した。
ユーロドル相場は1.0730で始まり40~60で上下。夕刻から欧米市場では円が全面安。米国株式・債券市場が休場となるなか、リスク回避一服でクロス円相場がしっかり。
ユーロ円相場は137円60銭へ1円ほど上昇し、50銭~60銭で引け。ドル円相場も127円80銭に上昇し、その後はやや押されて127円50銭~60銭で上下して60銭で引けた。
ユーロドル相場は1.0780に上昇した後、反落したが、堅調で1.0780~90で推移した。
ドイツの消費者物価上昇率(5月)が予想を上回りECBの利上げ観測が強まった。FRBウォラー理事は、2%の物価目標に近づかなければ利上げ幅を0.25%に戻すべきではない、と述べた。
火曜日の東京市場では日経平均は小幅反落。EU首脳会議でロシア産原油の禁輸を検討との報道に原油価格が大きく上昇。企業収益圧迫懸念が下押し要因となった。
またこのところの大幅高で27,000円台を回復したことで利益確定売りが上値を抑制した。
一方、中国のPMI景況感指数は予想よりも強く一定の安心感をもたらし下支えとなった。引けは前日比▲89円の小幅安で27,279円。
中国の製造業PMI(6月)は前月47.4から予想48.9を上回り49.6。非製造業は41.9から47.8に改善。
ドル円相場は127円60銭で始まり128円30銭に上昇。その後は反落して127円70銭~128円10銭で上下した。
ユーロ円相場は137円50銭で始まり138円ちょうど近辺に上昇したが反転下落。夕刻は137円10銭。
ユーロドル相場は1.0780で始まりユーロ安ドル高に振れて1.0740~50で上下し欧州市場ではさらに下落して1.0720~30。
米国株は主要3指数がそろって下落。原油高により高インフレが企業収益を圧迫するとの見方、また前週の大幅高で利益確定売りも出やすかった。
ダウは寄付きから▲450ドル下落。ただ中国景気の持ち直し期待から中国関連銘柄に買い。経済指標も予想より強く一時プラス圏となった。ただ引けにかけては大きく下落して▲222ドル安の32,990ドルで引け。
ナスダックも金利上昇に押されて▲49ドル安の12,081ドル。
発表されたケースシラー住宅価格指数(3月)は前年同月比+21.2%と前月+20.2%から上昇が加速して予想を上回った。
シカゴ購買部協会景気指数(5月)は前月56.4から55.0への低下予想に反して60.3と大きく改善。消費者信頼感指数(5月)は前月が107.3から108.6に上方修正され当月へ103.9への悪化予想より強い106.4。
一方、ダラス連銀製造業景気指数(5月)は前月1.1から1.5への改善予想に反して▲7.3。
シカゴPMIと消費者信頼感指数が予想より大幅に強かったことで米長期金利は上昇。10年債は2.846%、2年債は2.55%。リスク選好の回復、米長期金利上昇で、ドルが堅調、円が全面安となった。
ドル円相場は128円90銭に上昇して引けは128円70銭。
ユーロドル相場は1.0690に下落した後は1.07を挟んで上下し引けは1.0730。ユーロ円相場は136円80銭に下落したあとV字反発して138円10銭で引けた。
水曜日の東京市場では日経平均が反発。一時+200 円高となるなど堅調で+178円高の27,457円で引けた。4月21日以来の高値。アジア時間の米国株先物が堅調。中国・上海のロックダウンが解除されたことで景気回復期待が強まった。また円安進行で輸出関連株が買われた。
発表された中国の財新製造業PMI景況感指数(5月)は前月46.0から48.1に改善しほぼ予想通り。
ドル円相場は128円70銭で始まり朝方129円20銭に上昇。129円ちょうどに押された後、夕刻には129円50銭に再び上昇し、欧州市場では129円20銭台~50銭で上下した。
ユーロ円相場は138円10銭近辺で始まり終始堅調。夕刻には139円ちょうどに上昇した。その後欧州市場では上昇一服となり138円60銭~90銭で上下。
ユーロドル相場は1.0730で始まり1.0710~20で上下。欧州市場では1.0720近辺でもみ合いとなった。
米国市場では強い経済指標を受けて長期金利が一段高。発表された米国のISM製造業景気指数(5月)は前月55.4から54.5への悪化予想に反して56.1に改善した。
英10年債利回りは一時2.95%に上昇し引けは2.916%。2年債も2.649%に上昇した。
サンフランシスコ連銀総裁は、FF金利は年末までに中立金利水準である2.5%に引き上げられるべきだ、と述べた。またタカ派で知られるセントルイス連銀総裁は、FRBの慎重な利上げ姿勢は信認を損なう、と述べた。
ドルはさらに上昇。ドル円相場は130円台に乗せて130円10銭~20銭でもみ合い引け。
ユーロドル相場は1.0630に下落して、引けはやや反発し1.0650。ユーロ円相場はユーロ安に押されて138円20銭に下落したあと反発し、138円60銭で引けた。
米国株は主要3指数がそろって続落。原油高、インフレ懸念、長期金利上昇が上値を抑えた。NYダウは▲176ドル安の32,813ドル。ナスダックは引けにかけ下げ幅を縮めたが▲87ドル安の11,994ドル。
原油価格WTIは115.26ドルと高水準。
公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)では、12地区のうち4地区が成長ペースの鈍化がみられる、としたが、大半は緩やかな成長が続いているとした。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。前日の米国株が金融引き締めへの警戒感から下落したことを受けて一時▲200円安。ただ円安で輸出関連銘柄に買いが入った。引けは▲44円安の27,413円。
ドル円相場は前日の急上昇、130円台に乗せた後で上値重く軟調。130円10銭~20銭でもみ合いの後、130円をはさんで129円90銭~130円10銭で上下。午後から欧州市場にかけては129円80銭~90銭に下げた。
ユーロ円相場は138円60銭~70銭でもみ合いから、やや下げて40銭~60銭で上下。ユーロドル相場は1.0650~60でもみ合いが続いた。
欧州市場に入るとユーロは上昇。米国市場ではドルが軟調。ユーロドル相場は上昇。米国株上昇でリスク選好が回復しクロス円相場で円が軟調となった。
ドル円相場は米金利上昇一服で上値の重い値動き。
米国で発表されたADP雇用報告(5月)は雇用者数前月比が+128千人にとどまり予想+300千人を大きく下回りコロナ禍以降で最低となった。前月も+247千人から+202千人に下方修正。
これを受けて米10年債利回りは一時2.88%台に低下。ドル円相場は一時129円50銭台に下落した。
一方、株価は金融引き締めへの過度な懸念が後退。マイクロソフト社は業績見通しを下方修正し下落したが、成長シナリオは変わらないとの見方で反発。消費関連株もしっかりだった。NYダウは+435ドル高の33,248ドル。
ナスダックは+322ドル高の12,316ドル。VIX指数は▲0.97ポイント低下して24.72。
株高・リスク選好の回復でユーロ円相場は大きく上昇。138円60銭~80銭でのもみ合いから139円50銭~60銭に上昇して引け。
ユーロドル相場も上昇。1.0690近辺でのもみ合いから1.0740~50でもみ合い引けた。
その後、ブレーナードFRB副議長が、9月の利上げ停止に否定的な見解を示し、6月、7月に0.50%利上げするのは合理的で、9月も0.50%が適切となる可能性がある、と述べた。これを受けて米10年債利回りは反発して引けは2.91%。
OPECプラス閣僚級会合で7月・8月の増産が決定されたがロシアからの供給源を補い需給改善するのは難しいとの見方から原油価格は上昇。WTI先物主限月は116.87ドルとなり金利上昇要因に。
ドル円相場は一時130円ちょうどに反発。ただ上値重く引けにかけては129円80銭台で推移した。
このほか、米国の製造業新規受注(4月)は前月比+0.3%と前月+2.2%から減速し予想を下回った。1-3月期の単位労働コストは前期比+12.6%と大幅上昇。労働生産性は▲7.3%の悪化となった。
金曜日の東京市場では日経平均が反発。前日比+347円高の27,761円で引け。前日の米国市場で雇用の伸び鈍化が報じられ金融引き締め警戒感が後退して株価が堅調。東京市場でもグロース株、値がさ株中心に上昇した。
ただ27,000円台後半、雇用統計前で様子見、物色に広がりを欠き伸び悩んだ。
ドル円相場は129円80銭~90銭で始まり130円をつけたが乗せきれず129円80銭中心にもみ合い。その後夕刻から欧州市場にかけて130円20銭に上昇した。
ユーロ円相場は1.0740~50で始まりやや上昇して1.0750~60で推移。しかし欧州市場では軟調となり1.0730へ下落。
ユーロ円相場は139円50銭台で始まり50銭~80銭で方向感なく上下し欧州市場では80銭中心にもみ合い。
注目の米国の雇用統計(5月)は予想より強い数字だった。非農業部門雇用者数・前月比は前月+428千人が+436千人に上方修正され、当月は+325千人の予想に対し+390千人。
失業率は前月3.6%から3.5%への低下予想に対し3.6%にとどまったが、労働参加率が前月62.2%から62.3%にやや上昇した影響も。
平均時給は前月比+0.5%から+0.3%に上昇率が鈍化、前年同月比は+5.5%から+5.2%に鈍化して市場予想通り。
強い雇用統計を受けて米10年債利回りは一時2.98%に上昇し引けはやや押し戻され2.941%。2年債利回りは2.657%に上昇。
FRB当局者から6月、7月に続き9月も0.50%の利上げはありうるとの発言があったが、その可能性が高いとの見方が強まった。
発表されたISM非製造業景気指数(5月)は前月57.1から56.4への悪化予想を下回り55.9に低下した。
ドル円相場は130円60銭に上昇して50銭近辺でもみ合ったのち131円目前まで上昇し引けは130円90銭近辺。
ユーロドル相場は1.0710に下落した後反発して1.0720近辺でもみ合い引け。
ユーロ円相場は139円50銭に下落した後、急反発して140円30銭へ上昇した。
米国株は下落。金融引き締めへの警戒感が強まり、NYダウは一時▲400ドル安。引けは▲348ドル安の32,899ドル。長期金利上昇でハイテク株は軟調。消費関連も売られた。ナスダックは▲304ドル安の12,012ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週末金曜日に消費者物価指数(5月)が発表される。なお原油価格上昇でインフレ懸念が再燃するなか、インフレピークアウトの証左が得られ長期金利の上昇を抑制するか。
前年同月比は前月+8.3%から+8.2%への低下予想。コア指数は+6.2%から+5.9%への低下が予想されている。
前月比は+0.6%から+0.5%へ上昇ペースの減速が見込まれている。ほか火曜日には4月の貿易収支、木曜日に週次の失業保険申請件数が発表となる。
2.ECB理事会、ラガルド総裁会見
木曜日にECB理事会が開催されラガルド総裁が会見を行う。このところECBメンバーからはインフレ警戒感、金融政策の正常化、が示唆されている。利上げは7月と9月に0.25%ずつ実施されるとの見方が大勢。
今回の会合では据え置きの見込みだが、どの程度、利上げに前向きな議論となるか。ラガルド総裁から確定的な発言があり、欧州金利先高感がユーロ高をもたらすか。
3,日本の国際収支水曜日に日本の国際収支(4月)が発表される。年初来の円安の底流には日本の対外収支の悪化、貿易赤字の拡大、経常黒字の縮小がある。
足元でドル円相場は底固く、やや円安に振れる動きもみられるが、対外収支の悪化が円先安感を刺激するか。季節調整前で、3月の2兆5,500億円の黒字から、4月は1兆7,500億円の黒字に黒字縮小が予想されている。
ほか、中国の景気動向を反映する貿易収支(5月)が木曜日に、消費者物価・生産者物価(同)が金曜日に発表される。生産者物価の上昇が鈍化しているようなら、グローバルなインフレ懸念の鎮静化に寄与す
◆今週のMRA's Eye
ドル高・円安継続の条件
先週、米長期金利は反発して3%に迫り2.94%で引け、ドル円相場を131円近くまで押し上げた。当面は4月末から5月初旬につけた131円台前半の高値を上抜けるかどうかが注目される。
前回の高値はドル高が牽引した。今回も米長期金利上昇にともなうドル高の要素は大きいが、ユーロ円相場が高値を更新し140円台に乗せていることが前回と異なる。ドル高、ユーロ高、円安で、円独歩安という側面がある。
市場では依然として金融政策の強弱で通貨強弱が左右される展開。また長期金利の上下動、金利差が通貨強弱を左右している。ただ利上げ、あるいは長期金利上昇が通貨高に結び付くかどうかは状況次第、景気動向との組み合わせ次第だ。
景気堅調でもインフレが落ち着いており、金融政策が現状維持ないし緩やかな利上げを行っているなか、長期金利が景気堅調を主要因に上昇する場合、通貨は堅調となる。
一方、景気がすでに減速気味となるなかさらなるインフレ抑制のため積極的な金融引き締めが行われる場合の長期金利上昇は必ずしも通貨高とならない。長期金利上昇が、景気堅調が主因か、金融引き締めが主因か、で異なる。
先週は米国の景況感指数が軒並み予想より強かったことで米長期金利が反発。雇用は堅調の一方、インフレはややピークアウト感も垣間見えた。
こうした組み合わせはベストではある。インフレ率はなお高いがピークアウトしつつあり、景気が堅調、その状況で米長期金利が上昇、というシナリオが継続的に描けるのであればドル堅調となっても不思議ではない。
ただ米国景気の勢いが加速する要素は考えにくい。資源価格上昇、人件費上昇、輸送費上昇、など企業のコストは着実に増加している。
米国企業は景気堅調・消費堅調のなか比較的価格転嫁しやすいが、それでも企業利益に悪影響を与えている。
またインフレ・価格上昇は消費には悪影響を及ぼしつつある。住宅部門は、金利上昇・材料価格上昇・人件費上昇・価格上昇の影響を最も受けやすい。住宅部門の動向は景気の先行指標として留意する必要がある。
景気の最も重要な先行指標が企業の景況感だ。
確かに直近の数字は予想より強かったが、悪化トレンドのなかのリバウンドにすぎないとみるのが妥当だろう。景況感がトレンドとして改善、景気が再び加速する材料が見当たらない。
これまでと同様、上下しながらトレンドとして景況感が悪化を続けるなかでのアヤとみておいたほうが良さそうだ。
やや長い目でみれば、景気減速が続くなか金融引き締めが強化され、景気見通しはさらに悪化。企業業績や株価にとっては逆風が続きそうだ。
唯一、中国が景気刺激策をとることが、米国にとって海外要因としてプラスに働くかどうか、景気減速の勢いを鈍化させ、株価や市場全体のリスク選好の支えとなるか。
米長期金利は利上げやバランスシート縮小による上昇圧力と、景気悪化による低下圧力で上下するなか、次第に低下圧力のほうが強くなると予想される。
米債券市場は巨大で、需給よりもファンダメンタルズ、景気や金利先行き見通しの影響のほうが大きいとみられる。
極めて短期的には中国のロックダウン解消や景況感改善が景気減速感や景気先行き懸念を推し戻した。結果的に短期的にドルにプラスに働いた。しかし中長期的にはドル高の終わりの始まりにあるとみて、リスクバイアスを中立からドル安サイドに傾けて警戒するほうがよさそうだ。
一方、ユーロ高円安もドル高円安の要因となった。先週は円独歩安の動きがみられた。ECBは量的緩和を縮小し、7月、9月、の利上げによってマイナス金利を解消しようとしている。
その結果、欧州金利には先高感が漂っている。
欧州ではウクライナ情勢の混乱にもあっかわらずさほど景気に悪影響がみられない。しかし顕在化するのはこれからだろう。
ユーロ円相場におけるユーロ高円安主導による円全面安はさほど続かないのではないか。とくにリスク選好が低迷し、欧州景気に懸念が残るなかではなおさらだろう。
一方、原油価格が足元で再び上昇。これは日本の貿易赤字を高水準にとどめ、為替需給面から円安圧力を強める可能性がある。
日銀が頑なに現状の超金融緩和を守る姿勢を示していることは、短期的な利益を狙う投機筋にとって格好の円売り材料、円先安感を強化する材料だ。
ただし、これもあくまでも短期的。いつ円買い戻しに動いてもおかしくない。材料はなお円高・円買いを示唆していないが、短期的なリスクバイアスは円高サイドで不変だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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